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(22.1.7) NHK新春討論 マネーの奔流はどこに向かうか その1

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 NHKが放送した新春討論「マネーの奔流はどこに向かうか」を録画し、見直してみた。
この新春討論では現在もっとも著名な世界の知性3名が、上記のテーマで討論を行うという企画だったが、その世界の知性とは以下の3名である。

① ジャック・アタリ氏
フランス人。サルコジ大統領やミッテラン大統領の経済的顧問でEU統合にもかかわり、ヨーロッパ第一の知性といわれている。

② 謝国忠氏
中国人。モルガンスタンレーで勤務の後、現在上海で活躍。中国政府の経済顧問でアジア随一の知性といわれている。

③ ラグラム・ラジャン氏
アメリカ人。シカゴ大学で新古典派経済学を指導。IMFの最年少のチーフエコノミストで市場主義経済の旗手。

 上記の中で私が知っていた人はジャック・アタリ氏だけで、謝国忠氏ラグラム・ラジャン氏もまったく知らなかったが、いづれも金融危機を予測していた経済学者だという。

 このなかに日本やイギリスの経済学者が入っておらず、NHKの言う世界の3大知性から外れてしまったのは時代の流れというものだろう。
今は中国とアメリカとEUさえ抑えれば世界経済が語れるということのようだ。

注)この3大知性は、何か3大テノールみたいだが、この3名から外れた識者はきっと不満だったのではなかろうか。

 放送を見るまではジャック・アタリ氏はともかく、謝国忠氏は中国政府のプロパガンダーで中国政府の公式発表を繰り返すだけだろうし、ラグラム・ラジャン氏は自由すぎる市場主義経済の失敗に懲りて反省の弁を述べるのだと予想したが、かなり予想と違っていた。

 謝国忠氏は相当自由に発言しており、歯に絹を着せないという感じで中国経済学者のレベルがずいぶん向上したことをうかがわせた。
一方ラグラム・ラジャン氏は反省するというよりも居直っている感じで、アメリカの市場主義経済を声高に擁護し、まったく懲りないという感じだ。

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 ジャック・アタリ氏の主張は明確で、オーソドックスなものだ。

① 世界の市場はグローバル化されたが、それを制御するルールも法律も存在しない。
② まるでソマリアのようなジャングルの掟のような世界になっている。
③ 世界はこのグローバルな市場を制御するため、民主主義と福祉国家の理念を強化することが必要で、また組織論としてはIMFと世銀を統一し、さらにG20と安全保障理事会を統一する必要がある。
④ そうしておいて、商業銀行と投資銀行を分離し、商業銀行は産業に対する資金供給だけに限らせるべきである。


 金融資本は産業資本の補完だけの役目にさせ、それを監視するための新しい機構を作ろうという案で、金融を1980年代の投資銀行が金融商品を開発してマネーゲームに走り始めた以前の姿に戻そうという提案だ。

 私はジャック・アタリ氏の提案は妥当なものと思っているが、実現はかなり難しそうだ。アタリ氏はEU統合の経験から、監視機関として世界政府の走りのようなものを想定しているが、IMFと世銀の統一はともかく、G20と安全保障理事会の統一は、拒否権を持っている戦勝5国が反対することは確かだ。

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 一方謝国忠氏は中国経済の現状を以下のように分析してみせる。

① 国には有余る資金が集中しているが、個人はまったく貧困だ。このため個人消費が伸びず、またリーマンショック後アメリカへの輸出に急ブレーキがかかり、政府支出のみで経済拡大を行っている。
② 金融緩和による影響はもっぱら不動産投資に資金が回っており、バブル状態になってしまった。
③ 現状は中国が世界経済を牽引しており、国内投資が活発化し原材料をオーストラリアや中東、アフリカから輸入し、機械設備を日本とドイツから輸入している。
④ もし中国経済が失速すると、中国への輸出で経済回復を図っている多くの国が一変に不況に陥る。
⑤ だから中国経済の責任は重大なのだが、相変わらず国だけが金持ちで国民が貧乏という構図は変わっていない。一刻も早く富を国民に分配して消費拡大を図り、内需中心の経済発展に変えなければならない。


 謝国忠氏の論点は、中国共産党幹部と幹部に結託した一部富裕層だけが富を独占している現在の状況を改善しなければ、内需中心の経済発展はありえないというものだが、共産党幹部が易々と富を手放すとは思われないところが苦しい。

 また不動産バブルについてはドルが低金利政策によって世界中にばら撒かれ、ドルの価値が低下したためモノ(不動産)でヘッジしようという動きだという。
しかしそのバブル状態はあまりに急激で、たとえば上海では上半期中に70%も価格が上昇した。このバブルは早晩はじけるというのが謝国忠氏の予想だ。
早く富の分配が図られないと第二のリーマン・ショックが来る」と警告している。

 私は中国の経済学者は党中央の子猫ちゃんだと思っていたが、謝国忠氏の経済分析はなかなかのもので、見直すことにした。


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 ラグラム・ラジャン氏は市場経済に絶対の自信を持っており、金融危機が発生したからといって市場経済のメリットがいささかも失なわれていないという。

① リーマンショックで多くの富が失われたが、それ以前のグローバル経済のおかげで新興国は失う以上の富を得ている。
② 中国は豊かになることを目指しており、政治的挑戦をするつもりはないので、世界経済の仲間入りができる。
③ 今回の金融危機はグローバル経済の元ではアメリカの危機が全世界の危機につながったものだが、グローバル経済とはまさにそうしたもので、良いことも悪いことも世界に瞬く間に伝播する。
④ アメリカの住宅バブルは全世界で重要が伸び悩んでいたときに、アメリカがもっぱらその需要を引き受けたために発生したもので、誰かが引き受けなければ全世界の経済は失速しただろう。
⑤ 市場原理、規制緩和、民営化こそが世界に富をもたらす制度であり、このアメリカの方針は今回の金融危機があってもいささかもゆるぎない。
⑥ 大事なのは規制ではなく自由な市場だ。

 さすがシカゴ学派は市場主義原理の教祖的存在だと思ったが、アタリ氏に言わせると、GMAIGを国有化し、多くの銀行に資金を投入しておきながら、民営化とは片腹痛いということのようだ。

 ラジャン氏は何であれ規制はダメで、たとえばボーナスの支給は取締役会に任せるべきだという。
トレーダーのボーナスが高いというなら、映画スターや野球選手の年俸も制限しなければならない

 バブルこそが自由主義経済の特色であって、たとえそれがどのようなものであっても市場に任せておけば自然と元の最適状態に戻るというもので、何もしないのが一番という考えだ。

 これはアタリ氏との立場とは鋭く対立し、アタリ氏は絶対に規制が必要で、金融は地味な昔の産業資本に奉仕する昔のスタイルに閉じ込めようと提案している。

 産業資本がGMに見られるように急速に衰えているアメリカにとって、金融資本こそが最後の頼みの綱だから、アメリカがおいそれとアタリ氏の提案を呑むとは思われない。
ラジャン氏はアメリカを21世紀においても大国として維持するために、バブルがあろうがなかろうが自由な金融市場を確保しておきたいとの気持ちが強いようだ。

世界をだまして金を巻き上げることしかアメリカに残された道はない」というのが本音だろう。

注)なお、謝国忠氏の中国ならびに世界に対する提案はかなり興味深いものなので、明日のブログでまとめてみたい。

 

 

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント

私はこの番組を見ませんでしたが、もっとも私がボーッと見ているより、こうして山崎さんに簡潔明瞭にまとめていただいたほうが格段に理解できることでしょう。
有難い、有難い。
また、動画から切り出した写真の知性お三方の表情が、まさに主張内容とリンクしているのは面白い。
謝国忠氏の続編も、楽しみにしています。

(山崎) yokuyaさんにそういわれるととても嬉しいです。
話は異なりますが、私はyokuyaさんのブログを毎回見ております。NPO法人でなさっている仕事と実際の仕事をかけ持ちされているようで、とても忙しそうですね。」

投稿: yokuya | 2010年1月 7日 (木) 07時57分

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