(22.1.8) NHK新春討論 マネーの奔流はどこに向かうか その2 謝国忠
謝国忠氏の主張は昨日一部紹介し、金持ち政府から貧乏人国民に富を移転しなければ中国の未来はないという主張を紹介した。
中国では現在北京派と上海派の政治的、経済的対立があり、前者は胡錦濤国家主席、温家宝首相を中心とするグループで、一方後者は前国家主席江沢民を中心にするグループである。
北京派の特色は大きな政府であり、富を国家に集中してそれを再配分する思想であり、遅れた農村部に対し投資を集中的に実施している。
一方上海派は小さな政府であり、国家の収奪はやめて富を国民に残し、消費水準の向上を図ろうとしている。
謝国忠氏は上海派の理論的指導者で、小さな政府、消費水準の向上こそが中国の第一番の課題だと主張している。
注)中国では経済路線の論争については自由にすることができ、ちょうどアメリカのケインズ派とフリードマン派との論争のような論争が行われている。日本で言えばリチャード・クー氏と竹中平蔵氏との論争のようなもの。
謝国忠氏はアメリカの投資銀行で働いた経験があって、アメリカ人と中国人の性格を良く理解しているようだ。
アメリカ人と中国人は同根といっていいほど良く似ているという。
「共に成長願望が強く、個人主義的で、投資機会があれば積極的に投資を行い、失敗を恐れない」確かにこれは日本人とは対照的な性格だ。
「だから、中国とアメリカは短期的には摩擦があるものの、密接な関係を保っていくことができる」という。日本とアメリカの2国間関係よりより親密になれるというわけだ。
これはG2の謝国忠氏なりの別の表現だ。
ところで謝国忠氏によると現在は先進国と新興国は別々の種類の危機を抱えており、先進国のそれは国家財政危機で、赤字国債を増発しているために通貨が下落しインフレを誘発しやすい。
一方新興国は中国に見られるように労働賃金の上昇が急激に起こっており、コスト上昇に見舞われ、ここでもインフレが発生しているとする。
このことは5年から10年のタームで見ると世界経済に深刻な影響を与えるという。
注)現状は先進国ではデフレギャップに悩まされており、謝国忠氏が言うような通貨下落に伴うインフレは発生していない。一方新興国では不動産バブルが猛烈な勢いで発生しており、上海の不動産価格は09年上半期中に70%の値上がりをした。
ただし将来本当にインフレ懸念があるかについては私には疑問がある。少なくとも先進国ではデフレギャップは埋まらないのではないかと私は見ている。
アメリカと中国の関係で言えば、アメリカは無制限といえるほどドルを市場に供給しており、これは通貨ドルの価値を下げてアメリカ商品の購買力を上げ、アメリカに工場を呼び戻す戦略だという。
一方中国はアメリカ企業の工場が中国から撤退することをおそれ、元(げん)をドルに連動させて低下させる戦略をとっており、いわば通貨戦争が起こっているという。
注)現在隠れた通貨引下げ競争を行っているのは確かで、中国は政策的に通貨を引き下げることにより、世界の工場としての地位を保持しようとしている。
一方日本は直接的な為替介入は避けながらも低金利政策をとって、円の価値を引き下げようと為替戦争に参入している。
謝国忠氏の経済分析で異色なのは過去20年間の先進国と新興国の実体経済の見方である。
「過去20年にわたり、工場は先進国から新興国に移転された結果、先進国の所得がさがり、貧困化が進んだ。しかし実際はそうした貧困化があったにもかかわらす消費水準を維持するために、無理な不動産バブルを演出し、それを担保に金融機関から融資を受け、消費を維持拡大していった」というものだ。
一般的な認識はリーマンショック後世界の潮流は新興国に移ったというものだが、謝国忠氏はそれより早く約20年前から主役が変わっていたのに、それを認めたくない先進国が金融バブルを演出したとの認識である。
アメリカ人が聞いたら目を吊り上げそうな話だ。
こうしてアメリカが行った金融資本主義、具体的には債権の証券化戦略は今やモンスターと化し、ディリバティブの規模は約300兆ドル、全世界のGDPの約5倍に膨れ上がっていると謝国忠氏は推定する。
しかももっとも問題なのはディリバティブ取引のほとんどが相対取引で取引所を通さずその実態把握ができない。
モンスターを制御するためには、取引を取引所を通すように改革し、しかもそこに税金をかけて少しでもモンスターの動きをマイルドにさせることが必要だという。
そうした組織改革なしにこのモンスターを押さえることは不可能だという。
注)実際はボーナス制限程度しか対応策が上がっていない。
謝国忠氏にしてみれば、中国人が汗水たらして働いた資金を、ディリバティブという収奪方法で富を吸い上げるアメリカの方式が許せないらしい。
自身がモルガンスタンレーで実施してきたことだけに手の内が分かるということのようだ。
注)このあたりは共にアメリカに収奪されている日本とまったく同じ感覚だ。
最後に謝国忠氏は東アジア経済圏構想を提案するが、これは鳩山首相の東アジア共同体の経済版だ。
中国と日本が未来を見据えて協力し合おうということだが、すぐに排日運動が起こる中国の体質から、鳩山首相へのリップサービスではないかと感じた。
注)今回始めて中国の経済学者の論説を分析して見てみたが、相応のレベルに達しており、「中国の経済学もなかなかやるじゃないか」との印象を持った。
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