(22.4.4) コミュータ航空FDAは白馬の騎士か 静岡空港の苦悩
昨年6月に開港した静岡空港ほど地方空港の苦悩を表徴している空港はない。当初は09年3月に開港予定だったが、伐採されていない樹木が航空法の制限に抵触していることが分かり、この木を伐採するまでは、ILS(計器着陸装置)が使用できない不手際が発生し、開港を3ヶ月伸ばした。
結果的には石川前知事が責任を取って辞任することと引き換えに樹木の伐採が行われ、ILS装置の使用ができることになったが、次に発生した問題はJAL福岡便への搭乗率保証問題だった。
JALはこの静岡空港のメインフラッグで一日に、札幌便1、福岡便3が就航していた。
福岡便が3便なのは、静岡県の搭乗率保証があったからで、搭乗率が70%を下回った場合、1席に付き15、800円を県はJALに支払うことになっていた。
注)通常地方空港の場合は、地方空港間は1日1便であることが多い。3便と言うことは特別に便数が多い。
県が搭乗率保証に応じたのは、計画では搭乗率が70%を下回ることは絶対にないと想定していたからである。
しかし実際は県の予想は過大予想だったこともあり、09年度の静岡空港全体の搭乗者は予想の5割以下になってしまった。
福岡便に限って言えば67%で、これに伴う搭乗率保証は約1億5千万円になる。
「なんということだ。担当者は常に満席になると言っていたではないか」
さらに問題を複雑にしたのはJALに経営問題が発生し、不採算航空路からの撤退が表明され、この静岡空港からも撤退することになった。
「なにしろ初年度の赤字が4億円で、いればいるほど赤字が増えてしまいます」
注)事務所を構え、システム投資や人員配置をすると、日に4便(福岡3、札幌1)程度ではこのように赤字になってしまう。
驚いたのは静岡県で、「搭乗率保証までしているのに、撤退はないだろう。ひどい信義則違反でとても1億5千万円は払えない」川勝知事が怒りの会見をした。
静岡県にとってはメインの福岡航路がなくなり、しかも搭乗率保証まで取られるのだから踏んだり蹴ったりの状況になった。
しかしJALは倒産会社だ。おいそれと静岡県の要望を聞くわけには行かない。ANAも赤字航路だから増便に応じない。
注)ANAは札幌と那覇に一日1便飛ばしている。
静岡県にとって幸いだったのは地元の企業がコミュータ航空会社を設立していたことだ。FDA(フジドリームエアラインズ)と言う。
こうなると静岡県として頼れるのは地元企業のコミュータ会社、FDAだけになってしまった。
FDAは地元の物流会社鈴与が設立したコミュータ航空で、静岡から小松(石川県)、熊本、鹿児島への3航路を就航させており、3機のエンブラエル機で一日1往復している。
注)エンブラエル機とは76人乗りの小型ジェット機
「FDAさん、どうかJALの福岡便と札幌便を引き継いでくれませんか」
「知事、FDAとしては当初札幌や福岡便を飛ばしたかったのですが、ここはJALやANAに飛ばさせるので、FDAはコミュータ航空だから小松や熊本や鹿児島と言ったローカル路線が適当だろうと言われたのですよ」
「申し訳ない。まさかJALがこんなに早く倒産するとは思ってなかったので、判断を誤りました。どうか当初の話は水に流してこの路線を引き継いでくれませんか。特に福岡便には登場率保証が付いています」
この4月1日から、JALの代わりにFDAが運行を引き受けることになった。しかし問題は果たしてFDAが白馬の騎士になれるかどうかにかかっている。
静岡空港は全体で1900億円の総工費をかけて建設し、そのうち本体工事は490億円、国からの特別会計の補助が245億円だったから、静岡県は1655億円の工費をかけて建設したことになる。
当初の乗客予想は138万人で、09年度の実績は約60万人だった。
注)乗客予想が過大にでっち上げられるのはどこも同じだが、この予想数字を元にあらゆる設備が整備されるのでひどい過大投資になってしまう。
川勝知事は今後毎年10万人ずつ乗客が増えて、5年後には空港会社は黒字化すると強気な読みをしているが、これはかなり怪しい。
現行の60万人も、福岡便への約8000万円かけたツアー客への補助があって、かろうじて維持できた数字で、補助がなくなればすぐにツアー客が減少してしまう。
さらに問題を複雑にしたのが、このJALの福岡便だけの優遇策に対し、ANAが尻をまくったことで、「なんでJALばかり優遇するんだ、ANAだって札幌と那覇に1日1便飛ばしている。わが社も経営的に苦しんでいるので搭乗率保証をしてくれなければ撤退する」と言い出した。
注)09年度はANAの沖縄便の着陸料を減免することで矛を収めてもらった。
なんてことはない、あらゆる航空会社が福岡便と同じ搭乗率保証がなくては飛行機を飛ばさないと言い出して、静岡県は今後どこまで負担が増えるかわからなくなってきた。
さらにバス会社に静岡空港までの路線開設を依頼したが、赤字になったら相当部分の赤字補填をバス会社に約束している。
注)他に国際便として、アシアナ航空、大韓航空のソウル便がそれぞれ一日1往復、中国東方航空が週に2~4便飛ばしている。
結局静岡県は1655億円の費用をかけて、国内・国外の赤字路線を就航させ、その赤字部分の補填を航空会社に約束することでかろうじて飛行機を飛ばすことになりそうだ。
「わが県は立派な飛行場がある。ただし飛んでいるのは真っ赤な赤字鳥だ」
これが静岡空港の実情で、県のツアー補助8000万円や宣伝活動6000万円(一種の販促費)がなくなれば乗客数は減少し、したがって搭乗率保証だけが拡大する構造だ。
FDAを白馬の騎士にする静岡県の戦略は、失敗を少し先延ばしするだけの結果に終わるだろう。
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