(23.1.19) だから言ったじゃないの 農産物価格の高騰が止まらない
「だから言ったじゃないの」と言う状況になってきた。ここに来て農産物価格がリーマンショック以前のパニック時と同じように高騰し始めたからだ。
前回は日本がゼロ金利政策をし続けたため、その資金がヘッジファンドに流れて農産物や鉱物資源の高騰をもたらしたが、今回は日本、アメリカ、西欧がゼロ金利で資金の垂れ流しをしているため、さらに状況が悪い。
先進諸国がゼロ金利で資金を垂れ流すのにはそれなりの理由があって、「この資金を使用して国内投資を活発にして景気を立て直してくれ」と言う意味と「資金を垂れ流して自国通貨を安くするので輸出産業がんばれ」という意味である。
日本の過去20年に及ぶ低金利政策は主として後者、円安誘導のために行われ、円が120円前後だったのでその間トヨタを始めとする輸出産業が莫大な利益を上げることができた。
日本のGDPを平均で毎年1%程度上昇させて輸出主導型の景気回復といわれたものだ。
しかしこの低金利政策が成功するための条件は他の先進諸国が高金利で、日本の金利水準と乖離している必要がある(一般的には2~3%程度乖離状況にあることが必要といわれている)。
ところがリーマンショック以降は他国もほぼゼロ金利になってしまったために、円安誘導がまったくできなくなってしまった。
おかげで円は82円程度に張り付いてしまい、輸出環境は完全に崩壊している。
また各国は資金が自国に留まって国内投資に向かうことを期待しているが、これはまったく無理なことは日本の過去20年の実績が示している。
資金が自由に飛び回ることができる世界では、国内に投資機会がなければ資金はすぐに出稼ぎに出かける。
注)一方中国の金融緩和が有効なのは為替が政府管理で「元」が世界に流失しないため。国内に留まった資金は不動産価格を急騰させてバブル状態になる。
たとえば日本では民間の資金運用はまったくなく(ただし倒産直前の会社が赤字資金の調達に走ることはあり、新銀行東京等が融資をして焦げ付かせていた)、国債運用しかまともな投資先はない。
しかし利回りは1%前後だから、国外には豪ドルのMMFで4.2%、南アランドのMMFが4.8%、金価格などは(日本国内価格で)昨年対比25%程度も値上がりしており、優良物件はいくらでもある。
こうしてアメリカも西欧も日本も資金はほとんど国内に留まらず、もっぱら新興国の株式や不動産、それに希少な鉱物資源と農産物に向かってしまった。
国連食料農業機関の発表では、昨年12月に主用食料価格指数が過去最高になったという。
小麦や大豆は過去の最高値をうかがっており、昨年は半年間で(7月~12月)食料価格平均ですでに32%の上昇になっている。
農産物価格の高騰に抗議する暴動はアフリカで発生しており、アルジェリアの暴動では砂糖や食用油などの価格が2ヶ月間で約2倍になったことに抗議して、すでに5人の死者が出ている。
また、チュニジアでは食料デモが先鋭化して独裁政権が崩壊してしまった。
もはやアフリカ全土で暴動の嵐が吹きすさぶのは時間の問題であり、米についても高騰が始まればフィリピンや中国で暴動が発生するだろう。
他人事でなくデフレといわれている日本でもこの影響が現れれ始めており、コーヒー豆やレギュラーコーヒーの値段が15%程度アップしており、食用油の出荷価格も15%程度の値上がりが始まった。
砂糖価格もじりじりと値上がりしているし、小麦粉の値段も上がってきたのでまたブドウパンが値上がりしてしまうかもしれない。
問題はこうなると先進諸国といえどもインフレ退治に乗り出ださないとならないから、従来の低金利政策と資金の垂れ流しをやめざる得なくなる。
世界からの垂れ流し資金が逆流すれば、今度は再びリーマン・ショック時と同じで世界経済が一斉に収縮する。
「だから言ったじゃないの。先進国がいくら金融緩和をしても跳ね返ってくるのは資源価格と農産物の高騰だけよ」と言うことだが、この金融緩和で新興国のバブルが維持されていたのも事実だ。
注)「日銀の愚かな金融緩和策 資金供給5兆円」参照
今後の世界経済はどう動くだろうか。
もし先進国が徐々に金融緩和策を転換してソフトランディングに成功し、新興国のバブルも終わり、資源価格や農産物価格も元の状態になるのならベストだが、実際はリーマンショックの二の舞の可能性のほうが高いだろう。
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