(22.12.16) なぜ今、中小企業の為替デリバティブ倒産か?
12月14日の毎日新聞の記事を見てびっくりしてしまった。
円高による中小企業の為替デリバティブ倒産が急増しているのだという。
記事を見たときは輸出業者が無理なデリバティブ契約をして、損失が膨らんだのだと思っていたが、どうやら輸出業者ではなく輸入業者のようだ。
「うそだろう、円高になれば輸入業者はホクホクのはずだのに・・・・・・」
この記事と朝日新聞の記事をあわせて読んで始めて実態が見えてきた。
朝日新聞の例では、2003年、ある食品輸入販売会社に金融機関が融資とセットで為替デリバティブの購入を勧めたのだという。
2003年というから日銀が円安誘導をしていた頃で、当時の円相場は120円前後だった。
このときこの会社と金融機関が結んだ為替デリバティブ契約は、1ドル110円でドルを購入する契約だったという。
「120円のものが110円で購入できるから、絶対お得です」というのが勧誘のせりふだった。
注) 金融機関から見ると融資ではほとんど利ざやを稼げないため、契約金のほぼ5%程度の手数料が稼げるデリバティブ商品の販売をしたのだと思う。なおこの金融機関は他の金融機関に1ドル110円で購入できるようにヘッジをして損失を出さないようにする。
確かに日銀が超緩和を継続し、リーマンショックも起こらなければこの輸入商社はいつも10円程度安くドルの調達ができ、その分収益に貢献していたことになる(実際8年までは10円安くドルを調達していた)。
しかしリーマンショックですべてが暗転してしまった。直後に90円台になり、さらに最近は80円を少し上回る円高になって、現在なら83円で購入できるドルを110円で購入し続けなくてはならなくなった。
輸入商社が円高のメリットをまったく享受できず、これではこうした契約をしていなかった同業他社との競争に勝てない。
注)この為替デリバティブは、この金融機関を経由する為替決済の時に必要なドルの調達だけが対象だと思われる。しかし、この金融機関との取引をやめない限り1ドル110円でのドル調達が続く。
なお、中小企業の場合は不動産等の担保をおさえられている場合が多く、金融機関を簡単に変えられない。
この会社の事例では毎月数千万円単位の支払いを銀行から求められ、一方為替デリバティブ契約を解消しようとすれば年間売上高に相当する違約金の支払いが必要になりとうとう倒産してしまった(売上高140億円、違約金120億円)。
一体この商社はどんな為替デリバティブの契約を銀行としていたのだろうか。
違約金120億円と毎月数千万円単位で支払いを求められているということから推定すると大体以下のような内容ではなかったろか。
① 2003年に年間仕入額1億ドルのほぼ10年分の金額約10億ドル相当を1ドル110円で購入する契約を締結。
② 2008年までは常に市場より10円程度安くドルを調達できていたため収益に貢献。
③ 08年のリーマンショックで急激なドル高になり、今度は反対に損失が増大。
④ 現段階で解約を行うとおよそ以下のような損失が発生。
*10億ドルのうちすでに6億ドルは利用済みで残は4億ドルとする。
*この4億ドルを現時点で110円ですべて買い取って契約を解消し、同時にドルを83円で市場で売却する。
*この結果1ドル当たり27円の損失が出るので、その金額は
4億ドル×27円=108億円(これが違約金120億円に相当)
⑤ 毎月の金融機関に対する支払いは、毎月の輸入額約1000万ドル×27円=2700万円(これが毎月の金融機関に対する支払い)
上記はあくまで推定数字だが、大体こんな状態なのだろう。
こうして信じられないことに中小規模の輸入業者に今倒産が多発しているという。本来ならこの円高で莫大な利益が計上できるときに、為替デリバティブに失敗して倒産しているのだから悲劇だ。
しかもその契約が2003年という、超円安時代を反映した契約なのだから、リーマンショックの影響がタイムラグを持って今具体的に出てきたということになる。
金融庁もあわてて実態調査を始めたが、このような契約がいたるところにあると日本経済の浮揚も並大抵のことではなさそうだ。
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