(23.2.11) トヨタバッシングの終了宣言 GMの復活とトヨタの敗退

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 アメリカはつくづく戦略の国であることを痛感した。
この2月8日にあれだけ大騒ぎしてトヨタ車のイメージを傷つけてきたラフード運輸長官が「トヨタ車の電子制御システムの欠陥は発見できず、トヨタ車が安全な車で自分の娘もトヨタ車を購入した」とシャーシャーと公表したからだ。
あの「トヨタの車には乗るな」といっていたラフード長官がだ。

 もともとトヨタ車には本質的な問題がなく、マットの問題ブレーキペダルの問題もいちゃもんの部類だったが、なぜアメリカ政府がトヨタを標的にしたのかは戦略的な意味があった。

 アメリカ政府はGMとクライスラーの倒産で約7兆円の政府資金を投入し、この2社の再生を図ろうとしたがトヨタ問題が発生するまではまったく展望が持てなかった。私などはGMもクライスラーもこのまま自然消滅するのではないかと思っていたぐらいだ。
しかしアメリカ政府はタフだ。

最も売れる車をアメリカ市場から放逐すればGMもクライスラーも再建できる
日本のトヨタが標的にされたのは全米で最も販売台数が多かったことと、品質面で絶対の信頼を受けていたことの他に、鳩山嫌米政権の存在が大きかった。
日本はアメリカの友人でない。徹底的にトヨタを血祭りにあげろ」オバマ大統領が指示した。

 最初はフロアーマットの問題だといってリコールさせ、次はブレーキペダルの問題だと言ってふたたびリコールさせ、最後は電子制御装置に欠陥がある可能性があるといって、アメリカトヨタ車のイメージダウンを図った。
その結果トヨタはリコールだけで800万台近くになり、販売どころではなくなった。

 このようにしてトヨタをアメリカ市場から引き摺り下ろした結果、GMとクライスラーの業績は飛躍的に向上し、ついにGMは政府資金を株式再上場(10年11月)で返せるまでになった。
よくやった、ラフード。君の戦略でGMもGMの民主党支持の従業員も安泰だ。おまけに政府資金も回収できるのだからわが政権にとって最大の功績になるオバマ大統領がはしゃいでいる。

まあ、ここまでトヨタをたたいておけばGMがこけることもあるまい。トヨタには約20万人のアメリカ人労働者もいるし、菅も恭順の意を示しているからこの辺でトヨタバッシングはやめることにしよう

 そしてラフード運輸長官の「トヨタ車の安全宣言」がなされた。
アメリカは戦略的な国だ。会社の復活はGMの自社努力ではなく、アメリカ政府のトヨタの血祭りによって成し遂げられた。
一般にこうしたアメリカ政府の戦略は日本人には汚い手と映るが、世界はこのようにして動くのが普通で、驚くにはあたらない。

注)太平洋戦争も同じようにしてルーズベルトにはめられた。

 私がとても残念に思うのはこの戦略性謀略と言ってもいい)を日本人は苦手としフェアなスタイルを好むのだが、そうしたナイーブさは世界政治では命取りになる。

注)この間日本政府はトヨタを助けるためになんら行動していない。本来は市場でアメリカ国債を売却して国債価格の暴落が起こる恐怖をアメリカ政府に与えなければならなかった。

 幸いアメリカ政府はこの程度で手を引いてくれたので、トヨタはアメリカではまったくだめだがアジア等の新興国で復活しつつある。
しかしアメリカの虎の尾を踏めばいつなんどきバッシングが復活しないとも限らない。

 それにしても今回のオバマ政権のさわやかなGMの復活劇はどうだろう。
日本は戦術トヨタ対GM)では完勝したが、戦略アメリカ対日本)では完敗し、結局トヨタは全米3位のメーカーとしてGMとフォードの後塵を拝することになった。

 

 
 

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(22.7.10) トヨタの苦悩  どこまで続くぬかるみぞ

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 トヨタの苦悩は一体どこまで続くのだろうか。アメリカでは一頃のようなヒステリックなトヨタバッシングは止んだが、水面下では執拗なトヨタバッシングが続いている。

 4月5日米運輸省がトヨタに「アクセルペダルの欠陥についてのリコールの報告遅れ」に対し15億円の制裁金を科すと表明し、トヨタはこの制裁措置を5月に受け入れたため、このことが100件以上のトヨタ車に対する訴訟に悪影響が出ることが予想される。
やはり、トヨタは欠陥を隠していた」となるからだ。

 さらにラフード運輸長官は「今回はアクセルペダルにかかるリコールの報告遅れに対する制裁金であり、新たに電子制御装置等の欠陥が明らかになればさらに制裁金を科す」と新たな制裁措置を散らつかせており、いつ欠陥問題が再発するか分からない。

 トヨタ側も非常に神経質になり、5月20日にはスポーツタイプの多目的車(SUV)が米消費者情報誌で「横転する可能性がある」と指摘されるとすぐに3万4千台のリコールを発表した。

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 これでトヨタの欠陥問題は峠を越したと私は思っていたが、7月2日レクサスとクラウンの27万台にのぼるリコールを発表したのには驚いた。
トヨタによるとエンジン部分に異物が混入した場合エンジンに亀裂が入り、最悪の場合はエンジンがストップしてしまうと言う。

 なぜ異物が入るかと言うとバブルスプリングが劣化してそれが異物となるのだそうで、そのためには細い劣化しやすいバブルスプリングを太いバブルスプリングに変えなくてはならないのだそうだ。
この作業はエンジンを分解する必要もあり、単なるソフトの変更とは大違いで手間隙のかかる作業になる。

 こうしてトヨタは5月の3万4千台のリコールに続いて、今度は27万台のリコールをしなければならなくなった。
今までのリコール数を加えると約1000万台になって、年間の販売量をはるかに凌駕している。

 トヨタは販売するよりもリコール対応のほうが忙しくなったが、これこそがアメリカが狙っていた目的だ。

 トヨタの連結営業利益はリーマンショックのあった09年3月期4610億円の赤字だったが、10年3期には1475億円の黒字になり、「ようやくトヨタの経営の悪化に歯止めがかかったか」と思ったが、実際はいつまでたってもリコールの罠から抜けられない。

注)08年3月期のトヨタの営業収益は約2兆円で、当時は世界のトヨタといわれていた。

 販売金額はピークの08年3月が26兆円だったが、10年3月期は19兆円30%も売上高が減少している。
当然アメリカでの販売も不振だ。

 もともとトヨタバッシングはアメリカ政府GMクライスラーを復活させるために、世界最大の企業トヨタを意図的に血祭りに上げたものだが、アメリカ政府としてもここまで効果があるとは予想もしなかっただろう。
トヨタはリコールでのた打ち回り、今は黒字を出すのがやっとの会社に陥った。

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 現在アメリカ政府の最大の関心事はトヨタから離れ、国際石油資本BPのメキシコ湾における原油噴出事故に集中している。
BPはアメリカ政府との間で200億ドル(約1兆8千億円)の基金を創設して事故の賠償に備えることになったが、オバマ大統領は「これがすべてではない」とBPを非難している。
おかげで、トヨタの事故どころではなくなってきた。

 また日本政府が鳩山政権のような嫌米政策をとらないと菅総理が言明したためオバマ政権としてはジャパンバッシングを控える方針であり、そうした意味ではトヨタバッシングは峠を越した。

注)鳩山政権の最大の被害者はトヨタだったと私は思っている。

 しかしそれはアメリカ政府が意図的なトヨタバッシングをしないということで、実際はこれからも長い間トヨタは米運輸省の技術的追求とアメリカ市民の集団訴訟に悩ませられるだろう。

 

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(22.4.26) トヨタをつぶさなければGMとクライスラーの明日はない オバマ政権の戦略

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 オバマ政権トヨタつぶしは執拗に続けられている。
今度は米消費者情報誌がスポーツタイプの多目的車(SUV)が横転の危険性があると指摘し、トヨタは3万4千台のリコールを発表した。

 電子制御による車両安定装置VSC)で制御できない場合があると判明したのだが、確かにそうした事例はあるとは思うが、ならば今までと同じように機械式で制御していたとしても同じような問題があったはずだ。

 さらに言えばVSCを装備している自動車はみな同じ問題を抱えているのに、なぜトヨタ車だけが標的になるのかが問題で、オバマ政権があらゆる組織とメディアを動員して言いがかりをつけ、トヨタつぶしを行っているからである。

 なぜトヨタをつぶさなければならないか
GMとクライスラーを再生させるためには、全米で最も人気があり、性能抜群と思われていたトヨタ車をつぶさない限り、GMもクライスラーもただ安楽死を待つだけだからだ。

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 実は7兆円あまりの政府資金を投入してGMとクライスラーを国有化したものの、この企業が再生の軌道に乗らない。
国有化したGMの経営は友達のロビーイストに、クライスラーは自動車労組UAWの幹部に任せたが素人経営で一向に経営は上向かない。

 自動車労組UAWはオバマ政権の金づるで大統領選挙のときは約4億5千万円の政治献金をしている。
何とかしてくれ、経営が立ち行かない」オバマ政権に泣きついた。

注)オバマ陣営は選挙期間中、草の根献金で50ドル、100ドルの小口献金を集めて戦ったと宣伝したが、実際はUAWやGMやGSやGEから多額の献金を得ていた。

 昨年の夏場には燃料効率のいい車に乗り換えれば30万から40万円の政府援助をしてみたが、実際に売れるのは日本車を中心とする効率のいい車ばかりだった。乗り換えによる支援は失敗した。

 オバマ政権内部で戦略会議が開かれた。

このままではGMもクライスラーも自然消滅してしまう。UAWの組合員は四散し、アメリカから製造業が無くなってしまう。どうしたらよいものだろうか・・
大統領、トヨタがある限りアメリカの車は売れません。この際トヨタをアメリカから駆逐しましょう
しかし、どうやったらそれができる。どう見てもトヨタの車の性能は世界一だ
大統領、心配には及びません。たたけばどこでも埃は出ます。幸いに09年8月にカリフォルニアでレクサスが事故を起こしています。これを最大限に利用しましょう。必ずトヨタをアメリカから追い出して見せます

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 アメリカはトヨタを米国市場から放逐しようとしているが、これはGMとクライスラーの経営が立ちなおるまで続く。
元々アメリカ車は燃料効率が悪い上に、HVEVといった次世代自動車の開発にも遅れを取っている。そのうえGMもクライスラーも素人経営で、UAWは自己の権利の保身だけが目的だ。

 だからGMもクライスラーも、どうやってもトヨタに勝てない。あとはアメリカ政府の戦略でアメリカ企業を守るだけだ。
こうしてトヨタはひどい濡れ衣を着せられ、今後も集団訴訟の悪夢に耐えなければならなくなった。

 唯一の光明はトヨタのアメリカ従業員が約20万人いることで、トヨタはアメリカと日本のハーフになっている。
だから完全な日本たたきにならないのが救いだ。

 これからトヨタはどうしたら生き残ることができるだろうか。一つの方策としてはUAWと同様にオバマ政権に多額の献金をして取り入ることがある。
中国政府のような媚薬戦略だが、郷に行っては郷に従うのも止む終えない。
アメリカは政治献金がすべてであり、そうした金銭政治の世界では戦略を駆使しないと生き残ることができない。

注)従来トヨタを含む外国車はブッシュ政権との関係が深かった(それなりの献金があったはずだ)。ブッシュ政権は自由市場での競争を支持していたからである。一方民主党は国内自動車産業とUAWを基盤としている。

 

 

 

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(22.3.19) トヨタバッシングは峠を越したか? アメリカで生き残る道

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 2月24日豊田章男社長米下院監視・政府改革委員会で証言し、改善策を約束したことにより、トヨタ・バッシングは峠を越したようだ。
一頃のヒステリックなトヨタ批判はなくなり、今はETCS電子制御スロットルシステム)が本当に急加速の原因かどうかの科学的な検討に移ってきている。

 ETCSが急加速の原因と委員会で証言したのは南イリノイ大学ギルバート準教授で、「実験で配線を変えることで急加速が発生した」と証言したものだ。

 これに対しトヨタは、米スタンフォード大学教授ゲルデス教授に再現実験を依頼し「アクセルペダルの電子回路配線に故意に傷をつけない限り急加速は起こらず、また同じような状況下では他メーカーの車も急加速すること」を実証し、また「このような特別な状況は通常の車の操作では発生しない」と公開実験をして反論している。

 現在は「ETCSが急加速の原因か否かは科学的には不明」という状況だが、米道路安全交通局は(原因は不明だが)「当面の対策としてBOS(ブレーキ優先装置)の搭載を義務付けることを検討している」とのことだ。
よく分からないが安全確保のためにブレーキ優先にしよう」ということだろう。

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 この米道路安全交通局の措置に対してトヨタを始め、主要な日本、西欧のメーカーはBOSを新規に製造する車から搭載することを約束している。

 どうやらETCS問題に限っていえば、ETCSが急加速の原因だとの科学的証明はかなり難しく、他のメーカーでは出現しない急加速がトヨタのETCSだけに出るとの実験は不可能と思われる。

 しかしそれでほっとできないのは、実は上記の問題とは別にトヨタにとり悩ましい問題が残っているからだ。
それはアクセルペダルそのものの問題(アクセルペダルが戻りにくいとの問題)であって、08年12月に欧州でクレームが付き、欧州での部品の交換に応じているが、アメリカでは部品の交換をしなかった問題である。

注)アクセルペダルの表面が磨り減ると、ヒーターの熱が流れ込んで結露をおこしヒーターとペダルがくっついて戻らなくなるといわれた。

 アメリカ人がヒステリックになったのは、この欧州に対する対応とアメリカに対する対応が異なっていたことで、「なぜ、アメリカを無視する。アメリカこそがトヨタの最大の市場ではないか」との感情から来ている。

 09年8月にカリフォルニア州でレクサスの暴走事故があり、4人が死亡したが、この原因がETCSの不具合によるものか、アクセルペダルの問題なのか、その他の問題なのか現在、調査がおこなわれている。

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 ETCSについては科学的な検証が可能であり、実際にゲルデス教授の反証実験もあるので、ETCSが原因だとの論拠は薄れつつある。

 一方、アクセルペダルの問題については、現段階でトヨタ側からの反証は出ていない。
レクサスの事故がこの原因だとすると、最大221万台相当のユーザが対象になって、賠償額は天文学的数字になりそうだ。
欧州ではアクセルペダルの不具合を認めていたのだから、アメリカで対応が遅れたのが事故原因だ」ということだ。

注)アメリカでの集団訴訟では対象範囲が最大221万台になる。だからトヨタが生き残るためには裁判に勝つか、最低限有利に取り進めないとアメリカで生き残ることはできない。

 アクセルペダルについても通常の使用でこうした問題が発生するのか、また他のメーカーでも同じなのか、等の冷静なトヨタの反論を期待したいところだ。
豊田社長の訪米でようやくヒステリックな対応が峠を越した今、科学的な論争でトヨタは巻き返しを図るべきだろう。

 アメリカは現在オバマ政権で、国内産業優先、輸出優先政策をとりはじめており、国内の職場確保が優先課題になっている。

 そうした流れの中で、幸いにアメリカの次のテーマ中国人民元の切り上げに移ってきた。
アメリカ国内産業の輸出競争力を取り戻すには、人為的に低く抑えられている人民元の切り上げが一番だ」との認識だ。

注)皮肉なことに中国からアメリカへの輸出は、アメリカ企業の中国工場がおこなっている

 アメリカトヨタとしてはこの流れを捉えて、20万人の雇用維持と、アメリカトヨタ車の輸出振興に勤め、アメリカ政府のいけにえにならないように注意深く行動することが必要だろう。

 

 
 

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(22.3.1) トヨタは集団訴訟に耐えられるか

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 24日、米下院公聴会豊田章男社長が「世界のお客様に同じサービスを同じ深度で行う」と発言したことで、議会とマスコミを中心としたトヨタバッシングは峠を越した。

 今後はトヨタ社長の約束が本当に守れるかどうかの監視と、過去のトヨタの対応に問題がなかったかの検証に移ってきた。

 現在もっとも問題になっている争点は以下の4である。

① 米国トヨタが07年のリコールをマット問題に限定させ、約1億ドル(90億円)の費用を節約したというのは本当か(北米トヨタ社長稲葉氏への引継ぎ文書

② 急加速はマットやアクセルペダルの問題ではなく、電子制御システム(ETCS)の欠陥ではないのか(
ラフード運輸長官は調査を継続する事を約束

③ 07年以降のリコールや自主回収に遅れがなかったか(
不具合が見つかった場合は5日以内に当局に報告しなければならない

④ 03年から07年の間の訴訟において、トヨタは裁判所の命令に反して欠陥情報を隠していたのではないか(
元顧問弁護士ピラー氏の告発



 もし対応の遅れ不適切な対応ETCSに欠陥があったことが証明されると、法律違反となり最大で15億円の制裁金がかせられる。
しかし問題は15億円の制裁金ではなく、北米各地で提訴されている集団訴訟へのこの「法律違反の影響」にある。

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 米国の集団訴訟は日本の集団訴訟と異なり、裁判当事者だけでなく関係する全員に効力が及ぶという恐ろしい訴訟形式で影響の範囲はとてつもなく大きい。

 かりにトヨタ車保有者で裁判当事者Aに1億円の賠償金を払うことになれば、それと同様の状況にあるトヨタ車保有者に同額の補償をしなければならない。
トヨタ車は全米で年間200万台から300万台販売されているのだから、仮に200万台全員に1億円補償するとなると200兆円になり、日本のGDPの約4割に相当する金額となる。

 実際はこのような金額をトヨタとて払えるわけがなく、また集団訴訟では集団訴訟になじむかどうかがまず争点になるので、どこかで和解するのが普通なのだが、それにしても恐ろしい裁判形式だ。

 現在提訴されている集団訴訟の提訴理由は以下のようになっている。

① 改修でトヨタ車が一時的に使用できなくなった経済的損失を補填しろ。
② リコールで保有者のリセール価格が下がったので、その分を補填しろ。


 その他にも提訴しようとすればいくらでも理由がつく。

・急加速の恐怖感で精神的苦痛を加えられ病院通いを始めた。医療費を負担しろ。
・トヨタ車を保有している事がステータスだったのに、今では笑いものにされている。トヨタにだまされた精神的苦痛を補填しろ。
・トヨタの車が欠陥車であることの真実を隠蔽してきた。消費者に対する背任行為だ。


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 このように集団訴訟はなんでもくっつく膏薬のようなものだが、さらに輪をかけて恐ろしいのは社会的制裁という金額が加算されるからである。

 かつてマクドナルドコーヒーをひざにこぼして火傷を負った老婆がいたが、そのために皮膚の移植手術をすることになった。
このときの賠償金が20万ドル(約1800万円)だったのに対し、加算された社会的制裁金は300万ドル2億7千万円)だった。

注)その後上級審で示談を行ったので実際の金額は分からない。

 法律違反ということになれば、必ず社会的制裁金が加算されるから、金額はますます天文学的数字になってしまう。
これではGMと同様に、連邦破産法11条を申請して破産するほうがましだ」ということになりかねない。

 トヨタにとり北米市場は日本以上に重要な市場で、トヨタ売上げの約3割が北米だ。
しかしトヨタはここで制裁金の支払いだけのために、一生働き続けることもできないだろう。
裁判王国アメリカトヨタはこの裁判に勝つか、最低限有利にとり進めない限り北米市場を失うことは確実で、場合によっては破産法の申請をしなければならなくなる。



 

 

 

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(22.2.25) 3度目の敗戦 トヨタリコール問題

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 日本は何回アメリカに敗戦すれば気が済むのだろうか。
第1回目は太平洋戦争の軍事的敗退であり、2回目はバブル崩壊後の金融戦争の敗退であり、そして今度は日本を代表する企業トヨタの敗退である。

 トヨタはしばらく前までは日本で最大の収益を生み出していた優良企業で、08年にはGMを抜いて世界最大規模の自動車メーカーになったが、それからおよそ1年後にはGMの後を追ってしまった。
今やアメリカ市場からの撤退が時間の問題となりつつある。

 現在アメリカはトヨタバッシング一色だが、なぜこれほどトヨタを追及するのだろうか。
このトヨタ追及のしつこさは日本人の目には異様に映るが、これがアメリカという国のもう一つの真実の側面である。

 歴史を遡ると、このトヨタ追求とまったく同じ手法で日本が追い詰められた過去がある。

 日本が太平洋戦争に突入したのは1941年12月のことだが、日本に戦争止むなしと決意させたのがアメリカ国務長官ハルが突きつけた「ハル・ノート」であることはよく知られている。
それ以前、アメリカは日本人移民の排斥運動、日本の資産凍結措置、石油禁輸措置で日本の首を真綿で締め上げていたが、最後に日本を追い込んだハル・ノートはそれにもまして厳しいものだった。

 全文で10項目からなるハル・ノートの中で特に厳しいといわれたのは以下の3項目だった。
① 日本の中国からの撤退(日本は満州国も含まれていると理解した
② 日米はアメリカの支援する中国国民党政権以外のいかなる政府も認めない(
日本が支援した汪兆銘政権の否定)
② 第3国との太平洋地域における平和維持に関する協定の廃棄(
日本は日独伊3国同盟の廃棄と理解した


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 アメリカは次々と条件を厳しくして最後は日本に「屈服か、戦争か」を迫ったのだが、これはアメリカが敵を追い詰める常套手段だといえる。
これだけ追い詰められれば「誰でも戦うだろう」と極東軍事裁判判事パール氏言わしめたのが、このハル・ノートだったし、実際に戦争は起こった。

注)ただしアメリカから見たらこれは交渉の常套手段で、「最も困難な条件を提示してそこから徐々に条件を緩和するのがアメリカ流」だとも言われている。

 
現在のトヨタがおかれている立場は、太平洋戦争前の日本の指導者が置かれている立場と同様で、「やはりアメリカはトヨタをつぶそうとしているのか」と疑心暗鬼にならざる得ない。

 アメリカという国は味方(実質的にはアメリカの子分)に対しては優しいが、敵に対しては容赦しない。
日本は太平洋戦争の敗北を教訓に、その後は一貫してアメリカのイエスマンとして過ごしてきたが、ここに来て鳩山総理虎の尾を踏んでしまった。

 鳩山首相は「日米は対等のパートナー」と言い、実際に普天間基地移設問題ではアメリカの意向をまったく無視して「何の前提も置かずに」再検討を始めたからだ。

 実は国際政治の世界では「対等のパートナー」は存在しない。
対等のパートナー」と言う言葉を外交辞令的に発することはあり、従来からアメリカ大統領が日本に来て言う言葉は「日米関係は最も重要な二国間関係」だった。
しかし実質は日本はアメリカの子分であり、アメリカは日本が子分としての礼節を守る限り、ビック・ブラザーとしての役割を演じてきた。

 ところが鳩山総理のように本気で対等な関係を求めようとすると、急激に緊張関係が発生する。本来国際関係で対等などというものはなく、指導する国と指導される国しか存在しない。
だから本当に対等であったりすると、これはガチンコ勝負になり、太平洋戦争がそうであったように軍事力でカタをつけざる得ない
そして再び指導する国とされる国の安定した調和が生まれる。

注)動物の世界を見てもサル山には必ず1匹のボスざるがいて、対等なボスざるの存在は許されない。人間のサラリーマン社会でも対等な立場などなく、微妙に階層化がなされていてサルの世界と変わりが無い。

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そうか、本当に対等のつもりなら、対等が何か分からしてやる
アメリカのトヨタバッシングは、アメリカが本気で怒った証拠だ。
トヨタが800万台の車のリコール・自主回収をしても、次はリコール隠しの隠蔽があったと大陪審で追求し始めた。
公聴会ではレクサスの急加速で死にそうになったという女性が「恥知らず」と罵っている。

 関係書類はすべてアメリカに押さえられてしまったので、過去に少しでもリコール隠しに相当するような事例があれば、これ幸いと永久に追求されるだろう。
鳩山に対等など存在しないことを分からしてやれ。トヨタは血祭りだ

 トヨタの不幸はこうした日米間の政治の隘路に落ちてしまったことだ。
現状ではトヨタがどのように弁明し、技術的対処を約束しても、アメリカはハル・ノートにならってより困難な要求を繰り返してくるに違いない。
なにしろ日本は対等を求めているが覇権国家アメリカはこれを許すわけにはいかないからだ。

注)さすがに日米間で戦争は起こらないが、トヨタバッシングは戦争の代わりだと思えば理解できる。

 一方で日本政府は普天間思考停止に陥っている。鳩山総理は自らの決断力のなさが、アメリカのトヨタバッシングになっていることすら理解していない。

 だから日本政府をあてにできないトヨタは自力でこの危機から抜け出さなければならなくなった。
幸いにトヨタはアメリカに4工場を持ち、17万人の従業員がいる。最後の頼みはこの17万人だが、おそらくアメリカの沸騰してしまった世論を沈静化させるにはよりインパクトの強い以下のような政治的決断が必要だろう。

① 閉鎖したカリフォルニアのGMとの合弁工場を再開して、解雇者約4500名を再雇用する。

② GMの解雇者をトヨタの工場で優先的に雇用する。

③ トヨタが米国内で作る車は積極的に輸出に回し、アメリカ国内市場ではGMのシェアが常にトヨタより上位にあるようにする


 トヨタにとってはまったく屈辱的な条件だが、アメリカ市場から永遠に追放されるよりははるかにましだし、アメリカ世論を味方につけるには、こうした思い切った決断以外に適切な方法は浮かばない。

 

 

 

 

 

 

 

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(22.2.22) トヨタバッシングは政治的罠 

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 トヨタ自動車のリコール問題技術的問題ではなく、政治的問題である。
そのことを理解しない限りこのトヨタバッシングは収まることはない。
なぜアクセルペダルの問題がこれほどまでに急拡大したかは、オバマ政権が意図的に拡大させているからだ。

 アクセルペダルが戻りにくいとの指摘は07年3月に米国でタンドラ(フルサイズ ピックアップトラックでされていたが、当時はブッシュ政権でこの問題が大きく報道されることはなかった。

 その情勢が急展開したのは09年8月レクサスの暴走で4名の死亡事故が発生したからだが、この事故を契機にアメリカは政府とマスコミをあげてトヨタバッシングに邁進した。

 オバマ政権にとっては今や緊急の課題は政府直轄会社となっているGMの再生にある。なにしろ再生できなければ政府がGMに投じてきた約5兆円の税金が返済されないし、約30万人といわれるGMの社員が路頭に迷い失業者になってしまう。
民主党にとって工場労働者こそは最も頼りになる票田なのだから、これを失うわけにはいかない。

 オバマ政権は道路交通安全局を使い、このレクサス問題を使って徹底的なトヨタ追及のキャンペーンを始めた。
当初はフロアマットの問題とし、次にアクセルペダルの問題ではないかと難癖をつけ、約800万台のリコール・自主回収をさせたあと、さらに現在はトヨタは欠陥問題を隠蔽したとの嫌疑をかけている。

 なにしろ法的には「すべての自動車メーカーは安全上の欠陥を確認した場合、5日以内に当局に報告し、速やかにリコールを行う法律上の義務がある」のだから、この規定から逃れるすべはない。
オバマ政権がその気になればトヨタを欠陥問題でアメリカから永久追放することができる。

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 トヨタからありとあらゆる資料を提出させたが、その資料の中に少しでも欠陥問題があれば際限なく追及できるからだ。
いいか、たたけば誰でも埃はでる。すべて欠陥問題につなげろ。倒産するまでトヨタを追求しろ

 トヨタにとっての誤算は、欠陥車問題が技術問題ではないことを早くから見抜けなかったことだ。
GMが倒産し、GMトヨタが共同出資していたNUMMIからトヨタが撤退したのは09年6月だったが、この決定は経営的には当然としても政治的には最悪だった。

 カリフォルニア州にあったこの工場には約4500人の労働者がいたが州政府の懇願を無視するようにトヨタGMと手を切り失業させた。
これでトヨタのアメリカでの保険は切れてしまった。
よし、それならトヨタをたたくことがGMの再建につながるオバマ政権はそう決意したようだ。

 それ以降のオバマ政権のトヨタ追求は何をトヨタが対応しても「ダメ」というもので、この24日に公聴会でトヨタ社長豊田章男氏がどのように技術的な対応を約束しても追求が止むとは思われない。

 トヨタにとって今最も必要な認識は、これが政治問題であって技術問題ではないと覚悟をきめることである。そうすれば反転攻勢の対応方法が見つかる。

① トヨタにとっての最後のよりどころはアメリカにある4工場、関連する従業員約17万人であり、こうした人々の雇用を守るのがトヨタの役割であることの重要性を指摘する失業問題はアメリカの泣き所で、この4つの工場のある州にとってはトヨタのほうがGMより重要)。

② フォード、GM等の欠陥隠しに相当するような案件を探し出し、欠陥問題はトヨタだけでなく自動車メーカー共通の課題だということを分からせる日本の事例では西松建設からの政治献金問題で当時の小沢代表が追及されたとき、自民党の二階俊博経済産業相も同様にし西松建設から献金を受けていたことをすっぱぬいた方法)。

 ブッシュ政権は外向きのグローバル政権だったから、経営に失敗したら国内・国外を問わず市場から撤退するのは当然だとのスタンスで、特にトヨタを狙い撃ちすることはなかった。
しかしアメリカの民主党は完全に内向きの政権で、国内の労働者を助けるためには外国企業を槍玉に挙げることに躊躇しない

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 内向き政権がどのような対応を取るかは日本の民主党を見ても分かる。
日本では普天間基地問題でアメリカとの間で辺野古に移設することを確約したのにかかわらず、そうした約束はないかのように再検討をはじめた。
住民の意志が大事なのです。アメリカとの約束などくそくらえだ

 このオバマ政権トヨタ鳩山政権普天間コインの表裏であり、いずれも外国の犠牲の上に自国産業を再生させたり、沖縄住民の負荷を軽減させようとしている。

 内向き政権同士の妥協の余地は少ないブッシュ政権自民党政権ならこうした場合はアメリカのトヨタと日本の普天間をバーターに政治決着を図ろうと動いたはずだが、あいにくと内向き政権同士のチキンレースになってしまった。

注)共和党議員にトヨタバッシングの不公平さを指摘してもらう手はあったのだが、共和党は普天間基地問題で頭にきており、共和党系のマスコミ、ウォールストリート・ジャーナルも敵に回ってしまった。

 トヨタのリコール問題は政治問題であるがゆえに、政治的解決をしなければトヨタバッシングが収まることはない。
若いトヨタの社長はGMとの提携を解消するという判断ミスで、800万台のリコール・自主回収の嵐に巻き込まれてしまった。

 さらにオバマ政権はトヨタを倒産させようとしている。今はトヨタの米従業員17万人だけがトヨタの味方だ。ここをてこになんとか巻き返しを図ってもらいたいものだ。

   

 

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(22.2.18) アメリカの罠にはまったトヨタ リコール問題

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 トヨタアメリカの罠にはまったのではなかろうか。そう思わないと理解できないことが多すぎる。

 特に米道路安全交通局によるアクセルペダルに対する異常なまでの追求、それと歩調を合せたラフード運輸長官の「トヨタの車は乗らないほうがいい」という悪意あるトヨタ批判、さらにマスコミによる批判の大合唱、豊田社長の公聴会への召喚等、アメリカあげてトヨタバッシングが吹き荒れている。

 私は当初とトヨタ品質管理に問題があり、そのために欠陥車が続出しているのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
このようなトヨタバッシングは実はいつか来た道であり、1990年代の日本の金融機関に対するバッシングと酷似していることに気がついた。

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 1980年代までは日本の金融機関は同時に世界の金融機関であり、向かうところ敵なしという状況だった。
当時の総資金量での世界ランクはベストテンがほとんど日本の金融機関が占めており、日本企業に対し不動産購入資金を湯水のごとく貸し与えていた。
あのマンハッタンの主要なビルが日本企業に買い占められていた頃である。

注)この頃私が勤務していた金融機関でも資金量世界100というような表が配布され、自分が所属していた金融機関が世界で6番目にランクされていた。

 これに対するアメリカの逆襲は日本の金融機関の弱点だった自己資本の僅少さをつくものだった。いわゆるBISの自己資本規制で海外で活動する金融機関の自己資本は総資産の8%が必要だとの縛りをかけた。
これによって日本の金融機関は海外での融資活動を大幅に縮小せざる得なくなった。

注)日本の金融機関は常にオーバーローンの状態で自己資本は2%前後しかなかった。

 こうして金融機関の融資活動を封じてバブルを崩壊させ、不調になった金融機関に追い討ちをかけたのがアメリカ流の検査の導入だった。
これは当時グローバルスタンダードと言われ、詳細なチェックリストに基づくリスク管理の検査で、当初日本の金融機関はアメリカ人の言っているリスクなるものが理解できなかった。

リスク管理が不徹底だから経営が傾くのです。リスクを洗い出し評価しなさい。それができない金融機関はアメリカから撤退しなさい
あのー、リスクって何でしょうか?」

注)本当はアメリカの金融機関もリスク管理などしていなかったのはリーマン・ショックで次々に倒産したことで分かる。これは日本の金融機関が活動できないようにするための第2の罠だった。

 
このリスクの計測のため、アメリカに支店を置く日本の金融機関は検査対応に追われ業務をすることがまともにできない状況になった。
なにしろ評価が低いとアメリカから追い出されてしまう。
1年のほぼ半分は検査対応です」駐在員がぼやいていたものだ。

 アメリカは日本の金融機関の活動を自己資本比率過剰な検査付けで身動きできないようにし、追い落としに成功したのである。
その結果アメリカの金融機関が世界の金融機関に再び返り咲くことができた。1990年代の事である。

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 さて今回のトヨタバッシングトヨタGMを抜いて世界のNO1になったために起こった。GMクライスラーは倒産し、フォードも青息吐息だったが、アメリカはその復活のプログラムをかつて日本の銀行の追い落としに成功した方法を採用したようだ。

 GMを再生させるにはライバルを蹴落とすのが一番だ。GMの最大の株主はアメリカ政府で、GMの社員は公務員のようなものだし、民主党の最も大事な地盤だ。
アメリカ政府の逆襲が始まった。

 今回はトヨタを品質管理でけちをつけ身動きが取れないようにすることにした。
まず「トヨタのアクセルペダルに欠陥がある」という嫌疑をかけ、たまたま09年8月にレクサスで4人の死亡事故が発生すると、米道路交通安全局が徹底的な調査を始めた。
よし、トヨタが網にかかった。あとは絶対に逃さないことだ

 最初は、「フロアマットに問題がある」と言ってフロアマットを代えさせると、次は「アクセルペダルの形態に問題がある」といちゃもんをつけて約426万台のアクセルペダルを変えさせ、さらに「自主回収では適切でないのでリコールをしろ」と圧力をかけた。
どんどん要求をあげていくのがポイントで、そのたびにトヨタのイメージは悪くなっていく。

 トヨタの社長は若く経験のない豊田章男氏だ。右往左往しているうちに、ラフード運輸長官から「トヨタの対応は遅すぎる」とクレームを付けられ、米議会の公聴会に召喚されるということになってしまった。

 公聴会では「トヨタは長年にわたって欠陥を隠蔽していた」と強引に結論付けられるだろう。
GMを復活させるにはトヨタ車をアメリカで売れないようにすればいい。

 すべてはトヨタを追い落としてGMを復活させるためのアメリカ政府と議員、およびその意向を受けたマスコミの大芝居だと思えば理解できる。
かつてこの方法で日本の金融機関はアメリカから放逐された。

 豊田章男氏はよってたかって無能の経営者の烙印を押されて、さらし者にされるだろう。
これは確信犯的行為だから、どのように弁明しても悪者にされてしまう。

 トヨタの生き延びる道があるだろうか
① GMを再び世界のNO1にして、トヨタはNO2の位置に甘んずることが一つ。
② アメリカから撤退して主としてアジアで生き残る道が一つ。
③ アメリカ政府とけんかして徹底的に戦う道が一つ。

 
いづれにしてもイバラの道が続きそうだ。

 

 

 

 

 

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(22.2.10) 攻勢終末点をむかえたトヨタ自動車 リコール問題

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 軍事用語で攻勢終末点という言葉があるのをご存知だろうか。それまで連戦連勝だった軍事攻勢がある地点に達するとピタッと進撃が止まり、その後は後退に次ぐ後退を迫られる地点のことである。

 実際は補給路が伸びきってしまったり、相手も敵の弱点を知ってそこを攻撃してきたりして、それ以上は勝利が望めなくなるのだが、当事者にはその攻勢終末点が分からない。
わが皇軍には敗北という言葉がない」誰もがそう思っているまさにその時を言う。

 太平洋戦争の日本軍で言えばガダルカナルがそれだし、ヒットラーにとってのスターリングラード、ナポレオンのモスクワ、アレキサンダー大王のインダス川、アメリカのイラク・アフガンといくらでも例があるが、日本経済の1991年のバブル崩壊もその例に入る。

 実際日本経済はバブルが崩壊した1991年以降長期停滞に入り、現在のGDPはバブル崩壊時のそれとほとんど同じで、この間日本はまったく成長していない。

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 トヨタ自動車約900万台の自動車を販売し、GMを抜いて世界NO1になったのは08年のあのリーマン・ショックの年だが、今思えばこの年がトヨタ自動車にとっての攻勢終末点だった。

 リーマン・ショックは全世界の自動車産業を巻き込み、GM、クライスラーは倒産し、フォードも赤字経営に悩んでいたから、自動車問題はアメリカ自動車業界の問題だと思っていたが、実は勝利に酔っていたトヨタ自動車の問題でもあった。

 この時を境にトヨタは何をやってもうまくいかなくなっている。
トヨタ車には従来からアクセルペダルに不具合があるのではないかと疑われていた。
アクセルの下に敷かれているフロアマットが引っかかり、アクセルがもどらないため自動車が暴走するという現象だったが、トヨタの対応は、「世界のトヨタに欠陥はない」というものだった。

 しかし09年8月、カリフォルニア州でレクサス車が暴走して、4人の死者が出た事故が、ターニングポイントになった。
世界のトヨタに欠陥があるのではないか」と消費者が疑い始めたからである。

 トヨタの対応は時間を追ってみると次のようになっている。

① 運転者の運転操作の未熟が原因と認識。

② フロアマットをしかるべき位置に敷いていないのが原因と認識。

③ フロアマットがアクセルに引っかかることがありうるのでフロアマットを無償で交換する自主的回収措置を実施(09年秋)

④ アクセルペダルに構造的欠陥がありそうなので、ペダルを無償で交換する自主的回収措置を実施(09年11月)

⑤ 正式にアクセルペダルの欠陥を認め、リコールを実施(10年1月)


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 時間的経緯を見ると、当初は運転者側に原因があって、トヨタの問題ではないと思っていた事が分かる。
原因がトヨタ車にあると認識したあとも、フロアマットの問題とし、資金的にも多大な持ち出しになるアクセルペダルの問題ではないと主張して自主回収に留めていた。

注)自主回収とリコールの差は、「問題がありそうだ」と「問題がある」との差であるが後者は法律に基づいて無償の交換をおこなう。

 リコール対象車は全世界で500万台規模に成りそうだから、半端な数ではない。08年、09年と2年連続で赤字になっていたが、これで10年度も赤字になる可能性が高くなった。

 トヨタは世界NO1になったとたん品質管理で油断をし、欠陥車だらけになって攻勢終末点をむかえてしまった。
トヨタが社運をかけて開発した3世代目のプリウスにもブレーキ系統の欠陥があり、これもリコールの対象に成なったからである(2月9日)。

 この問題ではトヨタは当初「ドライバーの感覚的な問題で、構造的な欠陥はない」と主張したが、一方で1月以降販売のプリウスについては問題点を修正したと発表した。

注)ABSという横滑りを防ぐためのブレーキ制御システムをドライバーの感覚に合せる措置を取った。

 
しかし「欠陥でない」といいながら一方で修正を行っていたため、トヨタの信頼は地に落ちてしまった。
ラフード米運輸長官は「トヨタの対応は遅い」と不満を募らせ、前原国交相は「トヨタの姿勢は顧客の姿勢がいささか欠けている」と苦言を呈している。


注)ラフード米運輸長官はこの機会にトヨタをNO1からの地位から追い落としGMを再び世界のGMにしようとする意図があり、悪意ある情報操作を行なっている。

 トヨタはだんだんと2000年から2004年にかけて発生した三菱自動車のリコール隠しと似てきた。
三菱自動車はハブが摩滅して車輪が外れる事故が多発していたのにそれを隠し、すべて整備の問題として片付け、最後にリコールになったときは経営が傾きかけていた。

 攻勢終末点をむかえた場合の軍事的措置は、自らが守れる戦線まで後退して守勢に徹することである。
トヨタにとっても、リコール対応が速やかに実施できる規模まで販売規模を縮小して、守勢に徹するほかに方法がない。

 特にアメリカがこれを機会にトヨタ車の追い落としを図ろうとしているのだから、生半可な対応で乗り切れるとは思われない。
今すべきことは消費者の信頼を取り戻すことを最重要の経営目標とすることで、もし苦し紛れの販売促進(軍事的には戦線拡大)などを行えば更なる苦境に陥ることは確かだ。

注)トヨタ車のリコール問題でアメリカではすでに30件以上の集団訴訟が提示されている。集団訴訟とはある特定の案件の判決が、同時に同じ状態にあるすべての人に対し効力が及ぶ訴訟。
たとえばプリウスのブレーキ故障でA氏に1000万円の和解金を払うことになると、他の20万台のプリウス保有者にも同額の和解金を払わなくてはならなくなり、和解金は天文学的な数字になる。



 

 

 

 

 

   

 

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(21.5.14) トヨタは復活するだろうか

240pxtoyota_headquarter_toyota_city  トヨタ09年3月連結決算が発表された。それによると営業利益▲4610億円で、これは実に71年ぶりの赤字だと言う。

 71年と言うと戦前からだから、今まで決して赤字にならなかったほうがビックリだが、トヨタにしたら驚天動地のことだろう。
確かに100年に一度の危機にふさわしい数字だ。

 売上高も約22%減20兆5千億円だったが、赤字要因別分析では販売数量の減少▲1兆5000億(56%)、為替差損▲7600億(28%)、全体▲2兆7000億円営業利益が減少したのだと言う。

 10年3月期もさらに厳しい見通しになっており、売上高さらに20%ダウンし、営業利益▲8500億円になると見ている。

 販売台数も落ち込む一方で08年3期 890万台09年3期 756万台から10年3期 650万台の予想だ。
一頃1000万台に達すると言われていたが、この数字は蜃気楼のように雲散霧消してしまった。

 つい1年前まで世界のトヨタと呼ばれ、国内企業の中で売上高、利益とも日本一だったのが嘘のようだ。
輸出立国日本はこのトヨタで持っていたようなところがあったから、トヨタの不振で日本全体が落ち込んでしまった。
トヨタが赤字なら、日本が駄目なのは仕方ない

 今日本ではトヨタがいつ復活できるかに固唾を呑んでいる。

 そのトヨタ復活戦略を見てみると、
① 北米市場偏重から中国、ブラジル等の新興国に販売の重点を移行させること
② 原価低減、設備投資の減少で約8000億円の費用を浮かすこと、
だと言う。
ただし、それでも10年3月営業利益は▲8500億円になるのだそうだ。

 考え込んでしまった。
これではどのように努力しても赤字体質は免れないと言っているのと同じじゃないか。対応が甘いのじゃないか

 トヨタにとっては基本的な問題がいくつかある。

① 1000万台生産体制の過剰設備問題。

700万台で利益があがる体質を作るといっているが、そうした場合は米テキサス州の大型ピックアップトラックのような、いくつかの不採算工場の閉鎖を実施しなければならない。
大雑把に言って、3割が過剰設備になっている。


② アメリカ偏重から新興国にシフトする場合の販売網の問題。

ただし新興国といっても同じように景気が後退しており、たまたま中国では新車購入時の税金の減免で販売数量が伸びているに過ぎない。
販売先は常に移動すると想定する必要がある。


③ 輸出基地としての日本での生産縮小問題。

国内工場を閉鎖する場合、多くの下請け工場が閉鎖に追い込まれる一方国内生産にこだわれば常に為替差損の問題が発生する。

④ 売れ筋の環境対応車に資源シフト問題。


車種が多すぎて現状では資源がひどく分散されている。車種を徹底的に絞って売れ筋に特化しなければならない。 

 
いづれもトヨタにとって厳しい選択をせまられることばかりで、本当にこうした基本問題を解決できるのだろうかと疑問に思ってしまう。
トヨタが伸びていた時は、生産規模の拡大も、アメリカ市場での強さも、日本での生産も、車種が多いこともすべてが強みだったが、今はすべてが弱みに変ってしまった。

 一方で、今期のメーカー7社の決算を見てみると、誰が勝ち組で誰が負け組みか明確に分かる。

 今回の連結決算では、ホンダとスズキ黒字決算になったのには驚いた。当初は全社赤字だと予想されていたからだ。
たとえばホンダは昨年の12月段階では、赤字決算を見込んでいたが、最終的には営業損益は1896億円の黒字になった。

 なぜホンダとスズキは勝ち組になったのだろうか?

 ホンダはHV車のインサイトが好調なのと、スズキは軽自動車ワゴンRが売れているからだろう。この2社は売れ筋の車を持っている

 
こうした結果から、トヨタ復活戦略のポイントが見えてくる。

① 販売の中心をHV車、プリウスに傾斜させること
② 軽自動車の販売をさらに強化すること(実際は連結先、ダイハツ工業のムーブ、タント等の販売強化)
③ 一方で不要設備の削減をすすめて700万台体制に縮小すること

 
この三つが、逆境の環境の中でトヨタが生き残る道だろうと思うが、生産規模の3割削減にもたもたしていると、トヨタといえどもしばらく前の日産のような立場に追い込まれてしまうかもしれない。

 思うにトヨタはあまりに金融バブルの世界にディペンドし、それゆえに売上高も利益も驚異的に伸びたのだが、金融バブルが弾けた今は、新しい世界に適応できない恐竜のように見える。

 

  

 

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