(21.12.9) 農業政策のダッチロール 戸別補償制度
日本の農業制度は保護を目的にしてきたため、農業は徐々に衰退を続けてきたが、今回民主党が導入する「農業者戸別所得補償制度(戸別補償)」を見て、「これで日本農業は最終的に衰亡が決定した」と思った。
それまでの自民党農政も決して褒められたものではなかったが、それでも農産物の自由化を見越して、国内農業の生産性を向上させるための大規模農業の実現には努力していた。
07年から主として大規模農家(4ha以上)や集落営農(20ha以上)に補助金を出して、規模の拡大と生産性の向上を図らせていたからである。
注)当初自民党は大規模農家だけに補助金を出すことにしていたが、民主党から小規模農家も対象にすべきとの修正案がだされたため、集落営農と言う形で、農家が集まって20ha以上になれば補助金の対象にした。
なお、集落営農に対する補助金は組織に与えられ個人に与えられるわけではない。
ところが今回民主党が導入を図ろうとしている戸別補償では10a以上のコメ生産農家に直接補償をするという内容に変更された。
10aとは自民党農政が目指してきた農家の40分の1の規模だ。
「そんなら、集落営農なんか止めて個人で米つくりをしたほうがいいじゃないか。集落営農では補助金は組織のものだが、自分で耕せば補助金は自分のものだ」
それまで大規模農家や集落営農組織に農地を賃貸していた農家がすっかり、農作業を再開することにしてしまった。
しかしなぜ小規模農家が農業を止めていたかというと、高齢化で農作業ができなかったり、トラクターなどの農業資材の高騰で農業が割に合わなかったからである。
「お父さん、農業を再開するといっても、腰が曲がってしまって農作業ができないじゃない」
「心配するな、作るそぶりだけでいいんだ。できた米の品質なんて問題じゃなくて、補助金をもらうのが目的だ。手抜き農法なら今でもできる」
今回の戸別補償の最大のポイントは従来の補助金や交付金が農協経由で配分されていたのに対し、農家に直接支払われることにある。
「自民党の支持基盤の農協をつぶせ。直接農家の支持が得られれば、来年の参議院選で、民主党は過半数を取れる」小沢幹事長の戦略である。
確かに政治的には戸別補償は民主党にとって利すると思われるが、経済的には最悪だ。
なにしろ諸外国にも戸別補償はあるが、規模がまったく違う。
豪州が3200ha以上、アメリカ180ha以上、イギリス40~60ha以上と大規模農家を農業の中核に据えて、国の食糧確保と輸出用農作物の生産を図らせようとするものだ。
たしかにこの規模なら生産性の向上も期待できるが、日本の10a以上ではライオンとネズミのような差であり、当初から強い農業を目指しているのではなく、民主党の票田とのみ考えていることが確かだ。
「じいさんと、ばあさんで2票だ。しかも必ず投票してくれるのだから戸別補償など安いものだ」
注)来年度は試験的に導入することとして、予算規模は約5000億円。しかし最終的に米以外の農家への導入が決まると約3兆円の予算が必要といわれている。
なお米については生産調整に応じた農家という条件はついている。
しかしそれでは日本の農業は衰退するだけだ。大規模農家をつぶして小規模農家だけにし、生産性を徹底的に落として戸別所得補償だけしようという案だ。
当然品質のいい米もなくなって、国際競争力などまったく期待できない。
大規模農家や生産組合すら、経営努力は止めて品質の向上を図るよりは補助金で食べていこうとするだろう。
戸別所得補償制度は日本農業の挽歌となると私は思っている。
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コメント
悲観的な見方もあるのだと気づきました。
周囲に安心して買って貰えるお米を作っている(売れるお米を作っている)、ということを証明してから給付というやり方はあるかもしれません。
投稿: 横田 | 2009年12月 9日 (水) 21時47分