(22.10.19) フランス年金改革の行方 サルコジ大統領と労組の熱い戦い
フランスのサルコジ大統領が保守の威信をかけて年金改革に取り組んでいるが、これに反対する労働組合の抵抗は日増しに強くなっている。
各地で100万人規模(当局発表)のデモが行われ、何か総資本と総労働の対決のようだ。
かつて日本にも見られた構図だが、フランスにまだその構図が残されていたことは驚きだ。
アメリカを始め、イギリスやドイツや日本はすでにかなり前にこうした保守対革新の対決は乗り越えてしまったが、先進国の中でもっとも社会主義的な国家であるフランスは、20世紀の対立をそのまま残している。
フランスとは理解しにくい国だ。なにしろ主要産業の金融・保険・電力・運輸・防衛といった産業が国営企業か国の関与を強く受けている企業で、そのトップはほとんどが大統領の友人で占められている。
そしてこうした企業や官界に進むには特定の大學(グランゼコールと呼ばれている)の出身者でないとだめで、グランゼコール出身者とそうでないものの相違は貴族と平民の相違に等しい。
一般の国民は出世とは無縁だから、もっぱら定年を待ちわびて現行の60歳になればはれて引退してもっぱら年金生活を楽しむことになる。
「地位や名誉や財産はないが、俺たちには第2の人生がある」と言うのが一般のフランス人の誇りだった。
それをサルコジ大統領が年金改革と称して、定年退職年齢を60歳から62歳に引き上げ、年金の満額支給年齢を65歳から67歳に引き上げるとしたものだから労働者が納まらない。
「支配階級のサルコジを倒せ、ゼネストだ」。
製油所がストップしてジェット燃料の確保ができなくなってきたため、シャルル・ドゴール空港の予備燃料は19日には枯渇しそうだとエコロジー省の担当者が悲鳴をあげだした。
フランスきっての強硬な組合である国鉄もストを打っているのでTGVは数本に一本程度しか運行できないし、高校生までストライキに参加しはじめた。
「定年延長をして若者の職場を奪うのか!!」
注)2006年の若者雇用促進政策(2年間は理由なく解雇できる)では、時の首相ドビルパンが大学生の反対運動で退陣に追い込まれている。
もっとも抵抗があってもサルコジ大統領が後に引けない理由がある。 リーマン・ショック後国内の金融機関にディリバティブと称する不良債権が山のようにあることが分かり、その支援のための財政出動で財政赤字がGDPの3%をはるかに超えてしまった。
ところがギリシャ危機を境に、ドイツの強い要望を入れてEUは緊縮財政に転換し、財政赤字をEUの基準どおり3%以下にする取り決めをしたばかりだ。
注)2009年の財政赤字はGNP対比約8%。
緊縮財政の目玉はどこでも膨れ上がった福祉予算、分けても年金改革になるのは止む終えない。
フランスの年金制度の赤字は約3.6兆円で、今後とも増大の一歩をたどるためサルコジ大統領としたら、この赤字幅の削減が急務になった。
「世界の先進国の中で60歳で定年退職する国がどこにある。ほとんどが65歳だろう。まだ君たちは働ける」こう叱咤激励したが一般市民は馬の耳に念仏だ。
労働者は「労働は神様が与えた天罰」だと思っているので、サルコジ大統領に賛成しない。
「これはエリート層が俺たちを搾取するための謀略だ。二年間搾取期間を延ばそうとしている」テンションはますます上がってきた。
世論調査ではスト賛成者が70%程度になっている。
サルコジ大統領もEUの盟主として一歩も引けない立場だから、これはフランスにおける20世紀型対立の総決算と言う様相を呈してきた。
果たして総資本対総労働の対決はどちらが勝利するのだろうか。
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