(22.3.16) 大西洋クロマグロが消える日
(勝浦漁港の朝市 クロマグロではない)
現在、カタール・ドーハで開催されているワシントン条約締結国会議で大西洋クロマグロの国際取引が禁止される公算が高くなっている。
注1)22.3.19追加
締結国会議の委員会でモナコ案は圧倒的多数で否決された。この理由は今回大西洋クロマグロが取引禁止になると、次はあらゆる種類のマグロの操業が禁止になるとの日本の説得に、漁業国が応じたためである。
モナコは委員会で否決されたので、全体会議で再可決をもとめることはしないと述べているので、今回はモナコ案は否決されたと見てよさそうだ。
モナコを隠れ蓑にした、環境ヤクザ、グリーンピースの野望は回避することができた。
注2)大西洋クロマグロと太平洋クロマグロは一般的には亜種、あるいは別種と認識されているため、今回は大西洋クロマグロに限定された措置。 私のような食通とは縁のないものにとって、そもそも「大西洋クロマグロとは何だ」というような感覚だが、日本に輸入されているマグロ類のほぼ10%がこのクロマグロで、かつては高級すし店や料亭でしか食べられないものだったという。
しかし、その後地中海沿岸諸国(イタリア、スペイン、ギリシャ等)で蓄養(幼魚を捕獲していけすで育てる養殖)が90年代半ばから始まり、その結果輸入量が増えてスーパーや回転寿司でも食べられるようになった。
「じゃー、私も食べたことがあるのかな」と思ったが、メバチ、キハダ、ビンナガ、ミナミマグロ、クロマグロとマグロに色々な種類があっても、まったく区別が付かないのだから何を食べたのか分からないと言うのが実情だ。
今回のワシントン条約会議で大西洋クロマグロが会議参加国の3分の2の多数で絶滅種Ⅰに指定されると、その後国際取引はできなくなる。
もっともワシントン条約には色々な抜け道が用意されていて、「90日以内に決定を留保する」との届出をすれば、その国は条約の拘束からは免れる。
注)たとえばイタリアと日本が留保すれば、日本はイタリアから大西洋クロマグロを輸入できる。
また、200海里以内での自国向け捕獲は自由なので、地中海沿岸諸国の漁業国がクロマグロを食べられなくなるわけではない。
日本の水産庁は大西洋クロマグロの資源は十分にあり、捕獲しても問題はないとの立場だが、実際は激減しており約30年前の4分の1程度になっている。
この原因は地中海沿岸諸国が行っている蓄養にあり、産卵前の若いクロマグロを巻き網漁法で一網打尽にするからといわれているが、たしかに蓄養こそが元凶だとの自然保護団体の主張は正しそうだ。
しかも間の悪いことに、蓄養された大西洋クロマグロの主たる輸出先は日本なので、捕鯨禁止団体グリーン・ピースの標的にされてしまった。
注)グリーン・ピースがモナコを説得して国際取引禁止の提案を出させている。
当面は太平洋クロマグロは漁獲できることと、日本の漁法は巻き網ではなく成魚を狙う延縄(はえなわ)漁法なので(太平洋でのクロマグロは特に減少しておらず)、太平洋クロマグロまで禁止される状況にはない。
だから今回のモナコの提案が通ったとしてもすぐに、クロマグロが食べられなくなるわけでは無い。
しかし日本は鯨といいクロマグロといい環境ヤクザのグリーン・ピースの格好の標的にされてしまい、だんだんと食文化が狭められている。
フランスなどは大西洋クロマグロの国際取引禁止に賛成しているが、その一方フォアグラなどというガチョウ虐待を平気で行っている。
しかしフランスは「これは文化遺産だ」と居直っているのだから、「さしみだって日本の食文化」だと居直りたいくらいだ。
注)捕鯨反対王国オーストラリアもかなり勝手で、オーストラリアではミナミマグロの蓄養がおこなわれているため、モナコ案には反対するのだという。
鯨とマグロは違うらしい。
日本の漁業環境は日追って厳しくなっており、自由に漁業資源を利用することができなくなっている。
最後は巻き網でも延縄でもなく、また蓄養でもない、完全養殖(人工孵化させた稚魚を育て、成魚にし、さらに卵を産ませる養殖で、ブロイラーの生産のようなもの)が切り札になるのだろう。
すでにクロマグロの完全養殖の技術は近畿大学水産研究所で試験段階では成功しているので、将来はこうした技術を実際に活用してクロマグロを食べるより他に手は無いのかも知れない。
環境ヤクザのグリーンピースの標的にされてばかりいないで、自らの食物は自ら作り出すのがこれからの日本の行き方だと腹を決めることだ。
| 固定リンク
「評論 食料問題」カテゴリの記事
- (23.1.19) だから言ったじゃないの 農産物価格の高騰が止まらない(2011.01.19)
- (22.3.16) 大西洋クロマグロが消える日(2010.03.16)
- (22.2.13) NHKスペシャル 「ランドラッシュ」のミスリード(2010.02.13)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント