(21.12.5) 原油 急騰か暴落か エコノミスト特大号
私の経済予測の中でいつも今一つなのは原油価格の予想だ。
昨年の12月に、「石油価格はさらに低下しそうだ」という記事を書き09年度は30ドル前後だと自信満々で予想したが、30ドル台だったのは3月頃までで、4月が40ドル、9月に65~75ドル、10月に入り80ドルになってしまい、これからさらにあがりそうな気配だ。
「一体どうして私の予想が当たらないのだろうか」頭を抱えた。
09年度の世界経済成長率は世界全体で▲1.1%とIMFが予想しているように、実体経済は相変わらず悪い。
「中国が好調だといってもアメリカも西欧も日本も経済が失速し、石油需要が減少しているのに、なぜ価格だけが上昇するのだろう?」
悶悶としていたら、週刊エコノミストが「原油」の特集号を出して私の疑問に答えてくれた。
このエコノミスト特集号には3つの論文が収録されているのだが、丸紅経済研究所所長柴田明夫氏の「構造変化した価格決定メカニズム」と草野グローバルフロンティア代表草野豊己氏の「原油バブルは仕掛人CTAの手口」の2つの論文が参考になった。
特に草野氏の論文は私の疑問に直接回答を出してくれている。
柴田明夫氏の論文の趣旨は原油価格は実体経済によって決定され、特に新興国の経済成長に伴って需要が増大して、価格が上昇しているというものである。
基本的には私が行ってきた分析と同じ手法で、ただ新興国中国のウェイトを高く評価して価格上昇を予想しているのに対し、私が世界的経済の低迷で価格は上昇しないと判断したところが違うだけだ。
一方草野氏の分析手法はまったく違う。草野氏の分析では、2009年のWTI原油先物価格の推移を、実体経済の自律回復だけで説明するのは不可能だとし、その原因をFRBによる流動性の大量供給に求めている。
大量の資金供給が、銀行貸し出しの増大には結びつかず(貸出しは08年対比09年度、約50兆円減少している)、銀行自身の自己勘定とヘッジファンド(CTA:商品投資顧問業者)による原油、金、ユーロに対する投資によって価格上昇が起こっているという。
注)ヘッジファンドはリーマンショックの後半減したが、CTAと称するヘッジファンドだけはリーマンショック後も+14%程度の利益を出し、09年度に入ると、ますますリスクテイクの傾向を強めている。
いわば流動性供給バブルが発生しており、前回のリーマンショックまでは日本が低金利政策をとって世界にバブル資金を供給したが、現在はFRBがゼロ金利政策でバブル資金を供給しているという。
これを証明するため、草野氏は米商品先物取引委員会の資料を元に実に説得的なグラフを作成したが、このグラフを見るとWTI原油先物とユーロにFRBの資金が流れていった様子が見て取れる。
注)以下の二つのグラフは非商業部門(実需に結びつかない投資部門)の原油とユーロに対する先物投資持高の推移をあらわしたもの。
(このグラフは投資目的である非商業部門の原油先物の持高<値上がりが予想されると持高がプラスになり、値下がりが予想されると持ち高はマイナスになる>がFRBが金融緩和に乗り出した後の5月以降急激に増え、また原油価格が上昇していることが分かる)
(このグラフはユーロへの投資がやはりFRBの金融緩和後、5月以降積極的に行われ、ユーロ高につながっていることを示している。ユーロ・ドルとはユーロをドルで割ったもの)
「そうか、金余りになり行き場を失った資金が再び原油や金やユーロ、そして最近では円に殺到しているのか」
09年3月頃から原油価格は上昇に転じているが、FRBの金融緩和時期にほぼ一致し、この状況はFRBが引き締めに転ずるまで続く可能性が高い。
現状のFRBの姿勢はゼロ金利のまま、政府機関債やMBS(不動産担保証券)を担保に来年3月までは資金供給を行うことにしているので、それまでは金融機関はジャブジャブの資金が調達できることになる。
注)それによりドル安が予想されるが、ドル建ての商品(特に原油)は、ドル安部分だけでもヘッジしなければ持っているだけで損失が発生してしまう。
「そうなると、来年の3月までは原油価格は上昇局面にあって、100ドル程度まで上がる可能性がありそうだ。もし3月でFRBが金融を引き締めれば、今度は急転直下原油価格は下降に転じて、リーマンショックと同じような急落をすることになる」
今回の草野氏の論文を読んで、今まで私が行ってきた実体経済分析による見通しだけでは、十分価格推移を見込めないことが分かった。
リーマンショックの後も世界はあいも変わらず過剰流動性による、バブル価格が原油先物価格を決定しているようだ。
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