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(22.8.20) 夏休み特集 NO12 足が目になる

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(マッスルさん撮影、山崎編集)

 私の趣味の一つにマラソンがあるのだが、長谷川恒男記念CUPという奥多摩で行われている山岳レースで実に貴重な体験をした。
この競技は午後の1時にスタートして、夜を徹しして走り、24時間以内に戻ってくればいいのだが、競技が行われるのが10月10日前後のため、すぐに夜になる。

 夜は懐中電灯で照らしても山道の起伏は分からない。一生懸命見ようとしても無駄で、その時は足裏のセンサーを効かして地面の状態を知る。

 普段はこの足裏のセンサーのことをまったく忘れているが、実際に暗闇の中を走ったり歩いたりすると、実に有効なセンサーだと言うことを知る。
この記事は普段は隠れている人間の持つ能力に感動して書いたものだ。

 
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(マッスルさん撮影、山崎編集)

(19.3.16)足が目になる

 足が目になる信じられないかもしれないが本当の話である。私がそのことを実感したのは、日本山岳耐久レース、別名長谷川恒男CUPにおいてである。

 長谷川恒男氏は、世界の岸壁を冬季に1人で登坂した日本の誇るアルピニストだったが、惜しいことに91年10月、パキスタンのウルタルⅡ峰において、なだれに会い遭難した。43歳だった。

 日本山岳連盟は長谷川恒男氏の偉業を讃えるために、奥多摩の山塊を走るトレッキングレースを開催することにした。距離は73kmだが、山塊である。最高峰は三頭山(みとうさん)で約1500m。スタートは武蔵五日市で標高差は1100mある。

 山の73kmを、平地換算するとその2倍、約140km程度のレースに相当する。時期は長谷川氏が遭難した10月10日前後の土日に設定される。

 制限時間は24時間とこの種のレースとしては余裕がある。すべて歩いても完走できる時間だが、一日中歩いていなければならない。
 スタートが午後1時のため、すぐに暗くなる。いわば夜を徹して山中を走り回ると考えればよい。完走率は約半分だから、実際は非常に厳しいレースと言える。


 夜中の登山道は木立に阻まれて非常に暗い。特に曇りや雨の日は真っ暗と言ってよい。もちろん懐中電灯は持っているのだが、暗闇に吸い込まれてほとんど何も見えない。目で見ても足元しか見えない。木の根っこや凹凸は分からない。

 このような時は目で道を探してはいけない。足で探すのだ。ほとんど足の感触に頼ることになる。土の道か、石の道か、岩の道か、すべて足に聞く。根っこはあるか。滑りそうか。傾斜の度合いも、危険かそうでないかもすべて足に聞く。
すべての神経を足に集中すると、目から得る情報と同程度の情報を足から得ることができることを知る。

 足が目になるのだ。私はこのときまで足にこんな素晴らしいセンサーがあることを知らなかった、目が見えなくても登山道を把握できる。
足に聞け」私は念仏のようにこの言葉を唱える。

P7250199
(マッスルさん撮影、山崎編集)

 私はこのレースに3回出場したが、登山道が見えなくなると、足を目にかえた。そうすることによって完走することができたのだから、足のセンサーは馬鹿にならない。

 もっとも100%、目に変わるかというとそこまでは優秀でない。あるいは慣れていないと言うのだろうか、毎回アクシデントに見舞われている。

 1回目のときは三頭山の稜線で崖から落ちた。幸い5m程度落ちて木に引っかかったのだけど、天と地が逆になって身体が止まった。
このような状態になると、当初は自分がどんな立場になって居るのか分からない。どっちが上でどっちが下か分からないのだ。散々もがいて登山道に復帰したときは心底ほっとした。

 2回目のときは、小川にかかった梯子状の橋を踏み外した。梯子と梯子の間があいていたのだが、そこに足を突っ込んでもんどりうって倒れた。
痛さは気を失うほどで、タイツからは血がにじみ出ていた。このときはリタイアを覚悟したが、幸い10分程度倒れていたら、痛さが引いたので走ることができた。

 3回目のときは大雨で、あまり転んだため、体中が泥だらけになってしまった。この時は、足に聞いても滑って聞きようがなかった。
よくアメリカの海兵隊員が泥の中を匍匐(ほふく)前進する訓練をしているが、それと同じ状態になってしまった。雨の泥道は横滑りがしてとても走れるものではない。

 ただ、いづれのときも、夜は足を目にしていた。普段は気がつかない足のセンサーの能力は驚くほどだ。人間には隠れた能力が残されている。暗闇では足は目になるのだ。

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