(22.9.2) NHK 追跡A to Z ”はやぶさ”の快挙はなぜ実現したか
最近見たドキュメンタリー番組でこれほど感動したものはない。NHKの「追跡A to Z ”はやぶさ”の快挙はなぜ実現したか」である。
はやぶさの快挙については先にクローズアップ現代で放映されたのでその時も感動して以下の記事を書いている。
(日本の宇宙航空技術が世界のトップに並んだ 「はやぶさ」の帰還)(ネットが張ってあります)
今回の「追跡A to Z」ではさらにプロジェクトメンバーの一人一人の役割と、そのときの感動まで伝わってきた。
そして崩壊一歩手前まで行ったこのプロジェクトがいかに再生し、成功里に収束したかのドラマを食い入るように見てしまった。
「なんて日本人は粘り強く、苦境に陥っても立ち直れるのだろうか」
これがこのドキュメンタリーを見た率直な感想である。
この計画は探査衛星はやぶさによる小惑星イトカワからのサンプルリターン計画だが、ここに携わった科学者と技術者の集団こそ、日本人の最も良質な人々がどのような人々であるかを教えてくれる。
苦境に陥ったときのリーダーが示す態度、およびメンバーが持てる能力をすべて発揮して協力していく姿は、自信喪失ぎみの日本人に感銘と自信と喜びを思い出させてくれる。
「この番組こそ日本人全体に見せるべき番組だ。特に若く知性溢れる若者には是非見てほしい番組だ」心からそう思う。
はやぶさが日本を飛び立ったのは03年5月7日であり、地球から約3億km離れたイトカワという直径500mの小惑星に着陸し、そこの岩石を採取して、再び地球に帰ってくる計画だった。
サンプルリターン計画という。
片道2年間で合計4年という長いミッションだったが、実際にはやぶさが帰還したのは10年6月13日だったから7年の月日がかかったことになる。
その間、はやぶさには3回の大きなトラブルが発生して、ほとんどミッションは失敗したのではないかと思われた。
1回目のトラブルははやぶさがイトカワに到着してサンプルを採取しようとしたときに起こった。
このサンプル採取の担当者は矢野さんという技術者だったが、当初イトカワは平坦な砂漠のような星だと想定していた。
しかし実際に見たイトカワはごつごつした岩の塊であり、着地することは勿論、岩石の採取はとても不可能に思われたという。
実際はやぶさは2度にわたって着陸を試みたが1回目は失敗して岩石の上をバウンドしながら転がり、約30分にわたって約100度の岩盤の上に放置されたという。
2回目はうまくサンプル採取ができたと思ったが、実際はプログラムミス(地球からの指令に20分もかかるため、自動プログラムを組み込んでいた)で、採取装置が稼動しなかったという。
「信じられないような失敗で、申し訳が立たない」リーダーの川口淳一郎氏が陳謝している。
注)その後の再調査でイトカワの粉塵が採取できた可能性が分かり、実際に粉塵があるかどうかの調査を現在行っている。
この段階でサンプル採取を諦めリターンだけ行うことになったが、2回目のトラブルはイトカワへの着陸失敗時のアクシデントで姿勢制御をする制御装置(3方向にガスを噴射して姿勢制御する)のうち2つが壊れてしまった。
さらに燃料の一部が噴出したためはやぶさが回転運動を起こし、通信用のパラボナアンテナと太陽光発電の太陽光パネルの方向が狂ってしまった。
太陽光パネルが太陽に向かなければ発電ができず、パラボナアンテナが地球に向かなければ通信ができない。
通信ができない探査衛星は宇宙のゴミと同じで、その段階でプロジェクトは崩壊しそうになったという。
この時のリーダーの川口淳一郎氏の対応がすごかった。はやぶさが回転しているなら、太陽光パネルが太陽に向いて発電が再開でき、その時パラボラアンテナが地球に向いていれば通信が可能になると想定し、その確率は1年間はやぶさを追えば6割の確率で補足可能と計算したのだ。
映像を見て、リーダーとは最後まで諦めず、あらゆる可能性を探る人のことだと知った。
この確率計算を基にプロジェクトははやぶさの探査を再開し見失ってから47日目に再びはやぶさの電波を捕らえることに成功した。
さらに姿勢制御を安定させるために、技術者の一人白川さんの提案で、壊れた2つの姿勢制御装置の代わりに、燃料の噴射と太陽光の圧力を利用してはやぶさの姿勢を安定させることに成功したという。
太陽光の圧力を利用するとは信じられないような発想だ。
3回目のトラブルは4つのイオンエンジンがすべてストップし、地球に帰還できなくなった時である。耐用年数が過ぎて動かなくなったという(4年で帰還する予定が7年かかったため)。
エンジンが動かなければ宇宙のゴミになってしまう。
この時の國中さんというエンジン担当の技術者の対応がすごかった。
イオンエンジンはプラスイオンとマイナスイオンを別々に噴出して、それを結合することで推進する。
それぞれのエンジンは壊れているが、生き残っている別々のプラスイオンとマイナスイオンの噴出口を再結合して、エンジンを再開させた。
國中さんはもしもの場合に備えて、再結合が可能なようにエンジンを設計しておいたのだという。
こうして大きな3つのトラブルを乗り越えて、はやぶさは10年6月13日に7年の歳月を費やして帰還した。
すべてリーダー山口さんの最後まで諦めないリーダーシップとそれに答えたメンバーの努力の賜物だ。
サンプルリターンという惑星探査の成功は、日本の宇宙技術がアメリカ、ロシア、中国に負けない第一級のものだということを示しており、それを成功に導いた技術者集団は世界に誇る技術者集団だ。
「日本人はなんてすばらしいのだ」64年の人生でこんなに嬉しいことはない。涙を流して喜んでしまった。
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コメント
私も6月13日からずーーーとはやぶさの帰還に感動し続けている者です。
この記事に共感したので投稿させていただきます。
軍事目的でなく、平和目的でなされているjaxaの事業と、宇宙、ひいては科学好きの子どもを育てようというjaxaのページなど、調べてみればみるほど日本の良識がここに残っていると感じます。
ゆとり教育の中でも、こころしてこのようなところから少しでも将来の技術、科学を背負っていく子どもが育ってくれるように祈るばかりです。
投稿: さくらもち | 2010年9月 2日 (木) 10時22分