(23.2.11) トヨタバッシングの終了宣言 GMの復活とトヨタの敗退
アメリカはつくづく戦略の国であることを痛感した。
この2月8日にあれだけ大騒ぎしてトヨタ車のイメージを傷つけてきたラフード運輸長官が「トヨタ車の電子制御システムの欠陥は発見できず、トヨタ車が安全な車で自分の娘もトヨタ車を購入した」とシャーシャーと公表したからだ。
あの「トヨタの車には乗るな」といっていたラフード長官がだ。
もともとトヨタ車には本質的な問題がなく、マットの問題もブレーキペダルの問題もいちゃもんの部類だったが、なぜアメリカ政府がトヨタを標的にしたのかは戦略的な意味があった。
アメリカ政府はGMとクライスラーの倒産で約7兆円の政府資金を投入し、この2社の再生を図ろうとしたがトヨタ問題が発生するまではまったく展望が持てなかった。私などはGMもクライスラーもこのまま自然消滅するのではないかと思っていたぐらいだ。
しかしアメリカ政府はタフだ。
「最も売れる車をアメリカ市場から放逐すればGMもクライスラーも再建できる」
日本のトヨタが標的にされたのは全米で最も販売台数が多かったことと、品質面で絶対の信頼を受けていたことの他に、鳩山嫌米政権の存在が大きかった。
「日本はアメリカの友人でない。徹底的にトヨタを血祭りにあげろ」オバマ大統領が指示した。
最初はフロアーマットの問題だといってリコールさせ、次はブレーキペダルの問題だと言ってふたたびリコールさせ、最後は電子制御装置に欠陥がある可能性があるといって、アメリカトヨタ車のイメージダウンを図った。
その結果トヨタはリコールだけで800万台近くになり、販売どころではなくなった。
このようにしてトヨタをアメリカ市場から引き摺り下ろした結果、GMとクライスラーの業績は飛躍的に向上し、ついにGMは政府資金を株式再上場(10年11月)で返せるまでになった。
「よくやった、ラフード。君の戦略でGMもGMの民主党支持の従業員も安泰だ。おまけに政府資金も回収できるのだからわが政権にとって最大の功績になる」オバマ大統領がはしゃいでいる。
「まあ、ここまでトヨタをたたいておけばGMがこけることもあるまい。トヨタには約20万人のアメリカ人労働者もいるし、菅も恭順の意を示しているからこの辺でトヨタバッシングはやめることにしよう」
そしてラフード運輸長官の「トヨタ車の安全宣言」がなされた。
アメリカは戦略的な国だ。会社の復活はGMの自社努力ではなく、アメリカ政府のトヨタの血祭りによって成し遂げられた。
一般にこうしたアメリカ政府の戦略は日本人には汚い手と映るが、世界はこのようにして動くのが普通で、驚くにはあたらない。
注)太平洋戦争も同じようにしてルーズベルトにはめられた。
私がとても残念に思うのはこの戦略性(謀略と言ってもいい)を日本人は苦手としフェアなスタイルを好むのだが、そうしたナイーブさは世界政治では命取りになる。
注)この間日本政府はトヨタを助けるためになんら行動していない。本来は市場でアメリカ国債を売却して国債価格の暴落が起こる恐怖をアメリカ政府に与えなければならなかった。
幸いアメリカ政府はこの程度で手を引いてくれたので、トヨタはアメリカではまったくだめだがアジア等の新興国で復活しつつある。
しかしアメリカの虎の尾を踏めばいつなんどきバッシングが復活しないとも限らない。
それにしても今回のオバマ政権のさわやかなGMの復活劇はどうだろう。
日本は戦術(トヨタ対GM)では完勝したが、戦略(アメリカ対日本)では完敗し、結局トヨタは全米3位のメーカーとしてGMとフォードの後塵を拝することになった。
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