(22.12.8) 菅総理の試練 諫早湾干拓事業の潮受け堤防は開門されるか?
菅総理にとって再び判断力を試される試練の時が始まった。
福岡高裁で6日、諫早湾の堤防の締め切りには根拠がなく、かえって「堤防締め切りによる漁業権の侵害状況は違法状態」であるので「5年間の排水門の開門」を行うように判決が出されたからだ。
従来から菅総理は開門論者で「諫早湾干拓事業は国の公共工事の無駄の象徴」とまで言って来たのだから、「粛々と判決に従う」といえばいいのだが、そうは行かない事情がある。
開門には農水省が大反対しており、すっかり政治主導を諦めた菅総理はこの農水省を説得するだけの力量があるか、かなり怪しい。
この干拓事業にはすでに2500億円の工費が投入され、さらに周りの漁業権を約300億円で買収し、約800haの農地には08年4月からすでに入植者が入って農作業が始まってしまっている。
農水省の反対理由は、そんなことをすれば防災に悪影響をきたし、調節池に海水が混じって干拓地の営農者の水確保が難しくなることだそうだ。
「何が何でも開ける事はあいならん」農水省は頑なだ。
しかしこの農水省の主張は誰が考えてもおかしなところがある。もし農水省の言うように「絶対あけてはならない」のなら排水門などあるほうがおかしい。
開かずの排水門なら最初から土塁の堤防を築けばいいのだが、わざわざ2ヶ所の排水門を作った。
潮受け堤防自体は約7kmあり、そのうち南部の排水門は200m、北部の排水門は50mの規模だ。
農水省の主張に裁判所もあきれて「防災上必要というのであれば、その時に閉めればいいではないか」と子供にも分かるような論理で諭し、さらに農水省が「開門したら排水対策でさらに600億円の費用がかかる」との主張したことに対して「言っていることが分からない」と退けた。
注)調節池に海水が入ってしまうと他に農業用水の確保をしなければならなくなるため、そのための工事に約600億円必要だと農水省は試算した。
農水省は完敗なのに、意固地になって開門に反対するのは理由がある。
この地域は干拓による水田や畑が多く従来から水不足に悩まされてきた。
そこで潮受け堤防を開かずの堤防にして調節池に水をため、農業用水として利用しようとしていたからだ。
はっきり言えば水を灌漑用水としてすべて使用しようとし、海に流すつもりはなかった。
注)それなのになぜ排水門があるかというと水害等大水が出たら調節池から水を排出する必要があるため。
一方漁業者としてみれば昔どおり諫早湾に川の水が流れて来るものと思っていたら、すべてせき止められて一滴の水も流れてこなくなったので「だまされた」と思っている。
「有明海の水質汚染はすべて諫早湾の干拓事業によって海に水が流れ込まなくなった結果」だと訴訟を起こした。
高級二枚貝のタイラギが取れなくなったのも、有明湾に赤潮が発生したのも、のりの漁獲量が減少したのもすべて諫早湾の堤防のせいだと言うわけだ。
農水省にも当然言い分があって、水質汚染は主として生活排水が流れ込んでいるからであり、タイラギの漁獲量が減ったのは干拓事業をする前からであり、諫早湾の漁業権はすでに国が買い取っている(したがって諫早湾での漁業は違法)等だが、漁民の怒りは収まらない。
裁判所は冷静に「それなら5年間開門して様子を見よう」という判決を下した。
注)農水省はこの判決に不満で最高裁に控訴しようとしている。
菅総理はこの漁業者の立場を擁護してきたのだが、農水省を説得できず総理になってから煮え切らなくなっている。
果たして「無駄な公共工事」だと菅総理が非難して止まなかった諫早湾堤防工事をどのようにして解決するつもりだろうか。
尖閣諸島問題で大失敗をした菅総理の判断が再び試されている。
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