(22.3.19) トヨタバッシングは峠を越したか? アメリカで生き残る道
2月24日豊田章男社長が米下院監視・政府改革委員会で証言し、改善策を約束したことにより、トヨタ・バッシングは峠を越したようだ。
一頃のヒステリックなトヨタ批判はなくなり、今はETCS(電子制御スロットルシステム)が本当に急加速の原因かどうかの科学的な検討に移ってきている。
ETCSが急加速の原因と委員会で証言したのは南イリノイ大学ギルバート準教授で、「実験で配線を変えることで急加速が発生した」と証言したものだ。
これに対しトヨタは、米スタンフォード大学教授ゲルデス教授に再現実験を依頼し「アクセルペダルの電子回路配線に故意に傷をつけない限り急加速は起こらず、また同じような状況下では他メーカーの車も急加速すること」を実証し、また「このような特別な状況は通常の車の操作では発生しない」と公開実験をして反論している。
現在は「ETCSが急加速の原因か否かは科学的には不明」という状況だが、米道路安全交通局は(原因は不明だが)「当面の対策としてBOS(ブレーキ優先装置)の搭載を義務付けることを検討している」とのことだ。
「よく分からないが安全確保のためにブレーキ優先にしよう」ということだろう。
この米道路安全交通局の措置に対してトヨタを始め、主要な日本、西欧のメーカーはBOSを新規に製造する車から搭載することを約束している。
どうやらETCS問題に限っていえば、ETCSが急加速の原因だとの科学的証明はかなり難しく、他のメーカーでは出現しない急加速がトヨタのETCSだけに出るとの実験は不可能と思われる。
しかしそれでほっとできないのは、実は上記の問題とは別にトヨタにとり悩ましい問題が残っているからだ。
それはアクセルペダルそのものの問題(アクセルペダルが戻りにくいとの問題)であって、08年12月に欧州でクレームが付き、欧州での部品の交換に応じているが、アメリカでは部品の交換をしなかった問題である。
注)アクセルペダルの表面が磨り減ると、ヒーターの熱が流れ込んで結露をおこしヒーターとペダルがくっついて戻らなくなるといわれた。
アメリカ人がヒステリックになったのは、この欧州に対する対応とアメリカに対する対応が異なっていたことで、「なぜ、アメリカを無視する。アメリカこそがトヨタの最大の市場ではないか」との感情から来ている。
09年8月にカリフォルニア州でレクサスの暴走事故があり、4人が死亡したが、この原因がETCSの不具合によるものか、アクセルペダルの問題なのか、その他の問題なのか現在、調査がおこなわれている。
ETCSについては科学的な検証が可能であり、実際にゲルデス教授の反証実験もあるので、ETCSが原因だとの論拠は薄れつつある。
一方、アクセルペダルの問題については、現段階でトヨタ側からの反証は出ていない。
レクサスの事故がこの原因だとすると、最大221万台相当のユーザが対象になって、賠償額は天文学的数字になりそうだ。
「欧州ではアクセルペダルの不具合を認めていたのだから、アメリカで対応が遅れたのが事故原因だ」ということだ。
注)アメリカでの集団訴訟では対象範囲が最大221万台になる。だからトヨタが生き残るためには裁判に勝つか、最低限有利に取り進めないとアメリカで生き残ることはできない。
アクセルペダルについても通常の使用でこうした問題が発生するのか、また他のメーカーでも同じなのか、等の冷静なトヨタの反論を期待したいところだ。
豊田社長の訪米でようやくヒステリックな対応が峠を越した今、科学的な論争でトヨタは巻き返しを図るべきだろう。
アメリカは現在オバマ政権で、国内産業優先、輸出優先政策をとりはじめており、国内の職場確保が優先課題になっている。
そうした流れの中で、幸いにアメリカの次のテーマは中国人民元の切り上げに移ってきた。
「アメリカ国内産業の輸出競争力を取り戻すには、人為的に低く抑えられている人民元の切り上げが一番だ」との認識だ。
注)皮肉なことに中国からアメリカへの輸出は、アメリカ企業の中国工場がおこなっている。
アメリカトヨタとしてはこの流れを捉えて、20万人の雇用維持と、アメリカトヨタ車の輸出振興に勤め、アメリカ政府のいけにえにならないように注意深く行動することが必要だろう。
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