(19.10.6)亀ゴン 冒険記 その1
亀ゴンのために「陸ガメ王 亀ゴン」という大作と、「吸血鬼 亀ゴン」というあのドラキュラ伯爵すら恐れおののいたと言う作品を作ったのに、亀ゴンはやはり不満らしい。
亀ゴンは「陸ガメ王では車寅次郎とみたいだったし、さらに吸血鬼では吸血亀にまでされては親に合わす顔がない」というのだ。
「じゃー、亀ゴン、どんな話だったらいいのかい」
「なにしろ、かわいらしい話じゃなきゃダメだ。あの『母をたずねて3000里』のマルコ少年のような話がいい」
仕方がない。亀ゴンのためにかわいらしい冒険記を作ることにした。
亀ゴン 冒険記 出発の巻
亀ゴンはやさしい亀おじさんと暮らしていたが、亀おじさんが年甲斐もなく再婚することになり、亀ゴンの世話ができなくなってしまった。
「どうしても結婚する相手の亀姉さんが、二人の亀ホームでないといやだと言うのだ。すまないが亀ゴンはアルゼンチンに出稼ぎに行っているお母さんの元に行っておくれ」
亀ゴンは仕方なく、色ボケした亀おじさんの下を離れ、アルゼンチンを目指すことにしたが、どうやって行ったらいいのかさっぱり分からなかった。しかし色ボケしたとはいえ亀おじさんだ。いいことを教えてくれた。
「亀おじさんの友達に、航空会社に勤めているハンサムな男性のチーフパーサーがいる。この人は愛さんといって、亀の甲羅をおなかに巻くのが趣味だから、お前を腹にかくしてアルゼンチンまで運んでくれる。その間は、暴れるんじゃないぞ」
愛さんは、航空業界では有名人だった。なにしろ業務中も亀の甲羅を腹に巻いているのである。腹巻の変わりらしい。
上司がこのことをとがめたことがあったが、愛さんは女性のパーサーのアイドルだったから、女性達が猛反発した。
「亀の腹巻ぐらいいいじゃない。あんたなんか腹の周りに脂肪をまいているじゃないの。脂肪より亀の方がかわいいわ」
かくして愛さんの亀腹巻は公然の秘密になっていたため、亀ゴンが変わりに腹巻になっても分からないと言うわけだった。
ただ一つ問題点があった。甲羅の亀はチッコもウンチもしないが、亀ゴンは子供なので24時間も我慢できない。
実際亀ゴンは亀おじさんと住んでいたときも、毎日決まって定刻にウンチをしていたし、チッコはのべつ幕なしにしてたものだ。
「亀ゴン、アルゼンチンにつくまではどんなことがあっても、ウンチもチッコもしてはダメだぞ。約束できるか」
「ぼく、約束する」亀ゴンはお母さんに会うためにけなげに約束したのだった。
かくして亀ゴンは愛さんの亀腹巻として、世界でも屈指の警備体制を誇る成田空港のチェックを潜り抜け、はれて空の亀になることができた。
しかし時間が立つにしたがって亀ゴンの苦しみは始まった。乗ってすぐにチッコがしたくなったのに約束ですることもできない。そのうちウンチまでしたくなった。
一方愛さんは有能なパーサーだったから、常時乗客の周りの世話をしていたし、飛行機の中で走ったりするものだから、亀ゴンがどんなに我慢しても限界があった。
運悪く愛さんがエグゼクティブクラスの乗客の世話をしていたときに、乱気流に巻き込まれ、愛さんが飛び上がった拍子に、亀ゴンはついにお漏らしをしてしまった。
「ごめんね、愛おじさん。ぼく、しちゃった」
愛さんはもちろん腹の回りの異変にすぐに気付いたが、なにしろ有能なパーサーだから何食わぬ顔で業務を続行した。
ついに乗客の一人が異臭に気付き騒ぎ始めた。
「この部屋全体に異臭がしている。何か子供のお漏らしの臭いみたいだ」
愛さんは気付かれてしまったと思ったが、そこはチーフパーサーだ。平然と説明した。
「お客様、おめでとうございます。実は航空安全局よりの指示があり、異臭実験をするようにいわれております。
どの程度の異臭であればお客様が、それを認識できるかとのテストでございます。
お客様の臭気認識度は最も高く、後ほど当航空会社より亀の甲羅を差し上げることになっております」
亀の甲羅をもらえると知って、この乗客の喜びようはひとしおでなかったが、愛さんは愛用のかめの甲羅を一つ失うことになってしまった。
「俺の鼻は航空安全局の折り紙つきだ」この乗客は鼻高々だった。
一方他の乗客は「自分がなぜに最初に異臭を発見できなかった」と大いに残念がり、お漏らしの臭いを懸命に探し当てようてとした。
ついに愛さんの周りに集まり、そこが発生源だと分かると乗客全員安堵の気持ちになったのである。
「俺の鼻も捨てたものではない」
こおして、亀ゴンはお漏らししたのにかかわらず、愛さんの機転で無事にブエノスアイレスの飛行場までたどり着けることができたのである。
(続きは1週間に1回程度の割合で掲載します)
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