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(22.9.3) ロドリゴ 蝦夷地探訪記 その5

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 私は長く江戸表などに住んでいましたので、アブの恐ろしさを忘れていましたが、蝦夷地での最も大きな脅威はこのアブの襲撃でございました。
アブには何種類かのアブがいるのですが、ロドリゴには大きなでぶっちょアブ、小さな細長アブ、それと花アブの区別しかつきませんでした。

 この中で大きなでぶっちょアブはすごい羽音をさせて襲ってくるので、こちらも身構えることができるのですが、小さな細長アブは羽音をさせず、チクとした痛みを感じてはじめて刺されているのが分かるのでございます。

 アブは刺すというより噛み付いているという感じで、少々手を払っても動じません。仕方なく叩き潰すのですが何があっても血をすい続けるという実に獰猛な性質を持っておりました。

 アブに刺されて最も困ることはかゆみがなかなか引かないことでございます。ロドリゴは2日目の襟裳岬に行く途中に初めて刺されたのですが、そのかゆみはほぼ1週間にわたって続き、刺された場所は赤くはれ、最後は膿さえ持ってしまいました。

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(こうした場所にアブは生息している

そうだった、アブ対策をしないと大変なことになる
ようやく気づいて途中の集落でムヒというアイヌ伝統の薬草を購入したのでございます。
これは刺されたらすぐに塗ると毒を中和させ、かゆみを軽減させるという薬草でございました。

 アブは海岸べりにはあまり多く生息しておらず、山道や牧場に大挙して生息しており、主として牛を狙って攻撃をいたします。
名前もうしあぶと言い、しつこく牛を追い回す性質がございます。

 しかしこうした場所には和人やアイヌは絶対近づかず、ロドリゴのようにひたすら徒歩で移動する皮膚もろだしの人間だけが、牛以上の格好の餌食にされてしまうのでございました。
アブから見ると「一世一代のご馳走が来た。生き血をすべて吸い尽くせ」という感じで、ロドリゴはまるでドラキュラに狙われた処女の立場でございました。

注)この日までに右手首を3箇所アブにかまれていたのですが、それが単なる序章にすぎないことをその時は知りませんでした。

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のどかな牧草地帯が続いておりました

 今日(元禄3年8月12日)は、広尾のキャンプ場を出て、広尾国道をとおり、忠類という場所まで歩くつもりでございました。おおよそ30kmの距離でございます。
忠類とはアイヌ語でチュウルイベツと言い、急流を意味する言葉だそうでございます。

 蝦夷に来る前は毎日40km程度は簡単に歩けると思っておりましたが、酷暑の中を歩くのは非常に消耗し、かつ足の小指に水ぶくれができ、アブにさえかまれてしまうと、歩みは非常に遅くなるのでございます。

 しかもこの日は蝦夷地に向かって台風が押し寄せてきており、午後からは大降りの雨が降ってまいりました。
この国の道は帯広という蝦夷地では大きな城郭がある場所にむかう主要な道でしたので、自動の車と称する象やさいやライオンやチーターが全速力でぶっ飛ばしているとても危険な場所でございました。

 マサイ族の青年のようにロドリゴはただ一人こうした獣の間を歩いておりましたが、忠類の直前の約7kmあまりは歩道がなく、白線の外側は約50cm程度の幅しか有りませんでした(通常は歩道があるか、白線の外側に1m以上の余裕がある)。

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忠類の近くでマンモスの骨格が発見されている

 台風による大雨は視界をさえぎるほどであり、国の道にはいたるところに水溜りができ、そこに象やさいやライオンやチーターが目一杯の速度で疾駆しておりましたので、こうした動物に行き会うたびに猛烈なシャワーをあびてロドリゴは水浸しになってしまいました。

 台風の大雨でさえつらいのに、あまつさえ水しぶきを浴び、たった50cmあまりの避難場所でひたすら身体を丸め、主の祈りをささげていたのでございます。
時により すぐれば民のなげきなり 八大龍王 雨やめさせたまへ!! やめさせたまえ!! やめさせたまえ!!

 しかし雨は一層強くなり、目の中に雨が張り付き何も見えなくなるような状況でしたが、これはあわてて主の祈りを間違えてしまったからでございます。

 結局この道を突破するのに約2時間かかり、この時ほど修行の厳しさを感じたことはありません。
当初は忠類の公園でキャンプを張る予定が、身も心もずぶぬれになり、かつ台風も接近しておりましたので忠類の温泉兼ホテルに逃げ込んだのでございます。
主は弱きロドリゴをお許しくださるでしょうか?」

 

 

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