(21.11.11) Googleが世界を変える 書籍デジタル化計画
Googleと全米作家協会・全米出版社協会との間で争われていた「書籍デジタル化計画」の和解案が、ここに来て世界中の著作権者(作家協会と出版協会)を巻き込んだ大騒ぎに発展している。
注)「書籍デジタル化計画」とはGoogleとアメリカの主要大学図書館とが提携して、そこの図書をすべてデジタル化する計画。主要図書館にはアメリカの書物だけでなく、世界各国の書物もある。
実際はすでに700万部の書物のデジタル化がされている。
なぜアメリカで行われている裁判の和解案が世界中の作家協会と出版協会を巻き込むようになったのかは、アメリカの裁判制度の集団訴訟という仕組みに原因がある。
この集団訴訟はその判決や和解が関係者全員に効力が及ぶと言う訴訟で、日本の裁判のように訴訟当事者だけの問題にとどまらない。
アメリカで著作権を保持しているすべての国の著作権者が対象だから、なんと約180カ国の著作権者が対象になってしまった。
注)アメリカは世界約180カ国と著作権保護条約を結んでいる。
しかもこの集団訴訟から抜けたい場合は、その旨アメリカの裁判所に申し出なければならないので、アメリカの法律事情などさっぱり分からない各国の著作権者は頭を抱えてしまった。
「一体なぜ俺が裁判の当事者なんだ。裁判から降りるための申請書なんてどう書いたらいいのか分からないし、アメリカの法律手続きなど何も分からないじゃないか・・・・」
実際の和解案の内容はGoogleと著作権者にとって痛み分けといっていいような内容で、双方にメリットもデメリットもある。
和解案は以下のようなものになっていた。
① 著作権保護のため非営利機関「版権登録機構」を設立する(作家と出版社が設立し、その費用はGoogleが出す)。
② 無断でデジタル化した書籍などの著作権者に対しGoogleは補償金を支払う。
③ 絶版などで米国内で流通していないと判断された書籍をデジタル化し、そのアクセス権と広告掲載権をGoogleに認める。
④ デジタル化した書籍の販売価格は著作権者が決め、収入の63%をGoogleは著作権者に支払う。
⑤ アメリカ国内でのみの営業になる。
①は「絶版で流通していないかどうかの判断」をGoogleでなく作家と出版社の「版権登録機構」に判断させると言う意味であり、
②は無断でコピーをして著作権法に違反したことにの賠償金支払いである。
ここまではGoogleの妥協と言えるが、次の内容がGoogleが狙っている世界的規模のデジタル化計画の中身である。
③は絶版本は今後はGoogleが版元になると言うことであり、世界的規模のデジタル本屋が出現する。
④はそこから得た収益は、著作権者に63%の割合で支払うと言うものである。
この和解案は連邦裁判所が承認しないと効力が発行しない。
当初はこの夏にも認可が下りる予定だったが、ここに来てドイツやフランス政府からこの和解案に対し反対の意思表示がされたため、いまだに承認はされていない。
さてこうしたGoogleの「書籍デジタル化計画」をどのように評価したらよいのだろうか。
Googleから言わせれば、「絶版の書物をGoogleが再版して販売するのだから、著作権者にとっては願ってもない機会になり、うずもれた書物が再び世に出ることになるメリットは大きい」と言う。
実際に出版界では価値があっても売れない書物はすぐに絶版になってしまい本屋の棚から消えるので、確かに著者にとっては願ってもない僥倖といえる。
もっともこうして売れなかった書籍がGoogleで売れ出すと元の出版社は再版本を出そうとするから、話はかなりややこしい。
注)世界には著作権者が不明の書物も多い。この場合は100%、Googleが版権を確保することになる。
またフランスやドイツが反対するのは、自国の著作が勝手にアメリカで絶版本と判断され、その版権がGoogleのものになってしまうことへの危機感からでている。
「わが国の書籍や著作権に勝手に手を触れるな」と言うことだが、アメリカの集団訴訟と言う裁判方式から、アメリカは勝手に手を触れざる得ない。
この問題の本質は「世界のすべての絶版本をGoogleが版権を確保する」という問題で、世界最大のデジタル本屋がアメリカに出現することになる。
今はアメリカ国内だけでこの事業をするということになっているが、軌道に乗れば世界各国に展開するのは、以前もめたGoogleニュースの場合と同じだ。
注)Googleニュースは当初アメリカで始まり、日本に展開する時は大手新聞社がこぞって反対した。しかし今ではGoogleニュースにほとんどすべての新聞社がニュースを提供している。
果たして絶版本の版権をGoogleだけに許していいのだろうか。私のようにGoogleに対し好意的な者は「他に絶版本を再版するところがないんならGoogleにしてもらってもいいじゃないか」と考えるが、ことは自国の文化をどのようにして保存していくかの問題なので一筋縄ではいきそうもない。
当然、アメリカ以外の各国の著作権者は大反対だ。
アメリカの連邦裁判所の判断が待たれるところである。
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