(22.6.30) 先進国の経済政策が分裂した 景気刺激策か財政再建か
この26日に開催された主要8カ国首脳会議(G8)の結果は完全に分裂し世界経済に激震が走った。
アメリカが景気刺激策の継続を訴えたが、一方欧州は財政再建に舵を切ってアメリカの言うなりにはならないとケツをまくった。
日本は仲裁役に徹し、景気刺激策も財政再建も大事だとしたが、日本経済が二兎追えるほど強靭でない以上、日本も実質的には財政再建に乗り出したといえる。 菅総理の言う消費税率10%の議論や、20年度までに基礎的財務収支を黒字化する提案は、これ以上の景気刺激策が不可能だとの認識から来ている。
リーマンショック以降、先進各国は一応に金融緩和と財政支出の増大に乗り出したものの、ヨーロッパではギリシャ、スペイン、ポルトガルと言った諸国が財政支出のための国債の発行ができなくなり、景気刺激路線から脱落した。。
市場がこうした経済が破綻しそうな国々から資金を引き上げたからである。
ドイツやフランスが市場に変わってギリシャ、スペイン、ポルトガルの面倒を見ることになったが、どこまで支援が拡大するかわからない。
とうとう最大の支援国ドイツが切れて、それぞれの国が財政再建に取り組むべきだと言い出した。
自分の尻は自分でふけと言うことだ。
こうしてG8は大分裂してしまったため、為替と株の動きが再び不安定になってきた。株は大幅に低下し始め、ドルもユーロも値下がりし、上がる通貨は元と円しかない。
注)日本の円が強いのは経常収支が常に黒字だからで、資金を海外から調達する必要がないからである。
アメリカは相変わらず景気拡大策を主張しているが、そうでないとアメリカがドルを増刷してこの危機を乗りきることができないからである。
基軸通貨国には絶対的な特権があり、紙幣の印刷権を持っている。
普通の人はドル札を印刷して配ればインフレーションになると思っているが、必ずしもそうはならない。世界経済が拡大しその取引をドルで行っている限り、ドルに対する需要があり、増刷された紙幣を人々は使用する。
より正確には基軸通貨国アメリカが世界経済の拡張にあわせてドルを印刷している限りドルの価格低下はない。
この増刷されたドルを成長通貨と呼ぶ。
注)紙幣も一つの商品と捕らえ、たとえば自動車との物々交換をしていたと仮定する。自動車が2倍生産されれば、そのままでは自動車の価格が2分の1になってしまう(貨幣に希少性がでるため)。そこで紙幣当局が貨幣を2倍まで印刷すれば自動車の価格は従来と同じで、売上高が2倍になる。
この増刷した部分は紙幣発行者の儲けになる。
日本の江戸時代においても経済が拡大するにしたがって、出目という一両の金の分量を少なくする政策をとったが、そうしないとデフレに陥って経済が失速したからだ。
出目で増額した部分は幕府の懐に入った。
基軸通貨国アメリカはドルが基軸通貨である限り、中国や日本からの輸入品に対し、印刷したドルで支払いができる。
「いくらでも輸入してやるぞ。支払いはドルだ」
その時重要なのは、物と通貨の間のバランスで、世界経済の拡張を超えてドル札を印刷すると、バランスが崩れてインフレになる。
具体的にはドル安がはじまる。
注1)実際リーマンショック以降の世界経済の失速で、アメリカのドルは円に対して、110円台から90円台までドル安が進んだ。
本来はドルの回収をしなければならなかったのに、ドルの増刷をしたため。
注2)貨幣の世界ではフィッシャーの恒等式が成り立つとされている。式は以下の通りだが、経済が拡張しているときはそれにあわせて通貨の発行が可能なことを意味している。
フィッシャーの貨幣数量説では以下の恒等式が成り立つとされる。 M*V = P*T
M 流通貨幣(通貨)の総量
V は貨幣の"流通速度"
P は物価水準
T は"取引量"
ここでVとPが一定(短期では一定と考えられている)とすると、取引量が拡大していれば、通貨量を増大させなければならない
一方で基軸通貨でもないユーロはユーロ圏だけの決済通貨なので、対外決済にユーロの印刷という奇手が使えない。
ここでは経常収支を黒字にして、こつこつとドルを溜め込む以外に決済通貨ドルを獲得する方法がない。
ドイツが「各国がドイツをまねて財政再建に取り組め」と言うのは、ユーロを世界が喜んで使用してくれないからである。
今、アメリカは欧州と手を切り、中国、インド、ブラジルと言った新興諸国の経済発展にかけ、そこからの輸入品に印刷したドルで支払って、アメリカ経済を支えようとしている。
江戸幕府の財政担当者が出目(1両に含まれる金の分量を減らす措置)で幕府財政の財政を支えたように、貿易収支が赤字のアメリカはドルの増刷でアメリカ経済を支えるより他に有効な手段を持たない。
アメリカは景気刺激策を欧州に求めたが、欧州はNOと言った。
仕方なくアメリカは基軸通貨の特権をまもるために、新興国中国やインドやブラジルの経済の発展にすべてかけることになった。
G8は実質的に崩壊し、G20の時代になった。
こうして経済のパラダイムが変わろうとしているが、市場はすんなりとこの移行が進むとは思っておらず、為替も株式も大波乱になっている。
注)くどいようだが、通貨量が一定で産出量が増えると物の価格は下落する。一般の人は物の価格が下がって生活が豊かになるが、その時通貨発行者が産出量にあわせて通貨を増刷すれば、こんどは価格は一定で増刷した分は通貨発行者の取り分になる。
アメリカは世界の通貨の管理者なので、世界の生産量が増大すればその分の通貨発行が可能になる。具体的には国債を発行して中国や日本に購入させてもドルの減価は起こらない。
だから基軸通貨国は自分の経済が不振でも、世界経済全体が拡張するかぎり、生活を豊かに保つことができる。
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コメント
G20に関する日本のマスコミの報道に注意を呼び掛けている向きもあります。(twitterによればマスコミが捏造してるのではないか、とも)
岩上安身氏が緊急国民財政会議をUStreamで中継公開の形で行い、間をおかずに文字起こしをしたものを公開されていますのでお知らせまで。
http://iwakamiyasumi.com/
投稿: 横田 | 2010年7月 6日 (火) 23時13分