(木曽御岳山が林道越しによく見える)
世の中にはこんなに厳しいランがあるのだろうかとほとほと感心してしまった。
OSJが主催する「おんたけウルトラトレイル100km」のことである。
このトレイルランは長野県王滝村周辺の林道を使用して実施されるのだが、標高差が半端ではなく、最初に約600m登り、その後も200mから400mの昇り降りを4回も繰り返すと言う登山のような競技だ。
私は当初林道と登山道を使用するのだと思っていたが、すべて林道だった。舗装路は一部を除いてなく小石がごろごろしている。
この大会に常時出ている経験者の話だと、「この林道をモトクロスの競技に使っているので路面が荒れている」のだそうだ。
特に水で常時洗われている場所は川原のような状態だった。
(未舗装の砂利道が続きトレイルラン専用の靴を履かないと足を痛める )
出発前に主催者側からパソコン映像で事前説明が行われるのだが、「今回は集中豪雨の影響で、コースを変更して106kmになっています」と言われたときには少し不安になった。
「まずいな、距離が長くなったのか・・・走りきれるかな・・・・・・」
私がOSJが主催するトレイルランに出たのは始めてである。
この団体はトレイルランの普及に熱心に取り組んでいる団体で、年間10回のトレイルランを主催し、なかでもこのおんたけウルトラトレイルが最も中心的なイベントらしい。
ここで完走すると世界的に有名なツール・ド・モンブランに出場する資格のポイントがもらえる。
ベテランランナーに聞いてみると「こことハセツネに出れば5ポイントになり、資格要件がそろう。だからでているのだ」と言っていた。
注)ツール・ド・モンブランに出るためには国内の何回かの大会に出場して資格を取る必要がある。今年の条件は過去2年間で5ポイント取得が必要で、おんたけウルトラを完走すると3ポイント、さらに長谷川恒男記念CUPで2ポイントになるとベテランランナーが教えてくれた。
(疲れてくるとこうして横になって寝ている)
しかしこの競技は半端でなくきつかった。スタートが日曜日の0時だから、それまで一応寝ることはできるのだが、実際はただ横になっているだけで睡眠と言うわけにはいかない。
また夜中の林道は非常に走りづらく明るいライトでないと道の状態もよく分からない。
注)私はダイソーで500円のライトを購入したのだが、非常に暗く夜道のランには適さなかった。仕方なく明るいライトのランナーのそばに寄り添って走った。
トレイルランで一番注意しなければいけないのは転ぶことである。特に坂道の下りが危険で、つまずいて転ぶと坂なので制御がきかない。
今回私も朝方の坂道で石に躓いてしこたま右足のひざを打ち付けてしまった。
「イテー、動けん」しばらく天を仰いで座り込んだまま痛みが治まるのを待った。
後続のランナーが「大丈夫ですか」と声をかけて通り過ぎていく。
どうやらひざのお皿の周辺を痛めたらしく、びっこを引くような状態になってしまった。
「まずいな、まだ40km程度でこれじゃ先が思いやられる・・・・・」
その後は走ると右足に激痛が走るので、もっぱら歩きに徹した。
「歩いているうちに痛みも消えるだろう・・・」神に祈るような気持ちだが、まだ66km残っている。
(とても美しい滝が随所に見られた)
林道は砂利石だらけだが、このコースの美しさはたとえようもない。いたるところから水が流れ落ちて滝になっており、遠くには木曽御岳の雄姿が見える。
人造湖の三浦貯水池は訪れる人は皆無のような静かな湖だ。
このコースには王滝川(木曽川の支流)が中央を流れており、林道と交差するが、水は上高地の梓川のように美しい。
「桃源郷のような場所だな」足の痛さを忘れるほどだ。
(三浦貯水池。静かな人造湖だった)
今回私は第2エイド(70km地点)に杖をデポしておいた。
「後半は足が疲れているだろうから杖に頼ろう」
これがとても役立った。右足はほとんど制御が利かないので、登る時は杖で押し上げ、下りは杖で制御し、ほとんど4つ足の動物のような状態だ。
「うぅーん、四足なら何とか動くじゃないか」
注)正確に言うと私は杖を2本用意し、一本は当初から使用していたが、70km地点から2本の杖の使用にした。なお右手を酷使したので右手首が腱鞘炎のようになってしまった。
この競技ではほとんどのランナーが登りは歩き、下りだけ走っている。平地という場所は湖の周辺だけで後は登りか下りだ。
登りは4本足になったので私の方が早く、下りになると抜かされるという状態が延々と続いた。
「完走できるだろうか・・・」
幸いなことに3箇所あるチェックポイントを制限時間以内に通過している。
(ほとんどのランナーが坂道になると歩いている)
この競技の制限時間は20時間だが、95kmの地点で余裕時間は約2時間だった。
通常のランならば2時間で11kmは余裕もいいところだが、なにしろ足を痛めてからは時速4km程度しか動けない。
しかし人間というものは火事場のくそ力が出るものらしい。
急に身体にスイッチが入った。
「がんばれ、やまちゃん、制限時間内に入れるぞ!!」
いままで痛かった右足の痛みをすっかり忘れ、砂利道を脱兎のごとく下り、最後の7kmのアスファルトの道路を平地のレース並みの速度で走ってしまった。
私を追い抜いていったランナーを今度は私が次々と抜かし、制限時間の約1時間前の19時間5分でゴールした。
(ゴール直後。最後の11kmを左のランナーと一緒に懸命に走った。なお私がはいているのがトレイルラン専用の靴。この日は真夏日で私はいつものようにぬれた手ぬぐいを帽子の下にかぶって暑さ対策をしている)
ゴール近くの芝生でしばし感激にしたり、「さてテントに戻ろうか」と動きだしたら、再び右足に激痛が走り動けない。
また杖をついてかろうじてテントに滑り込んだものの、タイツを脱いで確認すると、お皿の周りに裂傷があり、赤くはれ上がっている。
「イヤー、たいしたもんだ。こんなにひどい状態なのに走る時には走れるものだ」感心してしまった。
こうして私のおんたけウルトラ100km(106km)は終わった。
(注)杖を頼りにかろうじて家まで帰ったが、今日は階段の昇り降りもまともにできない。
(これがいつもの私のテント。ゴール地点の松原スポーツ公園に設置できる)
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