(22.10.23) 明日はわが身 イギリス キャメロン政権の財政再建策
イギリス保守党のキャメロン政権がついに本格的な財政再建策を打ち出した。
GDP対比11%程度に膨れ上がった財政赤字を4年間でほぼ1%までに削減すると言う。
とても信じられない数字だが、キャメロン政権は本気だ。
イギリスは前政権の労働党が放漫財政を繰り返し、特に銀行救済にはイギリスのGDPに等しい公的資金の直接投入や債務保証をしてきたため、すっかり財務規律が失われてしまった。
それでも世界各国が放漫財政を放任している間はイギリスへの風当たりは強くなかったが、ギリシャ危機を契機にドイツやフランスといったEUの盟主が緊縮財政に切り替えたため、EUの一員であるイギリスも放漫財政を捨てることになった。
「もう、アメリカに付き合っていられない。これ以上の財政赤字はイギリス経済の崩壊につながる」キャメロン党首が悲鳴をあげた。
今回の財政再建策は各省庁の予算を4年間で19%削減し、10兆円規模の歳出削減を行うのが骨子になっている。
「子供手当ても防衛費も削って公務員を減らし、年金の支給年齢を上げて、付加価値税は20%だ」
注)子供手当てには所得制限を設け、年金支給年齢を66歳に引き上げ、公務員を49万人削減し、付加価値税を17.5%から20%に引き上げる内容。
日本の民主党政権が聞いたら腰を抜かしそうな内容だが、事業仕分けで19%予算削減は可能だとオズボーン財務相は強気の発言をしている。
だが4年間で49万人の公務員削減を公表されては労働者が収まらない。
「なんだ、財政赤字は金融機関に対する救済金が膨らんだからじゃないか。あいつらはビックバンなんていって高給を取っていたのに、そのつけは労働者か!!」
フランスと同様にイギリスでもゼネストが起こりそうな雰囲気だが、企業経営者はキャメロン政権に大喝采だ。
「よく言ってくれた。これでようやくイギリス経済は立ちなおりのきっかけがつかめる。労働党政権は泥舟だった。経済が立ち直れば公務員の失業者は民間部門で雇用が可能だ」
実はイギリスがいつまでも放漫経営を続けられない理由がある。最大の理由がアメリカと違ってポンドが基軸通貨でないことで、財政支出の増大は結局はイングランド銀行がポンドを増刷することにつながり、インフレが更新するからだ。
注)基軸通貨の場合は自国の経済が不振でも世界全体の経済が拡大すれば、それに見合う通貨量の増大が可能になる。アメリカのドルはアメリカだけのドルではなく世界のドルだからだ。
イギリスのインフレ目標は約2%だが、現状のインフレ率は3.1%になり危険水域に入りだした。
イギリスポンドもじりじりと安値を更新し、現在は130円を割って127円前後になりこのまま行くと09年1月の最安値118円に到達しそうだ。
国債利回りは幸いに低下傾向にあるが、それでもドイツやフランスに比較すると高利回りの3%前後だ。
注)一時は4%を越していたが、世界各国が資金の垂れ流しを行った結果国債に対する需要が拡大し、安全資産と見られている国債の利回りが低下している。
イギリスは慢性的に貿易収支が赤字だからドイツや日本と異なり、強いポンドで世界各国から資金を調達しなければ国際収支が均衡しない。
「このまま行けばポンドはますます弱くなり、金は集まらず、国家破綻するのは確実だ。そのためには何としても財政再建をして強いポンドを取り戻そう」
キャメロン政権は国家破綻か財政再建かと国民に問うている。
キャメロン政権の危機意識に比較して、同じように財政赤字が突出している日本の鷹揚さはどうだろう。
現在審議中の追加の補正予算の規模は5兆円だが、国債発行以外に財源はない。
日本は経常収支が黒字で、国債を国内で吸収できることが唯一の利点だ。
だがアメリカを除いて世界が緊縮財政に転換した今、いつまでも日本がアメリカの放漫財政に付き合っている時代は終わりに近づきつつある。
イギリスの緊縮財政は明日はわが身になると思ったほうがよい。
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