(22.5.13) NHKスペシャル 自動車革命 「電池を制するものが世界を制する」

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 先日(11日)放送されたNHKスペシャル自動車革命電池を制するものが世界を制する」は実に示唆に富む内容だった。

 今後10年の間に電気自動車の販売台数が1800万台日本と中国の販売台数を合わせた数字に匹敵)になると予想され、それに搭載されるリチウムイオン電池世界標準を確立した国が世界を制するというのだ。

 リチウムイオン電池は元々日本が開発し、携帯電話パソコンで使用されているので、「それなら日本が世界を制するのではないか」と思ってしまうが、どうもそう簡単な話ではないという。
携帯やパソコン用のリチウムイオン電池と自動車の電池ではまったく求められるパワーと安全性の水準が違うのだという。

 急加速に耐えられる出力と、どんな低温や高温にも耐えられ、かつでこぼこ道でも壊れないリチウムイオン電池の開発が、世界各地で行われており、分けても日本、中国、アメリカそれと韓国)が、世界標準の覇権争いに参加しているのだという。

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 現在リチウム電池の開発方向ははっきりと2方向に分かれており、一方は適切な品質と低価格で市場獲得を図る方向、もう一つが価格は相応に高いが高性能・高品質で勝負をかける方向だという。

 前者は中国とアメリカ連合、後者がオールジャパンが目指す方向だそうだ。
何か携帯電話の開発競争のときと同じ状況で、日本の携帯電話が高品質ではあるが世界標準になれず、日本という狭い市場でのみ生き残ったガラパゴス現象を彷彿させる。

 現在のリチウムイオン電池の日本メーカーのシェアは約6割だそうだが、アメリカのベンチャー企業と中国の電池メーカーが提携して、安価で大量の電池生産に乗り出しつつあり、この2国が組むと世界標準を握られてしまうというのが日本企業の懸念になっている。

注)アメリカのベンチャー企業のA123システムズ(電池メーカー)と中国の上海自動車が合弁で自動車用リチウム電池の生産に乗り出すという。アメリカの頭脳と中国の安い労働力を結びつけ、さらにリチウムの主な生産国が中国なので、資源を独占する戦略だと説明されていた。

 リチウムイオン電池の技術的な問題はいくつかあるのだが、そのうちの一つに高温では安定性にかけるという問題がある。
これを解決するためにアメリカのメーカーはリチウムにリン酸鉄を混ぜるリン酸鉄方式を編み出した。

 これで安定性は確保できるのだが、高温になれば蓄電能力が低下するという。アメリカ・中国の企業はこの安定性を重視し、少々蓄電能力が低下してもかまわないというりン酸鉄方式を採用している。
一方日本では安定性と蓄電能力の両方を確保するため、ニッケル・マンガンを加える日本方式を採用しており、高品質ではあるが操作が難しい方式を採用しているのだそうだ。

 現状は日本が技術で一歩リードしているものの、リン酸鉄方式は相当の脅威であり、かつアメリカ・中国の追い上げがきつく、このままでは日本のかつての半導体事業のように瞬く間に追い抜かれてしまいそうだという。

注)今回の番組では韓国企業の動向がまったく触れられていなかった。韓国には現代自動車とサムソンという巨大企業があるのだが、おそらく取材ができなかったのだろう

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高速でリチウムイオンが電極の間を行きかうモデル

 日本もただ手をこまねいているだけでななく、NEDO新エネルギー・産業技術開発機構)が音頭をとり、オールジャパンで高性能リチウムイオン電池の開発に取り組んでいる模様が紹介されていた。
またホンダ技研GSユアサが共同で高性能リチウムイオン電池の開発を手がけている模様も放映されていた。

 日本メーカーのリン酸鉄方式に対抗する開発のポイントは現在のリチウムイオン電池の出力を現状の3倍に上げて、一回の充電で現行の200kmを600kmにすることにある
そのためにはイオンの出力にブレーキをかけている未確認物質の解明に全力を挙げているところだそうだ。

 現在日本の誇る最先端技術が次々に中国・韓国・アメリカに追い上げられている。かつての半導体は見る影もないし、液晶サムスンがトップ企業だ。
太陽光パネルも瞬く間に追い抜かれてしまったし、新幹線技術は世界のトップを走っていたが、今ではフランスのTGVとドイツのICEといいとこ勝負になってしまった。

 ここで次世代の産業の米といわれるリチウムイオン電池で敗北するようなことがあれば、日本の未来はない。
いままで日本は産業政策にいつも失敗し、世界標準を取り損なってきた。
携帯電話が最も典型的な例で、日本仕様の携帯電話は高性能だが、日本以外では使用できない。

 鳩山政権は事業仕分けに熱心でも、次世代技術についてまったく無知で、世界最速コンピュータの開発にも、高速増殖炉「もんじゅ」の実験炉にも「なぜこのような予算が必要なのか」と疑義を呈していた。

 子ども手当てを捻出するために何とか予算を削りたい一心ではあるが、リチウムイオン電池の例を見るまでもなく、技術という金儲けの道が閉ざされれば、そもそも子ども手当てを支給する財源などなくなる。

 日本の最大の不幸は技術が最大の資産だということに気がついているのが企業だけで、政府はまともな後押しをせず、国民は福祉にのみ目がいっていることだ。

 結局、日本という国は技術で生きるしか生き方はないことをよく教えてくれたという意味で、このNHKスペシャルは優れた報道だといえる。

 

 

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(21.11.3) NHK特集 自動車革命 スモール・ハンドレッド 新たな挑戦者たち

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 最近見た番組の中で特筆に値するほど衝撃的な番組だった。
電気自動車への革命が信じられないスピードで進められており、しかもその主要なプレーヤーが中国やインドのような農村地帯から起こった小企業と、もう一方はアメリカのシリコンバレーのベンチャーIT企業だと言う。

 このような小規模の自動車メーカーをスモール・ハンドレッドと呼ぶこともはじめて知った。言葉自体は「小さな100社」だが、100には意味がなく「多くの小企業」と言う意味らしい。

あれ、電気自動車の開発を進めているのは大手の自動車メーカーじゃなかったのかしら
私の常識は日産の電気自動車やトヨタのハイブリッド車だから、中国の電気自動車にはびっくりしてしまった。

001  番組では中国の山東省にある小企業が、時速40kmの電気自動車を13万円で作っており、農村部に浸透していると言う。
これはバイク並みの値段じゃないか!!!!」
もっとも中国政府はこれを自動車とは認めず、運転免許もナンバープレートもないのだが、外形や中身は自動車そのもので、どうやら中国政府も黙認のうえで、この電気自動車産業を後押ししているようだ。

 もう一つの例は山東宝雅というもう少し規模の大きな中小企業だったが、電気自動車の試作車をミラノの自動車ショーに出展する模様を放送していた。
できた試作車はお世辞にも美しいボディラインとはいえないが、そこの社長の言葉がすごかった。
世界中の貧しい人が、この電気自動車のターゲットです
貧乏人相手の自動車産業が電気自動車だという。

006  なぜ、中国の農村工業のような小さな会社で電気自動車ができるかと言うとガソリン自動車に比較して構造が簡単で、部品もガソリン自動車の10分の1程度なのだそうだ。
モーターに車輪をつければ自動車になる」という。
しかもガソリンと違って発熱がないので、ボディに鋼鉄を使用する必要がなく、軽いプラスチックで済むという。

008  一方日本では日産自動車が社運をかけて電気自動車(EV)の開発に取り組んでいる。かつては技術の日産と言われ、トヨタと覇権を争っていたが今ではすっかりトヨタに水をあけられ、ルノーに身売りをしてしまった。
この日産が21世紀は電気自動車の時代と位置づけ社運をEVにかけた。
番組では、ゴーンSEOが東奔西走してEVの売込みをしている場面が写されていた。

 しかしここでもライバルは中国の企業で、上海モーターショーに従業員数13万人のBYDという会社から展示されたEVは走行距離が300kmだという。
日産のEV150kmの走行距離しかないため、担当の副社長が衝撃を受け、実際にBYD社に乗り込み試乗をさせてもらっていた。

 試乗の結果では、BYDの車はバッテリーを目いっぱい積み込んで、2トンの重さになっており、重戦車並だが、乗り心地は悪くないと言う。
将来は手ごわい競争相手になる可能性があると、番組が指摘していた。

019  一方アメリカではオバマ大統領グリーン・ニューディール政策をかかげ、約1兆円の規模で電気自動車を後押しするのだと言う。
この計画の実質的なプランナーはGoogleで、Googleの提唱するスマート・グリッドがこの戦略の柱になっていた。

 スマート・グリッドといわれても何のことか分からないが、電気自動車のバッテリーを発電所に代えてしまって、家庭用電力はこの自動車のバッテリーから供給し、それをIT産業のGoogleが電気の供給管理をするのだと言う。

 ホワイトハウスの担当者が「アメリカがこの方式で世界標準を確立する」と言っていたのが、いかにも戦略の国アメリカらしいし、Googleが乗り出しているのだから成功する確率も高い。

013  私自身は普段自動車に乗ることがほとんどなく、我が家の自動車も処分している。
だからこの電気自動車の問題も切迫感がなく、「所詮は自動車にすぎないだろう」と思っていたが、21世紀の産業革命だといわれるほどの衝撃があることを、この番組ではじめて知った。

 日本ではいまだに「EVかハイブレッドか」という程度の感度だが、世界では「スモールハンドレッドと既存の自動車産業の戦い」であり、「IT産業と自動車産業の戦い」であり、「電力業界とスマート・グリットの戦い」であることを認識した。

 そして電気自動車の時代は意外に早くやってきそうで、私が生きている間に世界中の車が電気自動車に変わってしまいそうな情勢には驚きを禁じえなかった。

そうか、石油文明の一つが、今こうして消え去ろうとしているんだ!!!」

 

 

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