(23.2.19) 激動の時代 アラブ独裁国家崩壊のドミノ現象
人間ながく生きていることによる利点は歴史の激動期に遭遇できることだ。
私の人生における激動の最初は1990年前後のソビエトロシアの崩壊とそれに伴う東欧諸国の民主化運動だった。
私などは当時は世界情勢に疎かったから「まさかソビエトロシアが崩壊するなんて」と言う感度だったが、アメリカでは識者がすでに社会主義陣営の崩壊が近いことを予測していた。
この社会主義陣営の崩壊現象を見て、「歴史はゆったり流れていて何も変わらないように見えるときと、一挙に急流に差し掛かってすべてが変わってしまうときがあるんだな」と言う強い印象をえたが、あれから20年、今はアラブの独裁政権が次ぎ次ぎに崩壊し始めた。
「また急流にさしかかったのか・・・・・・」人生における二度目の激動期だ。
独裁政権は一般に言われるよりもタフにその寿命を維持するのだが、やはり人間と同じで終わりがあるようだ。
このことを学問的に述べていたのがトインビーで「歴史の研究」で文明の発生・成長・そして崩壊がすべての文明社会に当てはまると述べていた。
トインビーの説は何百年単位の非常に時間のながい文明の話だったから「まあ、そうだろう」程度に読んでいたが、小さな文明単位といえる社会主義陣営がロシア革命から約70年、同じくアラブ独裁政権がムバラク革命から約30年で崩壊したところを見ると、短い単位でも文明の盛衰があることが分かる。
今回のアラブ独裁政権の崩壊を見て分かるのは、その最も弱い輪から崩れるということで、後は堤防にあいた穴と同じで一気に崩れていくものらしい。
チュニジアはアラブ独裁国の中では最も民主化が進んだ国で、インターネットの普及率はアフリカ随一で、しかも国民所得も低くなかったから、ベンアリ政権は油断して、国内の治安部隊の強化に努めていなかった。
おかげで一気にデモが先鋭化して気がついたときは治安部隊だけではデモを取り締まれなくなっていたが、軍隊がベンアリ政権にそっぽを向いたのであっけなく政権が崩壊してしまった。
注)ここに来てなぜアラブ独裁政権に民衆が立ち向かったかの最大の理由は食料品の高騰にある。昨年の後半だけで約30%の物価上昇があったと国連が発表したが、実際はそれ以上ですでにリーマンショック前の水準に達してしまった。
インテリは自由を求めて、そして大衆はパンを求めて立ち上がり、この両者が糾合すると独裁国家といえども崩壊してしまう。
アラブの盟主エジプトも同じで治安部隊がデモを制御できなくなって軍隊に治安維持を依頼したが、軍隊がそっぽを向いたのでムバラク政権が崩壊してしまった。
一般に治安部隊も軍隊も独裁者が掌握していると思われているがそれは違う。政権の崩壊過程を見ると最後まで独裁者に忠誠を誓うのは治安部隊で、軍隊はどこかの段階で独裁政権を見限ってしまう。
なぜかと言うと対外戦争がなくなって平穏な時代が続くと軍隊の必要性がなくなり、一方国内の反対派を抑えて独裁政権を維持するためには治安部隊の強化が必要になり、出世を志すエリート軍人はみんな治安部隊に移って、軍隊を馬鹿にするからだ。
「あいつらはイスラエルとの戦争がなくなったのをいいことに一日中遊んでやがる。俺達がイスラム原理組織をたたいているから安閑としていられるのに、戦闘機や戦車といったおもちゃばかりほしがる金食い虫だ」
当然独裁者も治安部隊を優遇するので、軍隊の士気は衰え忠誠心がなくなっていく。そして何より兵隊は貧しい農村出身者が多く独裁者に優遇されるエリートではない。
注)ドイツのゲシュタポとドイツ国防軍のヒットラーに対する忠誠心の相違を思い出してほしい。
チュニジア、エジプトのあとはバーレーンに飛び火し、イエメンとアルジェリアとリビアが怪しくなってきた。
崩壊の速度は民主化の速度に比例し、はっきり言えばアメリカや西欧との関係が深い国から崩壊する。
アメリカや西欧の国是は民主主義なのだから、民衆運動の弾圧を支持するわけにはいかず、どこかの段階で独裁者の支援を諦めざる得ないからだ。
かくして私は第2回目の世界の激動期に遭遇したのだが、あと残りは中国を中心とする東洋的独裁国家の崩壊がいつ起こるのかと言うとになってきた。
ソビエトロシアの崩壊からアラブ独裁国家の崩壊まで20年の歳月がかかっている。
今のところ中国の経済は絶好調で、民衆はたらふく食事ができているから反政府運動が起こる確率は低い。
東洋的独裁国家の崩壊にさらに20年かかるのだろうか。そうなれば、残念ながらこの激動期を私が見ることはなさそうだ。
最近のコメント