(22.3.21) 資産デフレはどこまで続くか 土地公示価格の低迷
公示地価2年連続下落の文字が新聞紙面に躍っている。
06年~07年にかけてここ日本でもミニバブルが発生して公示価格が上昇していたから、09年(正確には10年1月1日現在)は確かに2年連続の低下だが、バブル最盛期の91年に比較すると、住宅地で約50%、商業地で約70%低下している。
ピーク時比較、住宅地で半分、商業地で3分の1になったのだから、(ミニバブルを無視すれば)地価はここ20年余り低下してきたと言えそうだ。
日本の地価については2つの問題が存在する。一つはなぜこんなに地価が低下したのかという問題と、もう一つは今後いつまで地価の低下が進むのかという問題だ。
私の父が不動産関係の仕事をしていたのはバブル真っ最中の頃で、当時は「土地神話」があり、父は顧客に「土地は必要な2倍を購入しなさい。家を建てるときはその半分を売って建てればお釣りが来ますよ」と勧誘していたし、実際にそうなっていた。
「次郎、持つなら絶対に土地だ。土地は必ず上がる」と父は私に口癖のように言っていたが、私がこの教えを実行する頃はバブルがはじけ、価格は低下の一途をたどるようになった。
土地も商品である以上需要と供給で決まるという経済学の教科書どおりの動きだが、今度は私は息子に「土地は必ず下がる。不動産に手を出すな」という「土地神話」教えることになった。
客観的に見て、日本の土地は住宅地も商業地も今後値上がりが期待できない。
少なくとも実需という面ではまったく期待ができず、06年~07年にかけてあったような世界的な資産バブルの余波が日本に及んだときのみ、価格が上昇すると思われる。
住宅地価格が上昇しないのは、日本の人口が低下し始め老人人口が増大しているからである。人口が減れば土地価格が低下するのは当たり前で、日本の過疎地域は早くからそうなっているし、それが全国規模で発生したと思えばいい。
また老人が増えるということはすでに住宅手当が終わった層が増えるということで、そうした層は新たに土地手当てをしようとはしない。
また子供が少ないということは将来親の不動産を譲ってもらえる可能性が高いので、若者も無理して土地の手当てに走らない。
だから実需という面では住宅地は供給過剰となる。
一方商業地についても日本のGDPが低下したり停滞したりしている中で、企業は新たなオフィスビルの手当てをすることはない。
それよりもより家賃の安く、かつ広いビルに引っ越して少しでも経費を節約するようになるから、条件の悪いオフィスビルはよほどディスカウントしない限り顧客が集まらない。
注)有楽町から西部デパートが撤退したが、今後多くの場所でメイン商店の撤退が始まり、周辺の地価が低下する。
06年~07年にかけて外資が東京都心のビルを買いあさりミニバブルガ発生したので、不動産業界はその再現を期待している。しかし、そうした需要は新興国の不動産バブルが一巡して資金に余裕が出てからだから、すぐには発生しないし、当然のことにすぐに剥げ落ちる。
注)ミニバブルがあっても実需に応じたオフィスビル手当てでないので、金融が引き締まればすぐに収束する。
私は個人的には不動産価格がいくら低下しても今いる家を売ることはないので、「だからどうなの」という感覚だが、日本全体の将来を考えた場合日本の不動産の魅力が薄れていくことには問題がある。
一言で言えば、「日本が世界的規模で過疎化する」ということだからだ。
商業ビルに限って言えば、ビルの空室率が増えるということは、企業が日本を捨てているということで、このことは即若者の職場がなくなるということを意味する。
現に今年の大卒の内定率は約80%だと悲鳴をあげている。
20%の就職できなかった学生は大学院に進んでさらに時間稼ぎをするか、ニートとなって親のすねをかじるか、新興国に飛び込んでそこで仕事を見つけるかのいづれかの方法をとるはずだ。
新興国で仕事を見つけるような元気な若者が多いといいのだが、実際は勉強がそこそこできれば大学院に、そうでなければニートになる確率が高い。
本来は働いてほしい若者が働かず親のすねをかじっているのだから、日本からさらに活力が奪われてしまう。そして親の資産がなくなれば若者は放りだされる。
若者のことを思うと、今必要なことは日本を世界の企業から見て魅力のある場所に変える事で、実際新興国といわれる中国等は特別区を設置して、法人税を低くし、手続きの簡素化をはかり、必要なインフラを政府の資金で整備している。
日本はインフラは非常によく整備されているが、なにしろ法人税が高く、やたらと手続きが煩雑だから、日本で事業を起こそうとする企業はほとんどない。
その結果若者の職場は年々縮小してしまった。
日本は仕事をするには魅力のある場所でない。外国から企業が進出してこないのはそのためだ。
今は世界的に誘致競争をしている時代で、何も努力しないで愚痴を言っていると、日本は世界の過疎地になって、不動産価格は傾向的に低下する。
注)ただし中国と同じような工場誘致は、日本の賃金水準から見て不可能だ。日本の特区は大都市周辺で、かつ知的産業の集積地にしないと成立しない。
くどいようだが、不動産価格がいくら低下しても私を含めた老人にはあまり影響はない。しかし、若者の職場が狭められていくのは問題で、不動産価格が上昇する場所でないと職場確保が難しい。
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コメント
なーるほど、こうやって説明してもらえれば納得します。
生物系会社員としては、経済に疎い自信があります。
山崎さんの経済評論は、いつも思い切りよく明快で、とても理解しやすいです。
原因と結果の指摘が的確なので、「うん、そうなのだろうな」とストンと腑に落ちます。
さて、ところで、住宅の賃貸料相場はまだ下がってきませんね。
人口が減り、就業人口も減り、少子化で親の資産を受け継ぐことが多くなれば、必然的に借家の家賃が下がるかなと期待しています。
私は、借り上げ社宅住まいの身ですが、正直「会社払いでなければ」稲毛海岸13万円などという家賃は払えません。
そのうちには、借家の相場も下がってくるのかなと考えますが、どうなのでしょう。
核家族から、今度は一人住まいが増えて、人口の割には家の需要は減っていないのでしょうかしら。
我々の集合団地は空き家は珍しいですが、戸建住宅には「住み人おらず」が増えているような気がしています。
(山崎)住宅の賃貸料は遅行指標でここ数年はほぼ一定でしたが最近は全体としては低下しています。
一般的に言えることは、全体として低下しても、今住んでいる場所の人気が高く人口が一定か、増加している場所の賃貸料は低下しません。
yokuyaさんが住んでおられる場所がそうした場所だと賃貸料はあまり下がらないと思います。
投稿: yokuya | 2010年3月21日 (日) 09時27分