(23.1.26) ベルギーの深い霧 分離独立か統一維持か
世界有数の経済力を誇り、はたから見るとうらやむような生活水準にあるベルギーが政治対立で大揺れだ。
なにしろ昨年6月の総選挙のあと、まったく組閣ができず暫定政権が7ヶ月も続いている。
この国の総選挙は比例代表制のため、どの政党も議員数150名の5分の1を上回らない少数分裂状態で、連立工作もママならないからだ。
なぜ連立がうまく行かないかと言うと北部のオランダ語圏と南部のフランス語圏が分離独立か統一維持かで鋭く対立し、妥協の余地がなくなっているからだ。
特に北部を地盤とする右翼政党新フランドル同盟が第1党になったため、ことがややこしくなってきた。
「我らは南部のやつらのために税金を払っているのではない。これ以上南部支援を続けるならば北部は独立する」新フランドル同盟の党首の鼻息は荒い。
人口約1千万のベルギーの約6割がオランダ語を、4割がフランス語を公用語とし、しかもオランダ語をしゃべる人は北部に、フランス語をしゃべる人は南部に居住している。
どうしてこのような状態になったかと言うとかつてのローマ帝国の境界線の外と内の違いだと言うから、なんと2000年前からの対立だ。
元々は南部のフランス語圏が石炭業や鉄鋼業で栄えてきたが時代の流れに乗り遅れ、現在は北部の金融業やサービス業地域に押されぱなしになっていた。
政府は南部の斜陽産業に補助金を出してきたが、これを北部は面白く思っていない。
それでも分離独立のような極端な意見が出なかったのは金融業でぼろもうけをしていて余裕があったからだ。
リーマン・ショック以前のベルギーの金融業はロンドンのシティーのミニチュア版のようなもので、アイルランドやスペインやギリシャといった国々に資金を貸し込んでいたし、得意のディリバティブにも大いに手を出していた。
ところがリーマン・ショックで金融業がまったくふるわなくなりかえって政府のお荷物になると、他人のことを考える余裕がなくなってきた。
「南部のやつらのために税金を使うのは止めよう」
こうした極端な思想を持つ新フランドル同盟が第1党のため組閣を組むことがほとんど不可能になり、ベルギーは7ヶ月も正式な政府が不在の状態が続いている。
この政府不在に怒った5人の若者が23日に首都ブリュッセルで呼びかけたデモは、何と4万人のデモに拡大し、スローガンも「恥を知れ、我々がほしいのは政府だ」というのだから笑ってしまった。
私などは日本政府が1年ごとに代わるのにうんざりしていたが、ベルギーでは政府そのものが存在しない(暫定政権はある)。
しかし笑ってばかりいられないのは、ここブリュッセルにはEUの本部とNATOの本部がおかれており、ギリシャやアイルランドやポルトガルのような田舎ではない。
EUの本部がベルギーに置かれた時は「ここがヨーロッパの統合の中心地として相応しいから」だと言われていたのに、今は分離独立運動にゆれてる。
「ベルギーの崩壊はEUやユーロの崩壊だ」ドイツなど真剣に心配しはじめた。
市場はもっと現金でベルギー国債の利回りは昨年の2.8%から今は4.3%に上昇してスペイン並みになってきた。
この状況を見てS&Pも「現在のAA+(2番目)の国債格付を半年以内に格下げする」とアナウンスメントしている。
今では倒産(予測)順位はギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ベルギーとなってしまった。
果たしてベルギーはどうなるのだろうか。金融業で舞い上がっていた間は良かったが、経済が落ち目になると誰でも利己的になる。
統合よりも分裂にベクトルが向いてしまい、EUやユーロの前途にも暗雲が漂っている。
「恥を知れ。せめて政府を持とう」この若者の叫びがベルギーの政治家を動かし、市場を安心させることができるのだろうか・・・・・。
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