(22.10.23) 明日はわが身 イギリス キャメロン政権の財政再建策

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 イギリス保守党のキャメロン政権がついに本格的な財政再建策を打ち出した。
GDP対比11%程度に膨れ上がった財政赤字を4年間でほぼ1%までに削減すると言う。
とても信じられない数字だが、キャメロン政権は本気だ。

 イギリスは前政権の労働党が放漫財政を繰り返し、特に銀行救済にはイギリスのGDPに等しい公的資金の直接投入や債務保証をしてきたため、すっかり財務規律が失われてしまった。

 それでも世界各国が放漫財政を放任している間はイギリスへの風当たりは強くなかったが、ギリシャ危機を契機にドイツやフランスといったEUの盟主が緊縮財政に切り替えたため、EUの一員であるイギリスも放漫財政を捨てることになった。
もう、アメリカに付き合っていられない。これ以上の財政赤字はイギリス経済の崩壊につながる」キャメロン党首が悲鳴をあげた。

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 今回の財政再建策は各省庁の予算を4年間で19%削減し、10兆円規模の歳出削減を行うのが骨子になっている。
子供手当ても防衛費も削って公務員を減らし、年金の支給年齢を上げて、付加価値税は20%だ

注)子供手当てには所得制限を設け、年金支給年齢を66歳に引き上げ、公務員を49万人削減し、付加価値税を17.5%から20%に引き上げる内容。

 日本の民主党政権が聞いたら腰を抜かしそうな内容だが、事業仕分けで19%予算削減は可能だとオズボーン財務相は強気の発言をしている。
だが4年間で49万人の公務員削減を公表されては労働者が収まらない。

なんだ、財政赤字は金融機関に対する救済金が膨らんだからじゃないか。あいつらはビックバンなんていって高給を取っていたのに、そのつけは労働者か!!」
フランスと同様にイギリスでもゼネストが起こりそうな雰囲気だが、企業経営者はキャメロン政権に大喝采だ。

よく言ってくれた。これでようやくイギリス経済は立ちなおりのきっかけがつかめる。労働党政権は泥舟だった。経済が立ち直れば公務員の失業者は民間部門で雇用が可能だ

 実はイギリスがいつまでも放漫経営を続けられない理由がある。最大の理由がアメリカと違ってポンドが基軸通貨でないことで、財政支出の増大は結局はイングランド銀行がポンドを増刷することにつながり、インフレが更新するからだ。

注)基軸通貨の場合は自国の経済が不振でも世界全体の経済が拡大すれば、それに見合う通貨量の増大が可能になる。アメリカのドルはアメリカだけのドルではなく世界のドルだからだ。

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 イギリスのインフレ目標は約2%だが、現状のインフレ率は3.1%になり危険水域に入りだした。
イギリスポンドもじりじりと安値を更新し、現在は130円を割って127円前後になりこのまま行くと09年1月の最安値118円に到達しそうだ。
国債利回りは幸いに低下傾向にあるが、それでもドイツやフランスに比較すると高利回りの3%前後だ。

注)一時は4%を越していたが、世界各国が資金の垂れ流しを行った結果国債に対する需要が拡大し、安全資産と見られている国債の利回りが低下している。

 イギリスは慢性的に貿易収支が赤字だからドイツや日本と異なり、強いポンドで世界各国から資金を調達しなければ国際収支が均衡しない。
このまま行けばポンドはますます弱くなり、金は集まらず、国家破綻するのは確実だ。そのためには何としても財政再建をして強いポンドを取り戻そう
キャメロン政権は国家破綻か財政再建かと国民に問うている。

 キャメロン政権の危機意識に比較して、同じように財政赤字が突出している日本の鷹揚さはどうだろう。
現在審議中の追加の補正予算の規模は5兆円だが、国債発行以外に財源はない。

 日本は経常収支が黒字で、国債を国内で吸収できることが唯一の利点だ。
だがアメリカを除いて世界が緊縮財政に転換した今、いつまでも日本がアメリカの放漫財政に付き合っている時代は終わりに近づきつつある。
イギリスの緊縮財政は明日はわが身になると思ったほうがよい。

 

 

 

 

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(22.4.28) オバマ政権から見捨てられた国 イギリスと日本

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 洋の東西でオバマ政権から見捨てられた国がある。イギリス日本である。
どちらとも長年アメリカとの特別な関係を標榜し、イギリスは政治と軍事で、日本は経済でどちらがアメリカの寵児であるかを競っていたが、結果はどちらも捨て子になってしまった。

 オバマ政権はヨーロッパではイギリスを無視してEUの盟主であるドイツフランスに接近し、東アジアではもっぱら中国だけが同盟国のようだ。
先日行われた核サミットでは鳩山総理は10分間のランチ対話を許されただけだったが、イギリスも同様に二国間会談は開催されなかった。

注)オバマ政権は中国とドイツとは親密な交渉をした。

 オバマ政権のイギリス無視はかなり前から続いており、昨年9月の東欧へのミサイル防衛配備計画の見直しではイギリスに事前相談もしなかった。
ヨーロッパの安全保障の問題で軍事面で特別な関係を誇る米英関係が「張子の虎」だったわけである。

イラク戦争に同盟軍として参加し、アフガンの戦役でもがんばっているイギリスに対するこれが仕打ちか」イギリスの歯ぎしりが聞こえる。

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 日本のトヨタを血祭りに挙げてGMクライスラーを何とかして自立させようとしたり、核軍縮を提唱して軍事面での負担の軽減を図ろうとしている。
イギリスがいくら軍事同盟の重要性を強調してもオバマ政権からは無視されたままだ。

 イギリスと日本の立場は実に良く似ている。地理的条件もアメリカとの関係も経済状況もそっくりだ。
いずれも大陸の横にある島国で、アメリカとの同盟が唯一の安全保障だったがアメリカから無視される一方で、両国とも経済は長期低迷に陥っている。

 イギリス経済は金融不動産のウェイトが高くGDPのほぼ30%を稼ぎ出してきたが、金融危機後金融機関に対しGDPとほぼ同額の直接支援や債務保証をしたのに、回復ははかばかしくない。
不動産価格は低迷したままで、おかげでGDPに対する財政赤字は10%を越えて日本といい勝負になっている。

注)イギリスの金融機関のレバレッジはほぼアメリカの金融機関の倍で不動産価格の上昇率はアメリカの1.5倍だった。
あまりにバブルの影響が大きく、日本と同様イギリス経済は回復できなくなってしまった。


 S&Pムーディーズといった格付機関から国債の格付けを引き下げると脅されているのはイギリスも日本も同じだが、イギリスにとってつらいのは国債の格付が下がると世界からの資金導入に支障をきたすからだ。
外国人のイギリス国債保有率の割合が約30%で日本の約5%とは大幅に違う。経常収支が赤字のため海外から資金導入を図らなければ経済が回らない。

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 おりしもこの5月に総選挙が実施されるが、政権与党の労働党はすっかり人気がなくなり、保守党が優位といわれているがどちらも過半数を取ることはできそうもない。

 第3政党の自由民主党の躍進が予想されるので、まるで中国の3国史の世界になってきて、連立政権が組まれるだろう。
労働党は財政拡大路線で,一方保守党は緊縮路線を主張し自由民主党はその中間といった位置づけだが、日本と同様に連立内部のきしみは当然出てくる。

 選挙予想で保守党が有利になると国債は値上がりし、一方労働党が巻き返すと国債は値下がりする。
市場はとても神経質だ。

注)保守党は財政再建のために約60億ポンド(約8000億円)の緊縮財政を組むと主張している。

 オバマ政権は完全な内向き政権で、イギリスとの軍事同盟も日本との経済同盟にも関心がなく、ただ国内経済の建て直しのために、中国とEUの市場と資金をあてにしている。
黄昏のイギリスと日本を相手にするな
アメリカに見捨てられイギリスと日本は世界の孤児のようだ。


 

 

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(22.3.5) イギリス 財政破綻の懸念

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 今市場では財政破綻するのはギリシャではなくイギリスではないかとの懸念が広がっている。

 ギリシャイギリスもGDPに対する財政赤字12%台で同じようなものなのだが、ギリシャがEUに対し財政再建を約束したのに対し、イギリスの現政権労働党は放漫財政を続けるといっているからだ。

注)正確には、労働党政権は財政再建は11年以降の課題だといっている。

 もっとも少し前までは労働党政権はこの5月の総選挙までで、その後は保守党が勝利し財政再建に取り組むと見られていたのだが、2月末の世論調査で今まで劣勢だった労働党が保守党に肉薄したため、市場はパニックに落ちてしまった。
まずい、労働党が政権を維持すればイギリス経済は破綻するのではないか

注)最近の世論調査の支持率で、英労働党(35%)と英保守党(37%)の差が2%に縮まった。

 ポンドは昨年の半ばから急落していたが、ここに来て低下の速度を速めている。昨年の半ばまでは160円台だったものが、今は130円に近づいた。
さらに悲惨なのはイギリス国債で10年物の利回りが4%を越えだし、これはイタリアスペインよりも高く、これより上はギリシャ6%台なのだから、イギリス国債はギリシャ国債のちょっと下と言う位置づけだ。

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 英労働党のブラウン政権は日本と同様、財政・金融を総動員してイギリス経済を支えてきたが、他の先進国が09年第3四半期あたりからGDPが回復してきたのに、一人低迷が続いていた。
しかしようやく第四4半期になって前期比+0.3%と回復の兆しを見せ始めた。

 これを見て英国民はほっとしてしまったようだ。
労働党の政策がようやく効をそうし始めた。これなら労働党を支持して、大きな政府で行こう

注)財政規律を無視すれば、国民にとっては増税と福祉切捨ての保守党より、国民に優しい労働党がいいに決まっている。

 イギリスユーロに加盟していないから、財政規律3%の枠にはとらわれない。そうした意味でいくら国債を発行しても購入者がいる限り問題がないのだが、今問題なのはそのうちにギリシャ並みに購入者がいなくなってしまうのではないかとの懸念が生じている。

注)実際に40年国債の売却に失敗した。市場で売却できなければ、イングランド銀行が国債を購入するという方法で売却ができるが、この方法は紙幣の増刷と同じ。

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 他に財政規律がまったく存在しない国はアメリカ日本だが、この2国とイギリスが決定的に異なる点がある。

① アメリカとイギリスとの相違は基軸通貨とそうでない通貨との相違。

 基軸通貨であれば通貨そのものの実需があるので国債はレートが高くなっても売却することができる。一方基軸通貨でない場合は、単なる紙切れなので購入者は自国の中央銀行以外には購入者がいなくなる。

② 日本とイギリスとの相違は経常収支が黒字か赤字かの相違

 日本は慢性的な黒字国家であり、一方イギリスは慢性的な赤字国家。日本は財政赤字があっても国全体としては儲けているので、ファイナンスを自国内でできる。
一方、イギリスは損失が発生しているので、海外から資金を導入しなければバランスしない。

 現在のイギリスの置かれている立場は、赤字国家が海外からの資金の導入ができず、中央銀行の紙幣の増刷に頼って国家運営をしている状態といえる。
しかも労働党政権が継続して今後ともこの方針を変えないとすれば、ポンドは低落し、国債レートが上昇するのは当然と市場は見ている。

ポンド危機は近そうだ。ポンドは売りだ」どうやら市場はそう判断したようだ。

 

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(21.11.13) 世界の問題児 イギリス経済

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 ここにきて世界の問題児イギリス経済であることが明らかになってきた。
09年第3四半期(7月~9月)のGDPの伸び率が、アメリカ、ドイツ、フランス、日本といった先進各国がプラスに転じ、バーナンキFRB議長が「最悪期は脱した」と宣言したのに、イギリス経済は相変わらず水面下にある。

 あまりにひどい現状に格付機関のフィッチが「AAA格付のなかで、リスクがもっとも高いのはイギリス国債」であり、「財政の調整が進まなければ、格付の引き下げを検討する」と言ったものだから、イギリス経済に対する信任が大幅に低下し始めた。

 実際イギリス経済6四半期に渡ってマイナス成長を続けており、イギリスはスペイン、アイルランド、ギリシャ、ラトビアと一緒になって、一周遅れのランナーになっている。

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 イギリス経済は金融業、不動産業、北海原油で成り立っているようなものだが、金融業については金融機関を史上最大規模で支えているのに改善の兆しはまったく見えない。

注)イギリス政府は金融機関に対し約200兆円の支援を行っており、この金額はイギリスのGDPにほぼ匹敵している。
具体的には以下の通り

① 資本投入         約7.5兆円
② 債務保証         約88兆円
③ 今後の債務保証     約37兆円
④ CP等の購入       約20兆円等
 

 また不動産業は住宅価格がいつまで低下するのか分からないような状況で、北海原油も枯渇し始めた。

 イギリス経済をこれほどまでに苦しめている原因は、皮肉なことにサブプライムローン問題が発生するまで、イギリス経済に我が世の春をもたらしてきた金融業にある。

 世界に先駆けてビックバンという金融革命を成し遂げ、シティは世界でもっとも自由で世界最大の市場に生まれ変わった。
しかも主としてオイルマネーを導入するために、イギリスの指標金利は常にECB(欧州中央銀行)の指標金利より高めに設定されていた。
そのため「高金利で、安全で、自由に換金できるイギリス国債」の人気は高かったものだ。

 イギリスには資金が流れ込み、有り余った資金が不動産市場を加熱させ、2000年~2007年の間に不動産価格が約3倍に値上がりした(アメリカは約2倍)。
金融機関はすっかり舞い上がってしまい、自己資本に対する融資や証券化商品の残高は約8倍と、完全なレバレッジ経営になってしまったアメリカは約4倍)。

山高ければ谷深し」のたとえどおり、アメリカ以上にバブルったイギリス経済は低迷している。
日本やドイツが中国等の新興国への輸出増によってようやく最悪期を脱していても、イギリスは常に貿易収支が赤字で輸出増による回復もできない。

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金融機関は含み損を抱え、政府の支援でかろうじて生きてるだけだ。住宅価格はどこまで下がるかわからない。これじゃ回復のめどが立たないじゃないか・・・・・・」でるのはため息だけだ。

 果たしてイギリス経済は今後どうなるのだろうか。
現状はかつての日本の失われた10年にそっくりで、赤字国債を増発して史上最大規模の財政出動をしても、経済は一行に上向かない。

注)09年度のGDPに対する財政赤字は約14%。08年まではEUの財政規律の約3%を維持していた。

 日本には貿易黒字という脱出手段があったが、イギリスにはよれよれの金融と不動産、それに枯渇しつつある北海原油しかない。
もはや自力で復活する条件はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

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(21.3.13) イギリス政府の損失補償制度 自由な市場の終わり

125pxflag_of_the_united_kingdomsvg1 イギリスではとうとう政府が2大金融機関損失補償をすることで、この金融危機を乗り切ることにした(イギリスには巨大銀行が4つあるがそのうちの二つ)。
ロイズ・バンキング・グループ2600億ポンド(約36兆円)、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)3250億ポンド(約46兆円)、合計で約82兆円で、これはイギリスの国家予算にほぼ匹敵する。
代わりにイギリス政府はこの二つの銀行の株式を取得し、実質的に国有化してしまった(日本でも長銀と日債銀を国有化した)。

 現在各国が実施している倒産間際の金融機関救済策は3種類有って、① 公的資金の投入、② 損失補償制度の導入、③ バッド・バンクの設立(不良資産の買取制度)である。

 公的資金の投入は最も効果的だが、赤字が確定しないと何時までたっても追加の公的資金を投入し続けなくてはならない。
政府も国民もイライラして最後は悲鳴をあげる。

 そこで赤字を確定させることで不良債権を切り離そうとするのが、バッド・バンク(不良資産の買取制度)の設立だが、これは金融機関が極端に嫌がる

 理由は一時的に巨額の損失が発生するのと、将来値上がりするかもしれない株式等を二束三文で売り払わなければならないからである。
日本でもバブル崩壊後の不良債権処理のために債権買取機構が設立されたが、私が関係した債権買取機構の買取価格は債権額の3%程度だった。

 そこで考え出されたのが、損失補償制度でこれは損失が将来実際に出た金額だけ保証弁済すればよいことになる。
経済情勢が好転すれば保証金額は少なくなり、反対に悪化すれば最大1年分の国家予算が必要になる。

 実際問題として1年分の国家予算を金融機関の救済に使用することなどできないのだが、そう宣言することで市場に対する安心感を与えることはできる。
そうか、イギリス政府が保証してくれているのか

 しかしことはそれほど簡単ではない。イギリスには保証弁済する金もなく、また借入もままならないからだ。
かつてはイギリス国債はプレミアム国債といわれ、ポンド高と高利回りでアラブの石油成金等が競って購入していた。英国債の外国人比率は約3割で、日本のようにほぼ100%国内で消費されていたのとは違う。

 この状況がバブル崩壊後一転してしまった。
ポンドは下落に継ぐ下落で、ひところ250円だったポンドは現在では140円になり、また5%を越えていた政策金利もとうとう0.5%になってしまった。

 低利回りで、将来下落が予想されるイギリス国債を外国人が買うはずはないし、バブルに浮かれて消費拡大に走ったイギリス国民も債券を購入する余裕などない。
イギリス国債はくずだ」これほど評価が下がった国債も珍しい(ただしアメリカの格付け会社はイギリス国債の評価を高く維持して、間接的にイギリスを支えている)。

 いままでイギリス経済は慢性的に経常収支は赤字だったが、それに見合海外からの投資があり、それでバランスをとっていた。
しかし投資資金が途切れてはなすすべがない。

 残された道は英イングランド銀行がポンドを印刷することぐらいだが、これは経済が収縮している時は完全にインフレ要因になり、さらにポンドの価値を低下させる。

 ビッグバンによって世界で最も自由な金融市場を創設し、わが世の春を謳歌していたが、今では4大銀行のうち、2つを国有化して最も不自由な市場になろうとしている。
これではイギリス経済はサッチャー以前に戻ってしまう。

 かつてイギリスは1976年に財政破綻しIMFに救済を求めた。
経済が好転しなければ、本当にイギリス政府は損失補償を求められる。しかしそのようなことは実際は不可能なのだから、あの財政破綻の悪夢が再びイギリス経済に襲ってきそうな雰囲気になってきた。

 

 


 

 

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(21.1.23) 金融危機とポンドの凋落  ポンドは生き残ることができるか

125pxflag_of_the_united_kingdomsvg1  英国ポンドへの信任が揺らいでいる。一部にはポンド危機という言葉まで使用されている。イギリス経済の変調は著しい。

 ほぼ1年半ほど前まで1ポンド250円とわが世の春を謳歌していたポンドが、とうとう123円と半減してしまった。
この間ユーロも170円から115円になってしまったが、かつてはあれほど開いていたユーロとポンドの価値がほぼイーブンになってきた

 イギリスが1992年欧州通貨同盟から抜け、ポンドを守ると宣言してから18年、ついにポンドはユーロに追いつかれたわけである。

 イギリスは伝統的にバランサーとしての位置を保とうとしてきた。ヨーロッパとアメリカの間に立ち、あるときはEUの一員として振る舞い、あるときはアメリカとアングロサクソン同盟を結ぶ。

 そうすることができたのもイギリスがポンドを守り、世界各国からポンドが信任されていたからに他ならない。
マーガレット・サッチャー首相がビッグバンと称してロンドンをもっとも自由な金融市場にしてから、世界の資金は確かにロンドンに集中した。

 毎年巨額の貿易赤字を出し、経常収支がいくら赤字でもそれに見合う直接投資の受入れがあり、GDPは15年以上に渡って拡大し続けてきた。
有り余る資金を得てイギリスの金融機関は気前よく融資や証券投資に走り、金融機関の資産規模はGDP対比約8倍になってしまった。アメリカの金融機関の資産規模が約4倍だから、アメリカの金融バブルよりすさまじい。

 住宅価格は2000年から2007年までに約3倍値上がりしたが、この間のアメリカの住宅価格の値上がりは2倍だから、イギリスの住宅バブルはアメリカを凌駕している。

 今思えばイギリス経済崩壊の兆しは07年9月の住宅金融機関ノーザンロックの取り付け騒ぎから始まったことが分かる。
ほとんど急にノーザンロックは市場から資金調達ができなくなった。あわてた政府は250億ポンド(約3兆円)の資金を投入し、預金者の預金を全額保証することでこの危機を切り抜けたが、08年2月にはノーザンロックを国有化した。傷口が深く今後どこまで資金投入が必要になるか分からなかったからである。

 当時はこれが世界金融恐慌の始まりだとは、ほとんど誰も気づかなかった。イギリス経済は順調そのものだったし、ノーザンロックは特別に問題があった金融機関で、イギリスの金融制度はゆるぎないと思われていた。
ダーリング財務相は「問題はノーザンロックだけ」と断言していた。

 誰の目にも明確な形で金融恐慌を意識させたのは08年9月のアメリカのリーマン・ブラザーズの倒産だったが、それとても与謝野経済財政担当相は「ハチにさされたようなもの」程度の認識だったことを思い出してほしい。この時期でさえ、まだ十分世界金融恐慌の認識はなかったわけだ。

 しかしその後アメリカのシティグループバンカメが公的資金の投入でかろうじて生きながらえているのを見て、市場はあることに気づいた。
本当に経営がおかしいのはアメリカの金融機関よりイギリスではないか。イギリスの住宅バブルはアメリカ以上だ。それに最初に倒産したのはノーザンロックだった

 その時は急激に来るものだ。1月19日、イギリスの大手金融機関ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドRBS)が280億ポンド約4兆円)の損失を計上したのを見て市場はパニックになってしまった。
やはりそうだ。資産の棄損はシティより悪い
政府はRBS70%の株式を取得して支援に乗り出したが市場はまったく信用していない。

 次の倒産予備軍はどこか。ポンドは最安値を付け、次のターゲットとして市場に狙われたバークレーズの株価は25%余り低下した。

 今後イギリスのポンドはどうなるのだろうか。20世紀後半、イギリスはマーガレット・サッチャー首相の孤軍奮闘で、ポンドをユーロより価値ある通貨としてきた。そのビッグバンといわれた金融の自由化が皮肉にもポンドの首を絞めてしまった
グリーンスパンでさえ止めることのできなかった市場の暴走が、アメリカ以上にイギリスにおこったからだ。

 確実にいえることは、今後イギリスの大手金融機関の損失は傾向的に増大するだろうということだ。それを見て市場はポンドを売り、ポンドもまた傾向的に減価する。近い将来ユーロより価値が低下すればイギリスはポンドを守る気力がなくなる。
これじゃ、ユーロの方がマシじゃないか

 イギリス国民は金融機関が倒産するたびに逡巡し、ため息をつきながら次第にポンドを諦めるだろう。そして最後には、イギリスはユーロ圏の一員として静かにフランスとドイツと肩を組んで暮らすことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

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(20.12.16) イギリス経済がアメリカに似てきた

Images1  アメリカの金融恐慌やビッグスリーの救済問題に目が奪われていたら、イギリス経済が急速に悪化し、まるでアメリカの後を追うような状況になってしまった。

 元々イギリスには金融業北海の原油以外にはまともな産業はなかったが、1993年以降15年以上に渡って経済成長が続き、特に07年は3.3%とG7の中で最高の成長率を達成していた。

 成長の原動力は金融業である。金融工学を駆使した金融業の儲けは大きく、各国はきそってイギリスに投資したためGDPは毎年上昇し、その資金がイギリス国内に有りあまってしまった。

 この資金が不動産投資に向かったため2000年から2007年までに、住宅価格が約3倍の値上がりをした。その間のアメリカの住宅価格の値上がりは約2倍だから、住宅バブルはイギリスのほうがはるかに大きい。何か日本の土地バブルとそっくりだ。

 この住宅バブルがアメリカのサブプライムローン問題を追うようにはじけ始めたのが07年11月で、アメリカに遅れること約3ヶ月である。
住宅価格は08年10月までに、ピーク対比13%落ちたが、タイムズの最近の記事では09年までに約35%低下すると予想している。

 アメリカがすでに30%程度低下し、私の予想ではさらに09年度20%程度低下すると思われるので、イギリスはちょうど1年遅れでアメリカを追っていることになる

 またこのタイムズの記事では、09年度までに住宅を購入したことによる債務超過のイギリスの世帯は、約200万世帯になると予想されている。
これはアメリカの現在の債務超過1200万世帯とほぼ同じレベルになるイギリスの人口はアメリカの約5分の1だから、アメリカイメージに換算すると200万×5=1000万世帯となる)。
イギリスにとってアメリカは「明日はわが身」ということだ(イギリス人もアメリカ人と同様住宅の値上がり益で消費を拡大していた)。

 イギリス経済はなぜこんなにもアメリカ経済と似ているのだろうか。1980年代、疲弊したイギリスを再生したのは鉄の女と言われたマーガレット・サッチャー首相だったが、その最大の功績はビッグバンと称されたロンドンを世界の金融の中心地にしたことである。

 徹底した自由化政策によって、ロンドンは世界で最も金融業が活動し易い場所に生まれ変わった。そこではロイズバークレーズRBSといった金融機関が、今ではおなじみになったディリバティブと称される金融商品を次々に生みだし、高利回りの配当を約束したたため世界の資金が集まった。
ロンドンに投資すれば必ず儲かる」世界中の金持ちが色めきたった。

 ボンドは急激に上昇し、一時は250円(現在は約140円)までなったのだから、多くの日本人はイギリスへの旅行を躊躇したはずだ(日本もバブルの最中は世界で最も物価が高かった)。

 この成功を見たニューヨークの投資銀行が、イギリスの手法を真似て1990年代から世界を席巻するようになったが、元々はイギリスこそが投資銀行の元祖といえる。
アメリカはこのイギリス仕込の金融工学を発展させて、さらに舞い上がってしまっただけであり、それゆえバブル崩壊はアメリカから発生しただけだ。
イギリス人はアメリカ人ほどは舞い上がらなかったことが違うが、中身は全く同じといえる。

 今回の金融危機で、すでにイギリスでは6兆円規模の公的資金を主要銀行に投入しており、また3兆円規模の景気対策を打ち出している。
しかしこれはアメリカ発の金融恐慌対応であり、イギリスの不動産価格が暴落するのはこれからだ。

 イギリスの1年遅れの金融危機は今始まったばかりで、イギリスの不動産をしこたま含んだ金融商品が破裂するのは09年度であり危機はこれからが本番だといえる。

 

 

 

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