(22.5.10) 海の男のハードルは高い ヨット奮闘記
私は船酔いに弱い。船に乗ると思っただけで酔ってしまう。
ところがこんなに船酔いに弱い私がヨットに再び乗ることになってしまった。
30フィート(約9m)の本格的な外洋クルージング用ヨットで、持ち主はこのおゆみ野に住むテラさんだ。
「山崎さん、天気がいいし航海しよう」よく誘われる。
私は船酔いのことがあるので本当は断りたいのだが、従来から誘われたら断れない性格が災いして今回もヨットに乗ることになった。
「船酔い」のことを思っただけで、いつものように胃の調子が悪くなり、胃酸がグチュグチュ出てきて胃壁を溶かし、行く前からほとんど病人になってしまった。
今回(6日)は私の娘と私、館山でヨットの修理場を経営しているヨットのベテランYさん、それとオーナーのテラさんの4人のクルーだった。
娘は大学時代にヨット部に所属しており、何回かのレース経験もあり、かなりの成績をあげたベテランだ。
この日はテラさんのヨットが係留されている内房の富浦漁港から直線距離にして10kmあまりの保田漁港まで行って折り返してくるコースだという。
私は当初ヨットは海岸線に沿ってほぼ直線に進むものだと思っていたが、それは大変な間違いだった。海岸近くは岩礁が多く、また定置網等の漁場になっていて近寄れない。
そのため一旦沖まで出で、そこから平行に海岸線をたどり、目的地が近づいたら一気に漁港目指して入港する。
だから思いのほか相当の距離を走ることになる。
この日は天気がよく落ち着いていたが、沖に出ると風が強く波が逆巻いていた。波の高さは1m前後だ。
前回3m前後の波の中を走破した経験があったので、波そのものには驚かなかったが、いつものようにたちまちのうちに酔ってしまい、口をきくのもいやになってしまった。
ヨットは追い風を受け、実に快適に進んでおり、娘などは久方ぶりのヨットを満喫していたが、私は舵を握りながら天に祈った。
「主よ、もっと強く風を吹いてください。そして早く保田漁港に着かせてください」
幸いに1時間あまりで保田漁港に着いた。
(私が食べた刺身定食)
保田漁港にはこの地で大変有名な「番屋」という漁協が経営している食堂があり、海産物を中心とした値段の割には思いっきり豪華な食事がとれる。
船酔いでどうかと思ったが、刺身定食をたっぷりと食べながら考えた。
「こんなに酔ってしまうのだと、帰りは大変だ。胃には刺身定食が詰まっているから吐くようなことがあったら男が廃る」
なにしろ帰りは逆風だから2時間程度はかかりそうだ。悶々と考えて一時は走って富浦漁港まで帰ろうかと思ったぐらいだ。
「だが、しかし、ここで船を下りてしまえばさらに男が廃る」
娘に一生語り草にされそうなので、意を決した。
「たとえ何が起ころうとも、俺はヨットに乗る」顔が引きつった。
(すっかり酔って保田漁港の桟橋で寝込んでしまった私。テラさん撮影)
しかし分からないものだ。海には奇跡が起こる。帰りは逆風で波の高さも半端でなかったが、信じられないことにまったく酔うことがなくなった。
胃に刺身定食が詰まっていたので、胃酸が出ても中和されて胃壁を溶かさなくなったらしい。
鼻歌まで出てきた。
「海よ~ 俺の海よ~・・・・・・・・・・・」
すっかり調子が出てきた。私は行きも帰りも舵を握らせてもらったのだが、大きな波が来ると得意のサーフィンをする余裕まで出てきた。
「大波よ来い、お前の波頭をすべるように走って見せよう。我が名はポセイドンだ!!」
ギリシャの航海士になった気分だ。
行きと帰りの違いに娘とテラさんが驚いていた。
「いやー、山崎さんは海の男だ」褒められてすっかりのぼせあがった。
だが、その後があった。
「今度は山崎さん、本格的な講習をしましょう。
① メインセール Set、② ジブファーラーSet、③ オートパイロット装着、 ④ フェンダー、⑤ エンジン出艇前確認、⑥ ロープワークです」
海の男のハードルは高い。再び胃酸が出てきて、病気になりそうだ。
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