(22.11.16) ケルトの猫が泣き出した アイルランドの財政危機
リーマンショック前までIT産業と金融業でわが世の春を謳歌していたアイルランドが悲鳴をあげている。
かつては「ケルトの虎」とまで言われヨーロッパ中の羨望の的だったが、今は「ケルトの猫」とさげすまれている。
ヨーロッパでは昨年来のギリシャ危機が小康状態になっていたら、今度はアイルランドが火を噴き始めた。
EUに対し金融支援措置による600億ユーロから800億ユーロ(7兆円から9兆円)規模の融資を要望したからだ。
市場はびっくりして国債利回りが急騰し一時は9%を越えてしまった。これより上はギリシャの11%台だから、ギリシャの次はアイルランドと見られている。
アイルランド危機の根は根深い。政府・民間をあわせてGDPの約8倍と言う資金をかき集めたといわれ、これをディリバティブや不動産投資につぎ込んできたが、リーマンショックでいっぺんに焦げ付いてしまった。
注)アイルランドのGDPは約20兆円で、その規模で海外から約160兆円の資金をかき集めた。延滞率は不明だがアメリカのサブプライムローンの延滞率約50%、プライムローンの延滞率10%から推定すると最低で16兆円、最大で80兆円の不良債権を抱えていることになる。
リーマンショックが起こると政府は6大金融機関をすばやく国有化し、預金の全額保護措置を発表し、さらに政府資金をつぎ込んできたのに、ここに来て再び政府資金をつぎ込まざる得なくなった。
アングロ・アイリッシュ・バンクに約1兆円の資金の投入が必要になったからである。
しかもこの金融機関だけでなく他の金融機関にも資金投入が必要だ。
「どうやらアイルランドの資金ショートは近いらしい」市場から見抜かれている。
注)アングロ・アイリッシュ・バンクには過去に3兆円近くの公的資金が投入されている。アイルランド版長銀だと思うとイメージがわく。
アイルランドの経済危機がリーマンショックから2年たって発覚してきたのは借り入れに長期資金が多く、しかもその返済期限がせまって来たからだ。
「不動産価格が上がって、何とか不良資産を隠せるかと思っていたが、もうだめだ・・・・・」
日本のバブル崩壊後の金融機関と同じで、いつまでたっても不良資産の処理をしきれない。
一方で政府はEUの緊縮財政に呼応して、年金保険料徴求の強化や教育費を含めた政府支出の削減に取り組んでいるので財政支援はできない。
EUの中ではユーロ安によってドイツだけが経済が好調でドイツに支援要請が殺到し始めたので、ドイツは逃げ腰になった。
「欧州版IMFを設立するとしても投資家にも相応の負担を求めるべきだ」
欧州版IMFの創設には時間がかかりそうだ。
残された道はECB(欧州中央銀行)によるユーロの印刷だけになってしまい、またユーロ安が始まった。
結局欧州も日本の失われた20年と同じで、不良資産問題で経済が失速し、完全な低成長時代に入ったと思ったほうがよい。
残された対応策としてアメリカも日本もEUもお金のたたき売りを始め、通貨価値引下げの競争をしている。
結局は世界的なインフレーションが起こり、それが借金の棒引きにつながるのだろう。
「160兆円の借入、それが何ですか。私の給与はインフレで1兆円です」そうした時代が近づきつつある。
注)今朝(16日)のNHKのニュースでギリシャの財政赤字に改ざんがあり(当初13%台といっていたが、実際は15%台)、またポルトガルがアイルランドと同様にECBに対し融資を依頼したと報じていた。
(22.11.22追加)
11月21日、アイルランドはEUとIMFに最大900億ユーロ(約10兆円)の支援を要請した。
これに対しEUとIMFは7500億ユーロ(約85兆円)のユーロ防衛基金を発動して、救済に乗り出した。
アイルランドは支援の見返りに150億ユーロの歳出削減と増税を行い、14年までに財政赤字をGDP対比3%(現在は32%)まで圧縮することを約束した。
すでにECBは市場から資金調達ができなくなっているアイルランドの金融機関に対し、1300億ユーロ(約15兆円)の支援をしてきたが、今回はECBによる金融支援ではなく、ユーロ防衛基金(各国の保証が主内容)による救済になっている。
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