(23.1.26) ベルギーの深い霧  分離独立か統一維持か

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 世界有数の経済力を誇り、はたから見るとうらやむような生活水準にあるベルギーが政治対立で大揺れだ。
なにしろ昨年6月の総選挙のあと、まったく組閣ができず暫定政権が7ヶ月も続いている。
この国の総選挙は比例代表制のため、どの政党も議員数150名の5分の1を上回らない少数分裂状態で、連立工作もママならないからだ。

 なぜ連立がうまく行かないかと言うと北部のオランダ語圏南部のフランス語圏分離独立か統一維持かで鋭く対立し、妥協の余地がなくなっているからだ。
特に北部を地盤とする右翼政党新フランドル同盟が第1党になったため、ことがややこしくなってきた。

我らは南部のやつらのために税金を払っているのではない。これ以上南部支援を続けるならば北部は独立する」新フランドル同盟の党首の鼻息は荒い。

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 人口約1千万のベルギーの約6割がオランダ語を、4割がフランス語を公用語とし、しかもオランダ語をしゃべる人は北部に、フランス語をしゃべる人は南部に居住している。
どうしてこのような状態になったかと言うとかつてのローマ帝国の境界線の外と内の違いだと言うから、なんと2000年前からの対立だ。

 元々は南部のフランス語圏が石炭業や鉄鋼業で栄えてきたが時代の流れに乗り遅れ、現在は北部の金融業やサービス業地域に押されぱなしになっていた。
政府は南部の斜陽産業に補助金を出してきたが、これを北部は面白く思っていない。

 それでも分離独立のような極端な意見が出なかったのは金融業でぼろもうけをしていて余裕があったからだ。
リーマン・ショック以前のベルギーの金融業はロンドンのシティーのミニチュア版のようなもので、アイルランドやスペインやギリシャといった国々に資金を貸し込んでいたし、得意のディリバティブにも大いに手を出していた。

 ところがリーマン・ショックで金融業がまったくふるわなくなりかえって政府のお荷物になると、他人のことを考える余裕がなくなってきた。
南部のやつらのために税金を使うのは止めよう

 こうした極端な思想を持つ新フランドル同盟が第1党のため組閣を組むことがほとんど不可能になり、ベルギーは7ヶ月も正式な政府が不在の状態が続いている。

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 この政府不在に怒った5人の若者が23日に首都ブリュッセルで呼びかけたデモは、何と4万人のデモに拡大し、スローガンも「恥を知れ、我々がほしいのは政府だ」というのだから笑ってしまった。
私などは日本政府が1年ごとに代わるのにうんざりしていたが、ベルギーでは政府そのものが存在しない(暫定政権はある)。

 しかし笑ってばかりいられないのは、ここブリュッセルにはEUの本部NATOの本部がおかれており、ギリシャアイルランドポルトガルのような田舎ではない。
EUの本部がベルギーに置かれた時は「ここがヨーロッパの統合の中心地として相応しいから」だと言われていたのに、今は分離独立運動にゆれてる。

ベルギーの崩壊はEUやユーロの崩壊だ」ドイツなど真剣に心配しはじめた。
市場はもっと現金でベルギー国債の利回りは昨年の2.8%から今は4.3%に上昇してスペイン並みになってきた。
この状況を見てS&Pも「現在のAA+(2番目)の国債格付を半年以内に格下げする」とアナウンスメントしている。
今では倒産(予測)順位はギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ベルギーとなってしまった。

 果たしてベルギーはどうなるのだろうか。金融業で舞い上がっていた間は良かったが、経済が落ち目になると誰でも利己的になる。
統合よりも分裂にベクトルが向いてしまい、EUやユーロの前途にも暗雲が漂っている。
恥を知れ。せめて政府を持とう」この若者の叫びがベルギーの政治家を動かし、市場を安心させることができるのだろうか・・・・・。 

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(22.7.28) イカサマのカーニバル 欧州のストレステスト

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 これほどのイカサマがあっていいのだろうか。欧州銀行監督委員会CEBS)が23日に発表した欧州20カ国、91金融機関のストレステスト(健全性審査)の結果である。

 CEBSは胸をはって「厳格かつ包括的」なテスト結果だと言ったが、「厳格かつ包括的」なのは形式であり、実態はひどいイカサマになっている。
今回のストレステストはギリシャの国債に始まったソブリンリスク国家、特にその国債の信用リスク)を評価するために行ったはずだが、実際はそっとソブリンリスクを外してしまった。

 もともと欧州の金融機関の情報開示度は低く内容に疑義があり、その最大の問題点はトレーディング勘定と銀行勘定(投資勘定)の任意的な使い分けにある。

 金融機関の勘定に詳しくない人は何のことか分からないと思うが、たとえば株式の保有にしても、「株式を売買して儲けるために保有する場合はトレーディング勘定」に振り分け、一方「その会社を買収するような目的で長期間保有する株式は銀行勘定」で管理する。

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 その勘定の相違はトレーディング勘定時価評価するのに対し、銀行勘定はほとんど取得原価方式をとることにある。

 そして問題は売買目的か所有目的かはその時の情勢によって変わるので、金融機関はほとんど任意にこれをトレーディング勘定と銀行勘定に振り分け、実際は利益操作に利用してきた。

注)一般的には株式が下降局面では損失が発生するため、銀行勘定に移して含み損を隠し、一方上昇局面ではトレーディング勘定に移して含み益をあらわすような操作を行っている。なお日本でも同様の操作を行ってきた。

 今回問題になっているギリシャ、スペイン、ポルトガルの国債について、その銀行が「これは銀行勘定で期日まで保有しています」といえば、CEBSは金融機関の申請をそのまま認めている。
金融機関はギリシャ国債などはほとんど銀行勘定に移し、ソブリンリスクが発生しないように事前に操作している。

注)実際はユーロ各国はそうした操作をすることを積極的に奨励している。

 その結果問題のある金融機関はたった7行で、追加で資本増強を図らなければならない金額は全体で35億ユーロ(約3900億円)ですむことになった。
欧州の金融機関はまったく問題はありませんCEBSの主張である。

注)アメリカでさえ746億ドル(約6兆5千億円)の資本投入が必要だった。
なお、今回資本投入が必要とされた金融機関はスペインの貯蓄銀行5行、ドイツの不動産銀行1行、ギリシャの農業銀行1行である。

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 しかしこれはほとんど詐欺に等しいイカサマである。
確かに欧州はリーマンショック以降約22兆円規模にのぼる政府資金を金融機関に投入して支えてきたが、この22兆円はサブプライムローンに代表されるディリバティブによって蒙った損失に対応したもので、その後発生したスペインの不動産融資の焦げ付きや今問題になっている国債のデフォルトに対応するものではない

 CEBSの言う最も厳しい条件での評価とは、ギリシャ国債が23%、ポルトガル国債が14%、スペイン国債は12%低下するというソブリンリスクの想定だが、ただしこれはトレーディング勘定の国債だけだから、銀行勘定に移してしまえば国債の低下はまったくないことになる。

 たとえば今回資本投入が必要とされた7行の金融機関の一つにドイツのヒポ・レアル・エステートがあり、390億ユーロのギリシャ、ポルトガル、スペインの国債を保有している
これがすべてトレーディング勘定にあれば、国債が3カ国の平均の低下数字約16%で計算すると390億ユーロ×16%=62億ユーロ(約6800億円)の資本不足にならなければならない。

 しかし問題のある金融機関7行の全体の資本不足35億ユーロ3900億円)だから、ヒポ・レアル・エステートは実際はほとんどの国債を銀行勘定に振り替えているはずだ。

 CEBSはこの損失隠しを黙認したまま、形式だけ厳格さをよそおってストレステストを実施し、問題の金融機関は7行に留まったと発表した。
市場は一応この発表を好感してユーロは強含みに推移しているが、どう見ても一時の時間稼ぎにすぎない。

 これから欧州はギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランド等の危機が発生するたび、あのストレステストがイカサマだったという事実をかみ締めることになるだろう。

 

 

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(22.7.17) ユーロを守れ 孤軍奮闘のドイツ

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 ドイツのメルケル首相が、ユーロを守ろうと孤軍奮闘をしている。
ドイツはGDPに対する財政赤字が09年3.3%で先進国の中では突出して優良なのに、6月7日にまとめた財政再建策はどこのどの国よりも厳しいものになっている。

 直接の動機は10年度の対GDPに対する財政赤字がギリシャ支援等で5%水準になることが予想されたため、メルケル首相が危機感を募らせたからだ。
ユーロの信任はドイツ経済にかかっている。ドイツがこければユーロが崩壊する
まったくそのとおりなのだが、実に悲壮な決意だ。

 再建策の内容を見て驚いた。もし日本でこのよう なことをしようとしたら、政権がつぶれそうだ。

① 公務員の15、000名、国防軍の40、000名の削減
② 失業保険金、生活保護費の削減
③ 耐用年数が過ぎた原発への課税
④ ドイツの空港を利用する航空機に対する環境負担金の徴収


注)ドイツでは長期に失業手当を支給してもらって遊んでいる階層がいる。

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 このような内容で11年度から4年間で約9兆円の歳出を削減し、16年にはGDP対比財政赤字を0.35%まで落とすと言う。

0.35%、嘘だろう!!」思わず目を疑った。

 日本では対GDP対比財政赤字が10%を越しても、「赤字国債を増発してでも景気対策を推進しよう」なんて議論がでて来るのに、このドイツの財政再建策は財政再建症候群というパラノイア患者のように見える。

 もともとドイツは第一次世界大戦後の天文学的インフレーションの経験から、健全財政の権化のような国になっていた。
ところがユーロの仲間に入れたギリシャ、スペイン、ポルトガルが放漫財政で国家破綻の瀬戸際に追い込まれたため、ドイツが一身にこうした国の面倒を見なければならなくなった。

なんで、放蕩息子の面倒を、真面目に生活しているお父さんが見なければならないんだ。このままでは俺がしっかりしなければユーロがつぶれてしまう」そんな気持ちだろう。

 EU加盟国に号令をかけて、財政再建策に取り組むよう指示したが、真面目に取り組んだのはイギリスくらいで、他の諸国はどこまで本気かさっぱり分からない。

注)イギリスは保守党政権に変わって、付加価値税を11年1月より17.5%から20%にあげることになった。

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 当のギリシャも10年6月に財政再建関連法を制定して、公務員給与の2割カット、年金支給金の削減、付加価値税の増税、公共投資の削減、国営企業の民営化等を打ち出したが、もともと法律など鼻から守ろうしない脱税天国の国なので、どこまで浸透するか分からない。
なにしろギリシャは国家を挙げて粉飾数字をでっち上げる国だ。

 謹厳実直で法律をきっちり守ろうとするドイツ人から見ると、「あいつらはまともに財政再建に取り組むはずがないので、自分たちが努力するより仕方ない」ということになって、ドイツはますますパラノイヤ患者のように緊縮財政に転換してしまった。

 こうしてリーマンショック後、世界があげて放漫財政に突っ走った時代がドイツのおかげでようやく収束しようとしている。

注)ただしドイツの上院は日本の参議院と同様にねじれ現象になっているのでメルケル首相の意図が100%通るかどうかは不明。

 

 

 

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(22.7.12) EUのストレステストは成功するだろうか?

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 EUはギリシャ、スペイン、ポルトガル等の国債のソブリンリスクが治まらないため、とうとう主要金融機関のストレステストを実施すると6月17日に発表した。
対象はEU内の91の金融機関で、大手銀行だけでなく市場が懸念しているドイツ州立銀行スペイン貯蓄銀行を含めると言う。

注)ドイツ州立銀行は国債等の変動リスクのヘッジが不十分と疑われており、スペイン貯蓄銀行は多くの不良不動産融資を抱えていると疑われている。

 質問用紙を金融機関に7月5日に送付し、15日までに回答をもらい、23日に発表すると言うスピード審査だ。
ストレステストはアメリカが09年5月に実施し、かなり怪しげな結果報告だったが結果的にはその時を境に金融危機が収まった経緯がある。
ストレステストさえ実施すれば金融不安は必ず収束する」当局の読みだ。

注)アメリカのストレステストについては「アメリカのストレステストは大本営発表」(リンクが張ってあります)参照。

 ストレステストとはいくつかの経済指標が政策当局が発表している数字より悪化した場合、それが金融機関の経営に対しどの程度の影響が出るか推定し、必要があれば政府資金を投入する作業である。

 現在発表されているシナリオでは、① GDPが当局の発表より3%悪化し、② 失業率が同じく1%悪化し、③ 不動産価格が同じく10%悪化するという条件で、金融機関の健全性を調べるのだと言う。

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 しかしこうした指標は形式的な指標で、今回の本当の目的は欧州銀行監督委員会(CEBS)が内々に各金融機関に示した国債の担保掛目(ヘアカット)で保有している国債の再評価をさせることにある

 ストレステスト対象の資産は融資と国債といわれているが、実際は国債のストレステストが主目的だと見ていい。

注)5日に書類を送付し、15日までに回答をもらうと言う短期の調査では融資のストレステストまでは十分できない。01年、日本においては金融庁が各金融機関に実査に入り数ヶ月かけて不良資産の洗い出しを行った経緯がある。
個別融資の査定にはとても時間がかかる。
今回はせいぜい不動産価格が10%低下したとしていくら不良債権が発生するか大まかに推定するより仕方がない。

 今回の本当のシナリオは各金融機関が保有している各国の国債を以下の基準にしたがって査定して報告を求めるものである

① ギリシャ国債 ▲17%
② スペイン国債 ▲3%
③ フランス国債 ▲0.7%
④ ドイツ国債  ▲0%


 なお、他の国債のカット率も示されているはずだが、明細はもれてこない。また上記のカット率は平均の数字で実際は5年ものとか10年ものごとに細かいカット率が示されているはずだ。

 問題はこうしたカット率が果たして市場から見て適切な数字かどうかだが、ギリシャがデフォルトした場合の市場のカット率は60%と想定されているので、市場の評価と比較すれば今回のストレステストは3分の1程度の大甘な基準と言えそうだ。

 だから「これじゃ、ストレステストなんて代物ではない」と言うのが一般的な市場の評価だ。

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 だが、ストレステストにまったく意味がないというのも言いすぎで、これで各金融機関の国債の保有残高を当局が把握できるというメリットがある。

 欧州の金融機関の情報開示率は非常に低く、当局としても問題の残高がどの程度あるか把握仕切れていない。
それが今回のストレステストではっきりと残高が分かるようになるので、適格な対応策がとりやすくなる。

 実際にアメリカではストレステストを実施し金融機関の財務を当局が完全に把握できたので、ストレステストそのものはかなりいかがわしいものだったが、その後の金融緩和策で金融機関を救うことができた。

 さて、今回の欧州版ストレステストはどうなるであろうか。当局の思惑通り、アメリカ並みに金融不安は収まるだろうか。
アメリカはジャブジャブの金融緩和で乗り切ったが、一方欧州は引締め政策に入っている。

 問題銀行を当局が把握できても、十分な政府資金の投入や金融緩和が必要だが、どう見てもEUはそのつもりはないようだ。
だから欧州版ストレステストはアメリカほどには成功しないと言うのが常識的な判断だろう。

 

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(22.6.9) ハンガリー政府の愚かな対応

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 ハンガリーオルバン政権の愚かな発言で、世界市場に激震が走った。世界各地の株式市場は軒並み低下し、ユーロはドルと円に対し大幅に低下した。

 オルバン政権はこの4月、社会党の前政権を打ち破ったばかりの中道右派政権だが、政権公約の「減税と景気刺激策」を実施すべき財源がないことに気がついて、責任を前政権に押し付けることにした。

 この6月4日に「財政状況はかなり悪く、ギリシャ危機がハンガリーで起こる可能性があり、前政権はこの財政状況を隠蔽していた」と報道官が発表したのである。
オルバン政権の本音は「だから公約で言っていた減税も景気刺激策も無理だ」という国内向けメッセージだったが、市場はそうはとらなかった。

ギリシャ危機の次はスペインかポルトガルだと思っていたのに、ハンガリーなのか・・・・それなら東欧諸国はどこも財務状況を隠蔽しているに違いない
ハンガリーにはドイツオーストリアが多額の融資を行っている。
ユーロは売りだ。ドルか円か金に換えろ」ユーロから資金が逃げ出し大騒ぎになってしまった。

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 オルバン政権はこの世界的な激震に驚いた。
IMFEUからは「オルバン政権は金融のセンスがゼロだ。なぜ市場に対する配慮がないのか」と猛烈な抗議がきたので、あわてて修正した。
昨日の発表は間違いだった。わが国はIMFとの約束の下に10年度の財政赤字をGDP対比3.8%に抑えることができる

注)ハンガリーはリーマンショックのあと財政が破綻し、IMFとEUから200億ユーロ(約2兆2千億円)の財政支援を得た。その見返りに当時の社会党政権は緊縮財政をとったが、その緊縮財政を批判することで中道右派のオルバン現政権が政権を奪った。

 なんてことはない、前社会党政権の財務の隠蔽は嘘だったというのだ。

 日本では公約実現のための財源を埋蔵金と事業仕分で確保できると言ったが、最終的には赤字国債でつじつまをあわせた。
一方オルバン政権は赤字国債を発行できない理由があった。すでにIMFの管理下に入っていたからだ。
仕方なしに公約を実現できない理由を前政権の財務内容の隠蔽にしようとしたが、この方法はあまりに稚拙だった。

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 市場は最初の報道と訂正の報道のどちらが正しいか図りかねている。
銀行や専門家はIMFと約束した3.8%は無理にしても、せいぜい4.5%~5.0%位の財政赤字で、ギリシャの12%台の赤字ではないと見ている。

オルバン政権の馬鹿が、自分の公約を守れない理由を前政権に押し付け、ユーロを奈落に落とそうとしている」EUもIMFもかんかんだ。

 今回のハンガリー危機をEUの高官は「シャドーボクシングと言うべきで、実際の危機ではない」といい、ストロスカーンIMF専務理事も「特別な懸念の必要性はない」とハンガリー危機を打ち消した。

 それはそうだろう。既に2年前からIMFの管理下に置かれ、IMFのもとで財政再建をしていたのに、実際はIMFの目を盗んで財政悪化に歯止めがかからなかったなんてことになれば、IMFの立場がなくなる。

 オルバン首相は国内向けのアナウンスメントが国際的波紋を投げかけることにまったく気がつかなかった。
しかし今はグローバリズムの時代だ。どんな情報でも世界を駆け巡る。

 鳩山前首相は安全保障問題を知らずに「国外・県外」と言って政権を棒に振ったが、オルバン首相は経済・金融問題を理解せずに「財政数字が改竄されている」と言って、ユーロを谷底に突き落とそうとした。

 国際関係を無視して国内問題を解決しようとする愚かなローカル政治家はどこにでもいるが、それが首相の場合は世界の政治・経済に甚大な影響を与えることをオルバン首相(それと鳩山首相が実証して見せてくれた。

 

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(22.5.31) スペイン経済の激震とユーロ

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 スペインのちっぽけな貯蓄銀行の倒産が世界経済を揺るがしている。
カハスール銀行と言うこの貯蓄銀行は、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)近辺の不動産融資でリーマン・ショックまでは我が世の春を謳歌していたが、08年9月以降業績が急激に悪化し、5月22日にはスペイン中央銀行の管理化に置かれた。

注)コスタ・デル・ソルは日本のバブル最盛期に、別荘地として日本人にも人気があった。

 負債総額は最大約20億ユーロ2200億円程度)だから、日本的感覚では住宅専門会社がつぶれた程度だが、市場はこれをスペイン経済崩壊のシグナルとみなした。

 スペインの貯蓄銀行は45行あり、融資はもっぱら不動産融資で、45行で26兆円規模に達している。
スペインの銀行は中央銀行の指導もあり、ディリバティブのような危険な商品には手を出さなかったが、不動産バブルに躍った国内の企業や個人に湯水のような不動産融資をおこなった。
ちょうど日本の80年代の不動産バブルとそっくりだと思えばいい。

 なにしろEU全体に占めるスペインのGDPは約10%なのに、EU内の建設の30%がスペインで占められた。
北欧やイギリスやドイツのような冬が長い国の国民にとってコスタ・デル・ソルのような場所は夢の別荘地だったし、スペイン国民も負けじと不動産投資に熱中したからだ。

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 現在普通銀行と貯蓄銀行をあわせた不動産融資の金額はGDPの約半分になり、不動産バブルの崩壊で融資額全体の約10%程度が不良債権と推定されている。
金融機関の収益率はそれほど高いものではなく、日本の銀行などの収益率は総資産の1%にも届かないので、収益で損失を補填するのは並大抵のことではない。

 したがってスペインの貯蓄銀行のほとんどが倒産危機にあり、スペイン政府は45の貯蓄銀行を15に統合する計画を出したが、もたもたしている間に倒産が始まりだしたと言う感じだ。

 市場はギリシャの次はスペインと狙いを定めており、格付会社フィッチは5月28日、スペイン国債の格付を最高位のAAAから一段階下げてAAプラスにした(S&Pは先月から引き下げている)。
このためスペイン政府はギリシャと同じく国債発行での資金調達が難しくなり、EUからの資金援助だけが唯一の調達手段になりつつある。
しかし、EUの支援条件は緊縮財政だ。

 このためスペイン政府はEUからの支援を得るため緊縮財政法案を5月27日にやっとのことで通過(賛成169、反対168)させた。
公務員給与の5%カット、年金の凍結等で本年殿財政赤字をGDP対比10%以下に抑えるという(09年度はGDP対比11.2%だった)。

 もっともこれには労働総同盟が大反発しているのはギリシャと同じで、サパテロ社会党政権はいままで労働者を甘やかせてきたツケを一気に支払わされている。
EUなんてくそ食らえ。とんでもない、ゼネストだ!!」大騒ぎになっている。

注)イメージとしては日本の民主党政権が急に子ども手当を打ち切ると言ったようなもの。

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ユーロの威信は地に落ち、いまや1ユーロは111円前後にまでなって、この先どこまで落ちるか分からない。
スペインのこのちっぽけな貯蓄銀行の倒産がユーロの大崩壊につながるのか、それともローカルな銀行倒産に過ぎないのか判断は難しい。
市場は大崩壊を予想し、政策当局者はあまりにナーバスすぎると火消しに躍起だ。


注)日本のバブル崩壊に比較すると、住専がつぶれた段階。現在長銀や日債銀クラスの金融機関についても不穏なうわさが出ている。

 しかし確実に言えることはスペインは日本と同様に不動産バブルのツケを支払わなくてはならないと言うことで、スペイン経済は長い停滞局面に入ったことだけは確かだ。


注)時価会計中心のアメリカやイギリスはすぐにツケを支払わされ、簿価会計が中心のユーロは時間をかけて支払わされるが、いづれにしてもツケは必ず支払わされる。

 

 

 

 

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(22.5.8) 西洋の没落 ユーロの終焉

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 シュペングラー「西洋の没落」を書いたのは第一次世界大戦が終了した傷跡生々しい戦争直後だった。
確かにこの戦争は、それまで世界の中心だった西洋からアメリカに覇権が移ったという意味で「西洋の没落」を象徴する戦争だった。

 それから1世紀たち、フランスとドイツが手を結び、ヨーロッパは再びEUユーロ圏という形でアメリカに対抗できる一つの政治的・経済的核として復活したように見えたが、それが幻想であったことが明確になってきた。
ユーロ圏が終焉しようとしているからだ。

 現在ギリシャ、ポルトガル、スペインとユーロの弱い輪が次々に破綻し始めた。
ヨーロッパの内部でこれを収拾することができず、IMFというアメリカ主導の救済機関にギリシャへの資金援助を依頼した。
いたしかたなく総額1100億ユーロ(約12兆円)の支援を、ユーロ各国とIMFは決めたが、その支援条件があまりに厳しいために、今度はギリシャ国民が切れてしまった。

給与も年金も下げて付加価値税を引き上げる。俺たちはどうやって暮らせばいいんだ
ギリシャは貧富の差が激しく、普通の国民の給与は10万円~20万円程度だ。

こんな薄給の身で、さらに給与が引き下げられたら、俺たちは生活できない
ゼネストは収まる気配がなく、ついに3名の命が失われた。

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 一方市場はこのギリシャの状況を見て驚愕した。
これでは1100億ユーロ程度の支援では収まりそうもない。ギリシャ政府は給与も年金も引下げができず、財政支出は削減できない」

「まずい、ギリシャ国債を持っている金融機関は国債の一部放棄をせざる得なくなる。ギリシャ国債と金融機関の株式を売っぱらえ!!!」

注)ギリシャ国債の残高は約2700億ユーロ(約32兆円)でこのうちの4分の1がギリシャの国内銀行、約7兆円をフランスの銀行、約4兆円をドイツの銀行が引き受けていると想定されている。

 EU各国の株価は大幅に下落し、ユーロは叩き売りの状態となって、1ユーロは120円を大幅に下回ってしまった。一方上がったのはドルと円で、アメリカも日本も褒められるような経済状況ではないが、あまりにヨーロッパがひどいので、資金がドルや円に逃避している

 ヨーロッパの経済状況がなぜここまでひどくなってきたかの原因は、会計制度に遠因がある。
アメリカの場合は基本的に時価会計のため、株式や不動産やディリバティブの価格の急落はすぐに収支に現れ、対応も早い。一方ヨーロッパの場合は過去の日本と同様に投資勘定と商品勘定の区分が厳密でなく、市況が悪くなるとそれを投資勘定に移してしまう。

これは投資のためのディリバティブだから、取得時の原価で評価します
このためヨーロッパの金融機関の損失は外部に現れにくく、そのためリーマン・ショック後の対応についても時価会計を採用しているイギリスを除いて、ドラスティックな対応がなされなかった。
それが2年遅れでギリシャ経済の崩壊と言う形で表面化し始めた。

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 90年代に日本のバブルが崩壊し、08年にリーマン・ショックでアメリカのバブルが崩壊したあと、2年遅れのギリシャ・ショックでヨーロッパバブルが崩壊したと考えるとイメージが沸く。

注)ヨーロッパのバブルの崩壊の仕方はかつての日本と似ている。徐々にそして確実に崩壊していく。

 遅かれ早かれ、どこの経済であろうともバブルのつけは支払わなくてはならない。
ユーロ圏はどのようにしてこのつけを支払うことになるのだろうか?

 おそらく1枚岩のユーロが崩壊し、強いユーロ圏と弱いユーロ圏に別れ、ユーロも第一ユーロと第二ユーロに分かれるというのが、最もありそうなシナリオだ。
弱いユーロ圏にはギリシャ、ポルトガル、スペイン、アイルランドあたりが含まれ、通貨の切り下げを実施して経済の建て直しを図ることになる。

注)現在、単一通貨ユーロを導入している国は通貨の切り下げと言う手段がとれず、残りは緊縮財政しかないため、国民の不満が一気に爆発してしまう

 金利政策も自由に第二ユーロ圏として取れるようになるため、ギリシャショックのような時に、弾力的な金融政策が実行できる(独自に金利の引下げが可能になる)。

 確かにこれで弱いヨーロッパは救われるが、これはEU、わけても通貨統合で一つのヨーロッパ共同体を作り上げようとしたヨーロッパの夢の崩壊でもある。

注)もう一つのシナリオはユーロ圏についていけない弱い国を切り離すというシナリオがある。

 通貨統合から約10年、西洋のバブルが崩壊し、今こうしてフランスとドイツの「西洋の復活」の夢が潰えようとしている。

(5月11日追加)
EUおよびECU(欧州中央銀行)はこのギリシャ危機に対応するため、大規模な支援策を10日発表した。
これによるとEUは総額90兆円規模の融資枠を確保し、またECBは市場で流通している国債の買取を実施することになった。

市場は一様に好感し、株価は値上がりユーロは再び120円台に上昇した。
この措置で当面の危機は乗り切ったが、今後はギリシャがEUのシナリオ通りに財政削減に応じるか否かにかかってきた。


 

 
 

 

 


 

 

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(21.11.15) ラトビア経済の崩壊とスウェーデンの憂鬱

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 バルト3国の一角、ラトビア経済の崩壊スウェーデン経済を道連れにしようとしている。

 東欧諸国の中でもっとも弱い輪が、たった340万人の人口を擁するラトビアであり、そのラトビアに対する債権額NO1国家がスウェーデンである。

 サブプライムローン問題が発生するまではラトビア経済は07年、08年と名目GDPの成長率が15%前後で、バルトの虎といわれるほど好調だった。
この好調な経済を支えていたのが、もっぱらスウェーデンからの投資で、バルト3国に対する投資額はほぼ8兆円で、これはスウェーデンのGDPの約16%に相当していた。

 なぜスウェーデンがこれほどラトビアを始めとするバルト3国に貸し込んだかというと、地理的近さもあるが、それ以上に3国がユーロペッグというユーロに対する固定相場制を採用していたからである。
ラトビア通貨ラトは固定相場ゆえにユーロと同じだと評価されており、貸し出し側からすると為替リスクがまったく存在しないと思われていた。

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 確かに経済が好調の間はそのとおりだったが、リーマン・ショック以降情勢が様変わりしてしまった。
投資ファンドを中心に東欧諸国から資金が引き上げられると、ラトビアは外貨準備が底をつき始め、IMFEUの支援なくしてラトの為替相場を維持することができなくなった。

 08年11月、ラトビアはIMF、EU、世界銀行から総額52億ユーロ約7000億円)の資金援助を受けることになったが、当然のこととしてIMFはラトビアに厳しい緊縮財政を要請した。

注)IMFは倒産した国へ短期の資金手当てをする代わりに、先進諸国からの借入金の返済ができるように、倒産国の体質改善をさせる国際的な枠組。
アメリカを中心とする先進諸国借金取立組合だと思うとイメージがわく


 それまでは経済の好調から大盤振る舞いの財政支出が可能だったが、急に公務員給与や民間給与の30%の引き下げや、福祉予算の削減を実施しなければならなくなり、国民の不満は頂点に達して09年2月には政権が崩壊してしまった。

 しかしラトビアIMFの要請を受けざる得ない立場にある。
09年8月、格付機関S&Pがラトビア国債をジャンク債に指定してしまったため、民間からの資金調達は絶望的で、残りはIMF等の公的機関からの支援しかない。

 こうした場合、他の東欧諸国は通貨の切り下げで対応しているが、バルト3国はユーロペッグだから、切り下げができず、ラトビアはラトを支える以外に方法はない。
もちろんユーロペッグからの離脱をすることはできるが、そうすると2012年のユーロ加盟はできなくなる。

注)ユーロペッグを採用していないポーランド・ズロチは約30%、ハンガリー・フォリントは約20%の切り下げを行った。

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 そして何よりも問題なのはラトビア人の借り入れの約90%ユーロ建てだということだ。
この理由はラトでの借り入れ金利よりユーロでの借り入れ金利が約半分程度であるためで、「ラトもユーロも同じなら金利の低いほうがいい」と国民が判断していたからだ。

注)経済学的に言えば、固定相場制をとっている2国間の金利が異なる場合は、高い金利をつけているほうが無理な相場維持をしていることになる。

 しかしこれが完全に裏目に出る可能性が高い。もしラトビア政府がラトを支えきれずユーロペッグから離脱して、通貨切り下げを行うと、その段階でラトビア人の負債は急激に膨れ上がってしまう

注)たとえば50%切り下げをすると、ユーロの支払いのためラトでの返済金額はいままでの2倍が必要になる。

 不動産価格が約50%程度も低下してそれでなくても含み損があるのに、返済金額は2倍になってしまったら、ラトビア人はお手上げだ。
もう煮ても焼いてもいいから好きにしろ」居直るしかない。

 しかしそうなると貸し込んでいたスウェーデンが危くなる。実際スウェーデンからファンドマネーが引き上げられ始め、あわてたスウェーデン政府はECB(ヨーロッパ中央銀行)に泣きついた。
このままではわが国の外貨準備が枯渇する。ユーロを貸してください

 09年6月、ECBとスウェーデン中央銀行との間で100億ユーロ1.3兆円)の通貨スワップ協定が締結されたが、これだけでは収まりそうもないというのが市場の見方だ。

 スウェーデンはそれまでバルト三国を始めとする東欧諸国に対する投融資でぼろもうけをし、国内では手厚い福祉行政を実施してきた。
しかしこのGDPの16%にものぼるバルト三国に対する債権が焦げ付いたら、羨望の的だった福祉国家は終焉してしまう。

 そしてスウェーデンがこければ、スウェーデンを支えてきたEUに多大な影響が及ぶのだから、EUは今懸命にラトビアを支え、火の粉がEUに及ぶのを避けようとしている。


 

 

 

 

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(21.11.14) ヨーロッパ経済のブービーレースを制するのはどこか スペイン経済

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 ヨーロッパ経済のブービーレーススペインイギリスの間で行われている。この両国は一頃まではヨーロッパ経済の牽引役として、世界中から羨望の的だったのだから、世の変遷は激しい。

 スペイン経済94年から07年まで年平均3.6%の経済成長を遂げ、ユーロ圏の新規雇用の3分の1はスペインで創出されるといわれていた。未曾有の建設ブームに沸いていたからだ。
しかしサブプライムローン問題がささやかれ始めた07年夏場まではまだ住宅ブームに沸いていたものの、08年のリーマンショック後はジェットコースター並みの経済失速に見舞われている。

 スペインが未曾有の建設ブームに沸いたのには訳がある。
1999年ユーロ圏に参加して、人・物・金の動きが自由になると、イギリス・ドイツ・フランス・北欧等からスペインめがけて資本が押し寄せてきた。

 風光明媚で暖かく、不動産価格が相対的に安かったスペインの沿岸は、ヨーロッパの金持ちや中産階級の別荘ブームに沸いてしまった。
日本でもバブル華やかななりし頃は、長野や北海道に別荘を求める人があとをたたなかったのを思い出してほしい。

注)不肖私も長野県の学者村と言うところに、賃借権の別荘地を手当てしたが、いつまでたっても別荘が建てられずその後手放してしまった。

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 スペイン経済は観光と建設業でもっていたようなものだが、その住宅建設等に急ブレーキがかかり、とうとう直近で失業率は20%程度と、ヨーロッパ最悪の失業率になってしまった。
建設労働者が次々に失業しているからである。

 スペインの建築ブームは当初は外国人が主導していたのだが、不動産価格が1995年から2007年の間に約3倍程度上昇したため、スペイン人も舞い上がってしまった。
外国人に負けじと不動産を担保に金融機関から借入を図り、かつては堅実と言われていた性格がすっかりバブルってしまった。
1980年代の日本人と同じだと思えばイメージがわく。

 現在売れ残りの住宅が約150万件程度あり、これが新規建設に急ブレーキをかけており、回復までに5年~7年はかかると言われている。

 しかしリーマン・ブラザーズの倒産で世界中が大騒ぎになった08年9月の段階ではスペインはかなり冷静だった。
それはサンタンデールBBVAといたスペインのNO1,NO2の金融機関がサブプライムローンに汚染されていなかったからである。

注)スペイン中央銀行が市中銀行に危ない投融資(サブプライムローンがらみの証券化商品)をさせないように眼を光らせていた。

 日本では「蜂に刺された程度」と言う認識だったが、スペインでも同様で、反対にこれを好機として捉え、特にサンタンデールはイギリスの住宅金融会社やブラジルの市中銀行等を次々に傘下におさめ、一時は西欧の白馬の騎士だった。

注)日本の野村ホールディングスがリーマンのアジア・ヨーロッパ部門を買収したのと似ている。

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 しかしさすがのサンタンデールも息切れがしてきた。サブプライムローンこそ手を出さなかったものの、国内での不動産融資が次々に焦げだしたからである。
不良債権の割合が08年3月1.24%だったのが、09年3月には2.49%と倍増し、これからどの程度上昇するか分からなくなってきた。

 あわててサンタンデールは買収したばかりのブラジルの銀行の売却先を探さなくてはならなくなった。
遅れると資金繰りが逼迫して自らが倒産しかねないからだ。

 結局スペインは外国資本による建設ブームでもっていたのだが、それが去ってしまえば昔の観光だけで生きる静かな生活に戻らざる得ない。
今のスペインはバブルがはじけたあとの日本とそっくりだ。
家計や企業が目いっぱい不動産に投資したが、価格の急落で借金のほうが多くなってしまった。

 現在までに30%程度不動産価格が低下したが本格的な低下はこれからだ。スペインには長く厳しい冬が迫っており、イギリスとの間でブービーレースを演じているが、おそらくラストランナーは観光だけのスペインになるだろう。



 

 

 

 

 

 

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(20.12.13) ヨーロッパの暗い闇 ギリシャの暴動

Images6  ギリシャで暴動が燃え上がっている。元々はアテネ有数の不穏な地域に暮らす15歳の少年を警察官が射殺したことに始まった。
これに抗議してこの少年の仲間達(アナーキーと呼ばれている)や、大学生がすぐさま反発し、それに野党の全ギリシャ社会主義運動PASOK)が政権奪取の好機とばかりゼネストを打ったものだから、ギリシャ社会は大騒ぎになってしまった。

 商店街は焼き討ちにあい、警察署や役所や銀行が破壊の対象になっている。すでにアテネの565箇所の商店等が焼かれ、被害総額は240億円にのぼるとギリシャ商工連合会が発表した。

 ギリシャではアナーキーと呼ばれる行き場を失った若者がたむろしている。元々ヨーロッパは若者が職を得るのが難しい社会構造といえるが、ギリシャには海運業と観光業、それに政府関連の企業以外にはまともな職場がない。
ギリシャ全体の失業率は8%程度だが、若者(15歳~24歳)の失業率は25%程度だ。実に4人に一人が失業者になっている

 通常若者が職を得る方法は、(国内の大学はレベルが低いため)著名な外国の大学を卒業するか親のコネで政府関連の職場を見つける以外に有効な手段を持っていない。
学業を途中で放棄した若者はほとんどが失業者となって街にあぶれ、酒を飲んでは警察官に悪態をついている。
ポリコー、死んでしまえ

 したがって若者と警察官との間には常に緊張関係が存在し、一触即発の雰囲気だ。
アナーキーと呼ばれる若者は事あるごとに、警察署や役所や一般商店を焼き討ちするし、警察官はアナーキーをたたき潰す機会を虎視眈々と狙っている。
だから今回の警察官による15歳の少年の射殺事件は起こるべくして起こったと言う側面が強い。

 現在の政権を担当しているのは新民主主義党ND)のカラマンリス政権だが、中道右派政権で300議席中151議席と、かろうじて過半数を維持しているにすぎない。
しかも閣僚が修道院の跡地の取引で私服を肥やしたと野党から追求されているし、不人気な年金改革(支給年齢の引上げと支給額の削減)を実施しようとしている。財政赤字をEUの基準である3%以下にしておかなければならないからだ。
年よりは死ねと言うのか」年金改革に対する老齢者の不満は大きい。

 レベルの低い大学の教育改革は遅遅として進まず、かつ大学は治外法権を持っているため警察官は大学構内に入れない。それをいいことにアナーキーといわれる若者や大学生は、危なくなると大学に逃げ込みそこでしこたま火炎瓶を仕込んでまた街に焼き討ちに出てくる。

 野党のPOSOKパパンドレウ党首は「事実上無政府状態だ。我々は政権交代を要求する」と言って総選挙を直ちに実施するようにカラマンリス首相を追い詰めている。
政権奪取のチャンスだ。全てを政争にしろ」小沢党首のようだ。

 ギリシャは難しい国だ。西欧と東欧の中間地点に位置し、国内は右派と左派で二分され左派政権と右派政権が交互に政権を取りあってきた。そのたびに政策は大きく変る。
経済成長は毎年4%前後で好調だったが、海運業と旅行業を除けば国内にまともな産業はなく、貿易収支はいつも大幅な赤字だ。

 この赤字を埋めていたのが海運業と旅行業の収入、それに海外移民のからの送金、そして外国からの投融資だったが、金融危機を契機に一気に経済状況は悪化してきた。

 元々職場がなく未来のなかった若者にさらに追い討ちをかけるような経済状況だ。
鉄鎖以外失うものはない
ヨーロッパではドロップアウトした若者には職場がない。アナーキーと呼ばれるこうした若者は、日本のやくざと同じで表社会に住むことができない。

 このギリシャの若者の反抗はやはり世界的な経済危機が原因だが、元々底流にあったギリシャの暗い闇を呼び覚ましてしまったと言えよう。



 

 

 

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