(22.9.10) NHK 「貧者の兵器とロボット兵器」
このNHKの映像を見ると今までの戦争観が一変するような衝撃を受けるはずだ。
私自身の戦争観も一世代前のそれだったことを痛感した。
通常私たちが共通して持っている戦争観は第2次世界大戦のそれで、沖縄や硫黄島の戦闘がそうであるように物量の差はあっても、両軍ともほぼ同じような装備で戦っている。
そして何よりも地上戦は歩兵対歩兵の戦いだ。
この戦争観が変わってきたのはイラク戦争のときで、いわゆるハイテク兵器といわれた巡航ミサイルトマホークの登場がそれだった。
これは核兵器を積んでいないミサイルと言ってよく、かつ自身が目標を設定して爆撃しており、最後の瞬間まで目標を捕らえている映像が確認できた。
私はこのハイテク兵器に驚いたが、現在のアフガン戦争はこの水準をはるかに凌駕したロボット兵器が登場していた。
一方でゲリラは旧来の兵器を使用していて貧者の兵器といわれている。
注)従来の戦争は国家対国家の戦争がほとんどだったが、現在は国家対テロリスト(ゲリラ)の戦争になっている。そのため兵器には圧倒的な差がでている。
最も活躍しているロボット兵器は攻撃型飛行ロボットのプレデターである。プレデターは現在180機装備されており、もともとは監視専門だったが、今はあらゆる兵器が装備され、敵を見つけるとすぐさま攻撃できる。
注)プレデターは今後400機まで拡大される計画になっている。
(プレデター)
これをコントロールしているパイロットはアメリカのラスベガス郊外の軍事基地におり、そこから通信衛星を使用して遠隔操作で監視と攻撃を行っていた。
画面はほとんどゲーム機のそれであり、攻撃の仕方もゲーム感覚だ。
パイロットが戦場にいない最初の兵器と言っていい。
注)巡航ミサイルトマホークも戦艦から発射されていたが、イラク近海まで出撃しておりアメリカにいたわけでない。
オバマ政権になりこうしたロボット兵器によるタリバン掃討に切り替えたのは、米軍兵士の戦死者数が増え続けているからだと言う。
すでにアフガニスタンで1000人以上の米兵が死亡しており、戦争を継続するためには死傷者の増大は避けたい。
もう一つの理由はロボット兵器が従来の航空機のような兵器からすると圧倒的に安価で、この攻撃型飛行ロボットの値段は5億円から10億円で、最新鋭ジェット機の値段に比較すると80分の1程度になると言う。
アメリカと言えども軍事予算が無尽蔵にあるわけでない。こうしたハイテクロボットは効果的でかつ安価なのだから、従来の兵器体系に変わって兵器の中心になることは必然だ。
一方のタリバンの戦闘は、かつてのゲリラ戦をより過激にしたようなものだ。
タリバンの中でもハッカーニ・ネットワークが最も過激で、兵器はAK47カラシニコフ戦闘銃と対戦車ロケット砲が中止になっているが、これはかつてのアフガンとソ連との戦いの時に、アメリカCIAが密かにタリバンに供与したものである。
注)当時からアメリカのCIAが支援していたことは知られていたが、今回のようにはっきりと映像で証言されたのを見たのは初めてだ。
(AK47と捕獲したロボット兵器。捕虜がロボット兵器になっている)
当時アメリカはソ連と対峙しており、ソ連と戦っていたタリバンに毎年3000億円相当の軍事援助をしてきた。
その中心がAK47や対戦車ロケット砲で、すべてソ連製だったのはアメリカが援助していることをカモフラージュするためだったと言う。
さらにCIAはパキスタンの部族地域において、タリバンの戦士の軍事訓練を密かに行ったが、この中に仕掛け爆弾の訓練もあり、それがその後のアメリカ軍に対する最も効果的な武器になったことは皮肉だ。
タリバンの中で最強と言われるハッカーニ・ネットワークは主として仕掛け爆弾と、それをさらに過激にした自爆爆弾でアメリカに襲い掛かっている。
自爆のための聖戦士はパキスタンの部族地域で幼児から徹底的な宗教教育を行い、それでも疑問を持ちそうなものには麻薬を投与して判断力を失わせて、自爆要員に育て上げている。
互いにスパイを放って敵の実情を探り合っており、アメリカのスパイだと思っていた男が実はタリバンのスパイで、それが自爆要員になることもある。
(次期戦闘機は無人機になると言う)
この「貧者の兵器とロボット兵器」はその内容に驚くが、さらに驚くのはこのような映像を入手したNHKの実力である。
タリバンは資金集めと戦闘要員のリクルートの為にこうしたビデオを作成しているのだそうだが、それにしてもよく集めたものだ。
「まるでこれでは日本のCIAがNHKじゃないか」
タリバンが製作した映像を入手して、それをアメリカの現役や引退した実務者に分析してもらって、この番組ができたのだが、私が今まで見てきた軍事関連の情報で最高のできばえだ。
現在の戦争は対ゲリラ戦が中心で、それも兵隊をじかに投入するのではなくロボット兵器で対応させるのが現代戦争だとこの映像は教えてくれた。
日本の自衛隊の武器体系はせいぜい湾岸戦争当時の体系を踏襲しているが時代はさらに進んでしまった。
日本近海で軍事衝突が起こるとすれば北朝鮮の暴発が最も可能性が高いが、それ以外ではマラッカ海峡やソマリア沿岸での海賊(ゲリラ)対策が主体になる。
「ゲリラにはロボット兵器が最も有効だ」とのアメリカ軍事思想の転換について、自衛隊も深い研究が必要になってきたようだ。
今回のNHKの「貧者の兵器とロボット兵器」は深く考えさせる貴重な映像と言える。
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