(23.2.25) タイとカンボジアの国境紛争 プレアビヒアは誰のものか

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 ここに来て世界中で紛争が激化してきた。東南アジア諸国は決して好戦的な国ではないが、タイカンボジアの国境で両国の陸軍が戦闘を行っている。
これまでの死者は8人とアラブ革命に比較すると多くはないものの、微笑みの国タイがカンボジアを挑発しているのはただ事ではない。

 国境紛争が始まったのはここに世界遺産のプレアビヒア寺院の遺跡があるからで、その領有権をめぐって両国が対峙している。
ユネスコの世界遺産にも登録されている由緒正しい遺跡だが、これをタイの保守派(日本のイメージでは右翼)がタイの固有の遺跡だと主張し始めた。

 プレアビヒアカンボジア領土内にあり、国際司法裁判所のお墨付きもあるので、国際世論は圧倒的にカンボジアに同情的だ。
それでもタイの保守派がここを自国の領土と主張するのは古い歴史的経緯がある。

 プレアビヒア寺院アンコール王朝時代9世紀から約300年かけて建設された寺院だが、その後アンコール王朝は現在のタイに本拠を置くアユタヤ王朝15世紀に征服された。
そしてその状態が19世紀まで続いたが、フランスがインドシナに植民地を広げタイにも触手を伸ばしたので、タイは現在のカンボジア領をフランスに割譲することで植民地化を免れた
おねがいだ、カンボジアをあげるからタイには手を出さないで

 問題はそのとき国境線を確定したのだが、国境画定のための測量はフランスに全面的に依頼しタイはそれをただ承認しただけだった。
当時はタイには測量技術がなかったからだが、1904年のことである。

 その30年後タイも測量技術を習得して測量をしてみたらフランスにだまされプレアビヒアはカンボジア領に併合されたと気がついた(とタイ保守派は言う)。
ひどいじゃないか、プレアビヒアはタイのものだ
しかし国境画定後30年も過ぎて、国際的にも承認されているのでクレームは遅すぎる。

 タイとカンボジアの関係は日本と朝鮮の関係に似ている。タイは数百年間に渡りカンボジアを支配していたので、タイ人はカンボジア人を馬鹿にする傾向がある。一方カンボジアはそうしたタイに強い反発を感じている。

 さらにことが面倒になってきたのはタイのアピシット政権がタイ保守派に支持されて政権を維持しているため、アピシット首相としてはこの保守派の意向を無視するわけにいかない。

注)アピシット政権は日本的イメージでは自民党政権で、企業家や都市の中間層や富裕層、それにタイ保守派(右翼)により支持されている。

 昨年12月タイ保守派PAD)のメンバーら7人プレアビヒアに密入国して、「これはタイのものだ」と騒いだためカンボジア軍に拘束されたのだが、これを不服としてタイが正規軍を投入したため、正規軍同士の戦闘になってしまった。

 どう見てもタイのほうが強引に侵略しているのだが、国力はタイのほうが圧倒的に上でカンボジアは実力ではかなわない。
カンボジアは国連やアセアンに助けを求めているが果たしてこの勝負どうなることだろうか?

 

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(22.11.26) 通貨安戦争と東南アジア タイ輸出産業の憂鬱と株式市場の活況

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 アメリカ・ヨーロッパ・日本が繰り広げている金融緩和策によって世界中に金余り現象が発生しているが、その金は主としてアジアに集中しているようだ。

 11月24日のNHK「きょうの世界」でこの通貨安競争の特集をしていた。
ここでは主として東南アジアの実情を分析していたが、タイを中心に株式投資や不動産投資資金が流れ込み、このため異常な通貨高と株式市場の活況を呈していた。

注)資金はこのほかに中国やインドにも流れ込んでいるが、今回の特集は東南アジアにスポットを当てていた。

 この11月にG20で、通貨安競争を回避する合意がなされたが、まったく言葉だけで特にアメリカは金融緩和策を緩めるつもりはない。
アメリカ民主党政権は輸出産業の振興によってこの不況を乗り切るつもりであり、ユーロ安で輸出が好調なドイツ型景気回復をもくろんでいる。
だからここ当分は世界中にお金がばら撒かれ、それが新興国経済の株式と不動産価格を押し上げ、同時に通貨高をもたらすのは確実だ。

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 たとえば各国の通貨の年初来の上昇率は以下のようになっている。

・タイ・バーツ       12.3%
・マレーシア・リンギ   10.8%
・インドネシア・ルピア   7.1%
・フィリッピン・ペソ     8.6%


 この中でタイについては日本企業の進出等により、東南アジア最大の輸出立国になっており、GDPの約6割の輸出額になっている。
これは日本の2割以下、中国や韓国の約4割に比較しても突出した輸出立国といえる。

 映像ではタイ輸出業組合理事長がタイ中央銀行に対し、市場介入をしてタイ・バーツの引下げをしてほしいと訴えていた。
日本ではおなじみの光景だが、タイの輸出比率の高さから見てバーツ高の深刻さは日本の比ではないのだろう。

 もっともタイの製造業は主として組立部門のウェイトが高く、部品は輸入に頼っているので、タイ・バーツの高騰は輸入品の引下げをもたらし相対的に影響力を緩和している。
本当の意味で苦境なのはタイの伝統産業であるコメ、繊維、衣料品、家具等でこうした輸出産業はバーツ高に悲鳴をあげていた。

 特にコメはタイの主要産業の一つで世界最大の輸出国だが、2000万人の雇用を生み出しているこの産業が、収益は昨年の約半分に落ちてしまったそうだ。

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 また先進国からの資金は株式と不動産を中心に流入しており、株式の年初来の上昇率は完全にバブルの様相を呈していた。

・タイ       43%
・マレーシア   19%
・インドネシア  45%
・フィリッピン   46%


 番組ではインドネシアの事例を紹介していた.。インドネシアでは空前の投資ブームになっており、今まで株などまったく知らなかった商店主や学生が、これも最近できた証券会社のディスプレイを真剣なまなざしで覗き込んでいた。

 通常はこうした状況になるとインフレが更新するものだが、インドネシアの約6%を除けばそれほど高くはなく、タイの1.5%、マレーシアの2%、フィリッピンの4.5%といった状況である。
投資ファンドの資金がもっぱら株式と不動産に集中しているためで、しかしこうした状況が続くと一般物価への影響も徐々に出てくるものと思われる。

 東南アジアの現状はかつてのバブル期の日本と同じだ。
日本と異なるのは外資の影響が大きく一旦リーマン・ショックのような経済危機が発生すると資金の総引き揚げが起こるので、完全に舞い上がるのは危険だろう。
しかしアメリカを中心とする先進国の金融緩和は相当の期間継続しそうだから、その間は東南アジア諸国の通貨の上昇、および株式と不動産の上昇は継続することになりそうだ。

 

 

 

 

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(22.5.19) 危険水域に入ったタイ情勢  タイ式解決か、階級闘争か!!

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 タイの政情がとうとう危険水域に突入した。タクシン派UDD(反独裁民主戦線)と政府治安部隊との衝突で、すでに38人の死者がでて、これからいくら死者が出るか分からないからだ。
これは今までのタイの歴史を知っているものには驚天動地の出来事に見える。

 従来タイの政争では軍事クーデタが発生したり、空港首相府が占拠されてもほとんど死者がでないのが普通だった。昨年のタクシン派によるASEAN首脳会議阻止のデモも、死者が2名出たことによってタクシン派の首謀者が投降し、すぐさま収束した。

 タイでは人が死ぬと軍隊も警察もデモ隊も責任問題が発生するため、できる限り流血を避け、そのためにはASEAN各国の首脳の警備責任さえ放棄する国だった。

注)「タクシン派の4日戦争」を参照

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 ところが今回の約2ヶ月に及ぶバンコック中心街の占拠に対する対応はまったく違う。それまで流血をあれほど避けていたアピシット政権も、タクシン派のUDDも人命をなんとも思わないような銃撃戦を繰り返し、すでに38名の死者と300名あまりの負傷者が出ている。

 一体タイという国の有様がこれほどまでに劇的に変ったのはなぜなのだろうか。なにかタイの深層部で、大きな変化が起こったとしか思われない。

 もともと現在のアピシット政権は選挙による正当性を与えられた政権ではない
06年の軍事クーデタでそれまで首相であったタクシン氏を追い出し、それから1年3ヶ月後に行われた選挙で再びタクシン派が勝利すると、タクシン派の首相を軍隊が憲法裁判所を使って追い落としを図って成立した政権である。

注)詳細は「タイの政局は不思議の国のアリス」参照

選挙を実施して民意を反映させろ」とUDDが主張するのは、アピシット政権がほとんどクーデタまがいで成立した政権であるので当然の要求だが、アピシット首相が今年の11月に選挙を約束し、デモの解散を求めた頃から状況が急速に流動的になってきた。

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 UDDが穏健派と急進派に分裂し、穏健派はアピシット首相の妥協案を受け入れたが、一方急進派はアピシット首相の早期退陣を求め、要求をエスカレートさせたからだ。
何が何でもアピシット首相は即時退陣しろ。これは階級闘争だ!!

 この急進派を率いていたのがカティア将軍で、この将軍が治安部隊の狙撃兵によって頭を狙撃されて死亡したことで、まるでタイがイラクやアフガニスタンのような状況になってきた。
銃撃戦だけでなくロケット砲まで打ち込まれたのだからほとんど内戦そのものだ。

微笑みの国」といわれ、あれほど流血を嫌っていた国に何が起こったのだろうか。ホームズワトソン君の話を聞いて見よう。

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ホームズ、タイがおかしくなってきたが、なぜ今までのような死者の出ない政権交代ができなくなってきたのだろうか

問題はUDD急進派がなぜ妥協を拒否して徹底抗戦をするかだね。アビシット首相が11月に選挙を行うと約束したのだから、目的は達成できたはずだ。
選挙を行えばタクシン派が勝利を占めて政権に返り咲くのは確実とおもわれているので、通常ならばこれで妥協するのがタイ式だ。実際に穏健派は妥協した

しかし今回は急進派がUDDの主導権を握って、銃撃戦を継続している。急進派はどうしてここまで強気なのだろうか

一番考えられるのはUDD急進派を背後で支援する勢力がついたということだろう。資金や武器の支援があれば急進派は長期間戦える。選挙ではなく実力で政権を奪おうということだ

従来タイは他国の干渉を排除してきた国のはずだ。だからこそタイ式方式という何とも分けの分からない政権交代ができた。今回はそれが民族紛争や階級闘争のようになっている。どこが支援しているのだろうか

状況証拠として考えられるのはこの機会にタイに自国の覇権を及ぼしたい国だ。従来タイは日本の植民地と言われるぐらい日本との経済的結びつきが強かったが、鳩山政権はほとんど内政で他国を省みる余裕はない。

東南アジアきっての経済大国タイが内乱状態になれば、これを利用して自国に有利な政権を樹立したくなる国がある

すると背後で動いているのは覇権国家中国ということかい

中国にとってはミャンマーを衛星国にしたが、ここは単なる貧乏国だ。一方タイが中国の衛星国になればアセアンを押さえかつ完全にインド洋に進出できる。宿敵インドを牽制できるし、日本を東南アジアから追い出すことにもなる

しかしUDDは簡単に中国の手先になるだろうか

今は色々な要素が錯綜しているからはっきり見えないが、今後UDDが階級闘争を強化してくれば、必然的に中国の影が明らかになってくるはずだ


追加)19日、治安部隊が突入しデモ隊の排除に乗り出した。デモ隊の責任者7名が投降しデモの終了宣言を発した。ほとんどのデモ参加者は解散したが、これに不満を持つ最強硬派がなおもバリケード等に火を放って抵抗している。

 
 

 

 

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(22.4.13) タイの農民戦争 タクシン派の反乱

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 タイの政局はほとんど収拾がつかない状態になってきた。
アピッシト首相が1ヶ月も続いたタクシン派による都心部の占拠や、国会乱入に業を煮やして非常事態宣言を発したのがこの4月7日だったが、タクシン派からは「かえるの顔にションベン」と無視されてしまった。

どうせ、アピッシトはまともな対応なんかできるはずはない
これにはアピッシット首相も自制心を失った。

それなら、実力行使がどういうものか見せてやる
10日に治安部隊に命じてデモ隊の強制排除に乗り出した。幸いに軍はアピッシト首相を支持している。

注)通常タイでは軍隊は中立を守ることが多い。その場合は首相が命令しても軍隊はサボタージュを決め込む。

 しかしこの治安部隊による排除で大混乱が起きてしまい、21名あまりの死者と1000人近くの負傷者が出てしまった。
この中にはロイターが派遣した日本人カメラマン、村本博之さんも含まれる。
こうまでして排除しようとしたのに、実際はまったく効果がなく、相変わらずバンコックの繁華街はタクシン派によって占拠されたままだ。

 おかげでアピッシト首相は恒例のアセアン会議にも、オバマ大統領が召集している核サミットにも出席できなくなってしまった。
タクシン派のデモは成功し、アピッシト首相は世界的に恥をかいた。

 タイの治安維持がいつも難しいのには訳がある。タイはよく「微笑みの国」と言われが,、その理由は流血を極度に嫌う平和な国柄だからだ。
デモも当然平和裏に行うのだが、これを排除しようとすると必ず流血の惨事になって、流血の責任を問われる。

首相はなぜ人を殺したのだ。軍や警察はなぜ発砲したのだ」となって、首相は退陣、軍や警察の首脳も首を切られるので、それを恐れて誰も手を下そうとしない。
秩序を維持することよりも流血を避けようとするのだ。

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 今回のタクシン派による繁華街の占拠は1ヶ月続いたが、一昨年の反タクシン派の首相府占拠は約3ヶ月、空港占拠は約1ヶ月続いた。
仕方なく首相のほうが折れて退陣するのがいつものパターンだ。

 こうしたタイの政権交代方式は他国にはないタイ独自なもので、日本人から見ると何とも奇妙に見える。
この国は秩序を維持しようとする意志がないのではなかろうか」と映るからだ。

 タイの政局はこのように不思議の国のアリスだが、実際の対立構造はどこの国にもある都市と農村の対立であり、それが選挙による政権交代ではなく、しばしばデモやクーデターによるところがタイ式だ。

 バンコックに行ってみると分かるが、この都市は非常に近代的な都市であり、中間層や富裕層も多く、日本と変わりが無い。
繁華街には日本のデパートが進出して、消費活動は非常に活発だ。
バンコックだけ見ればタイは非常に裕福な国に見える。

 一方一歩農村部にいくと、遅れた昔のままのタイが残っている。私がタイを訪れたのは15年以上も前だが、アユタヤのタイ人が泊まる宿は一泊100円で、食事は50円でできた。
裸電灯とベットと扇風機だけの部屋だったが、「こんなに安いのなら一生タイに住もうかしら」と思ったほどだ。

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 私はそうした遅れた何もないタイが好きなのだが、タイ人にとっては「なぜ都市住民は裕福で、俺たちはこんなに貧乏なのだ」と言うことになる。
情報はテレビ等で十分行き渡るので、一旗あげようとバンコックに出てみても、田舎出身者は最下層の貧しい仕事しかなく、中間層にも富裕層にもなれない。
なにしろ教育水準が違いすぎて貧富の差は固定されたままだ。

農民はいつも虐げられている。バンコックに出てきても俺たちは二流の国民だ
こうした不満を吸収して01年2月に首相になったのが、今はタイを追われているタクシン元首相で、タイ東北部の農村地帯に補助金をばら撒き、農民の心を捉えた。

 もっとも都市住民からは大ブーイングで、「バンコックの富を農村にばら撒いて人気を取っているトンでもないヤツ」と言うことで06年9月に軍事クーデターが発生し、タクシン元首相はタイを追われて流浪の旅を余儀なくされた。

 その後は軍隊と富裕層と中間層が手を組んで08年12月に都市党アピッシト政権を成立させたが、リーマンショック後の経済停滞を背景に失業者が増大し、農村党タクシン派が盛り返してきたのが今の構図だ。

 果たして都市党と農村党のこの争いはどう決着がつくのだろうか
21名にも及ぶ死者が出てしまえば、アピッシト首相は責任を取って辞任するのが今までのタイのパターンだが、都市と農村の戦いは今後も継続し、タイのアキレス腱になりそうだ。

注)皮肉なことに都市と農村の対立がこの様に先鋭化するのは、タイが民主国家だからである。中国でも都市と農村の対立は激しいが武装警察が不満を抑えてしまうので、問題が外に知られることが少ない。

 

 

 

 

 

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(21.4.16) タイの政局は不思議の国のアリス タクシン派の4日戦争

Images4_2   タイの政局は通常の日本人の理解を超えている。なにしろASEAN首脳会議が開かれていた11日、反政府のデモ隊数千人(タクシン派)が会議中のホテルに乱入したが、警備の警官隊も軍隊もまったく何もせずに放って置くのだから驚く。

 おかげでASEANの各国首脳はヘリコプターで会場を逃げ出さざる得なかったが、きっと各国首脳にとっても一世一代の経験だったろう。
何で我々が群集に追われて、ブルボン王朝末期の皇帝のように逃げなくてはならないのだ。タイの警備当局は我々を警備する気持ちがないのか」怒りで頭にきてたはずだ。

 麻生首相はたまたま会議場とは別のホテルにいたが、ASEAN会議に引き続いて行なわれる予定だった拡大ASEAN会議も、16カ国東アジアサミットも全て中止になったため、急遽帰国の途についた。
しかし考えてみれば16カ国もの元首を呼び集めておきながら「帰ってくれ」とはタイ政府もひどいものだ。

 日本政府は正式にタイ国政府に抗議はしていないが、間違いなくこれは歴史的な失態と言える。
二度とタイで国際会議を開催するのは止めよう」そう思ったはずだ。

 今回のデモ隊はタクシン元首相率いるタクシン派が組織したものだが、昨年の末までは政権を維持していた。このタクシン派を強引に政権から引き摺り下ろしたのが現政権のアピシット首相率いるアピシット派だが、今度はタクシン派に意趣返しされたものだ。

 翌12日になるとヘリコプターで逃げたアピシット首相内務省の建物に隠れていたのだが、再びデモ隊に襲われた。
今度は首相は内務省の建物から自動車で逃げたが、その自動車を群集が襲う場面が世界に放映された。

 画面ではこの時も、逃げ惑うアピシット首相守る警官も軍隊もいなかった。
一国の首相がまったく警護もされず、ただ逃げているだけなのだ。
これでは武田勝頼が織田・徳川連合軍に攻められ、妻子と一部の郎党だけで逃げ惑い、最後に天目山で自決したのと同じではないかと思ったものだ。

 アピシット首相がようやく反撃に出たのが12日の午後で、バンコック周辺に非常事態宣言を出し、ソンキッティ軍最高司令官が直接デモ隊の鎮圧に向かうことになった。
これですぐさま軍隊がデモ隊を排除するのかと思っていたら、実際はデモ隊を遠捲きにして見守っていただけだった。

 状況が一変したのは13日で、この日デモ隊と市民との小競り合いで市民2名がデモ隊に射殺され、これで軍隊もやっと本腰を挙げてデモ隊を排除することにしたらしい。

 タイでは「死者が出るまでは何もしない」という不文律が軍隊にも警察にもあるようで、デモ隊が各国首脳がいるホテルを襲おうが、また首相を襲おうが死者が出ない限り(警察も軍隊も中立を守り)実力行使をしないのだという。

首相が万一死亡することがあれば、そのときはデモ隊を排除します」と言うのだから、恐るべき不文律だ。

 これが微笑みの国タイの実態なのだから、日本人の感覚からは理解の限度を越えている。
日本では洞爺湖サミットの期間中、周辺の道路を機動隊が厳重に封鎖し、蟻の這い出る隙も与えなかったが、しかしそれが各国元首に対する警備の基本だと思う。

 今回の一連の騒動や昨年末の空港占拠を見ても、タイでは国内事情が優先されて、ASEAN首脳会議などよりタイの国民の生命が大事だとの判断だ。

 しかしそのために外国の首脳の警備を放棄したり、警備当局が首相をまったく守ろうとしないのはいくらなんでも国際的な常識の線を越えている。

 14日に入り、首相府を取り巻いていたタクシン派は突如抗議デモを中止して解散した。タクシン派市民2名を射殺したため、軍隊がデモ隊を強制排除すると通告したからだ。
世論はすっかりタイ国民の命を奪ったタクシン派に冷たくなり、軍隊が明確に現政権のアピシット派についた。

 デモ隊の指導者数名が投降し、タクシン派の4日戦争は終わった

 しかしタイとは実に不思議な国だ。これほど自国民を大事にし、一方で外国の元首をなおざりにする国は珍しい。

 

 

 

 

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(20.12.7) タイの政局は不思議の国のアリス

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 このところのタイの政局については通常の日本人にとって理解の範囲を超えている。
首相府が3ヶ月以上占拠されたままだったり、2つの国際空港を反政府勢力が10日あまり封鎖しても政府はなんら対策も取らず、首相は北部のチェンマイにこもったきりバンコックには戻ってこなかった。

 これがどんなに異常かは日本に置き換えてみれば分かる。首相官邸に反対派が押し寄せたり、羽田や成田空港が占拠されそうになったら、すぐさま機動隊が出動して反対派をたちどころに排除し、バリケードを築いて一人として通過させないだろう。
当然首相が北海道あたりにこもることもない。

微笑みの国」といわれて久しいタイでは、国民は首相府も国際空港も誰が占拠しようと「微笑ん」でただ見ているだけなのだろうか。

 ソムチャイ首相が率いていた国民の力党(実際は連合政権は、昨年の選挙で第一党になり内閣を組織しているのだが、陰の権力と言われる軍隊も、また警察も、裁判所も、そして何より国王までもソムチャイ首相を見捨てていたようだ。

 反政府組織の国民民主主義連帯PADが国際空港を占拠した翌日、タイ陸軍司令官は「私が首相だったら当然辞任する」と公然と辞任要求をだすし、警察はPADを強制排除をするそぶりすら見せなかった。

 挙句の果てにタイ憲法裁判所がソムチャイ氏が率いる国民の力党が、昨年の総選挙で有権者を不正に買収したとして政党の解散を命じてしまった。
ソムチャイ首相は「私の任務は終わった。私は今や平凡な市民だ」と声明を出して、内閣を総辞職した。9月に首相になってから3ヶ月も立っていない。

 よってたかってソムチャイ氏を首相から引き釣り下ろしたようなものだが、ソムチャイ氏率いる国民の力党はそんなに問題なのだろうか

 実は国民の力党の前身、タイ愛国党は遅れたタイ北部の開発や、農村地帯の振興策をとり、経済成長も7%前後と好調で、アジア危機でIMFからの借入た借金も返済し経済政策としては申し分のない実績を示していた。
このタイ愛国党2001年から率いていたのがタクシン氏だったが、2006年9月に汚職の嫌疑で首相を解任されてしまった。

 軍事クーデタが発生したからである。軍政は約1年続き2007年12月に民政移管の総選挙を実施したら、軍の予想に反し再びタイ愛国党の流れを汲む国民の力党が第一党になってしまった。
タクシン元首相は海外に亡命中だったため、タクシン氏の傀儡と言われたサマック氏が首相になった。

 このサマック首相が「テレビの料理番組に出場して出演料を取ったのが憲法違反」だとタイ憲法裁判所から弾劾され解任されたのがこの9月で、その後を今回解任されたソムチャイ氏が首相を勤めていた。
このタイ憲法裁判所の判決はかなり言いがかり的だと思う。

 なんてことはない、国民の力党の党首は憲法裁判所が違憲判決を出して引き摺り下ろすか、それでもダメならば軍隊クーデタを起こして引き釣り下ろす訳だ。
しかし選挙を行なうと国民の力党が国民の支持を得て第1党になってしまうのが不思議だ。
民主主義社会では選挙結果を尊重するのが基本原則だが、タイではこの原則は当てはまらないらしい。

 私などはなぜ国民の力党がこれほどまでいじめられるのか訳が分からない。タクシン元首相が強権的だったとか、国王をないがしろにしたとか、農民に対するばら撒き行政をしたとか言われているが、本当の理由が分からない。

 かえって遅れた農村部と北部地域の振興に力をいれ、今まで政治的意見を述べることのなかった農民の圧倒的支持をえて、選挙で第一党になったのだから全く問題がないはずだ

 タクシン元首相の汚職嫌疑やサマック前首相の料理番組の出演料受領や、2007年12月の総選挙の買収工作容疑も、かなりでっち上げの感がある。
確かにそうした事実はあったのかもしれないが、反対派だって同じなのがタイの政治状況だ。はっきり言ってどっちもどっちなのだ。

 今回の一連のタイの政局の流れはやはり通常の日本人には理解不能と言えそうだ。まさに不思議の国のアリスの世界だ。

 

 

 

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