(20.8.10) ぼくが生きた時 その6(最終回)
(シナリオシリーズのその6です。その1からの続きですので、その1、その2、その3、その4、その5を読まれていない方は「その1」、「その2」、「その3」、「その4」、「その5」 <リンクが張ってあります>からお読みください)
○ 校庭(数日後,昼休み)
鉄棒。一人でけあがりの練習している哲雄。そこに次郎がちかずいてくる。とおくで様子をうかがっているアキオと子供達。アキオは棒をもっている。次郎を見て戸惑う哲雄。
次郎「哲雄ちゃん,今日,学校終わったら魚取りにいかないか」
哲雄「(とまどいながら)あの,ぼく,都合がわるいんだ」
次郎「なんで,この間,池で魚とろうと約束したじゃんか」
哲雄「でも,駄目なんだ」
次郎「身体が悪いのか?」
哲雄「(当惑して)ううん」
次郎「網,なくしたんか?」
哲雄「ううん」
次郎「じゃ,なぜなんだ?」
二人をうかがっているアキオ達の存在に気付く哲雄。
哲雄「(強く)ぼく,だめなんだ。本当にだめなんだ。もう誘うの止めてくれよ」
アキオ達が二人にちかづいてくる。アキオは手に持っている棒をわざと振り回している。
アキオ「おい,次郎。哲雄がこんなにいやがってんのに,なに無理やりさそってんだよ。哲雄はお前と遊ぶのいやだっていってるだろ」
次郎「哲雄ちゃん,本当か?」
哲雄「・・・・・・」
アキオ「いやだってはっきりいってやれよ。不良とは付き合いたくねえってよ」
哲雄「・・・・・・」
次郎「本当か?」
アキオ「ばかやろう。嫌だっていってるだろ」
手に持っていた棒で急に次郎をぶとうとするアキオ。一瞬ひるむ次郎。その隙をついて子供達全員が次郎に襲いかかる。次郎の服がやぶける。鼻血を出している次郎。執拗に次郎をあしげりする子供達。蒼白になっている哲雄。哲雄が職員室に助をもとめに走る。
○職員室(続き)
真っ青になって,職員室に飛び込んでくる哲雄。教師がびっくりして哲雄の顔を見る。立川先生のところに駆け寄る哲雄
哲雄「せ,先生,来て。大変です。 みんな,喧嘩してます」
立川先生「だれが喧嘩してるんだ」
哲雄「次郎ちゃんです」
間
立川先生「(うんざりした表情で)また,あいつか。誰がやられてるんだ」
哲雄「あの,次郎ちゃんです」
立川先生「誰に」
哲雄「アキオちゃん達が次郎ちゃんをなぐってます」
間
立川先生「哲雄,それならかまわん,ほっておけ。次郎にはいい薬だ」
哲雄「だって次郎ちゃんが」
立川先生「いいんだほっておけ」
悄然と職員室をでていく哲雄。あしげりされている次郎。
○ 教室(翌日の昼)
昼休み。アキオが藁半紙を持っている。周りに集まっている子供達。次郎はいない。
アキオ「次郎のやつ,やけにいばってねえか弱いくせによ。このあいだもタコをパンチして生意気だ。タコはなんにもしねえのになぐられてんだぞ。タコがかわいそうだ」
子供A「ソウダよ、タコがかわいそうだ」
タコ「ぼく,いつも次郎にいじめられるんだ(泣き出す)」
アキオ「次郎は不良だってかあちゃんがいってたぜ」
子供A「あいつは完全に不良さ」
アキオ「あいつなんか、いなきゃいいんだ。そうだろう?」
子供A「そうだよ。抹殺すりゃいいんだ」
子供B「先生も次郎はどうしょうもないヤツだっていってたよ」
アキオ「次郎の葬式ごっこをする。次郎の葬式をするのに反対のやつはいるか(じろっとあたりをみまわす)」
子供A「反対するもんなんかイネイヨ」
笑う子供達。
アキオ「よし,決まった。みんなで次郎の葬式ゴッコをする」
はやす子供達。
アキオ「次郎の葬式ごっこするぞ、葬式ごっこするものこの指とまれ」
いっせいにアキオの指に集まる子供達。アキオの周りに集まって藁半紙に書き込みをする。
アキオ「(読む)次郎、お前が死んで、おれはうれしいぜ」
はやす子供達。
子供A「(読む)地獄にいけ、次郎」
笑う子供達。
子供B「(読む)死ね、悪魔の子」
笑う子供達。
子供C「(読む)死をもって償え」
子供A「(まわりを見回しながら)なんだよ。 女の連中はかかねえのかよ」
アキオ「おい、康子、かけよ(おどす)」
いやいや書く康子。
アキオ「康子も書いたぞ。全員で書くんだ」
女生徒全員が書き込みをする。
アキオ「まだ,書いてないものいねいだろうな(念を押す)」
子供A「哲雄がまだ書いてねえ」
全員で藤沢哲雄の顔をみる。下をむいている哲雄。
アキオ「なんだ,哲雄,お前,なぜ書かないんだ。また仲間外れになりたいのか!」
哲雄「・・・・・・・・・・」
アキオ「みんな書いたぞ。鞄やぶくぞ」
哲雄の鞄を取り上げるアキオ。
哲雄「やめてくれよ(弱く)」
アキオが哲雄の胸をつかむ。
アキオ「じゃ,書くんだ。哲雄,お前は先頭にかけ」
哲雄「(泣き声)なんて書いていいか分からないよ」
アキオ「『次郎,死ね!この日を待ってた哲雄』と書け」
哲雄「ぼ,ぼく,書けない」
アキオ「タコ,ヒロ,鞄をやぶけ」
タコとヒロが哲雄の鞄を両方から思いっきり引っ張る。無残に裂ける鞄。
哲雄「や,止めてくれ」
アキオ「なまいきいうんじゃねえ。みんな,哲雄をやっちゃえ」
全員で哲雄にとびかかる。鼻血をだしながらたたかれている哲雄。
アキオ「(かたで息をしながら)もう,いいこんなやつほっておけ。おい、タコ、先生にも書いてもらってこい。葬式ごっこだからなんでもいいから書いてくれって言うんだ。先頭に書かせろ」
タコ「誰の葬式だって言われたら、どうする」
アキオ「まだ、決まってねいって言え。次郎のだなんて絶対にいうなよ」
タコ「うん」
教室を飛び出していくタコ。
○ 教室(1時)
藁半紙をじっと見つめている次郎。息をひそめて次郎の様子をうかがっている子供達。一番最初に立川先生の文字。
次郎「(心のなかで)『君が死んだことを聞き、先生はほっとしました。おめでとう。立川』」
立川先生が教室にはいってくる。教師の顔を見る次郎。急に藁半紙を破り捨て、教室から飛び出す。あっけにとられる立川先生。一斉に喝采をあげる子供達。哲雄がかなしそうに次郎の後姿を目でおっている。
○ ローカル線の沿線(1時間後)
高架のローカル線のはしをとぼとぼと歩いている次郎。線路に耳をあて列車がちかずいているかどうか調べている。近かづく列車の音。線路から耳を離さない次郎。列車のちかづく音が大きくなり、警報の汽笛が鳴る。ようやく線路から離れる次郎。次郎の前を通り過ぎる列車。再びあてどもなく線路の上を歩いている。
ふたたび、線路に耳をあてる。列車のちかづく音。だんだん大きくなる。警報の汽笛。どかない次郎。
回想『イネのさいごの言葉』
イネ「次郎、人間は生きるために喧嘩しなくちゃ、いけない時あるの。ばあちゃん、山口に行ったら、もう、次郎を助けてあげられない(嗚咽)。だから次郎、お前は一人で強く生きるの。学校のガキ大将とも母さんともたたかって、負けちゃいけないの」
次郎「ばあちゃん、ぼく、約束する。絶対負けない」
次郎を強くだきしめるイネ
回想 終わり
はっとして、線路から離れようとする次郎。あわてたので枕木に足をとられ、動けない。警笛の響き。懸命に足を枕木からはずそうとする次郎。近づく列車。運転手の慌てた表情。警笛。目をつぶる次 郎。急に横から哲雄が線路に飛び出し,次郎のからだにおもいっきりぶつかる。列車が通過する寸前に二人の身体が高架から転げ落ちる。側の鉄柱に頭をうちつける次郎。爆音を轟かして通り過ぎる列車。機関士のバカヤローというどなりごえが消えていく意識の合間に聞こえる
○ 線路下(2時間後)
語り「僕はしばらく意識を失っていた」
意識がもどる次郎。しばらく自分の置かている立場が分からない。頭をかるく振る。側に哲雄が座っている。顔から血がででいる。不思議そうに哲雄の顔を見つめる次郎。
次郎「哲雄ちゃん,どうしたの?」
哲雄「へへ,ふたりで落ちたんだ」
次郎「どこから?」
哲雄「あすこ(線路を指さす)」
次郎「どうして?」
哲雄「おれが,次郎ちゃんにぶつかったんだ。だって,次郎ちゃん,列車にひかれそうだったんだもん。死んじゃうのかと思った」
間
次郎「ここにいるの、どうしてわかった?」
哲雄「心配だからあとからついてきたんだ。そしたら次郎ちゃん,線路のうえからはなれないんだもん。おれ,驚いちゃった」
間
次郎「哲雄ちゃん,おれとあそぶのいやなのんじゃないか?」
哲雄「ううん(首をふる)」
次郎「じゃ,このあいだ魚とりいくのなぜいやがったんだ」
哲雄「次郎ちゃんと遊ぶと,アキオに鞄破くっていわれたんだ」
間
哲雄「でも,おれ,葬式ごっこ嫌だといったんで鞄破かれちゃったからもういいんだ」
間(顔をじっと見つめあう)
次郎「じゃ、これから魚とりにいこうか?」
哲雄「うん」
○ 小川(続き)
幅2メ-トル程度の小川。両方をせきとめ,中の水をせきとめて鮒をてずかみでとっている次郎と哲雄。
次郎「哲雄ちゃん,そっちに逃げた。捕まえろ」
二人で泥まみれになって魚をとっている。 つかれて,土手に腰をかける二人。
哲雄「次郎ちゃん,明日,学校にいくの?」
次郎「(強く)行く」
間
哲雄「また,アキオが意地悪するよ」
次郎「逃げれば,また苛められる。ぼくは絶対に逃げない」
哲雄「鞄,破かれるかもしれないよ」
次郎「哲雄ちゃん,心配しないでいい。あす一番にアキオの鞄を破ってやる」
哲雄「先生が怒るよ」
間
次郎「それでもいい。だってばあちゃんと約束したんだ。男の子は戦うんだって」
間(笑う二人)
次郎「魚取り,続きをしようぜ」
哲雄「(元気よく)うん」
流れる雲。せせらぎ。桑畑。肩を組んで桑畑を帰る二人。
終わり
(お願い) 少し長いシナリオでしたが、最終回まで読んでくださった方には、心から感謝いたします。できれば感想をコメントか私宛メール(yamazakijirou@yahoo.co.jp)で送っていただければとても嬉しいのですが。
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