(22.3.1) トヨタは集団訴訟に耐えられるか
24日、米下院公聴会で豊田章男社長が「世界のお客様に同じサービスを同じ深度で行う」と発言したことで、議会とマスコミを中心としたトヨタバッシングは峠を越した。
今後はトヨタ社長の約束が本当に守れるかどうかの監視と、過去のトヨタの対応に問題がなかったかの検証に移ってきた。
現在もっとも問題になっている争点は以下の4点である。
① 米国トヨタが07年のリコールをマット問題に限定させ、約1億ドル(90億円)の費用を節約したというのは本当か(北米トヨタ社長稲葉氏への引継ぎ文書)
② 急加速はマットやアクセルペダルの問題ではなく、電子制御システム(ETCS)の欠陥ではないのか(ラフード運輸長官は調査を継続する事を約束)
③ 07年以降のリコールや自主回収に遅れがなかったか(不具合が見つかった場合は5日以内に当局に報告しなければならない)
④ 03年から07年の間の訴訟において、トヨタは裁判所の命令に反して欠陥情報を隠していたのではないか(元顧問弁護士ピラー氏の告発)
もし対応の遅れや不適切な対応、ETCSに欠陥があったことが証明されると、法律違反となり最大で15億円の制裁金がかせられる。
しかし問題は15億円の制裁金ではなく、北米各地で提訴されている集団訴訟へのこの「法律違反の影響」にある。
米国の集団訴訟は日本の集団訴訟と異なり、裁判当事者だけでなく関係する全員に効力が及ぶという恐ろしい訴訟形式で影響の範囲はとてつもなく大きい。
かりにトヨタ車保有者で裁判当事者Aに1億円の賠償金を払うことになれば、それと同様の状況にあるトヨタ車保有者に同額の補償をしなければならない。
トヨタ車は全米で年間200万台から300万台販売されているのだから、仮に200万台全員に1億円補償するとなると200兆円になり、日本のGDPの約4割に相当する金額となる。
実際はこのような金額をトヨタとて払えるわけがなく、また集団訴訟では集団訴訟になじむかどうかがまず争点になるので、どこかで和解するのが普通なのだが、それにしても恐ろしい裁判形式だ。
現在提訴されている集団訴訟の提訴理由は以下のようになっている。
① 改修でトヨタ車が一時的に使用できなくなった経済的損失を補填しろ。
② リコールで保有者のリセール価格が下がったので、その分を補填しろ。
その他にも提訴しようとすればいくらでも理由がつく。
・急加速の恐怖感で精神的苦痛を加えられ病院通いを始めた。医療費を負担しろ。
・トヨタ車を保有している事がステータスだったのに、今では笑いものにされている。トヨタにだまされた精神的苦痛を補填しろ。
・トヨタの車が欠陥車であることの真実を隠蔽してきた。消費者に対する背任行為だ。
このように集団訴訟はなんでもくっつく膏薬のようなものだが、さらに輪をかけて恐ろしいのは社会的制裁という金額が加算されるからである。
かつてマクドナルドでコーヒーをひざにこぼして火傷を負った老婆がいたが、そのために皮膚の移植手術をすることになった。
このときの賠償金が20万ドル(約1800万円)だったのに対し、加算された社会的制裁金は300万ドル(2億7千万円)だった。
注)その後上級審で示談を行ったので実際の金額は分からない。
法律違反ということになれば、必ず社会的制裁金が加算されるから、金額はますます天文学的数字になってしまう。
「これではGMと同様に、連邦破産法11条を申請して破産するほうがましだ」ということになりかねない。
トヨタにとり北米市場は日本以上に重要な市場で、トヨタ売上げの約3割が北米だ。
しかしトヨタはここで制裁金の支払いだけのために、一生働き続けることもできないだろう。
裁判王国アメリカでトヨタはこの裁判に勝つか、最低限有利にとり進めない限り北米市場を失うことは確実で、場合によっては破産法の申請をしなければならなくなる。
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