(21.12.10) GM ヘンダーソンCEOの馘首(かくしゅ) GMの迷走
11月16日、GMの09年7~9月期の決算発表であんなに得意満面だったヘンダーソンCEOが12月1日には解任されてしまった。
最終損益が昨年同期の▲25億ドルから、▲12億ドルと半減し、10月の米国市場での販売台数が前年同月比+5.6%になったのがよほど嬉しかったのだろうが、結末は悲劇だ。
「12月には米政府からの借入金の一部返済を始める」と公表し、また「来年度に株式を再上場する」と大見得を切っていたヘンダーソンCEOに何があったのだろうか?
新生GMの取締役会の13名の役員のうち、GM出身者はヘンダーソン氏ただ一人で、後は米政府の代理人10名、カナダ政府の代理人1名、全米自動車労組の代理人1名だったから、ヘンダーソン氏が少しでもへまをすればすぐに解任される状況下にあったのだが、それにしては唐突だ。
なにしろそれまではヘンダーソン氏はよくやっているとの評価だった。
どうやら解任の理由は、ドイツにあるGM子会社オペルの売却問題らしい。
GMが苦境に落ちたと同じ理由でオペルも苦境に落ちていたのだが、ドイツ政府の肝いりで、オペルをカナダのマグナ社に売却する話がほとんど決まっていた。
ドイツ政府としては労組を説き伏せ、人員削減等の条件を飲ませる代わりに、独州立銀行から約2000億円のつなぎ融資をし、さらに約5000億円の持参金をつけてオペルの再建をマグナ社に約束させたばかりだ。
「やれやれ、これで失業問題も回避でき、オペルは最新設備を導入できて競争力が向上し、新生オペルとして蘇るだろう」メルケル首相は胸をなぜ下ろしていた。
ところが急にGMが強気になり、オペルの売却を白紙撤回するといい始めた。11月4日のことである。
どうやらヘンダーソンSEOはGMの業況が回復基調に乗ったと判断し、またドイツ政府が5000億円の持参金を出してくれるなら、GMの管轄化でオペルを再生できると判断したらしい。
「GMの大型車はもう売れない。オペルを強化して環境対応車にするのがGMにとって再建の近道だ」
しかしこれにはメルケル首相が完全に切れてしまった。「何言っているのよ、私が大事なのはドイツのオペルで、GMじゃないわ。約束を反故にするならすぐさま独州立銀行の2000億円の融資金を返済しなさい」と命じ、さらに持参金など一銭も出さないと通告した。
困ったのはヘンダーソンCEOだ。ドイツ政府は失業問題を恐れて、つなぎ融資もそのままで、さらに独政府の支援5000億円を当てにしていたのに、実際はすべてGMもちで再建を果さなくては成らなくなった。
「ヘンダーソン、君ははしゃぎすぎだ。せっかくマグナ社に売却ができるはずだったのに、ドイツ政府を怒らせ元の木阿弥になってしまったじゃないか。君には経営能力はない」
取締役会で解任されてしまった。
注)実際はメルケル首相からオバマ大統領に厳重抗議が行き、アメリカ政府がヘンダーソン氏の首をきったのだろう。
GMの業況の回復はアメリカ政府や中国政府の買い替え補助制度や、減税措置によるところが大きい。
こうした政府の支援がなくなれば自動車市場は瞬く間に凍りついてしまう。
自らの実力ではない政府支援のおかげで、かろうじて販売が伸びているのに、ヘンダーソン氏は自分の経営能力によるものと誤解したらしい。
これで再びGMの再建に赤信号がともった。
なにしろGMには環境対応車の開発で決定的に遅れているという弱みがある。アメリカ政府の環境対応車への補助金で潤ったのは、GMというよりは日本車だ。
さらにここにきて、オペルだけでなく、スウェーデンのGM子会社サーブの売却が白紙撤回されてしまった。
せっかく連邦破産法11条の適用を受け、身軽になったのに、これではまた昔のGMに戻ってしまいそうだ。
GMの経営について、また目が離せなくなってしまった。
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