(22.8.22) 夏休み特集 NO14 失敗記 テニスの巻き
私は人生において何度も失敗してきたが、ほとんどの場合は自分自身が困るだけで他人に影響することは少なかった。
しかしこのテニスにおける失敗はちょっと他人に説明するのが躊躇されるような失敗だ。
私はほとんどテニスができないのに、国体のテニスの線審をしたのである。
ワールドカップでサッカーを知らずにラインズマンをしているようなものだが、時にこうした間違いが発生するのだ。
(19.3.26)失敗記 その1
この年まで生きていると失敗した経験は山ほどある。特に私はやや軽率なところがあるから、普通の人なら絶対に失敗しそうもないことで失敗している。いくつかをご紹介しよう。
(テニスの巻)
私は学生時代硬式テニスをしたことがなかった。テニスは軟式テニスのことだと思っていたくらいだ。会社に入って初めて硬式テニスと言うものがあることを知った。寮にテニスコートがあり、先輩が手ほどきしてくれたのである。場所は長野市で約35年も前のことである。
私はしばしこの硬式テニスに夢中になり、何冊かの入門書を買い込み、毎朝出勤前に素振りなどをして、すっかりテニスマニアになってしまった。しかし基礎ができてないのは悲しいことで、バックスイングでまともにボールを捕らえることができない。
ちょうどその頃長野市でローンテニスクラブ設立の機運が盛り上がった。音頭をとったのは信濃毎日新聞社に勤務するバリバリのテニス選手である。
当時テニスコートを持っている会社は少なく、私の勤務する会社にも参加の呼びかけが来た。技術のつたなさは、テニスコートをクラブに開放することで補われたのである。
私を含め数人が長野市ローンテニスクラブのメンバーになった。
不幸は、その年長野県で国体が開催されたことにある。開催場所は松本市だったが、わがローンテニスクラブに審判団の派遣要請が来た。
信濃毎日新聞社に勤務している会長から、私の会社からも線審を出すように要望が来た。そのとき暇人は私一人だった。
「線審なんて、ボールが入ったか入らないかを見るだけでたいしたことがあるまい。いいですよ」軽く引き受けた。
硬式テニスを始めて半年程度の人間が国体の線審をすることになってしまったのだ。
行ってすぐに後悔した。旗を渡されたが、これが何を意味するのか知らなかったからである。この旗でアウトとセーフの判定をするのだが、私は恐る恐る主審に、アウトとセーフの旗の振り方の手ほどきを受けた。
「この人、だいじょうぶ」と主審は疑ったが、試合が始まろうとしていたので、私は線審をそのまま務めることになった。
当時は沢松和子が全盛時代で、世界ランキング入りをしていた。私が線審をしたのは女子ダブルスで、目の前に沢松和子がプレーをしていた。
サーブを見て驚いた。ボールが早すぎてコートに入ったか入ってないか分からないのだ。
私が今まで知っていたテニスのは、お遊びテニスだっただから、ボールにハエがとまりそうだった。だからこの落差に愕然とした。と同時に頭に血がのぼり、真っ白になってしまった。
旗の振り方はすっかり忘れてしまい、サーブのたびに旗を上げ下げしたものだから、沢松和子にギューと睨まれた。心臓はとうにパンクしてしまい、その後どうなったのか分からないくらいだ。
さすがに主審が見かねて、私に確認しに来た。「どっちなんだ」
私は「入ったか入ってないか分からない」と答えたので、主審はあきれ返った。第一セットが終了した段階で線審を代えてくれたときは心底ほっとした。もう少しで、国体のテニス競技をめちゃくちゃにするところだった。
興奮が収まるまで、テニスコートの端で、いじけて呼吸を整えていたが
「人間は能力を超えた要請を受けたときは、きっぱりと断るのが正しい態度だ」と心から反省した。
実はこの私の経験と同じような経験をした国際審判がいた。シドニーオリンピック柔道決勝100k超級の主審をしたニュージーランド人である。
ドイエの内股に対し。篠原が内股すかしで対抗し、明らかに篠原が一本とっていたが、主審はドイエの内股を有効とした。
私は断言するが、この主審はいままで内股すかしを見たことがなかったはずである。内股すかしのような高度な技は、柔道の本場以外ではついぞ見ることのできない技だ。
この人はニュージーランドで私の国体審判と同じような過程をたどって選らばれたに違いないずぶの素人だ。
この時は、大いに篠原に同情したが、同時にニュージーランドから来た主審にも同情した。
「人間は能力を超えた要請を受けたときは、きっぱりと断らなければいけないのだ」
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