(22.5.22) 口蹄疫について 赤松農相の深き責任
今回の口蹄疫(こうていえき)の封じ込め作戦を見るにつけ、初期対応の必要性と、なぜ今回これほどひどい拡大をしてしまったかと不思議な気がする。
それというのも前回2000年に口蹄疫が発生したときは、宮崎県と北海道で封じ込めに成功し、宮崎で35頭、北海道で707頭の牛の殺処分で済んだからだ。
ところが今回はすでに12万頭の牛と豚が殺処分にされ、さらに口蹄疫が発生している宮崎県の4町の半径10km以内の全家畜にワクチンを接種した上で、殺処分を施すのだという。
ワクチンを接種するのは生かすためではなく、ウィルスが増殖して蔓延する速度を弱めるためで、そうでもしないと封じ込めがまったく効果がないという。
この殺処分対象の牛は約5万頭、豚は約15万5千頭で、合計20万5千頭になるそうだ。
追加)23日のNHKの放送では全体で16万5千頭となっていた。数字はその都度変更されるので、概算の意味しか持たない。
すでに口蹄疫が発生して農場全体の家畜が殺処分にされることになっている家畜を加えて合計で約32万5千頭の牛や豚が殺処分されることになる。
なぜ前回は封じ込めに成功し、今回は失敗したのだろうか。
注)殺処理される牛1頭当たり60万円、豚1頭当たり3万5千円の補償費を農家に支払うの案を出したが、自治体から承認は得られず、評価額に応じて補償費を支払う案で交渉中。
概算で500億円程度の費用が必要になりそう。
口蹄疫が確認されたのは4月20日が第1号となっているが、3月にA農場が飼育していた水牛に口蹄疫の症状が出ていた。
当時は風邪と診断されていたが、残されていた検体を4月に確認したところ陽性反応が出たので、これが実質的な第1号と言われている。
注)なぜ3月段階で検体の分析をしなかったのかは不明。
もし、この段階で当該農場とその周囲1kmのすべての家畜を殺処分していたら、これほどの拡大はなかったはずだと専門家の一人が言っていた。
口蹄疫の封じ込めは火事対策と同じで、初期消火をすれば小火で終わるのに、何もしないで放って置いたために大火になってしまったようなものだ。
そうした意味で今回の赤松農相の対応は担当大臣としては失格だった。
農水省が口蹄疫を正式に確認したのが4月20日で、この日に農水省内に対策本部を設置している。
しかし農水省の対策本部長だった赤松農相は、口蹄疫問題を軽く見ていたらしく4月30日~5月8日までの間外遊に出てしまった。
外遊先はキューバ・メキシコ・コロンビアだが、特別な会議があるわけでなく、表敬訪問の域をでない。
現地では赤松農相はゴルフをして楽しんだと報道されており、この訪問が緊急なものでなかったことが分かる。
一方自民党が政府に対し口蹄疫対策を申し入れたのが4月30日で、赤松農相は自民党との会談をキャンセルして外遊に出発している(鳩山総理が対応した)。
この頃まで政府首脳も赤松農相もこの口蹄疫問題をまったく重要視していなかったことが分かる。
「赤松農相の外遊をとりやめるほどのこともあるまい。赤松君にも息抜きが必要だ。ゴルフでもしてきたらいい」危機感がほとんどない。
この間、政府側の責任者は副大臣が勤めることになっていたが、大臣と副大臣の場合の危機発生時点の対応はまったく異なる。
最高責任者の農相がいない場合は、副大臣は決定的な決断はほとんど下さない。
「大臣がお戻りになってから結論を出しましょう」必ずそうなる。
特に10km以内の家畜の全頭殺処分などという決断は、農相や首相以外の人ができるはずがない。
口蹄疫の蔓延が明らかになった5月17日、政府対策本部の本部長を首相に格上げしたが、これは「赤松農相ではダメだ」という意味だ。
地位と責任がある人が、その最も大事な時期にゴルフをして遊んでいるようでは、こうした人に決断を求めるのはどだい無理だ。
自民党の石破前農相が「大臣在任中の海外出張で現地で1泊以上越えたことがない。危機管理とはそうしたものだ」と言ったが、この場合石破前農相の言葉はまったく正しい。
今回の口蹄疫の蔓延をすべて赤松農相のせいにするのは酷としても、赤松農相が4月30日~5月8日までの間、その職務を全うしなかったことは確かで、今回の口蹄疫拡大の責任が一番重い。
地位にはそれに伴う責任がついて回る。地位だけをむさぼった今回の赤松農相の外遊は歴史的失態だったと私は思っている。
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コメント
症例が妙に見過ごされた理由を分析してみたという記事があります。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20100518
投稿: 横田 | 2010年5月23日 (日) 02時38分
東国原 英夫 宮崎県知事のTwitterへの書き込みコピーです。
知事の悲痛な状況が、伝わって来ます。
政府の対応の悪さをが、全て事態を悪い方へ拡大させている様です。
9時間前:
やはり、ワクチン接種はいたたまれない。今日、お邪魔させて頂いた農家さんも、本当は怒りや不満を露わにしたいのだろうが、極めて冷静かつ真摯に対応頂いた。ご理解とご協力に心から感謝を申し上げた
農家さん達の尊い犠牲を無駄にすること無く、我々は関係各位と一丸となって、一刻も早い口蹄疫撲滅に全力を挙げなければならない。
約9時間前 Echofonから
西都市に避難させていたスーパー種雄牛の1頭が陽性だった。最も恐れていたことが起こった。ショックである。何と言っていいかわからない。言葉が見つからない。
約16時間前 Echofonから
今、木城町に向かっている。ワクチン接種第一号農場でのワクチン接種現場に立ち合わせて頂く。気が重い。協力農家さんには心から感謝とお詫びを申し上げたい。
約16時間前 Echofonから
当然と言うか、やっぱりと言うか、眠れない。
約24時間前 Echofonから
先程、記者会見させて頂いた。とうとうワクチン接種である。関係農家の無念・悔しさ・苦悩・失望はいかばかりか。本当に辛い。断腸の思いであります。本当に申し訳ありません。口蹄疫封じ込めのために、どうかご理解・ご協力を心からお願い申し上げます。
11:27 PM May 21st Echofonから
どうして、自治体や地元がまだ検討中の事案とか不明や極秘の事案が、いきなり農水相から発信・発表されるのか?現場は混乱するし信頼関係が築けなくなる。先程、その事については、山田農水副大臣に強く申し上げた。副大臣は、謝罪されておられたが、どうも納得行かない。
4:08 PM May 21st Echofonから
投稿: T | 2010年5月23日 (日) 02時26分
どうも始めまして。リーマンショックの頃にこのブログに辿りつきまして以来、経済全般とても参考にさせて頂いています。
今回の口蹄疫の問題ですが、最近の宮崎県や知事、獣医師へのメディアスクラムの為によくよくニュースソースを当たる必要がある様で、3月の時点では問題の水牛は発熱と下痢だけで口蹄疫特有の症状は見られなかったようです。口蹄疫の症状に下痢はありません。本来は涎と水疱です。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100518-OYT1T00016.htm
人に置き換えてみれば、発熱と下痢の訴えでペストを疑えというようなものであまりにナンセンスな話だと思うのです。当時口蹄疫といえば過去の事件という認識だったでしょう。
通達もなく症例とも違えば、獣医師の診断や保健所の判断は到底責められるものではないと考えます。
(山崎)コメントありがとうございます。2年前から読んでくださっているとのこと、」とても嬉しく思いました。
投稿: 2年来の読者 | 2010年5月22日 (土) 05時36分