(22.4.6) 21世紀型都市への挑戦 東京都の排出権取引
(テラさん撮影、山崎トリミング 青葉の森公園)
私は石原都知事の強引さには辟易しており、特に新銀行東京の対応はまったく間違いだと思っているが、今回の排出権取引は久々のヒットといえる。
東京都が世界に先駆けてオフィスレベルで排出権取引を行うと言うのは、地盤沈下が著しい東京再生のコンセプトとしては正しい選択だ。
なにしろ東京はかつての先端都市からローカル都市に落ち込んでしまって再生のきっかけがつかめないでいる。
すでに最高級のブティックは日本を離れて上海に行ってしまうし、東京証券取引所はもはや資金の調達場所でも運用場所でもない。
不動産価格はミニバブルの時期をのぞけば、バブル崩壊後以降一貫して下落しているし、羽田はハブ空港としての機能を韓国の仁川空港に奪われている。
物流も日本の東京港を素通りしてしまうし、外国企業は上海やソウルやシンガポールに行ってしまった。
20世紀の後半、世界で最も魅力のあった東京は、20世紀型都市としてはただただ地盤沈下をしていただけだ。
(テラさん撮影、山崎トリミング)
だから石原都知事がいくら東京にオリンピックを招聘しようとしても、世界の目から見たら東京で開催する理由がまったく見つからなかった。
「何で、あんな魅力のない田舎の都市でオリンピックを開かなくてはならないの」
20世紀型の産業と商業の街としては失格の烙印を押されてから久しい。
今必要なのは過去からの決別であり、それも断固とした決別だ。
模索すべきは21世紀型の先端的な都市像であり、20世紀の街ではない。
だから二酸化炭素の排出量が世界で最も少ないクリーン都市を目指す今回の排出量取引は、東京再生の戦略として正しい選択だと思う。
世界を見ると、現在までローカルな排出権取引は① EU域内での工場相互間の取引と、② 米国北部10州が実施している発電所を対象にした取引だけであり、今回石原都知事が導入する排出権取引は世界で3番目で、しかも工場だけでなくオフィスを対象にした本格的なものである。
今まで工場のみを対象にしてきたのは、そこが省エネ効果を追求し易く、また排出量の把握もし易かったからだが、一方オフィスはまったく対象外であったことから、ほとんど二酸化炭素削減努力をしてこなかった。
しかしオフィスの二酸化炭素排出量は全体の約20%を占めて、工場の半分規模であり決して無視できない。
今回の東京都が実施する排出権取引の対象工場やオフィスビルは全体で1400程度だそうだが、工場以外では東大本郷キャンパス8.7万トン、日本空港ビル(羽田ビル)7.7万トン、東京ミッドタウン6.5万トンがベスト3だそうだ。
(テラさん撮影、山崎トリミング)
今回の目標は、この排出量を2014年までにオフィスの場合、8%削減しなければならず、もし削減ができなければトン当たり4500円で排出権を購入する仕組みだという。
注)ただし具体的設計は2011年に行うので、現在は想定の数字。
この例でいくと、たとえば東大本郷キャンパスがまったく削減できなかったとすると、8.7万トン×8%=6960トンで、これは6960×4500円=31.3百万円になる。
東大本郷キャンパスは約31百万円で排出権を購入しなければならない。
東京都としては、そうならないように工場もオフィスも削減に努力するはずだと想定しており、もし違約すれば団体名の公表と最大50万円の罰金を課すのだそうだ。
注)罰金50万円では企業やオフィスが削減努力をしないのではないかと危惧してしまうが、恥の文化の日本では団体名の公表のほうが恐ろしそうだ。
今回東京都が導入した仕組みはキャップ・アンド・トレード方式と言って、これはEUやアメリカで導入された方式と同じである。
まず最初に対象工場やオフィスの過去の二酸化炭素排出量を原油換算で求める。
この方式はかなり専門的で、電力消費量や燃料消費量、熱消費量等を計測し原油換算するのだが、1社(1オフィス)当たり専門の検証機関が50万円の費用で請け負ってくれる。
その後、この検証機関が毎年20万円の費用でチェックする仕組みで、さらに東京都が求めているチェック項目への回答で数百万円がかかる。
だから中小企業ではとても対応が出来ないので、今回は大手の工場とオフィスが対象になった。
(テラさん撮影、山崎トリミング)
このキャップ・アンド・トレード方式の最大の問題点は、キャップをどのように決めるかにかかっている。
全体の削減量を取り決め、それを個別の工場やオフィスに当てはめるのだが、過去に真面目に二酸化炭素削減を行ってきたオフィスとそうでないオフィスがあると、後者のほうが削減がはるかに容易になることだ。
「今まで努力してきた正直者が馬鹿を見るのですか」
これは実際にEU域内の排出権取引で起こっており、東欧諸国が排出権の売り手になるのはもともと二酸化炭素削減努力など今までしたことがないからだ。
鳩山政権もこうした取り組みを行おうとしているが、政府内部での対立が激しく日の目を見ておらず、東京都が先行した。
「政府の取り組みはいつも遅い。東京は21世紀型都市のモデルを目指して、排出権取引を行う」
石原都知事のこの決断は高く評価できる。
落ちぶれた東京の生き残る道は未来にしかない。
石原都知事はおそらくこのクリーン東京のイメージを引っさげて再び東京オリンピック誘致に乗り出そうとしているのだと思うが、確かに東京が二酸化炭素の排出が世界で一番少なければ、選手は喜んで東京に集まることは間違いないだろう。
注)北京オリンピックではマラソンの第一人者ゲブレシラシエが喘息を理由に参加を取り止めた。
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