(20.8.10) ぼくが生きた時 その6(最終回)

(シナリオシリーズのその6です。その1からの続きですので、その1、その2、その3、その4、その5を読まれていない方は「その1」、「その2」、「その3」「その4」、「その5」 リンクが張ってあります>からお読みください


○ 校庭(数日後,昼休み)

 鉄棒。一人でけあがりの練習している哲雄。そこに次郎がちかずいてくる。とおくで様子をうかがっているアキオと子供達。アキオは棒をもっている。次郎を見て戸惑う哲雄。

次郎「哲雄ちゃん,今日,学校終わったら魚取りにいかないか」
哲雄「(とまどいながら)あの,ぼく,都合がわるいんだ」
次郎「なんで,この間,池で魚とろうと約束したじゃんか」

哲雄「でも,駄目なんだ」
次郎「身体が悪いのか?」
哲雄「(当惑して)ううん」

次郎「網,なくしたんか?」
哲雄「ううん」
次郎「じゃ,なぜなんだ?」

  二人をうかがっているアキオ達の存在に気付く哲雄。

哲雄「(強く)ぼく,だめなんだ。本当にだめなんだ。もう誘うの止めてくれよ」

  アキオ達が二人にちかづいてくる。アキオは手に持っている棒をわざと振り回している。

アキオ「おい,次郎。哲雄がこんなにいやがってんのに,なに無理やりさそってんだよ。哲雄はお前と遊ぶのいやだっていってるだろ」
次郎「哲雄ちゃん,本当か?」

哲雄「・・・・・・」
アキオ「いやだってはっきりいってやれよ。不良とは付き合いたくねえってよ」
哲雄「・・・・・・」
次郎「本当か?」

アキオ「ばかやろう。嫌だっていってるだろ」

 手に持っていた棒で急に次郎をぶとうとするアキオ。一瞬ひるむ次郎。その隙をついて子供達全員が次郎に襲いかかる。次郎の服がやぶける。鼻血を出している次郎。執拗に次郎をあしげりする子供達。蒼白になっている哲雄。哲雄が職員室に助をもとめに走る

○職員室(続き)

  真っ青になって,職員室に飛び込んでくる哲雄。教師がびっくりして哲雄の顔を見る。立川先生のところに駆け寄る哲

哲雄「せ,先生,来て。大変です。 みんな,喧嘩してます」
立川先生「だれが喧嘩してるんだ」
哲雄「次郎ちゃんです」

  
立川先生「(うんざりした表情で)また,あいつか。誰がやられてるんだ」
哲雄「あの,次郎ちゃんです」
立川先生「誰に」
哲雄「アキオちゃん達が次郎ちゃんをなぐってます」

  間
立川先生「哲雄,それならかまわん,ほっておけ。次郎にはいい薬だ」
哲雄「だって次郎ちゃんが」
立川先生「いいんだほっておけ」

  悄然と職員室をでていく哲雄。あしげりされている次郎。

○ 教室(翌日の昼)

  昼休み。アキオが藁半紙を持っている。周りに集まっている子供達。次郎はいない。

アキオ「次郎のやつ,やけにいばってねえか弱いくせによ。このあいだもタコをパンチして生意気だ。タコはなんにもしねえのになぐられてんだぞ。タコがかわいそうだ」
子供A「ソウダよ、タコがかわいそうだ」

タコ「ぼく,いつも次郎にいじめられるんだ(泣き出す)」
アキオ「次郎は不良だってかあちゃんがいってたぜ」
子供A「あいつは完全に不良さ」

アキオ「あいつなんか、いなきゃいいんだ。そうだろう?」
子供A「そうだよ。抹殺すりゃいいんだ」
子供B「先生も次郎はどうしょうもないヤツだっていってたよ」

アキオ「次郎の葬式ごっこをする。次郎の葬式をするのに反対のやつはいるか(じろっとあたりをみまわす)」
子供A「反対するもんなんかイネイヨ」

  笑う子供達。

アキオ「よし,決まった。みんなで次郎の葬式ゴッコをする」
  はやす子供達。

アキオ「次郎の葬式ごっこするぞ、葬式ごっこするものこの指とまれ」

  いっせいにアキオの指に集まる子供達。アキオの周りに集まって藁半紙に書き込みをする

アキオ「(読む)次郎、お前が死んで、おれはうれしいぜ」
  はやす子供達。

子供A「(読む)地獄にいけ、次郎」
  笑う子供達。

子供B「(読む)死ね、悪魔の子」
  笑う子供達。

子供C「(読む)死をもって償え」
子供A「(まわりを見回しながら)なんだよ。 女の連中はかかねえのかよ」
アキオ「おい、康子、かけよ(おどす)」
  いやいや書く康子

アキオ「康子も書いたぞ。全員で書くんだ」
  女生徒全員が書き込みをする。

アキオ「まだ,書いてないものいねいだろうな(念を押す)」
子供A「哲雄がまだ書いてねえ」

 全員で藤沢哲雄の顔をみる。下をむいている哲雄。

アキオ「なんだ,哲雄,お前,なぜ書かないんだ。また仲間外れになりたいのか!」
哲雄「・・・・・・・・・・」
アキオ「みんな書いたぞ。鞄やぶくぞ」

  哲雄の鞄を取り上げるアキオ。

哲雄「やめてくれよ(弱く)」
 アキオが哲雄の胸をつかむ。

アキオ「じゃ,書くんだ。哲雄,お前は先頭にかけ」
哲雄「(泣き声)なんて書いていいか分からないよ」
アキオ「『次郎,死ね!この日を待ってた哲雄』と書け」

哲雄「ぼ,ぼく,書けない」
アキオ「タコ,ヒロ,鞄をやぶけ」

  タコとヒロが哲雄の鞄を両方から思いっきり引っ張る。無残に裂ける鞄。

哲雄「や,止めてくれ」
アキオ「なまいきいうんじゃねえ。みんな,哲雄をやっちゃえ」

  全員で哲雄にとびかかる。鼻血をだしながらたたかれている哲雄。

アキオ「(かたで息をしながら)もう,いいこんなやつほっておけ。おい、タコ、先生にも書いてもらってこい。葬式ごっこだからなんでもいいから書いてくれって言うんだ。先頭に書かせろ」
タコ「誰の葬式だって言われたら、どうする」

アキオ「まだ、決まってねいって言え。次郎のだなんて絶対にいうなよ」
タコ「うん」

  教室を飛び出していくタコ。

○ 教室(1時)

  藁半紙をじっと見つめている次郎。息をひそめて次郎の様子をうかがっている子供達。一番最初に立川先生の文字。

次郎「(心のなかで)『君が死んだことを聞き、先生はほっとしました。おめでとう。立川』」

  立川先生が教室にはいってくる。教師の顔を見る次郎。急に藁半紙を破り捨て、教室から飛び出す。あっけにとられる立川先生。一斉に喝采をあげる子供達。哲雄がかなしそうに次郎の後姿を目でおっている。

○ ローカル線の沿線(1時間後)

  高架のローカル線のはしをとぼとぼと歩いている次郎。線路に耳をあて列車がちかずいているかどうか調べている。近かづく列車の音。線路から耳を離さない次郎。列車のちかづく音が大きくなり、警報の汽笛が鳴る。ようやく線路から離れる次郎。次郎の前を通り過ぎる列車。再びあてどもなく線路の上を歩いている。


  ふたたび、線路に耳をあてる。列車のちかづく音。だんだん大きくなる。警報の汽笛。どかない次郎。

 回想『イネのさいごの言葉』

イネ「次郎、人間は生きるために喧嘩しなくちゃ、いけない時あるの。ばあちゃん、山口に行ったら、もう、次郎を助けてあげられない(嗚咽)。だから次郎、お前は一人で強く生きるの。学校のガキ大将とも母さんともたたかって、負けちゃいけないの」
次郎「ばあちゃん、ぼく、約束する。絶対負けない」

  次郎を強くだきしめるイネ
 回想 終わり

  はっとして、線路から離れようとする次郎。あわてたので枕木に足をとられ、動けない。警笛の響き。懸命に足を枕木からはずそうとする次郎。近づく列車。運転手の慌てた表情。警笛。目をつぶる次 郎。急に横から哲雄が線路に飛び出し,次郎のからだにおもいっきりぶつかる。列車が通過する寸前に二人の身体が高架から転げ落ちる。側の鉄柱に頭をうちつける次郎。爆音を轟かして通り過ぎる列車。機関士のバカヤローというどなりごえが消えていく意識の合間に聞こえる 

○ 線路下(2時間後)

語り「僕はしばらく意識を失っていた」

  意識がもどる次郎。しばらく自分の置かている立場が分からない。頭をかるく振る。側に哲雄が座っている。顔から血がででいる。不思議そうに哲雄の顔を見つめる次郎。

次郎「哲雄ちゃん,どうしたの?」
哲雄「へへ,ふたりで落ちたんだ」
次郎「どこから?」

哲雄「あすこ(線路を指さす)」
次郎「どうして?」
哲雄「おれが,次郎ちゃんにぶつかったんだ。だって,次郎ちゃん,列車にひかれそうだったんだもん。死んじゃうのかと思った」

  
次郎「ここにいるの、どうしてわかった?」
哲雄「心配だからあとからついてきたんだ。そしたら次郎ちゃん,線路のうえからはなれないんだもん。おれ,驚いちゃった」

  間
次郎「哲雄ちゃん,おれとあそぶのいやなのんじゃないか?」
哲雄「ううん(首をふる)」
次郎「じゃ,このあいだ魚とりいくのなぜいやがったんだ」
哲雄「次郎ちゃんと遊ぶと,アキオに鞄破くっていわれたんだ」

  
哲雄「でも,おれ,葬式ごっこ嫌だといったんで鞄破かれちゃったからもういいんだ」

  (顔をじっと見つめあう)
次郎「じゃ、これから魚とりにいこうか?」
哲雄「うん」

○ 小川(続き)

  幅2メ-トル程度の小川。両方をせきとめ,中の水をせきとめて鮒をてずかみでとっている次郎と哲雄

次郎「哲雄ちゃん,そっちに逃げた。捕まえろ」

  二人で泥まみれになって魚をとっている。 つかれて,土手に腰をかける二人。

哲雄「次郎ちゃん,明日,学校にいくの?」
次郎「(強く)行く」

  
哲雄「また,アキオが意地悪するよ」
次郎「逃げれば,また苛められる。ぼくは絶対に逃げない」
哲雄「鞄,破かれるかもしれないよ」

次郎「哲雄ちゃん,心配しないでいい。あす一番にアキオの鞄を破ってやる」
哲雄「先生が怒るよ」

  
次郎「それでもいい。だってばあちゃんと約束したんだ。男の子は戦うんだって」

  (笑う二人)
次郎「魚取り,続きをしようぜ」
哲雄「(元気よく)うん」

  流れる雲。せせらぎ。桑畑。肩を組んで桑畑を帰る二人。
                                       
                                        終わり

(お願い) 少し長いシナリオでしたが、最終回まで読んでくださった方には、心から感謝いたします。できれば感想をコメントか私宛メール(yamazakijirou@yahoo.co.jp
)で送っていただければとても嬉しいのですが

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(20.8.9) ぼくが生きた時 その5

(シナリオシリーズのその5です。その1からの続きですので、その1、その2、その3、その4を読まれていない方は「その1」、「その2」その3」、「その4」リンクが張ってあります>からお読みください


○ 自宅(夜)


  布団をひく次郎。夕御飯をたべずにねようとする。破れた上着を隠している。和子が不信に思い声をかける。

和子「次郎、どうしたの。ご飯たべないの? 風邪でもひいたの?」
次郎「今日、食べたく無い。寝る」

  布団の中で

次郎「ばあちゃん、ぼく、今日、アキオと闘った。ばあちゃんに言われた通り、ぼく、闘った。上着破られたげど、ぼく、負けなかった。アキオが泣いた。ぼく始めて泣かなかった」

○ 学校(昼休み)

語り「僕はいつかクラスで一番身体が大きくなっていた。そして喧嘩してみて、始めて自分が必ずしも弱くないことを知った」

  杉の木の鬼。雄叫びをあげながら次郎に迫ってくる子供達。最初にやって来たタコをおもいっきりなぐりつける次郎。泣くタコ。猛然と次郎に飛びかかるアキオ。とっくみあいの喧嘩。アキオをなぐる次郎。おさえつけられるアキオ。アキオに加勢する子供。辺りかまわずちかづく子供の腹を蹴飛ばす次郎。だれも次郎にかなわない。泣く子供。肩で息をする次郎

○ 教室(放課後)

  担任の立川先生が喧嘩の原因を聞いている。

立川先生「えぇー、どうしたんだ。どうしてこうなったんだ。言いなさい」

  黙っている子供達

立川先生「次郎、なんでみんなの腹をけったんだ、えぇー、あぶないじゃないか」

  唇を噛みしめてなにも言わない次郎。顔に擦り傷がある。

立川先生「最初に手をだしたのは誰だ(大きな声で)」
アキオ「次郎だよ、次郎がタコの腹を蹴っ飛ばしたんだ。だから、オレ、止めようとしたら、次郎がオレにパンチしたんだ。だから、喧嘩になったんだ。ナアー、みんな、そうだよなー」
子供達「(はやす)そうだ、次郎だ、次郎だ」

  黙って唇をかむ次郎。藤沢哲雄が手をあげようとする。

哲雄「あの・・・・」
立川先生「なんだ哲雄」
アキオ「哲雄,本当のこといえよ(睨みつけるアキオ)」

哲雄「いえ、なんでもない(口籠もる)」
立川先生「次郎,お前が最初にやったのか?」

  黙って答えない

  
アキオ「みんなみてたんだ、なあ。次郎が先にやったんだよな」

  そうだ,そうだとはやす子供達

立川先生「よし、分かった。他の者は帰っていい。次郎、お前は先生がいいと言うまでそこでたってなさい(決心したように)」
子供達「(はやす)ヤーイ、ヤーイ」

  天井をキッと睨んでいる次郎。

○ 教室(夕暮れ)

  暗くなる教室。ひとりたたずむ次郎。

次郎「(独白)ばあちゃん、ぼくばあちゃんとの約束まもってる。だってぼく、泣くといじめられる。だから闘うんだ」

  立川先生が教室に入ってくる。先生が優しく語りかける。

立川先生「次郎、どうしたんだ。お前、まえはこんな事、しなかったろう。喧嘩して、いつも泣いてた次郎が、どうしてパンチなんかするようになったんだ」

  
立川先生「先生、怒らないから、いってごらん」

  唇をかみしめたままの次郎。

立川先生「次郎、次郎にはおばあちゃんがいたな」

  びっくりして先生の顔をみる次郎。

立川先生「おばあちゃん、国に帰る前に先生のところにきた。おばあちゃん、次郎を助けてくれといってきた。家の話みんな聞いた」

次郎「(はじけるように)ぼく、ぼく、いつも泣いてた。だからぼくいつもいじめられた。だから、ぼく、もう泣かない。ばあちゃん、男の子は強くなれって言った。だから、だから、パンチしたんだ」

  
次郎「ぼく、そうしないと、いつも鬼だからだから、ぼく・・・・」

  じっと次郎をみつめる立川先生。

立川先生「次郎、分かったから、もう帰っいい。(間)ただパンチはよくないな」
次郎「うん」

○  映像

  アキオとの喧嘩。殴りつける次郎。互いの服が破れる。おびえる子供たち。次郎の後ろに回って次郎の足を蹴飛ばそうとするタコ。次郎が先に気付きタコの頬をおもいっきり引っぱたく。大声で泣き叫ぶタコ。

○ 父兄会(数日後,午前中)

  アキオの母親、下村まさ(33才)が立川先生につめよっている。同調する他の母親

まさ「先生は御存知ないかもしれませんが、この頃斉藤君の暴力には、ほとほと手をやいてるんですよ。先だっても、アキオの服がボロボロに破かれているんで、聞いたら斉藤君にやぶかれたっていうじゃありませんか。服、破かれてるの、アキオだけじゃありませんよ。他の生徒だってみんなそうです。それにタコちゃんなんか、いつもなんの理由もないのに斉藤君にたたかれてるんですよ。ねえ、みなさん(同意をもとめる)」

  うなずく他の母親。

母親A「斉藤さん、ちかごろ父兄会にいらっしゃらないけど、ちゃんと出てきて実情を把握してもらいたいものですわ」

  うなずく他の母親。

立川先生「はあ、お怒りはもっともですが、これには何か訳があると思います。よく調べてから次郎に注意しますから、すこし時間をください」

まさ「なにも訳なんかありません。斉藤君は不良なんじゃないですか。このままでは安心して子供,任せられません。きちっとしてください。いいですか、先生(強い調子で)」
立川先生「はあ,お約束します」

まさ「(皮肉っぽく)先生は斉藤君のおばあちゃんに何かいれ知恵をされているってもっぱらの評判ですよ。えこひいきしているって言う人もいますし」

立川先生「(あわてて)あっ,いえ,そんなことは決してありません。次郎には私から厳しく言っておきます」
まさ「どうしても駄目なら,校長先生にもご相談しなければと皆さんと話し合っていますのよ(十分な皮肉をこめて)」

  同調する母親。額の汗を拭う立川先生。

○ 職員室(昼休み,続き)

  立川先生の前に立っている次郎。イライラしている立川先生。他の先生がきき耳をたてている。

立川先生「次郎、先生は次郎にまえ、言ったろう。暴力はいかんと。なんでパンチするんだ。もうすぐ中学生になるっていうのにいつまでガキなんだ」
次郎「・・・・・」
立川先生「次郎、だまっていちゃわからんだろう(声を強める)」

次郎「・・・・(唇をかみしめたまま何もいわない)」
立川先生「アキオとタコのお母さんが、理由もなくお前がなぐるといってきたぞ。お前はいつからそんな悪い子になったんだ、えー(興奮する)」
次郎「・・・・」

  思わず,立川先生が次郎の胸ぐらをつかむ。

立川先生「次郎、いってみろ。だまってちゃ分からんだろうが」
次郎「(昂然と)ぼくは悪くない」
立川先生「なにをいうんだ。馬鹿(頬をたたく)お前は先生のいうことが分からんのか。そんなことじゃ,中学になったら不良になるぞ」

次郎「(弾けるように)ぼくはタコにいつも服,破られたんだ。そのときぼく、先生にいいつけなかった。いつもぼく、鬼だったんだ。でも、だれもかくれんぼ、やめようって言わなかった。アキオとタコなんかなぐっていいんだ」

立川先生「そ,そんな,古い話をきいてるんじゃない。いまのことをいってるんだ」
次郎「お母さんはいつもたたく。先生もそうだ。だからぼくだってたたいていいんだ」
立川先生「ばかやろう。この不良が!(ふたたび頬をたたく)」

  右頬をおさえ職員室を飛び出す次郎。茫然と見送る立川先生。

○ 校庭(同昼休み,続き)

  杉の木の下に子供が集まっている。アキオとタコが藤沢哲雄を詰問している。

タコ「哲雄,お前,やけに次郎となかいいじゃねいか。いつから子分になったんだよ」
アキオ「(すごむ)次郎と遊ぶと俺たちの仲間にいれないといっただろう」
タコ「仲間外れになってもいいのかよう。学校にこらせねえぞ」

  タコが哲雄の肩をこずく。

哲雄「・・・・・・・・・」
アキオ「いいか,哲雄,次郎にもうおまえとは遊ばないと言え。仲間外れになりたくなかったら次郎に言うんだ(強く)」
哲雄「やだ」
アキオ「お前,いい鞄もってるじゃないか。こうなってもいいのか?」

  アキオが哲雄の肩かけ鞄をとりあげ足でふみつける。他の子供も鞄を踏みつける。泣き出す哲雄。

哲雄「なにするんだよう。かあちゃんにおこられるよう。止めてくれよ」
タコ「金もないくせにいい鞄買うんじゃねい」
アキオ「弱いくせに強がるからいけないんだ鞄,破け」

  鞄を破こうとする子供達。教科書が地面にこぼれ落ちる。

哲雄「(泣き声)やめてくれよ,かあちゃんが働いて買ってくれたんだ」
アキオ「じゃ,次郎と遊ばないというか?」
哲雄「(不承不承)うん,いう」
アキオ「おい,鞄をかえしてやれ」

  ようやく哲雄にかえされた鞄。教科書が泥でよごれている。

アキオ「いいな,次郎と遊ぶとまたこうなるらな(脅す)」

  肩をいからせながら去っていく子供達。茫然とたたずむ哲雄。

(明日に続く)

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(20.8.8) ぼくが生きた時 その4

(シナリオシリーズのその4です。その1からの続きですので、その1、その2、その3を読まれていない方は「その1」、「その2」その3」リンクが張ってあります>からお読みください

○ 自宅(数日後の真夜中)

語り「そして、ある夜」
和子「次郎、きなさい、起きなさい、すぐに起きるの(興奮した声)」

  灯りがついており、令子と則夫が隅で泣いている。興奮している父母。諦めきった顔のイネ。

和子「次郎、父さんはね、あたしにでていけっていうんだよ」
一郎「出ていけなんていってない。あなたがこんな貧乏所帯にいるのがいやなら、出ていってもいいといったんだ」
和子「なによ、でていくさき、ないの分かってて、そういうこと言う」

一郎「や、山口に、いったらいい(つっかえながら)」
和子「じゃ、子供はどうするの、次郎は!令子は! 則夫は!(ヒステリックに)」
一郎「出ていくものがそんな心配しなくていい!(強く)」

  大声で泣き出す令子と則夫。下を向く次郎。

和子「なら、子供に聞いてみる。次郎、おまえ、どうする? 母さんといく? 父さんといる?(超興奮状態で)」

  下を向き、答えない次郎。次郎の胸をつ かみ、揺する和子。

和子「答えなさい、次郎!」
イネ「やめなさい。和子!(強くたしなめる)子供にそんなこと言って、答えられる訳ないでしょ!」

  (長い沈黙)
イネ「(決心したように)山口には、おばあちゃんがいきます。一人でも、減れば、少しは助かるでしょ。だから、和子、そんなこと子供にいうのはおやめ!」

  (父母が驚いて、イネの顔をみる)
次郎「ばあちゃん、山口にいっちゃうの?ぼく、ぼく,ヤダ(涙ごえ)」

  
イネ「次郎、大人の世界では、どうしょうもないこと、あるんだよ。お前も、大人になったら分かるから、だから、おばあちゃんが山口にいっても我慢するの(言い含めるように)」
次郎「ヤダ(目に涙をためる)」

  次郎の頭を静かにさするイネ。沈黙。破れた障子。割れた硝子窓。

○ 台所(1カ月後)

  イネと次郎。イネが次郎の肩にてをかけ諭すように話かけている
      
語り
「しかし、すぐに祖母は、山口に行かなかった。おそらく、大人の社会には難しい手続きがあり、それに数カ月要したのだろうと思う。山口に行く前日、祖母は僕に言った」

イネ「次郎、今日は、おばあちゃんのいうこと、よく聞くの。そして、絶対にわすれちゃ、だめだよ」
次郎「うん」

イネ「母さん、今、死のうとしている。次郎をつれて、死のうとしている。だから、次郎、母さんがどっかにいこうと言っても、絶対についていっちゃいけないよ。それになにか、へんなもの食べろといっても、絶対にたべちゃいけない。食べたふりして、吐き出すんだよ」

次郎「うん、ばあちゃん、そうする」
イネ「次郎、お前はほんとうにいいこだ。ばあちゃん嬉しい。(大きく息をして)でも次郎、本当は、ばあちゃん、次郎にとってもわるいことしたと、思ってる」

  (じっとイネの言葉に耳を傾けている次郎)

イネ「和子がこんな我慢なしに育ったの、みんなばあちゃんの責任だ。地主の子だといって甘やかしほうだい、甘やかしたから・・・ばあちゃん、昔、農地開放でたんぼ取られたとき、本当に悲しかった。でも、それよりもっと悲しかったのは、次郎、お前が和子に叩かれて、泣いているときだった
 ・・・・・・・」

  
次郎「ばあちゃん、ぼく、もう泣かないからだから、だいじょうぶだよ」

  次郎を強くだきしめるイネ。次郎の顔を見つめながら。 
          
イネ「よくお聞き、次郎。ばあちゃん、ず-っと次郎のこと見てきた。次郎はとっても心の優しい子だ。だけどね、次郎。男の子は心が優しいだけじゃ生きていけないよ」

  うなずく次郎。

イネ「次郎は小さい頃、いつも近所の子に仲間外れにされて、泣いていた。学校でも、ガキ大将にいつも泣かされてるだろ。運動会のとき、ステテコはいてって、次郎、泣いてたじゃないか。ばあちゃん見てたんだ」

次郎「ぼく、泣きむしだから・・・・」
イネ「次郎、いいかい、泣く子はいつも泣かされるんだよ。だから、男の子はけっして泣いちゃいけない」
次郎「ぼく、喧嘩強くないから・・・」

イネ「次郎、人間は生きるために喧嘩しなくちゃ、いけない時,あるの。ばあちゃん山口に行ったら、もう、次郎を助けてあげられない(嗚咽)。だから次郎、お前は一人で強く生きるの。学校のガキ大将とも母さんともたたかって、負けちゃいけないの」

  

次郎「ばあちゃん、ぼく、約束する。絶対負けない」

  ふたたび次郎を強くだきしめるイネ

語り「それが祖母の最後の言葉になった。祖母は山口に帰ると体調を崩し、そのまま帰らぬ人となったという。しかしあとで、僕は祖母が自殺したのだと聞いた」

○ モンタージュの連続

  食事時、ご飯茶碗を一郎に投げつける和子。体にくっついたご飯粒を黙ってとる一郎

  6畳間。令子の髪の毛をもって、引きずり回す和子。泣き叫んでいる令子。茫然と見ている次郎と則夫

  包丁を持って次郎を刺そうとする和子。座蒲団で防いでいる次郎。和子の足を思いっきり蹴飛ばす次郎。もんどりうって倒れる和子

○ 校庭(放課後)

  がき大将のアキオのまわりに集まっている子供達。いつものかくれんぼをするところ
               
アキオ「おい、次郎、オメイ、また鬼だ。ヤレヨ」
次郎「(ちから強く)ヤダ、しない」
アキオ「(胸をつかんで)ナンダよ、次郎、オメイ、そんなこと言えるのかよ。昨日の最後の鬼だろ」

次郎「(手を払いのけて)鬼はしないときめたんだ」
アキオ「(もう一度胸をつかんで)泣きをみていのかよ」

  タコが後ろから次郎にちかずき、次郎の足を蹴飛ばす。振り返りざまタコの横顔を張り倒す次郎。張り倒された頬をおさえ、びっくりして泣き出すタコ。アキオの顔色が変わり、猛然と次郎に飛びかかる。次郎とアキオのとっくみあい。次郎の上着が破ける。周りであっけにとられて見ている子供達。次郎がアキオを引き倒す。下でもがくアキオ。

アキオ
「(もがきながら)タコ、ヒロ 次郎にかかれ」

次郎に襲いかかるタコとヒロ。タコをあしげりにする次郎。飛ぶタコ。もうだれも二人にちかづかない。ついに泣き出すアキオ。唖然として見ている子供達。



明日に続く)

「別件
おゆみ野の森で草刈隊の参加者を募集しています。

8月9日(土) 10時から12時
その後、バーーべキュー大会をします。

基本は大人が対象で、作業をした後楽しくバーベキューを食べようとの主旨ですので、気楽に参加してください。

道具は用意してありますから、各自は作業が出来る服装で来て頂ければ結構です。

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(20.8.7) ぼくが生きた時 その3

(シナリオシリーズのその3です。その1からの続きですので、その1、その2を読まれていない方は「その1」、「その2」リンクが張ってあります>からお読みください


○ 運動会(100メートル競争)


  破れて泥のついたステテコで走る次郎。父兄席で次郎を指差し、小声で囁きあっている母親たち。

○ 校庭の杉の木(運動会終了後)

  杉の木の下にアキオと次郎、クラスの子供達が集まっている。

アキオ「次郎は嘘ついたから、この木でセミになれ。罰だ!」
次郎「嘘なんかついてない」
アキオ「嘘、ついたろう。ステテコを白ズボンなんて言ってよ-」

次郎「白ズボンだ」
アキオ「なんだよ-、先生だってステテコだって言ってたじゃねえか。じゃ-先生が嘘ついたっていうんか(勝ちほこったように)」
子供達「(はやす)言ってやろ!言ってやろ!先生のこと嘘つきだって、次郎がいってたって言ってやろ!」

  黙って下をむく次郎

アキオ「蝉になれ、命令だ!」

  杉の木に登り、蝉の真似をする次郎。アカトンボの飛翔。

○ 自宅(冬、朝)

語り
「家計はまったく好転しなかった。むしろジリジリと悪化していった」
  ちゃぶ台には、朝の支度がしていない。不信そうにちゃぶ台をみている兄弟3人。何もいわない父とイネ。母が財布から20円玉をとりだす。

和子「今日はご飯がないから、次郎、これでコッペパンかっといで」
令子「何で、ご飯ないの、ヤダ」

  口をとがらす令子、下を向く次郎。

令子「ヤダ、絶対ヤダ(拗ねる)」

  困惑する父母、イネ。

次郎「いいよ、令子、パン買いにいこう」 

  不満げな令子、ほっとした大人達。

次郎「令子、行くぞ(大きな声で)」
令子「うん(不承不承)」

○ パン屋(同日)

  20円でコッペパンを買う次郎。白い息。霜焼けの手。後ろで、肩を落とし、石を蹴っている令子。

令子「にいちゃん、どうしてご飯じゃないの?」
次郎「令子、コッペパン、きらいなのか?」
令子「そうじゃないけど」

  
令子「ジャムもつけないの?」      
  間

○ 自宅(同日)

  まないたの上にコッペパンを置き、包丁で3等分する次郎。のぞきこむ令子と則夫。少し大きさが揃わない。

令子「にいちゃん、そっちのほうがおおきいよ」

  あわてて、大きさをそろえる次郎。大事そうにコッペパンをたべる子供たち。見てみぬふりをする一郎と和子。後ろでなみだぐんでいるイネ。


○ 藤沢家玄関口(12月、土曜日、午前)

  藤沢家の安手の玄関口。靴がとびちらかしてある。和子が藤沢家に借金にきている。藤沢秀夫(44才)と藤沢テル(42才)が応対にでている。

語り「この頃母は返すあてのない借金の依頼にかけづりまわっていた」

和子「こんなこと、言うのは大変申し訳ありませんが、子供の給食費もまだだしてないんです。藤沢さんもごぞんじのとおり、元はといえば、藤沢さんの依頼もあり、B織物に主人が裏書をしたのが始まりですので500万の一部でもいいですから、返してほしいのです」

秀夫「奥さん、何か勘違いしていませんか。確かにB織物は私の親類です。だけど私が依頼したから裏書したんじゃない。あんたのご主人が欲に目がくらんだからじゃないですか。金を貸して欲しいと素直にいうなら、こっちもまんざら無関係じゃないから、考えんこともない。それがどうですあんた、返してといいましたね。冗談じゃない。借りてもないのに何故、かえさにゃならんのですか。お断りです」

  和子、怒りで目がつり上がる。テルは下を向いている。

和子「藤沢さん、あなた、よくもそんなこといえますね。(つまりながら)私、ききましたよ。B織物と一緒になって、主人に酒のまして、いざとなったら、親類縁者で責任持つといったっちゅじゃないですか。あんた、親戚でしょ、責任とってください( ヒステリックに)」

秀夫「な、なにをいいだすんだ。互いに酒の席じゃないか。あんたの主人が欲張りだからこうなったんだ。いいがかりだ。証拠を見せろ、証拠を! なにもないじゃないか(興奮して)」

和子「しらじらしい。世間にいいふらしてやる。みんな、言ってやる。藤沢は嘘つきで人のいき血を飲む極悪人非人だといいふらしてやる(叫ぶ)」

秀夫「何だ、何だ、人がだまってきいていたら、いいきになって。貧乏が頭にきて気が触れたんじゃないか。帰れ!帰れ!二度とくるな!(大声で)」
和子「だれがくるか! 人非人、人でなし!(ヒステリックに)」

  ドアーを思いっきり強く閉めて出ていく和子。藤沢秀夫は横の壁をあしげりする。テルは下をむいたまま。

○ 和子の回想

 (映像)
  正月。庄屋の屋敷に小作が50名ほど集まっている。床の間を背にした和子の父母。そして女学生の和子。盛大な料理。卑屈に年賀をのべる小作。鷹揚な態度の和子の父,房太郎。昂然ととりすました和子。着物が美しい。

  (映像)
  藤沢家の玄関。借金の申込みをしている和子。断る藤沢秀夫の顔。ドアーをしめて、天を仰ぐ和子

和子「イヤー、イヤー、もうイヤー。死んでやる。死んで化けてやる」

○ 藤沢家玄関口(夕方)

  藤沢哲雄(12)と次郎が遊びながら帰ってき、玄関をあける。

語り「当時、私は藤沢家の長男哲雄とクラスが同じであり、もっとも仲のよい友達だった」

哲雄「今日、次郎ちゃん、オレんちでご飯たべろよ」
次郎「うん、そうする」
哲雄「かあちゃん、今日次郎ちゃん、オレんちで、ご飯たべるって(元気よく)」

  二人が家の中に入ってくる。玄関、食堂 六畳一間の小さな家。安手の家具が置いてある。奥まった6畳間に炬燵。藤沢秀夫が座っている。テルは台所。次郎の顔を見て、藤沢秀夫とテルが顔をみあわせ  る。藤沢秀夫はバツがわるそうに目をそらせ、新聞を見るふりをしながら次郎に背をむける。テルは涙ぐむ。

テル「あっ、次郎ちゃん。よくきたね。今日おばちゃん、美味しいもの、いっぱい作ってあげる。次郎ちゃんの好きな卵焼きにしょうか? おばちゃん、つくってあげる」
秀夫「そう、そうしなさい。それがいい(つまりながら)」

○ 藤沢家(夕食)

  秀夫、テル、哲雄、和夫(哲雄の弟、9才)、そして次郎。そまつなテーブルに それぞれの卵焼き。次郎のが一番大きい。

和夫「ずるいよ。次郎ちゃんのが一番大きいよ」
テル「次郎ちゃんは、身体が一番大きいからこれでいいの」
和夫「だって、次郎ちゃん、家の子じゃないのに・・・」
秀夫「和夫、だまって食べなさい。これでいいんだ(強く)」

  嬉しそうに卵焼きをほうばる次郎。外は星がきらめいている。

○ 自宅(同日,続き)

  次郎が元気よく帰ってくる。家では和子が泣きはらした目をしている。

次郎「ただいまー。かあちゃん、おれ、今日ご飯いらないよ(大声で)」

  和子がききとがめる。

和子「どうして?」
次郎「おれ、今日、哲雄ちゃんちでいっぱいたべたんだ。こんな大きな卵焼きだよ。おばちゃんが特大の卵焼き作ってくれたんだ」

  次郎、手で大きさをしめす。和子は怒りで身体が震える。

和子「次郎、もうあんな家、いっちゃダメ(怒りをおしころして)」
次郎「なんで(怪訝そうに)」
和子「かあさんがダメといったら、ダメなの(ヒステリックに)」

  (次郎、茫然としている)
次郎「だってー、おばちゃんやさしいし、おじちゃんだってやさしかったよ」
和子「馬鹿(右手で次郎の頬をおもいっきりたたく)」

  左頬を押さえ唖然としている次郎。次郎の胸ぐらをつかみゆする和子。

和子「おまえに、かあさんの気持ち、わかってたまるか。かあさん、藤沢で馬鹿にされたんだよ。悔しいよー。もとはと言えば、小作じゃないか。かあさん、もう我慢できない。死んでやる。死んで化けてやる。次郎、おまえも一緒に死にな(泣き叫ぶ)」

次郎「ヤダヨ(和子を強く押し戻す)」

  和子の身体がとび、仰向けにたおれる。興奮する和子。

和子「次郎、おまえ、かあさんに手かけたね。 親に手かけたね。親に手かける子は少年院にいれてやる。こうしてやる(次郎を押し倒おす)」

  下からあしげりする次郎。ふたたび和子の身体がとび、襖に身体をぶつける。台 所に飛んでいく和子。逃げようとする次郎。玄関のガラス戸が閉まっており、すぐに開かない。包丁をもって次郎を追い かける和子。部屋の中で、座蒲団をたてに包丁を避ける次郎。

和子「死んでやる。おまえを殺して、死んでやる(ヒステリックに)」

  イネがハラハラしながらみている。令子と則夫は脅えて隅で震えている。

イネ「和子、馬鹿なことはやめなさい。包丁振り回すのやめなさい」

  イネの存在にきずく和子。イネのほうに向かって包丁を振りかざしながら。

和子「死んでやる、みんな殺して死んでやる(ヒステリックに)」

  和子がイネの方をむいたすきをついて、後ろから和子をはがい締めする次郎。思わず包丁を畳に落とす和子。その包丁を拾って一目散に外に飛び出す次郎。泣き叫びながら、食器をあたりかまわず投げる和子。泣く令子と則夫。二人をかばうイネ。

○ 建てかけの家(同日、真夜中)

  建てかけの一軒家。屋根と床が張られており、壁は一部つくりかけている。夜空が見える。北風。寒さに震えながら、壁に寄り添っている次郎。右手に包丁。自動車のライトが一軒家を照らす。脅えるように壁に身体を押しつける次郎。遠くから次郎を呼ぶ一郎のこえ。だんだんちかづいて来る。

一郎「次郎 、次郎 、いたら答えなさい。次郎 、次郎 」

  一軒家から、おずおずと出てくる次郎、右手に包丁を持っている。

次郎「とうちゃん、ここにいるよ」

  
一郎「次郎、とうちゃんとかえろう」
次郎「ヤダヨ、だって、かあちゃん、また包丁持っておいかけてくるもん」
一郎「なにしたんだ?」
次郎「知らない。哲雄ちゃんちで卵焼き食べたっていったら、急にぶつんだ」

  
一郎「そうか・・・・・」

  
一郎「母さん、いま、心がいたんでいるんだ。だから、次郎、母さんにごめんなさいといいなさい」
次郎「(強く)ヤダ、だって、ぼく、わるくないもん」
一郎「次郎、母さんはいま病気なんだ。ごめんなさいと言ってあげなさい。(間)それに、明日、次郎、映画につれてってあげるから・・映画すきだろ?」

次郎「うん」
一郎「その包丁かしなさい」
次郎「うん」

  包丁を手わたす次郎。次郎の肩に手をかけ促す一郎。月の光がまばゆい。

明日に続く)

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(20.8.6) ぼくが生きた時 その2

(シナリオシリーズのその2です。その1からの続きですので、その1を読まれていない方は「その1」リンクが張っております>からお読みください

○ 家(秋、夜中)

語り「僕が小学校6年になるまで、父の存在を意識したことはなかった。父は年の半分を東北の秋田や盛岡に行商にでており、帰ってくるときには、東北特有の味のない乾いたサラのようなせんべいを買ってきた」

 6畳間、親子5人が寝ている。父母の話し声(小声)。

和子「で、裏書きをしたの?」
一郎「うむ」
和子「だまされるんじぁない?」
一郎「うむ」
和子「前にも一度不渡りだしたんでしょ」
一郎「うむ」
和子「お父さんは人がいいから、酒のまされて、だまされるんじゃない」
一郎「いや、大丈夫だ。あそこはいざとなったら、財閥がついている」
和子「財閥って、A商店? 高利貸しじゃない」
一郎「うむ」
和子「で、裏書きするといくらくれるって?」
一郎「二割か三割、いや、三割五分かな、500万だから、えぇーと、200万位になる(急にはっきりと)」
和子「・・・・・・・・」
一郎「商売のことは私にまかせておけばいい(強く)」 
             
  
和子「なら、お父さんにまかせるけど、危険なことはしないで下さい。いま倒産が多いんだから(不詳不精)」

  間

○ 夜中(数日後)

語り
「そして、数日後」

 父母の争う声。
和子「だからいったでしょ(おしころした声)」

  間
和子「私があれほど止めろといったのに!」

  
和子「だまされて、お金どうするの(声が大きくなる)」

  
和子「手形、落ちないんでしょ、いくら足りないの?」

  
一郎「うむ」
和子「幾らなの(金切り声)」
一郎「子供がおきるじゃないか」

  
一郎「500万だ」
和子「どうするの」

  
和子「どうするの(強く)」
一郎「あてがある。A商店に頼んでみる」
和子「高利貸しじゃない!」
一郎「こおいう時は、高利貸しが一番たよりになる」
和子「担保は?」

  
和子「担保はなんなの?(大きな声)」
一郎「この家だ」
和子「だめよ。絶対だめ(叫び声)

  和子の泣き声

語り「この日から、毎日父と母のいいあらそいが始まった」

○ 自宅、3畳の間(数日後、午後)

  来客、債権者がきている。応対している一郎。台所の陰で聞いている和子、イネ

来客「私もこまるんですよ。斉藤さん、あなたを信用したから貸したんです。たがいにながい付き合いでしょ。だから貸したんだ。あの金がないと、私も、手形、おとせないんです。返してくれるんでしょうね(顔を覗き込むように)えっ、斉藤さん」

  
来客「どうなんですか(いらいらしながら)」
一郎「いゃ、盛岡のX商店から、今月入金の当てがありますので、それがはいったら・・・必ず、必ずお返ししますので・・・(ぼそぼそと)」
来客「幾らですか(たたみかけるように)」

  
来客「ええ、いくらなんですか(強く)」
一郎「200万、いや、400万です」
来客「それを真先に、私(強く)に返してくれるんでしょうね?」
一郎「えぇ(弱く)」

  
来客「長いつきあいだから、こんなこと言いたくないが、いざとなったらこの家、処分してもらいますよ」
  

○ 自宅、台所(同時刻)

  学校から帰ってきた次郎。債権者の言葉にきき耳を立てている和子とイネ。次郎が給食費の袋を取り出す

次郎「かあちゃん、先生がねぇ、今日、給食費、持ってきていないひと、早く持ってきてくださいって」

  それどころではないという顔をする和子

次郎「ねぇ、かあちゃん、先生がねぇ、まだもってきていない人、僕だけだっていってたよ(少し強く)」
和子「いま、母さん、いそがしいんだから、あとにしなさい(イライラと)」

次郎「だって、先生が(強く)」
和子「馬鹿(左頬をおもいきりたたく。襖にたたきつけられる次郎)」
イネ「止めなさい、和子!(叫ぶ)」

  泣き出す次郎。鼻血。手拭いで出血を止めるイネ

和子「泣くの止めなさい。いま、お客がきてるんだから、泣くんじゃない(ヒステリックに)」

  シャクリあげる次郎。

○ 自宅、3畳の間(同時刻)

  母子のやりとりをきいて、いたたまれず下をむいている一郎。同じくバツのわるそうな借金取り

来客「ま、今日はこれで帰りますが、かならず耳をそろえて返してください。私だって好きでこんなこ としてるんじゃないんだ」
  
  頭をさげたままの一郎。ほっとした表情の和子、イネ。シャクリあげる次郎。

和子「高利貸しのくせに、くやしいー(おしころしたように)」

○ 自宅(翌日、夕方)

  6畳の間、壁ぎわに大きな電気蓄音機。耳をスピーカーに当てるようにして、ラジオ放送をきいている次郎。一郎が次郎 の側にやって来る。

語り「翌日のことだった」
一郎「次郎、ちょっと父さんのいうこと、きいてくれるか?」
次郎「うん(顔を一郎の方に向ける)」

一郎「実をいうと、父さん、商売で失敗してそれで、今度、ここに、父さんがお金、借りている人が集まるんだ」

  (じっと話を聞いている次郎)。
一郎「それで、この家、借金のかたに取られるかもしれない」

  
一郎「今、次郎が聞いている電蓄も取られるかもしれない」
次郎「電蓄も?(おもわず涙ぐむ次郎)」

  
一郎「もし、そうなっても、次郎、泣くんじゃないぞ。男なんだから」
次郎「うん(涙がこぼれる)」
一郎「いいこだから我慢するんだ」

次郎「うん、ぼく、少年探偵団がきけなくても我慢する(さらに涙がこぼれ落ちる)」
一郎「もし、家がなくなったら、父さん、ドミニカにみんなで移民しようと思っている。ドミニカって知ってるか?」
次郎「(首をふる)ううん」

一郎「いい国だ。家も畑もただでくれるんだ。父さん、小さい頃、百姓してた。おまえも百姓するか?」
次郎「うん、する」
一郎「だから、家がなくなっても、泣くんじゃないぞ」
次郎「(頷く)うん」

○ 自宅、6畳の間、債権者会議(午後)

  床の間を背にした10名の債権者。その前で一郎が頭を畳にこすりつけるように平身低頭している。お茶をだす、和子とイネ。和子の身体が小刻みに震える。頭を畳にこすりよせたままの一郎。外から隙間ごしに中をのぞいている次郎

語り「数日後、父のいう債権者会議が開かれた」

  切れぎれに聞こえてくる言葉

債権者A「斉藤さん、そうはいってもね、ここまでくれば・・・・・」
債権者B「私達だってこまっているんですよ。金が余っている訳じゃないんだから・」
債権者A「このさい、きっちり精算してもらったほうが・・・・・・」

一郎「お願いします。もうすこし、もうすこし待ってください。必ずおかえしします。あてはあります。盛岡のX商店からちかぢか送金があるはずです」
債権者A「そんなこといってもねえ。X商店だって倒産してるんですよ・・・・・」

  父と母の頭を深々とさげる姿。
  

債権者B「まあ、いつまで頭をさげててもはじまらないから、じゃ、こおしましょう。斉藤さん、借用証書、かいてください。みなさん、長期弁済で手をうとうじゃないですか。まあ、斉藤さんともながい付き合いだから。どうですか」

  間
債権者A「まあ、仕方ないか。家を売ってもこんなボロ屋じゃねえ。それに借地でしょ。あとは、汚らしい電蓄一台か(軽蔑したように)」

  全員の目が電蓄に注がれる。軽い軽蔑した笑い。一心に電蓄を見つめている次郎

○ 自宅(秋、朝)

語り「その日は、小学校の運動会だった」

  運動会を知らせる花火。横断幕。白ズボンの代わりに一郎のステテコをとりだす和子。それを見ている次郎。

和子「次郎、お前、これをはいていきなさい」
次郎「これぇー、これとうちゃんのステテコじゃない? ヤダよ」
和子「ステテコじゃ、ありません。白ズボンです」

次郎「こんなに薄いよ、ステテコだよ」
和子「ステテコじゃ、ありません(強く)」

  ステテコを手でつまみあげる次郎。生地が透き通っており、向こうが見える

次郎「でも、みんな、ステテコだというよ」
和子「母さんが、ステテコじゃないといったら、ステテコじゃない(強く)」
次郎「でも・・・・・」

和子「男の子でしょ。しっかりしなさい(ヒステリックに)」

  黙ってステテコをはく次郎。唇をかみしめている。

○ 運動会(朝)

  次郎の周りに集まっているクラスの子供達。次郎の白ズボンについて言い合っている。ガキ大将のアキオが次郎のステテコをつまみながら詰問する。

アキオ「次郎、オメエのズボン、ステテコじゃないか?」
次郎「ちがうもん、白ズボンだもん」
アキオ「じぁ、なんでこんなに薄いんだよう!」

次郎「薄くないもん(強く)」
アキオ「チンポがすけてみえるじゃないか、ステテコにきまってらあ」
次郎「見えないもん(強く)」

子供達「(はやす)チンポがみえる。チンポがみえる」
次郎「見えないもん(唇をかみながら)」
アキオ「オメエ、運動会は白ズホンって先生がいってたの聞いてネエのか。タコ、先生に次郎が白ズボン はいてネエっていってこい」

  顔が真っ赤になり、思わずアキオに飛びかかる。

次郎「白ズボンだっていったろう(大声で)」

  とっくみあいの喧嘩。回りの子供がみんなアキオに加勢する。裂けるステテコ。担任の立川先生(25才)が騒ぎに気付いて近づく

立川先生「お前達、なにしてるんだ!」

  喧嘩を止める子供達。

アキオ「先生、運動会では白ズボンだよね」
立川先生「そうだ」
アキオ「ほれみろ、次郎、先生が白ズボンだといってるぞ」

次郎「白ズボンだもん」
アキオ「先生、次郎のはいてるのステテコだよね」
子供達「ステテコだ。ステテコだ(大合唱)」

  じっとステテコを見る立川先生。助けを求めるような次郎の目。

立川先生「・・・・・・・・」
アキオ「(強く)ねえ、先生、ステテコだろう!」
立川先生「(曖昧に)ステテコみたいだな?」

アキオ「ほれ見ろ、ステテコじゃないか。次郎は嘘つきだ」
子供達「(はやす)嘘つき次郎、嘘つき次郎」

下を向き唇をかみ締める次郎

(明日に続く

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(20.8.4) ぼくが生きた時 その1

本日から6日間はシナリオシリーズです。

○ 東京近郊の地方都市(昭和28年、春)

 小学校入学式の帰り。桜。斉藤次郎(7才)と母、斉藤和子(30才)の二人。

次郎「先生、名前、なんだったけ?」
和子「高崎先生、もう名前忘れたの。だめよ、よく覚えておきなさい。高崎先生、いってごらん」
次郎「高崎先生」
和子「そう、わすれちゃだめよ」
次郎「うん」
和子「それから、授業中は先生の目をよくみて、背中を伸ばして、いーい」
次郎「うん」
和子「うんじゃない、『はい』っていいなさい」
次郎「はい]
和子「それから、名前はといわれたら?」
次郎「斉藤次郎(小さな声で)」
和子「だめ、もっと大きな声でいいなさい。 もう一度」

 子犬が前をとおりぬける。みとれている次郎。尻尾をふる子犬。頭を撫ぜようとする。むっとする和子。

和子「(厳しく)おおきな声でと言ったでしょ、この子はすぐ注意が散漫になるんだから。もう一度いいなさい」
次郎「斉藤次郎(びっくりしながら大きな声で)」

  丘。桑畑。雲。舞う桜。

○ 斉藤次郎の家(5月、午後)

 1階建、6畳、4畳半、3畳、台所のこじんまりとした安普請の家。6畳間にちゃぶ台が置かれている。次郎と和子。和子が国語を教えている。

語り僕が生まれたこの地方都市は何の変哲もない田舎町だった。鉄道、甲州街道沿いの商家、桑畑が僕の知っているすべてだった。
この町に父母が居をかまえたのは、父が勤めていた軍需会社が疎開先をこの町にきめたからである。
戦後、失業した父は、この町で炭を売り、そして僕が物心ついたときこの町の唯一の産業である絹織物の行商の仕事をしていた

和子「また背中がまるまってる。伸ばして!ちゃんと書いて!そうじぁないでしょ。書き順がちがうでしょ。ほら、もう一度」

 もう一度、書きなおす次郎。
和子「またー、何度言ったらわかるの、ちがうでしょ(イライラする和子)」

 下を向いている次郎、目が吊り上がっている和子
和子「もう一度(強く)」

 書こうとしない次郎。
和子「なぜ、書かないの、書きなさい(声がだんだん大きくなる)」

 涙ぐむ次郎
和子「早くしなさい(怒鳴る)」

 ようやく書き始めたが、手が震えてかけない。
次郎「か、書けない(下をむきながら、弱々しく)」
和子「書けないなんてことないでしょ、馬鹿(次郎の左頬を平手打ち)」

 飛ぶ次郎、襟首をつかみ引き戻す和子。和子の母親、イネ(65才)が見かねて仲裁に入る。

イネ「お前、次郎は子供なんだから、そんな無茶しちゃ・・・次郎いいからあっちにいきなさい」

 しゃくりあげながら、ちゃぶ台を離れる次郎。怒りがおさまらない和子。

和子「おばあちゃん、口出しするのは止めてよ!」
イネ「和子、子供を叱りすぎると頭がわるくなるんだよ(静かな声で)」
和子「なにいってんの、おばあちゃん。あの子はどんなにしかっても大丈夫なの。馬鹿なんだから」
イネ「そんなことないよ。みてごらん。ふるえてるじゃないか」

 隅でちじこまり、震えながら不安げに和子を見ている次郎。
和子「字もかけずに,そんな恰好するんじゃない(怒鳴る)」

○ 外、子供達(同日、夕方)

 近所の子供が集まっている。20名。がき大将は小学校6年のヤス(12才)。かくれんぼ。

語り「当時、どこの路地にも20名ぐらいの子供のグループができていた」
ヤス「おい、かくれんぼするぞ。かくれんぼするもの、この指とまれ」

 すばやく指に集まる子供たち。次郎が一番遅くとまる。
ヤス「次郎、オメエが一番遅かったから、鬼は次郎」

 はやす、子供。下向く次郎。
次郎「鬼はジャンケンじゃなきゃ、ずるいよ(ぼそぼそと下をむきながら)」
ヤス「遅いのがわるいんだ、次郎。あの電信柱で100数えろ。はやく離れたら反則だぞ」

 ごすごと電信柱に向かう次郎。電信柱で100数えて、振り向く。最初にヤスが見つかる。

次郎「ヤスちゃん、見つけた!」
ヤス「次郎、オメエ、100数えてネエ。反則だ」
次郎「かぞえたもん」
ヤス「反則だ!」

 他の子供達も、ヤスに同意する。
子供達
「ハンソクダ、ハンソクダ、ハンソクダ」

 下を向きながら再び電信柱に向かう。100数える次郎。電信柱を離れる。最初にタカが見つかる。

次郎「タカちゃん、見つけた!」
タカ「次郎、反則だ。100数えてネエ」
次郎「数えた(強く)」
タカ「100数えてネエ、なあヤスちゃん」

 子供の視線がヤスに集まる。食い入るような次郎の目。

ヤス「100数えてネエ、次郎、反則だ(冷たく)」
子供達「ハンソクダ、ハンソクダ、ハンソクダ」

 目から涙が流れる。肩を落とし電信柱に向かう次郎。夕日、空に一番星。コウモリの飛翔。子供達のハンソクダ、ハンソクダのはやし声。

○ 斉藤次郎の家(午後7時)

 外に井戸がある。井戸で顔をあらい、涙のあとを隠そうとしている次郎。家の中から和子の呼び声が聞こえる

和子「ご飯だよ、手洗って早くきな」
次郎「うん(慌てて目をこする)」

 目がはれている。

○ 4畳半での食事(午後7時すぎ)
 
 和子、次郎、イネ、妹の令子(6才)、弟の則夫(3才)の5人。父親の一郎(37才)は仕事で帰ってきていない。ちゃぶ台での粗末な食事。ご飯、おみおつけ、一品のおかず。

和子「次郎、今日、外でなにして遊んだ?(ご飯をよそりながら)」
次郎「うん、かくれんぼだよ」
和子「鬼はだれ(それとなく)」
次郎「・・・・・(食事の手を止める)」

  
和子「鬼はだれと聞いてるでしょ(強く)」
次郎「タカちゃんと、ヒロちゃんと、ぼくだよ(あわてて答える)」
和子「違うでしょ(更に大きな声)、母さん窓からみてたよ。次郎がずうっと鬼だったじゃない。どうして嘘つくの」
次郎「・・(下をむいたまま答えない)」

  間
和子「次郎、お前、どうしていつも鬼なの(強い調子で)」
次郎「あのー、ヤスちゃんがぼく、鬼だというんだ(下をむき、箸とチャワンを持ったままの姿勢)」
和子「鬼はジャンケンできめたの」
次郎「ううん(首を横にふる)」
和子「じぁ、どうやって決めるの(イライラしながら)」

  
令子「コノユビトマレだよ。にいちゃん、遅いからいつも鬼なんだ(口をはさむ)」
和子「この子はいつもノロマだから・・なぜジャンケンできめようっていわないの(ヒステリックに)」
次郎「言ったけど、ヤスちゃんがコノユビトマレだって(ぼそぼそと)」
和子「馬鹿(次郎の左頬を平手打ち)」

 泣きじゃくる次郎、無言の令子と則夫。イネが仲裁にはいる。

イネ「和子、もうよしなさい。次郎も早く食べておいき」
和子「おばあちゃん、余計なこといわないでっていったでしょ。この子はいつもグズで馬鹿だから,母さん、いつもつらい思いしてるんだ。なぜジャンケンだと言わないの(気が高じて次郎の襟首をつかむ)」

 割ってはいるイネ。逃げる次郎。目をつりあげる和子。黙って下を向いている令子と則夫。飛び散った箸とチャワン。

○ 和子の回想(子供時代)

 (映像
 山口市。地主の屋敷。立派な門。掘割。白壁。枝振りのよい松。子供たち。一人美しい着物を着た和子。ぼろをまとった小作の子。中心になって遊ぶ和子。鬼を指定する和子。泣く小作の子。和子に慇懃に挨拶するとうりすがりの小作。

 (映像
 次郎の泣顔。いますんでいる小さな古ぼけた一軒家。貧相な夫。

和子「なんで(独り言)」

○ 学校の校庭(昭和34年、小学校6年、秋、放課後)

 クラスの男子生徒20名が遊んでいる。かくれんぼ。がき大将のアキオが命令している

アキオ「次郎、オメエ昨日の最後の鬼だったから、つづきヤレ」
次郎「ヤダヨ、ぼく、ずーっと鬼じゃないかヤダヨ」
アキオ「オメエ、ずるいぞ。鬼がヤダからそういうんだろ」
子供達「(一斉にはやす)ずるいぞ、次郎、ずるいぞ、次郎」

 次郎の肩をこずく子供達。目に涙をためしばたたせる次郎

子供達「次郎がまた泣いたぞ。パチクリ次郎 パチクリ次郎」

 鬼になる次郎。かたまってかくれている子供達。杉の木で100数えて振り向く次郎。一斉に雄叫びをあげ、次郎にむかってかけだす子供達。逃げながら『○○ちゃん見つけた』と懸命にいう次郎。足の速いアキオが次郎にタッチする

アキオ「次郎、タッチしたぞ。鬼だ」
次郎「ぼく、アキオちゃん見つけたって言ったよ」
アキオ「イワネエヨ」
次郎「いった(強く)」
アキオ「なら、みんなに聞いてみろ」
子供達「(一斉にはやす)イワネエ、イワネエ、イワネエ、イワネエ」

 目から涙が溢れる次郎。
子供達「パチクリ次郎、パチクリ次郎」

○ 学校の校庭(放課後、数日後)

  クラスの男子生徒20名。かくれんぼの続き。がき大将のアキオの命令

語り「今日もまだ僕の鬼が続いていた」
アキオ「次郎、オメエ、今日も鬼だ。続きをヤレ」

 無言の次郎。黙って杉の木に100数えにいく。杉の木を離れない次郎。イライラしながら隠れて待っている子供達。たまりかねてアキオが催促する。

アキオ「次郎、もう100数えたんだろ、早く探しにこい」

 振り向くが杉の木を離れない次郎。一斉に雄叫びをあげながら、次郎に向かって走り出す子供達。次郎にタッチ。されるままになっている次郎。無表情。
   
アキオ「ずるいぞ、次郎。木を離れて探しにこい」

 無表情の次郎。
子供達「ずるいぞ次郎、ずるいぞ次郎」

 無表情の次郎。

○ 授業中(昼)

 次郎の後ろにアキオが座っている。アキオが次郎の背中をこずく。振り向く次郎

アキオ「(小声で)おい、次郎、パン買ってこい」
次郎「やだよ、授業中だよ、先生に怒られるよ」
アキオ「おめえは、オニなんだからいくんだ]
次郎「やだよ」

 後ろから背中をおもいっきりたたくアキオ。
アキオ「行け、次郎」

 仕方なく身をかがめ隠れながら教室をでようとする。わざとアキオが音をたてて,教師の注意を次郎に向ける。立川先生(25才)に見つかる次郎。

立川先生「次郎、何してんだ」
次郎「あの、ぼく」
アキオ「(さっと立って)先生、次郎はずるして授業をさぼろうとしました」
生徒達「(はやす)さぼりや次郎、さぼりや次郎」                
立川先生「次郎、本当にそうか?」
次郎「あの、ぼく」
アキオ「(強く)次郎はよくさぼってます」
生徒達「(はやす)さぼりや次郎、さぼりや次郎」

 目に涙を浮かべる次郎。(明日に続く)


立川先生「(冷たく)次郎、そこに立ってなさい
次郎
「(涙ごえ)ぼく・・・
生徒達「
ぱちくり次郎、ぱちくり次郎

 涙を浮かべ肩を落として立つ次郎。

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