(23.2.23) NHKスペシャル ネットが革命を起こした 中東・若者たちの攻防
今回のNHKスペシャル 「ネットが革命を起こした」は見ごたえの有る番組だった。デモが始まりムバラク政権が崩壊するまでのほぼ1ヶ月間にわたり、(体制側でなく)若者側からこのネットの攻防を追っていたのだから、「秘録 エジプト革命」といってもいいような番組だ。
そしてこのネット革命で中心的な役割を演じたのがフェイスブックというシステムだったのだが、私が最も驚いたのはなぜ数あるシステムの中でフェイスブックだったかと言うことだ。
もともとフェイスブックはハーバード大学の学生が学生間の出会い系サイトとして開発したもので、大学にあった学生名簿と写真を黙って公開し、「おれ、この子が好みだ」なんて投票をしていたシステムだ。
このフェイスブックがそれまでの出会い系サイトと異なるところは実名で登録し、かつ情報が暗号化されて送信されるので途中で内容が把握できないという特徴だった。
この実名性と暗号化技術が世の中の需要に完全にマッチした。
現在社会は個人情報保護で凝り固まっており、そのために電話や住所や年齢が不明になってコミュニティーが希薄化してしまった。
それに異議を唱えたのがフェイスブックで、親しい間柄には情報を公開するという逆手でコミュニティーの再構築を図ろうとした。
私が使用しているグループメールとよく似ているが映像等も共有化できるので汎用性が高い。
さらに暗号化して情報が送られるということは、意外にも独裁政権にとって非常な脅威になった。ブログやホームページやメールは通常暗号化されていないから、プロバイダーのコンピュータを経由するときにフィルタリングをかけて情報を遮断できる。
中国を始めとする独裁国家はこのようにして情報を遮断してきたが、フェイスブックは内容が暗号化されて不明なのでフィルタリングにかからない。
どうしても遮断したければインターネットそのものを止めるより仕方がないのだが、一方で政府がインターネットを通信手段として使用していた場合は、自分で自分の首を絞めてしまう。
さらに政府関係の情報だけを通過させたとしても成りすましの技術で政府関係者を装えばフィルタリングを通過することができる。
ネット社会では情報を遮断することが並大抵のことではないのだ。
今回のチュニジア革命の発端は、野菜売りの青年が無許可だと警察から殴られ、罰金を請求されたので思い余って自殺をしたのだが、これに怒った住民が役所に抗議をしている場面がフェイスブックで流れたことから始まる。
この画面を見た人がさらに自分の友達が参加しているグループに情報を発信し、瞬く間にチュニジアに知れ渡った。
チュニジアはアフリカで最もインターネット普及率が高い。
ベンアリ政権はこれに対抗して治安部隊を派遣して弾圧を繰りかえしたが、その模様がふたたびフェイスブックにながれ、抗議行動がさらに広がってしまった。
ベンアリ政権はブログやホームページやメールの検閲はできたがフェイスブックの検閲ができなかったからだ。
エジプトのムバラク政権の場合はもう少し技術的に進歩していて、フェイスブックを遮断できないことが分かると情報スパイをフェイスブックのグループのメンバーとしてシステムに送り込み、活動家のIDとパスワードを盗んでいた。
そして成りすまして誤報をわざと流したり、活動家のIDを抹消していたりしていた。
これに対し活動家の方は唯一の通信手段が遮断されては大変なので、すぐに新しいIDを立ち上げて通信を再開するのだが、エジプト秘密警察と反体制派の活動家とのこのフェイスブックをめぐる戦いは、ハリウッドの映画そのものだったようだ。
闘いは最後は活動家が勝利したのだが、秘密警察の元情報将校が「ムバラクはフェイスブックが脅威であることは知っていたが、本当の脅威は認識していなかった。実際は活動家との戦いには300万程度の情報スパイが必要だった」と言っていた。
300万人なんていえば中国の軍隊の数に等しいのだから、到底秘密警察が勝てるわけがない。
最後はインターネットを遮断してみたものの、グーグルが電話回線での通信網を提供したり、またエジプト政府もインターネットを利用できなくなってテンヤワンヤになり、5日でこの遮断措置は停止した。
こうしてチュニジアのベンアリ政権もエジプトのムバラク政権も崩壊したのだが、これはインターネットとフェイスブックがあるところではどこでも独裁政権が崩壊する可能性を意味している。
NHKはこれをネット革命となずけていたが、中国のようなインターネットの普及率が高い独裁政権にとっては身震いしそうな現実だろう。
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コメント
日本では、マスコミがKARAや八百長などで大盛り上がりの中、中東は大変なことになっていますね。
ベルリンの壁に匹敵する事件なのに、日本のマスコミ各社のレベルの低さには呆れるほどです。
これは間違いなく、パーフェクトストームの序章となる事件です。 数日前に申し上げたとおり、今年後半の経済は、更なる大荒れになるでしょう。
とはいえ、私一人でできることといえば、確定拠出年金をすべて国債運用に切り替え、日本円を大切に持つことだけですので、ぜんぜん儲かりません(笑)。
投稿: たか | 2011年2月24日 (木) 22時41分
はじめまして。番組名の検索からたどり着きました。
番組を見逃していたので、内容わかりやすくUPしてくださってありがとうございました。
お礼まで。
(山崎)わざわざコメントをくださって恐縮です。
投稿: あっこ | 2011年2月24日 (木) 13時51分
facebookの発端が「上流大学」で、社交を目的としていて、このイメージを確立し、維持しつつ枠を拡げたのが成功した一因のようです。
番組は私もチラチラ見てましたが、途中から若者たちを「反政府活動家」と呼ばなくなったのが印象に残ります。
投稿: 横田 | 2011年2月23日 (水) 17時20分