(22.1.24) オバマ大統領と強欲資本主義との戦い 「真昼の決闘」
オバマ大統領が21日に発表した金融規制強化案は、世界のどの国の指導者の規制強化案より徹底的でドラスティックだったので、市場は大騒ぎになってしまった。
「これはニクソンショックに匹敵するオバマショックではないか」
「いや、単なるパフォーマンスで実施できっこない」
「オバマ大統領は強欲なウォール街の連中が我慢ならないんだ」
「しかし、アメリカはそのウォール街でもっているんじゃないか」
「国の資金で倒産を免れた連中が、こんどは国の資金を使ってぼろもうけをしてボーナスの大盤振る舞いじゃないか」
「それが資本主義というものだ。国が安い資金を提供してくれたら、それを使って利益をあげて何が悪い」
喧々諤々(けんけんがくがく)の議論になってしまった。
今回オバマ大統領が発表した金融規制強化案の以下の3点である。
① 銀行によるヘッジファンドの所有の禁止
② 顧客から依頼のない自己資金を使った証券売買の禁止
③ 金融機関の規模拡大を抑えるための預金規模による制限
①の意味
金融機関とヘッジファンドとの最大の相違は政府の規制を受けるか否かにかかっている。後者は税金さえ納めれば何をしても問題がなく、また財務の公開も必要としない。
しかもヘッジファンドの多くは本社をケイマン諸島のような無税の地域において、税金の支払いさえ免れることができる。
アメリカの大手金融機関は、取引内容に問題があり政府の規制がかかりそうな案件(ヤバイ案件)を子会社のヘッジファンドで行ってきた。そうした抜け道を規制するということ。
②の意味
規制緩和によって、現在金融機関は銀行業務と証券業務を兼営することができる。このうち銀行業務は斜陽産業でまったく儲からない(企業融資は設備投資が停滞して儒資がなく、個人融資は倒産確率が高い)。
このため金融機関は証券業務に特化しており、それも自ら証券を組成してそれを売却したり、自己資金で証券取引をおこなう業務(自己取引という)がかせぎ頭になっている。
特に金融機関は今、政府からほぼゼロパーセントの金利で資金調達ができるので、その資金で金や石油や穀物や新興国の株式に投資をすれば絶対にもうけることができる。
このぼろもうけを止めさせ、証券業務を顧客からの注文だけに制限させようというもの。
③の意味
業績が極度に悪いシティ・コープを倒産させられないのは、その影響が大きすぎるため。このため小さな金融機関にしていつでも倒産を容認できるような規模にしようというもの(アメリカでは小規模な金融機関の倒産は激しい)。
(1987年のアメリカ)
今回の発表は基本的方向を指し示したものであり、その具体化は現在議会で検討されている金融規制強化法に反映されるため、そのままオバマ大統領の発表通りになるわけでない。
しかし今回のオバマ大統領の方針は、従来アメリカが目指してきた金融資本主義の方向とは真っ向から対立し、アメリカという国のあり様を否定しようとしている。
注)1990年代の中ごろからアメリカは自動車産業に代表される産業資本に見切りをつけ、金融資本で国の運営を行うことにした。
このための戦略が金融の自由化とグローバリズムで、世界中から金を集めて、最後は踏み倒す戦略をとった(サブプライムローンの例)。
現在はさすがにサブプライムローンではだませないので、今度は金や石油や穀物等の実態のあるものを証券化したり、市場で売買したりして収益を上げている。
ウォール街などは当然大反対で「成長と活力を奪う非現実的な提案」とこき下ろしているが、オバマ大統領は「ウォール街が戦う気なら、受けて立つ用意がある」とまるで「真昼の決闘」みたいになってきた。
実際アメリカは金融資本主義から決別すると、後に残されたのはIT産業や航空機産業、農業位しか競争力がないので、成長と活力からは確かに程遠い状況にはなりそうだ。
注)そのためGoogleを中心とするスマート・グリットという新戦略を考え出している。
オバマ大統領は本気のようだが、ウォール街の抵抗は激しく、共和党を中心に巻き返しが行われるだろう。
一方オバマ大統領はこの先弱いドル政策を推進して国内産業の保護育成に努め、自らの支持基盤である工場労働者の職場確保に邁進しようとするだろう。
ウォール街にいくら儲けさせても、そこは金持ちの共和党の地盤だからだ。
たとえばゴールドマン・サックスの従業員約3万人の09年度の平均給与は約4500万円で、これはアメリカ大統領の給与とほぼ等しい。
「あの、強欲だけの連中が政府の低利資金を好き勝手に使って、そして給与はこの俺と同じか!!!」オバマ大統領ならずとも頭に血がのぼるはずだ。
(1987年のアメリカ。この頃のアメリカがオバマ大統領のユートピアのようだ)
オバマ大統領は1980年代の日米経済摩擦が激しかった頃のアメリカに戻ろうとしている。
そこはまだ産業資本主義が残っていた時代だが、大幅なドル安になればたしかにアメリカの自動車産業や航空機産業には追い風になるだろう。
そうなるかどうかは、今後のアメリカ議会(主として共和党)とオバマ大統領との「真昼の決闘」次第のようだ。
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