(22.10.21) 中国の深い闇 反日デモと内部闘争 共青団派と太子党
ここにきてようやく尖閣諸島漁船衝突事故と反日デモの関連が明らかになってきた。
当初はなぜこの時期に漁船衝突事故が発生し、それを胡錦濤執行部が声高に日本を非難し、船長を釈放した後も「謝罪と賠償」をもとめ、菅総理と温家宝首相が手打ちをした後も、反日デモが荒れ狂うのか分からなかった。
中国のデモは官製デモだから、手打ちもデモも中国政府の意思と見えたからである。
私は中国は覇権国家であり、日本から尖閣諸島を奪うまではこの「脅しとすかし」政策を続けると記事に書いてきたが、なぜ中国が「脅しとすかし」をしなければならないかの中国側の内部事情が分からなかった。
中国共産党は外部に対しては一枚岩のように見せているが、実はどこの国にもある熾烈な派閥闘争を繰り広げている。
日本ような国は民主党と自民党が国会で丁々発止の議論をするから、誰の目にも闘争があるのが分かるが、中国はそれを隠れて密室で行っているにすぎない。
密室だけに相手を陥れる手段は何でもありだ。
中国の二大派閥を共青団派と太子党という。一般の日本人には分かりづらい構図だが、共青団派は故鄧小平氏が育てたインテリ階層で、共青団という組織を上り詰めてきた現行の執行部を言う。
胡錦濤氏や温家宝氏がその代表だが、中国古典のイメージでいえば科挙の試験に合格した進士だと思えばよい。
一方太子党は、江沢民氏の周りに集まっている上海閥を中心とした実力者の子弟で、親の七光りで党の要職を占めている階層で、習近平氏がその代表である。
太子党は地位も名誉も財産も持っており、この立場を今後とも維持することが最大の眼目になっており、中国版貴族だと思えばよい。
政策的には共青団派が中国の遅れた貧しい人々の地位の向上に熱心で日本的なイメージでは革新的であり、また対外的には温家宝氏がそうであるように協調的だ。
一方、太子党は自分たちの利益を最大限に維持することに熱心で保守的な体質を持ち、江沢民氏がそうであるように対外的には常に強圧的な対応をする。
この共青団派と太子党がポスト胡錦濤をめぐって熾烈な争いを行ってきていたが、この18日に終了した5中全会で、ポスト胡錦濤は太子党の習近平氏になることが決まった。
習近平氏が中央軍事委副主席になることが採択されたからだ。
中国は軍事国家で人民解放軍のトップが党の総書記や国家主席を兼ねる。
戦前の日本と同じで陸軍大臣が首相になるのと同じだと思えばいい。
こうしてポスト胡錦濤は太子党の手中に落ちたわけだが、太子党は習近平氏を中央軍事委副主席にするために日本をダシに使ってこのレースに勝利した。
私はほぼ1ヶ月前に中国の漁船が海上保安庁の船に体当たりしてきた時に、これは偶発事故だと思った。
中国の執行部がいつも必ず起こるデモを抑えて冷静な対応をしようとしていたからだ。
注) (22.9.20) 尖閣諸島の中国漁船衝突事件は偶発的事故 参照
しかしその後の経緯を見てみると、単なる偶発事故とは言いがたいことが分かった。
中国共産党執行部がデモを抑える一方で日本に対し徹底的に強圧的な外交を展開し、船長を釈放した後も「謝罪と賠償」求めてきたからである。
何ともちぐはぐな対応だ。日本に対し本当に強圧的ならば、05年の時のように日本大使館に対する暴力デモをおこない、かつ政府間レベルでも脅しの外交をしなければならない。
さらに不思議なのは菅総理と温家宝首相が手打ちをした後に、デモが地方に荒れ狂ったことだ。
「中国首脳部は何をやっているんだ。中国のデモは官製デモだろう。これでは精神分裂症の患者のようではないか」日本政府が当惑したのも無理はない。
答えは漁船を体当たりさせてデモを組織した勢力と、デモを抑えようとした勢力が異なるという言うことだろう。
前者は太子党が裏で暗躍し、後者は共青団派の現執行部の方針だとすれば意味が分かる。
太子党は前年度の4中総会で手痛い失敗をし、習近平氏を中央軍事委副主席にすることに失敗している。
胡錦濤氏が腹心の李克強氏を後継者にしようと、習近平氏の昇格を阻んだからだ。
「昨年の失敗は許されない。今回は何としても胡錦濤を揺さぶり、わが太子党の習近平氏を次期後継者に指名させよう。
胡錦濤のアキレス腱は日本だ。日本を甘えさせている胡錦濤と温家宝を徹底的にたたけ」
日本に甘いと言うことはかつて胡耀邦氏が失脚したように、中国では最大の失脚理由になる。
今回逮捕された船長が太子党だったか否かは不明だが、太子党の一派から「意図的に漁船を巡視船にぶつけて逮捕されるように」示唆されていた可能性が高い。
船長が逮捕されるとすかさず太子党は現執行部をつるし上げ、尖閣諸島の領有権で「もし日本に譲歩するようなことがあれば、中国の根源的な利益が脅かされる」として強硬姿勢をとるように脅迫した。
これで胡錦濤政権は日本と妥協することができなくなった。日本に対する妥協は政権の基盤が揺らぐ。
しかしどこでも領有権問題は一筋縄ではいかない。日本は当初船長を裁判にかけようとしたので、現執行部は日本に対する圧力をエスカレートし、さらに船長を釈放した後も「謝罪と賠償」を要求してきた。
胡錦濤政権は日本に対し厳しいとアピールし、太子党に弱みを付け込まれないようにした訳だ。
しかし政権担当者はいつまでも臨戦状態にいるわけには行かない。どこかで日本と手打ちをする必要がある。
菅総理と温家宝首相がASEMの会場を利用して手打ちをしたのを見て、太子党は小躍りした。。
「温家宝が甘い態度を取ったのを徹底的に糾弾しろ」
作戦をエスカレートし地方の数都市でデモを組織することに成功した。
注)中国では次期後継者を決める5中全会のような大事な時期に、ストを許すことはない。これがあったのはかつての紅衛兵運動と同じように、権力闘争に利用されたからである。
こうして胡錦濤政権を揺さぶり、太子党はまんまと中央軍事委副主席の地位をせしめることができた。
太子党は日本をダシにして権力闘争に勝利したわけだ。
しかしこの地位が磐石かどうかは胡錦濤主席が引退する今後の2ヵ年間の政治闘争にかかっており、油断すると胡錦濤氏に巻き返される。
だから太子党はいつでも日本をダシにして胡錦濤政権を追い詰める臨戦態勢を取っているし、一方胡錦濤政権としては日本に厳しく当たることで太子党の追及を避けようと懸命になる。
中国外務省が「デモをする気持ちは分かるが、法に基づいて行え」といっているのがそれで、中国では太子党も共青団派も日本を犠牲にして政権維持を図る。
注)日本が血祭りになるのは中国に対し有効な反論をせず、柳腰外交と称してサウンドバックに徹するからである。
こうして日本から見ると、胡錦濤政権から「脅しとすかし」という正反対のメッセージが発せられて、中国側の真意を測ることがことのほか難しくなってしまう。
中国にとって日本はいくら犠牲にしてもかまわない東夷の小国だからと言うのが一番の理由で、今後も日本をダシに権力闘争が繰り広げられると予測しておくのがよい。
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コメント
最近、共産主義青年団派の巻き返しが在ると言われている。
一時期、胡錦濤の顔色が悪く、温家宝が病に臥せっていた時期があったようだ。
ちょうど中国高速鉄道が脱線事故を起こした時期だ。
これらの脱線事故を始め、化学工場の廃液流出と信じ堅い原因の事故が多発していた。
これも内部闘争の表れかも知れない。
さらに中国海軍、魚政、海警の東シナ海、西太平洋での不可解な行動が続く。
特に、軍部が香港メディアを通して、日本や米国挑発する報道を突如として行なうことが頻繁にある。
これも中国政府のコメント等とは文脈的にそぐわない。
また、江沢民の死亡説に至っては反太子党集団のあぶり出しのようにも見える。
さて、現在、重慶のトップ争いで在るが、太子党と見られている
薄熙来・重慶市党委書記の辞任に発展している。
現在。習近平次期党主席は海外に出ている。
この間に共産主義青年団が太子党の切り崩しを始めているのだろう。
江沢民も水面下で動いているだろうに。
これは、江沢民の力の低下を示しているのだろう。
胡錦濤の院政が敷かれつつあるのか。
もしかしたら、近々、江沢民の死亡も現実になるのではないか?
一方、軍部の掌握情況が気にかかる。
共産主義青年団の掌握が遅れるようだとクーデターも起こるだろう。
兎にも角にも、習近平次期党主席の米国・欧州外遊からの帰国後だな。
投稿: むむ~ | 2012年2月22日 (水) 01時33分