(23.2.6) 第3の開国 日本のTPP参加問題
菅総理が腕をたくし上げて「明治維新、戦後に続く第3の開国」と位置づけたTPP参加問題は、間違いなく第3の開国だ。
日本を取り巻く情勢は激変しており、このTPP交渉は単なる関税引下げ交渉ではなく、より深く21世紀の経済体制を決めるフレームワークとさえいえる。
菅総理はかなり本気で 当初は昨年の10月横浜で開催されたAPECの会議でTPPへの参加を表明するつもりだったが、小沢派と農業団体の反対にあってさっそく態度を後退させた。
「11年6月までにTPPに参加するかどうかの意思決定をしよう」
相変わらずの意思薄弱さは否めない。
なぜTPPが第3の開国かと言うと、これは単なる関税引下げ交渉ではなく、経済全般にかかる枠組み交渉だからだ。
TPPは関税撤廃以上に、サービスや電子商取引、投資、知的財産権、政府調達規制の撤廃、そして労働力の移動まで含める包括的な経済統合を目指している。
一番近いイメージはEUの太平洋版で、ここでのメインプレイヤーは現状ではアメリカとオーストラリアであり、日本が加われば完全な太平洋版EUと言うことになる。
もともとTPPはシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイといった経済小国がWTOの交渉の行き詰まりに嫌気をさして作った自由貿易協定だが、アメリカがこの協定の戦略性に目をつけて参加を表明したことからきな臭くなってきた。
「このまま行けば、アジアは中国に席巻される。何とかアメリカ中心の経済体制を構築しないとアメリカの未来はない。日本とオーストラリアが入れば、完全に太平洋版EUになり、アメリカの主導でこの地区の経済統合が可能になる」
TPPが完全実施されると、アメリカから見ると関税は100%撤廃で農産物の輸出が自由になり、得意な金融業や保険業が参入でき、アメリカ方式で電子取引の標準化をはかり、投資も完全自由化(空港会社の外資参入障壁など認めない)させられ、知的財産権はばっちり守れるようになり、公共事業にさえアメリカ企業も参加でき、そして労働者の移動は自由に図れる。
当然日本企業も同様の取扱いを受けるのだが、もしこのTPPがアメリカ主導で太平洋版EUの基本フレームになってしまえば後で日本が参加した場合はすべてアメリカ版のフレームワークを認めざる得なくなる。
「まずいじゃないか。早くこのTPPに入ると宣言して、日本の要望をTPP交渉に反映させないと取り返しがつかなくなる」日本の輸出企業、経済産業省、そして菅総理があせりだした。
だがしかし、この交渉については民主党内には小沢派という国内重視派がいて、農業団体とタッグを組んで大反対を始めている。
「関税100%撤廃だと・・・・、日本の農業と地方をつぶす気か!!!」
実際今回のTPP交渉の本当の趣旨は、自由競争によって強いものだけが生き残ると言う意味だから、競争力のある輸出産業以外は戦々恐々とし始めた。
しかし外堀は埋められつつあり、日本の残された選択肢は以下の3つに絞られている。
① TPPに参加してアメリカ組の一員として、EU内のドイツのような生き方を模索する(アメリカはEUで有ればフランスに相当する)
② TPPに参加せず中国とのFTA(自由貿易協定)に活路を見出し、中国の省のような立場で中国経済に飲み込まれる。
③ アメリカとも中国とも距離を置き、人口減と高齢化で日本経済は衰弱するが、世界と距離を置いて一種の鎖国状態で世界に影響を与えない国として生き続ける。
だからTPP交渉とは幕末の日本にそっくりであり、ペリーの要請による開国か、東洋の一員として清朝と運命を共にするのか、はたまた江戸幕府の祖法を守って鎖国体制を維持するのかの選択を迫られている。
時代の動きは早いのだ。私が生きている間に明治維新と同様な激震が走るとは思いもよらなかった。
まさに第3の開国といえる。
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コメント
厚生労働省は2011年1月26日、経済連携協定(EPA)のもとでインドネシアとフィリピンから受け入れた外国人看護師のうち3人が、日本の看護士国家試験に合格したと発表した。
合格したのはインドネシア人2人とフィリピン人1人で、受け入れ事業が始まってから初の合格者となった。しかし残りの251人は不合格となった。全員が母国ですでに看護師の資格を持っているので、日本語が壁になったとみられる。同じ試験を受けた日本人受験者の合格率は約90%だった。
我々日本人は、英語を通して世界中の人々に理解されている。
かな・漢字を通して理解を得ているわけではない。
我が国の開国は、英語を通して日本人が世界の人々から理解してもらえるかの努力に他ならない。
我が国民のメンタリティを変えることなく、ただ、法律だけを変えて交流したのでは、実質的な開国の効果は得られない。
鎖国日本に開かれた唯一の窓ともいうべき英語を無視すると、我が国の開国も国際交流もはかばかしくは進展しない。
この基本方針にしたがって、我々は耐えがたきを耐え忍びがたきを忍んで、万世のために太平を開く必要がある。
英米人は、「我々は、どこから来たか」「我々は、何者であるか」「我々は、どこに行くか」といった考え方をする。
我々日本人にしてみれば、奇妙な考え方であるが、彼らにしてみれば当然の考え方になる。
それは、英語には時制というものがあって、構文は、過去時制、現在時制、未来時制に分かれているからである。
3時制の構文は考えの枠組みのようなものとなっていて、その内容は白紙の状態にある。
その穴埋め作業に相当するものが、思索の過程である。
ところが、日本語には時制というものがない。
時制のない脳裏には、刹那は永遠のように見えている。
だから、構文の内容は、「今、ここ」オンリーになる。新天地に移住する意思はない。
思索の過程がなく能天気であるので、未来には筋道がなく不安ばかりが存在する。
TPPの内容に、行き着く先の理想と希望が見出せないので改革の力が出ない。
必要なものは自分で手に入れるのが大人の態度である。
だのに日本人には意思がない。それで、意思決定はできない。無為無策でいる。
常に子供じみた他力本願・神頼みとなる。
意思がなければ、意思疎通もはかどらない。それで、察しを遣う。
だから、日本人の独りよがり・勝手な解釈は避けられない。
問題を解決する能力はないが、事態を台無しにする力を持っている。
だから、我々日本人は、自重に自重を重ねて、常に事態を静観する必要に迫られていた。
我々は、変わらなくてはならない。
http://koshin.blog.ocn.ne.jp/koshinblog/2011/02/nago_7890.html
投稿: noga | 2011年4月 5日 (火) 10時19分
前原大臣の会見で岩上氏が質問した結果、参加しないとどのようなものか明かせない(明かさない?)ハラらしいことが判明しています。
http://bit.ly/b46ixk (岩上チャンネル ustreamの録画ファイルへの短縮urlです)
今の状況で開国したらしたで、明治政府が苦労した不平等条約の撤廃作業の繰り返しです。
その間にも日本の経済産業はどんどんおかしくなることは、明治期の綿産業の荒廃などからも明らかです。
法律方面では、株主訴訟が起きた時、日本の法律ではなく外国の法律が通されてしまう危惧もあります。
(少し危機感を煽り気味かもしれませんが)
投稿: 横田 | 2011年2月 8日 (火) 16時28分
鉄人山崎様 毎日ブログ楽しみにしております。
youtubeで中野剛志先生のよくわかるTPP解説―日本はTPPで輸出を拡大できっこない!を
http://www.youtube.com/watch?v=RlyluxDfjMo
見ると何が正しいのかは判らなくなってしまいます。
他の国は常に国益重視を考えているみたいで羨ましい。
いつもありがとうございます。
投稿: ポンポコ狸 | 2011年2月 6日 (日) 11時01分
twitterより編集:
現状ではアジア諸国が一線を引いており、日米間のFTAと同じ意味になり日本のデメリットの方が大きい。
(韓国は自国産業を底上げしてからFTAに臨んだが口蹄疫で苦しんでいる)
農業、医療、放送、法律、建設、金融、その他24業種の分野に及びます。医療については海外からの介護職。
医師不足や介護施設の人手不足が解消するだろう、と呑気に構えてる場合じゃないです。
巷のマスコミがこれらを殆ど報道していないのも要警戒です。八百長に3面も使って報道してる場合じゃない。
つい最近、山田前農相が宇都宮日弁連会長に説明した時は、宇都宮日弁連会長は全くの「寝耳に水」で事の重大に仰天されたとのこと。
投稿: 横田 | 2011年2月 6日 (日) 09時54分
安易なTPP参加には待った。 という意見です。
TPPというとグローバルな経済圏のにおいがしますが、そもそも、アメリカと日本のGDPで90%を占めています。
そして、残りの小国は、といいますとシンガポール以外、輸出のGDP比率が日本より高い国なのです。
すなわち、これって、日本にものを売りつけましょう・・・という、日本とアメリカの条約に過ぎないのです。
オバマは言いました。「これからは、輸出を増やす。」
その相手は誰ですか? という簡単なカラクリです。
関税撤廃など、アメリカは甘い言葉を言っています。 しかし、アメリカの関税ってせいぜい5%~10%ですよね。
「これが撤廃されて、日本からの輸出が増えるでしょ!」っていっているのが経団連なのですが、アメリカには次の一手が
ありますよ。
それは、対円でのドルの価値低下です。 これはすでにやっているじゃないですか? つい最近まで100円切って
大騒ぎしたのに、いま80円ですよ。 あと5円、10円安くすれば、関税など、ころっとひっくり返るのです。
※さらにいいますと、ドル安によって農業品目のコモディティ価格も08年越えし始めました。
つまり、アメリカが入ってきた以上、これはアメリカVS日本 という構図なのです。
なぜか小沢と農業問題がクローズアップされてしまっていますが、本質は別にあるのです。
ゆっくり考えて交渉すればよいのです。
P.S.
ちなみに、「開国」は、明治政府によるものではなく、井伊直弼が不平等条約を結んだときに始まったとされています。
条約をなくすのに、明治人は苦労しました。
「第3の開国」を進める菅首相。 このことを知っていて命名していたのでしょうか?
ちなみに、農業問題は現在ホットですね。
世界の不安定化。 気候の変動もありますが、アメリカと中国の大幅金融緩和によって
大高騰を見せています。
中東情勢の悪化(民主化、原理主義化)が進めば、原料価格なども上がりましょう。
自給をまじめに考えないといけない時期に来てます。
小沢氏の農業利権だとか「平成の開国」をうたう菅氏を超えた次元の議論が必要と思いますよ。
投稿: たか | 2011年2月 6日 (日) 07時35分