(22.2.25) 3度目の敗戦 トヨタリコール問題
日本は何回アメリカに敗戦すれば気が済むのだろうか。
第1回目は太平洋戦争の軍事的敗退であり、2回目はバブル崩壊後の金融戦争の敗退であり、そして今度は日本を代表する企業トヨタの敗退である。
トヨタはしばらく前までは日本で最大の収益を生み出していた優良企業で、08年にはGMを抜いて世界最大規模の自動車メーカーになったが、それからおよそ1年後にはGMの後を追ってしまった。
今やアメリカ市場からの撤退が時間の問題となりつつある。
現在アメリカはトヨタバッシング一色だが、なぜこれほどトヨタを追及するのだろうか。
このトヨタ追及のしつこさは日本人の目には異様に映るが、これがアメリカという国のもう一つの真実の側面である。
歴史を遡ると、このトヨタ追求とまったく同じ手法で日本が追い詰められた過去がある。
日本が太平洋戦争に突入したのは1941年12月のことだが、日本に戦争止むなしと決意させたのがアメリカ国務長官ハルが突きつけた「ハル・ノート」であることはよく知られている。
それ以前、アメリカは日本人移民の排斥運動、日本の資産凍結措置、石油禁輸措置で日本の首を真綿で締め上げていたが、最後に日本を追い込んだハル・ノートはそれにもまして厳しいものだった。
全文で10項目からなるハル・ノートの中で特に厳しいといわれたのは以下の3項目だった。
① 日本の中国からの撤退(日本は満州国も含まれていると理解した)
② 日米はアメリカの支援する中国国民党政権以外のいかなる政府も認めない(日本が支援した汪兆銘政権の否定)
② 第3国との太平洋地域における平和維持に関する協定の廃棄(日本は日独伊3国同盟の廃棄と理解した)
アメリカは次々と条件を厳しくして最後は日本に「屈服か、戦争か」を迫ったのだが、これはアメリカが敵を追い詰める常套手段だといえる。
これだけ追い詰められれば「誰でも戦うだろう」と極東軍事裁判判事パール氏言わしめたのが、このハル・ノートだったし、実際に戦争は起こった。
注)ただしアメリカから見たらこれは交渉の常套手段で、「最も困難な条件を提示してそこから徐々に条件を緩和するのがアメリカ流」だとも言われている。
現在のトヨタがおかれている立場は、太平洋戦争前の日本の指導者が置かれている立場と同様で、「やはりアメリカはトヨタをつぶそうとしているのか」と疑心暗鬼にならざる得ない。
アメリカという国は味方(実質的にはアメリカの子分)に対しては優しいが、敵に対しては容赦しない。
日本は太平洋戦争の敗北を教訓に、その後は一貫してアメリカのイエスマンとして過ごしてきたが、ここに来て鳩山総理が虎の尾を踏んでしまった。
鳩山首相は「日米は対等のパートナー」と言い、実際に普天間基地移設問題ではアメリカの意向をまったく無視して「何の前提も置かずに」再検討を始めたからだ。
実は国際政治の世界では「対等のパートナー」は存在しない。
「対等のパートナー」と言う言葉を外交辞令的に発することはあり、従来からアメリカ大統領が日本に来て言う言葉は「日米関係は最も重要な二国間関係」だった。
しかし実質は日本はアメリカの子分であり、アメリカは日本が子分としての礼節を守る限り、ビック・ブラザーとしての役割を演じてきた。
ところが鳩山総理のように本気で対等な関係を求めようとすると、急激に緊張関係が発生する。本来国際関係で対等などというものはなく、指導する国と指導される国しか存在しない。
だから本当に対等であったりすると、これはガチンコ勝負になり、太平洋戦争がそうであったように軍事力でカタをつけざる得ない。
そして再び指導する国とされる国の安定した調和が生まれる。
注)動物の世界を見てもサル山には必ず1匹のボスざるがいて、対等なボスざるの存在は許されない。人間のサラリーマン社会でも対等な立場などなく、微妙に階層化がなされていてサルの世界と変わりが無い。
「そうか、本当に対等のつもりなら、対等が何か分からしてやる」
アメリカのトヨタバッシングは、アメリカが本気で怒った証拠だ。
トヨタが800万台の車のリコール・自主回収をしても、次はリコール隠しの隠蔽があったと大陪審で追求し始めた。
公聴会ではレクサスの急加速で死にそうになったという女性が「恥知らず」と罵っている。
関係書類はすべてアメリカに押さえられてしまったので、過去に少しでもリコール隠しに相当するような事例があれば、これ幸いと永久に追求されるだろう。
「鳩山に対等など存在しないことを分からしてやれ。トヨタは血祭りだ」
トヨタの不幸はこうした日米間の政治の隘路に落ちてしまったことだ。
現状ではトヨタがどのように弁明し、技術的対処を約束しても、アメリカはハル・ノートにならってより困難な要求を繰り返してくるに違いない。
なにしろ日本は対等を求めているが覇権国家アメリカはこれを許すわけにはいかないからだ。
注)さすがに日米間で戦争は起こらないが、トヨタバッシングは戦争の代わりだと思えば理解できる。
一方で日本政府は普天間で思考停止に陥っている。鳩山総理は自らの決断力のなさが、アメリカのトヨタバッシングになっていることすら理解していない。
だから日本政府をあてにできないトヨタは自力でこの危機から抜け出さなければならなくなった。
幸いにトヨタはアメリカに4工場を持ち、17万人の従業員がいる。最後の頼みはこの17万人だが、おそらくアメリカの沸騰してしまった世論を沈静化させるにはよりインパクトの強い以下のような政治的決断が必要だろう。
① 閉鎖したカリフォルニアのGMとの合弁工場を再開して、解雇者約4500名を再雇用する。
② GMの解雇者をトヨタの工場で優先的に雇用する。
③ トヨタが米国内で作る車は積極的に輸出に回し、アメリカ国内市場ではGMのシェアが常にトヨタより上位にあるようにする。
トヨタにとってはまったく屈辱的な条件だが、アメリカ市場から永遠に追放されるよりははるかにましだし、アメリカ世論を味方につけるには、こうした思い切った決断以外に適切な方法は浮かばない。
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コメント
トヨタへの激しい批判が、今度は身内の米高速道路交通安全局(NHTSA)にも飛び火?してるようです。
とはいえ、米が日本に対し、敵対的な態度を見せるのは、もしかすると「警戒を解いていない」ためかもしれません。
江戸の特異的な長期統治、明治から戦後にかけての日本の素質を見ればさもありなんです。
ドイツに対しては過剰に干渉しようとしないのは、ドイツ自身は過去の清算を続けているのに対し、日本は何トカ条約を盾に、個人補償がまともに行われず、この人権意識の違いから警戒の目を持ち続けられているようにも思えます。
投稿: 横田 | 2010年3月13日 (土) 13時36分
■トヨタ・章男社長、感極まって男泣き―政府与党の対策は?
こんにちは。トヨタリコール問題、何か大きな問題になりそうですね。早く終息してくれればと思います。この問題の背景には今日の日米関係の悪化があると思います。日米関係が通常どおりならここまで問題は大きくならなかったと思います。豊田章夫社長の誤算は、日米関係が悪化している時のリコール問題を、通常のときの対策ですまそうとした事だと思います。これに関して民主党政権は、自分たちは全く関係がないかのように静観しています。長い間野党だったので、政権与党として何をすべきかに気づかないのだと思います。困ったものです。詳細は是非私のブログをご覧になってください。
http://yutakarlson.blogspot.com/2010/02/blog-post_1009.html
(山崎)大変興味を持って読ましていただきました。民主党は内向き政権で外交がまったくだめというのが私の感想です。
特に岡田外相はほとんどその任を果たしておらず、「日米密約をすっぱ抜く」ことに熱中していては外交そのものが頓挫するのは当たり前です。
投稿: yutakarlson | 2010年2月26日 (金) 09時58分