(21.8.27) 映画「剣岳 点の記」を見てきた

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 新田次郎の小説を木村大作監督が映画化した本年度日本映画の最高傑作の一つである。
この映画はいつものように四季の道で会うGoogleおじさんに誘われた。
山崎さん、『剣岳 点の記』はいい。是非見に行ったら

 昨年、剣岳ちはら台走友会の夏山登山をした頃から、この映画がロケされているのを知っており、是非見に行こうと思っていたので早速出かけて行った。

 『剣岳 点の記』は日露戦争直後、北アルプス剣岳の登頂を命じられた測量官、柴崎芳太郎をモデルにした小説を映画化したものである。
当時、日本全国の測量は陸軍の参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)が実施していた。
そして高山の登頂は、修験者によって初登頂された山(実は剣岳も修験者に初登頂されていた)以外の山は、ほとんど陸地測量部によって登頂されていたという。

 この当時地図はある意味で国家の軍事機密であり、それゆえ陸軍の管轄だったのだが、ロシアなどはソビエト政権が崩壊するまでモスクワの正確な道路地図を公開していなかったくらいだ。
日本でも伊能忠敬が作成した日本地図のコピーをシーボルトに渡した幕府天文方、高橋景保が斬首されている

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 映画は剣岳周辺の測量剣岳登頂を命じられた柴崎芳太郎が、山案内人宇治長次郎とともにこの困難な仕事を成し遂げていく過程を、自然の厳しさを織り交ぜて撮影されており、カメラワークはすばらしい。

 また人物描写においても、柴崎芳太郎役の浅野忠信や宇治長次郎役の香川照之が好演しており、行者役の夏八木薫が風雪に打たれながら念仏を唱えているシーンは心に残った。
一言で言ってとても好感の持てる映画だ。

 撮影はほぼ1年かけて現地ロケを実施し、山岳測量シーンは監督の「これは撮影ではなく『行』である」との信念に基づいて撮影されたという。
登場人物の目線や感覚を大切にするため、空撮やCG処理に頼らず山小屋やテントに泊り込みながら明治の測量官が登った山に実際に登り、長期間をかけて丁寧に撮影をおこなったそうだ。

 実際、テントが風雪に吹き飛ばされる場面や、大嵐に襲われる場面は実によくできており、また当時の登山の方法(ロープはあったが先頭で岩登りをする人の確保の方法は存在しなかったようだ)がよく分かって私には参考になった。

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 この映画のできはすばらしく、本年度の日本アカデミー賞を受賞することになると思っているが、たった一つこの映画には不満がある。
それは撮影が現地ロケで行われているため、最も困難な登頂の場面がないのである。

 正確に言うと柴崎芳太郎一行は現在長次郎谷(このときの長次郎の偉業をたたえてこのように命名された)といわれる雪渓を登っていくのだが、最後に約60mの垂直の岸壁が立ちはだかる

 ここを四等三角点を作るための資材(3mあまりの丸太)を長次郎が担ぎ上げたのだが、そのシーンがないのだ。
ここがルートの一番困難な場所で、剣岳に登ったことがある人ならカニの横ばいを思い出してもらえば分かる。

 だがそんな危険な場所では、カメラを抱えて撮影するわけに行かず、その結果山岳映画ではしばしば最も困難な場所の撮影ができない私の知っている限り、この最難関の登頂の撮影に成功した人は、世界的登山家でかつ映画監督だったガストン・レビッファしかいない。レビィファは『天と地の間に』でこの偉業を成し遂げた)。

 この最後の60mが抜けていることはなんとしてもこの映画の弱点で「画竜点睛を欠く」思いだ。
こうした場所の撮影はレビッファのような世界的な登山家以外は不可能なのだから、CG(コンピュータ・グラフィックを駆使して登坂画面を挿入してほしかった。
そうすればシルベスター・スタローンクリフハンガーのような迫力が出たのにと思うと残念でならない。

 だが、欲張るのはよそう。この映画は本年度の日本映画の最高傑作の一つであることは間違いなさそうだ。

注)この映画では陸地測量部と日本山岳会の小島烏水が剣岳初登頂を目指して競争する設定になっている。しかし実際は映画で描いたほどの登坂競争というようなものはなかったのではないかと私は思っている。

 なぜなら陸地測量部は測量が任務であり、実際4月から10月まで約半年間剣岳周辺で測量を実施した。測量のためには三角点が必要だが、剣岳山頂は主要な三角点の設置場所ではなく、ここに三角点がなくても測量はできたという(剣岳の三角点は4等三角点で、測量記録は3等三角点までなので記録に残っていない)。
柴崎芳太郎はこの測量の一環として7月13日に登頂している。

 一方小島烏水横浜正金銀行の銀行員であり、定年まで勤めているからサラリーマン登山家といえる。今も昔もサラリーマンが長期間登山のために休むことなどできないから、夏休みを利用して剣岳に登坂しようとしたはずだ。

 これでは小島が柴崎に勝てるはずがない。だから映画にあるような強烈なライバル関係はなかったのだと私は想像している


 

 

 

 

 

 

 

 

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(20.10.15) 「おくりびと」を見てきた

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 四季の道でよく会うGoogleおじさん散歩おじさんが、映画「おくりびと」を見てきたという。
山崎さん、これはいい映画だ。見てきたほうがいいGoogleおじさん達にそういわれたので、先日ちはら台unimoシネマックスに行ってきた。
私は62歳だから、シルバーパスがあり、嬉しいことに何時行っても1000円で映画を見られる。

 「おくりびと」は別名「納棺師」ともいい、死に化粧と納棺の儀式を執り行う特殊な職業である。私はそうした職業があること自体知らなかったが、一般にも余り知られていない。

 主人公の大悟本木雅弘)は楽団のチェロ奏者だったが、楽団が経営難に陥って解散してしまう。大悟は仕方なく生まれ故郷の山形に帰って職を見つけることになるが、たまたま見つけた職業が納棺師という職業だった。社長(山崎努)と秘書の二人だけの会社だが、初任給が50万円という破格の高給だ。

 一般に日本においては死穢(しえ)の考え方が深層心理にあるため、納棺師は通常の職業とはみなされない。一般の人は忌み嫌ってこの職業につかない。
大悟も本当はこの職がいやなのだが、背に腹は変えられない。納棺師として自殺した死体の処理や、暴走族の一員で若くして死んでしまった少女の死に化粧をさせられる。

 妻(広末涼子)や友人からは「もっとまともな職業につけないのか」と責められるが、当初は辞めたがっていた大悟は次第にこの職業の重要性と荘厳さに目覚めていく。
そうした夫に妻は怒って一度は実家に帰ってしまったが、戻ってきて実際の納棺師の仕事を目の前で見ることによって、妻もこの職業の重要性に気づいて行くという設定。

 映画は納棺師の仕事を克明に描き、死に化粧の美しさと、納棺の儀式の形式美を追う。
死に化粧については、昔ゴッド・ファーザーという映画でも取り扱っていた。長男のソニーが機関銃で穴だらけになって殺された時、父親のゴッド・ファーザーが納棺師(当時はそういう言葉は知らなかった)に「綺麗な顔にしてやってくれ。このままでは母さんにみせられない」と言っていた。

 死に化粧があることはは知っていたが、納棺の儀式については今回始めて知った。
何と言う美しさだ目を見張った。
ちょうど武士の切腹の儀式のように美しい。江戸時代に様式化された切腹は、死に方としては世界で最も荘厳な死の儀式だが、日本人の持つ形式美の美しさについてはいつも驚く。

 しかし、今回の映画を見て本当に感動したのは、この映画が日本人のタブーに挑戦しているからだ死穢(しえ)のことである。このことについては井沢元彦氏逆説の日本史を読むとよく分かるが、日本人は死に携わる人を伝統的に差別してきた。
けがれている」という感覚だ。
平安貴族がいかに武士を嫌ったかは平家物語に克明に記載されているし、動物の皮をはぐ生業の人を部落民として差別してきたことは白土三平「カムイ伝」に詳しい。

 この映画でも妻や友達から「早く辞めろ」と再三に渡って大悟が責められる場面があるが、それはこの深層心理によっている。
だからこの映画の持つ意味は本当はとても奥深いものなのだ。
なぜ、日本人は正当な理由なく、死に携わる人を差別するのか」これがこの映画の最大のメッセージだ。

 このような難しいテーマを正面から取り上げたこの映画の監督は滝田洋二郎氏だが、注目に値する監督といえる。

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