(22.4.29) 天気晴朗なれども波高し 中国海軍の実力
日清戦争が行われたのは今から100年以上も前だが、黄海海戦で手ひどい敗北を喫した中国の北洋艦隊が、100年のときを隔てて再び日本の前に立ちはだかろうとしている。
中国海軍は大軍拡のおかげで、東シナ海の防衛的海軍から太平洋に展開できる大海軍にまで成長した。
その実力行使の一環として、中国海軍は潜水艦2、ミサイル駆逐艦2、護衛艦3等合計10隻で、西太平洋上での合同訓練を4月7日から実施した。
中国海軍は最初は東シナ海で演習を行い、次いで沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を4月10日通過し、沖ノ鳥島方面の太平洋上で軍事演習を行った。
日本はこの軍事演習を監視するために、海上自衛隊の護衛艦「すずなみ」「あさゆき」が追尾したのだが、それに対し中国海軍の艦載ヘリが「すずなみ」に90mの距離まで急接近し、威嚇行動をとった。
「おめえ、何で俺たちの後を追いかけてくるんだ。一発ぶっ放すぞ・・・」
通常公海上で互いに武装した艦船とヘリが近づくと、一触即発の状態になる。相手の意図が分からないから両者とも臨戦態勢に入り、どちらか一方がトリガーを引けば戦闘状態になる。
中国と日本が西太平洋で、日清戦争の再現をしそうになった。
たまらず日本は外交ルートを通じて「このような危険な行動を取らないように」と中国政府に申し入れを行ったが、中国の駐日大使からの回答は一方的に日本が悪いというものだった。
「中国は国際的なルールに従い、軍事演習の計画を公表した。これに対し日本の護衛艦が監視体制をとり、東シナ海から太平洋までしつこく付きまとってきた。従ってわが国は艦載ヘリを出撃させたのだ」
現在西太平洋のシーレーンではどの国が制海権を確保するかで熾烈な戦いが繰り広げられている。
従来はアメリカ第7艦隊と日本の海上自衛隊がここの制海権を確保していたが、そこに中国の東海艦隊が進出してきた。
注)軍事用語で第一列島線という言葉があり、日本・台湾・フィリッピンを結ぶ線を言う。従来は中国海軍はこの線の外側の西太平洋に展開する能力を持っていなかった。
中国海軍にとりこの演習がなぜ必要かというと、沖縄と宮古島の間の海峡を抜けて、台湾の背後に回り台湾を台湾海峡と西太平洋の両側から挟撃できる態勢を取ることが、長年の課題だったからである。
「台湾解放のためには、西太平洋からの上陸作戦能力が必須である」
しかし中国が台湾を実力行使で解放する場合に、中国海軍にとって厄介な問題が残っている。
それは宮古海峡を抜けるときに日本の海上自衛隊が阻止行動を取る可能性があることで、この海峡を自由に通過できなければ目的が達成できない。
今回の艦載ヘリの護衛艦「すずなみ」への接近は、威嚇の意味もあるが日本の護衛艦の実力とその意志を見たかったともいえる。
「日本は戦うか、それとも腰抜けか?」
もう一つの西太平洋での演習目的はここに必ず駆けつけるアメリカ第7艦隊の空母を釘付けにして台湾に接近させないようにすることで、潜水艦を配置して空母に攻撃をかけるという演習だった。
注1)空母の艦載機の航空能力はほぼ700km程度のため、アメリカの空母を台湾から1000km範囲に入れないのが、潜水艦の目的になる。
注2)1996年3月に台湾の総統直接選挙を妨害するため、弾道ミサイルを台湾近辺に撃ち込んだが、このときはアメリカが空母ニミッツとインディペンダンスを台湾海峡に派遣して中国の野望をくじいた。
このとき以来中国海軍軍拡の目標は、アメリカの空母が台湾周辺に近づけないだけの海軍力を持つことになった。
中国海軍は20年にも及ぶ大軍拡のおかげで、日本の海上自衛隊を凌駕する実力を蓄え、自由に宮古海峡を往来する能力を身につけた。
西からも攻められることに驚愕した台湾はこの危機に備え、西太平洋からの上陸を阻止するための特別演習を実施し、さらにアメリカから地対空ミサイルPAC-3を購入したが、中国の台湾解放の実力は確実に上がっている。
もし台湾が中国に完全に飲み込まれてしまうと、日本の防衛ラインは非常にあやうくなり、次は日本ということになる。
普天間基地問題で日米関係が冷却しており、日米安全保障条約が実質的に機能しなくなれば日本は独自に中国と対峙しなければならない。1世紀の時を隔てて日清戦争時の状況が再現しようとしている。
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