(22.10.12) HNK古代史ドラマスペシャル 大仏開眼
先日2日間にわたって放送されたNHKの古代史ドラマスペシャル、大仏開眼を興味深く見ることができた。
私を含め一般の日本人は、奈良時代というものをよく知らない。
聖武天皇が奈良の大仏を造営したり、諸国に国分寺や国分尼寺を建造したことから、非常に仏教政策に熱心だったことは分かるが、それ以上の知識はあまりないのが普通だ。
「奈良時代とはどんな時代だったのだろうか?」そうした興味でこのドラマを見たが、この時代が中国のコピーであったことがよく分かった。
そもそも服装からして中国式であり、特に朝廷の玉座や百官の立ち居振る舞いが中国式であることに驚いた。
当時の指導者層はまったく中国人のようだ。
手に細長い靴べらのようなものを当時の役人は持っていたが、これはシャクといって、挨拶を交わすときに使用する。
私はシャクは神主さんが詔をする時に使用しているものだとばかり思っていたので、シャクを両手で持って恭しく頭を下げる挨拶が当時の基本と知って驚いた。
この奈良時代の人口は500万程度で、都市的な場所は奈良の平城京と九州の大宰府ぐらいしかなく、後は人口がまばらな田舎といった感じだったようだ。
私のイメージとしては現在の北海道を一回り大きくして、かなり寂しくしたような場所が思い浮かぶ。
この物語は聖武天皇の御世に遣唐使として唐から帰朝した吉備真備と名門藤原氏の家長、藤原仲麻呂との確執が縦糸のテーマになっており、横糸のテーマは大仏開眼となっているドラマだ。
吉備真備は弱小貴族の出身で、とても朝廷の重要な役職を務める家柄ではなかったが、その学才が秀でていたため遣唐使の一員として唐に派遣され、唐で19年間の研鑽を積んできたインテリだ。
今の日本のイメージで言えばアメリカのハーバードに留学し、そこで研究者として立派な業績をあげてきたと言うイメージで、実際ドラマでも合理的なこと以外は一切信じないと言う、唐のインテリらしい立ち居振る舞いをしている
帰朝してからはその近代的知識により朝廷で押しも押されぬ人物として重用されるようになる。
しかし吉備真備を重用したのは心では藤原氏を煙たく思っていた聖武天皇とその皇太子阿部内親王(娘)で、一方藤原仲麻呂を支援したのは聖武天皇の后で、阿部内親王の母親でもあった光明皇后という構図になっている(史実でもその通りだといわれている)。
母と娘が対立するとはおかしな構図だが、光明皇后は藤原氏の出であり、藤原一門を権勢の中心に据えることに熱心だったのに対し、阿部内親王は王家の父と藤原氏の母の子供でいわばハイブリッドだったからだろう。
「私は母も藤原も嫌いなの」
この奈良時代という時代は、皇室の力と藤原氏の力が拮抗していた時代で、最終的には藤原氏の勝利に終わるがそれは一筋縄で行ったわけでなく、藤原氏は何回かの挫折を繰り返している。
皇室側も有能な王位継承者を輩出し、特に長屋王が典型的にそうであるように政権の主要な地位に着いたが、藤原氏の陰謀によって自殺に追い込まれている。
自殺させたのは藤原4兄弟と言う仲麻呂の父や叔父だが、この4兄弟はこんどは流行の天然痘で相次いで死去してしまい、残ったのは仲麻呂だけと言う状況になっていた。
このドラマでは吉備真備が内親王を助けて藤原仲麻呂の横暴をけん制すると言う構図になっている。
実際の吉備真備も反藤原方の筆頭で、そのため仲麻呂から疎まれ大宰府に流されているがこのあたりは菅原道真とそっくりだ。
一方横糸の大仏開眼はあまりよく分からない。吉備真備と共に唐から帰朝した僧玄坊が聖武天皇の母親のうつ病を治療し、天皇の信任を得て日本国に世界最大の大仏の建立を勧めるのだが、なぜ聖武天皇が盧遮那仏(るしゃなぶつ)の建立に積極的になったかドラマではよく分からなかった。
注)井沢元彦氏の逆説の日本史を読むと、聖武天皇もうつ病にかかっており、その原因は藤原一族が陰謀で殺害した長屋王の怨霊を恐れていたからという。長屋王を鎮魂するために光明皇后と一緒になって、大仏を造営したのだと言う。
阿部内親王は聖武天皇から位を譲られ考謙天皇となるが、母親と藤原仲麻呂の陰謀で廃位させられ,上皇に祭り上げられた。
考謙天皇はこの状態に不満を持っていたが、母の光明皇后が存命のうちは積極的な反撃に出られない。
仲麻呂の専横はますます激しくなり、この仲麻呂の藤原氏中心の政治と新羅討伐計画(ドラマでは触れていなかった)を苦々しく思っていた反仲麻呂集団が、光明皇后死去の後孤立した仲麻呂を打つことにした。
考謙天皇の命令で吉備真備を参謀総長にして反仲麻呂軍が仲麻呂の野望を砕くところでこのドラマは終わっている。
「そうか、奈良時代を理解するには吉備真備を理解すればいいのか」ドラマを見てその手がかりを知ることができた。
いまから1300年も昔の、霧に包まれた時代だったが、今回このドラマを見ることによって、奈良時代理解の糸口がつかめることができて非常に満足した。
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コメント
はじめまして
写真の美しさに惹かれて立ち寄らせていただきました。
プロフイルを拝見して、精進されていることに頭が下がります。
余生の過ごし方、写真にも見通せる心が映っていますね。
ないものねだりしたくなりましたが、因果応報を自覚させられました。
ありがとうございました。
(山崎)写真を褒めていただき、とてもうれしい気持ちです。昔、山岳写真家になろうとして白籏史朗氏の「山岳写真テクニック」を学んでいた頃を思い出しました。
投稿: アットマン | 2010年10月12日 (火) 19時31分