(22.6.2) 世界の工場の終わりの始まり 中国ホンダ部品工場のスト
今回の中国ホンダの部品工場のストをみて、中国の世界の工場としての終わりの始まりを感じた。
この工場は広東省仏山にある変速機を製造している工場で、従業員数は約1000名だという。
この工場でストライキが発生した理由は、部品工場と完成車工場の従業員間に賃金格差があることで、中国に4箇所ある完成工場の従業員の賃金が部品工場の従業員より高いのだと言う。
これを知った部品工場の従業員が怒ってストを始めた。
しかしこの種の賃金格差は日本でも同じで、部品は中小の関連会社で生産し、本社の組立工場ではそれをジャスト・イン・タイムで生産しており、当然本社職員の給与のほうが関連会社の職員の給与より高い。
日本ではそれが当然のことと認識されているが、中国は社会主義体制のため建前は違う。ここでは「同一労働・同一賃金」が建前で、この場合の「同一労働」とは「同一労働時間」であることがほとんどだ。
注)マルクス経済学では労働とは労働時間で計られ、質は考慮されない。
なぜ、この社会主義の建前が最近になって声高に叫ばれるようになってきたかだが、その理由は労働力が不足してきたからである。
中国では農民工と呼ばれる出稼ぎ労働者が最低限の賃金で搾取労働を担ってきたが、この農民工がここ10年間で半減してしまった。
注)製造業に従事する農民工は10年前は1800万人だったが、09年には1000万人に減少した。
農民工が半減した理由は地方でも職場が確保できるようになったからで、特に中国政府が不況対策としておこなった4兆元(約57兆円)の投資のほとんどが、地方の公共工事に向けられたためである。
中国人も好き好んで出稼ぎをしているわけでなく、近くに職場があれば家族と一緒の生活のほうがいいに決まっている。
こうした労働力不足を奇貨として最大限に利用したのが中華全国総工会という労働組織で、全国の労働組合に大幅賃上げの指示を出した。
「妥協するな。同一労働同一賃金だ。ストを打ってがんばれ」
おかげで労働争議は09年は06年対比2倍の60万件になった。
ホンダの部品工場の初任給は1544元(約22000円)だと言う。日本人の大卒の初任給は約22万円程度だから、日本の賃金水準の10分の1程度だ。
今回のストでホンダは約24%の賃上げに応じたと言うので、約25000円の給与水準になるらしい。
注)この賃上げで多くの労働者は職場に戻ったが、一部の労働者は職場復帰した労働者を「日帝の犬」と主張して山猫ストを継続している。
これでもまだ日本と比較すれば低賃金だが、問題は今後ともこの賃上げ要求は厳しくなりこそすれ、収まる気配がないことだ。
すでに同じ自動車部品工場の韓国の現代自動車に飛び火して労働争議になっている。
ホンダは現在中国で、日に2000台の規模で完成車を製造しているが、この部品工場のストで約1週間操業がストップしてしまった。14000台の完成車ができなかった勘定で、中国を最大の市場としているホンダとしては苦しい立場だ。
仕方なく日本から変速機を急遽輸出する措置を取ったようだが、ストが頻発するようでは、中国を低賃金で使い勝手のいい労働市場とみなす訳にはいかない。
中国の賃金水準は明らかに低賃金というレベルから、中進国並みの賃金水準にシフトしつつある。
中国人がいつまでも低賃金で甘えてよいわけはないので、この動きは必然ではあるが、一方で世界の工場としての魅力は低下する。
今後は中国は販売市場としての魅力は増すものの、生産拠点は徐々により安価な労働力を求めて中国から移動することになるだろう。
このホンダのストは世界の工場中国の終わりの始まりといえる。
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