(21.12.27) NHKスペシャル マネー資本主義 集大成版 その2
今思えば1995年から2000年までの期間はアメリカにとってアメリカ経済が強いドルとITバブル、そしてグローバリゼイションに沸いた至福のときだったことが分かる。
一方日本では長銀、日債銀、拓銀等の日本を代表する金融機関が次々に倒産していった時期だ。
当時私はある金融機関にいたが、金融庁の強い指導の下に日本の金融機関の検査をアメリカ化することを求められていた。
アメリカの金融機関が使用していたチェックリストをそのまま日本語に訳し、それを厳格に適用することが正義のような感覚だった。
「日本の金融機関もグローバルスタンダードを導入して時価会計に変更し、資産・負債の透明化を図らなければならない」金融庁のお達しである。
しかし2000年の末にITバブルが崩壊すると、FRBのグリーンスパン議長は政策金利を6.5%から1%まで引下げ、金融の大幅緩和を行うことで新たなバブルを作り出すことにした。
このITバブル崩壊をあらたな住宅バブルで覆い隠してしまう戦術は、大成功を収め06年に住宅価格がピークを打つまでグリーンスパンは世界の賞賛を浴び続けていた。
「グリーンスパンがいる限りアメリカ経済は安泰だ」
注)住宅価格が下降し始めてから、バブルが崩壊するまで約1年のタイムラグがあった。2007年の夏、突然にヘッジファンドの倒産が始まり、住宅バブルが終焉したが、一般の人はさらに翌年のリーマン・ショックまでバブルが終わったことに気づかなかった。
この番組ではなぜベア・スターンズとリーマン・ブラザーズという投資銀行下位2行が倒産したかの謎解きをしている。
ゴールドマン・サックスのような高収益企業になるために、この2行は禁断の木の実、サブプライムローンに手を出していたというのが結論である。
サブプライムローンとは自己資金では絶対に返済が不可能な人に貸し出した住宅ローンのことである。
このローンの最大の特徴は「住宅価格が上昇するならば、その上昇分を担保にさらに融資が受けられ、それを返済にまわすことができる」というもので、住宅価格が横ばいになったり、下落したら完全にアウトになることが確実な融資といっていい。
通常ならばこうした融資を担保とした証券化商品などは誰も購入しない。
これを購入させるためにこの2社は手品のような方法を編み出した。
ヘッジファンドを子会社化して、さらに住宅ローン会社まで傘下におさめ、丸抱えでリスクの所在を不明にしたのだ。
住宅ローン会社にはサブプライムローンを無制限に販売させて、それを傘下のヘッジファンドに購入させる。
ヘッジファンドは商業銀行や投資銀行のような業務の開示義務はないから、外部からは中身が分からない。
注)投資銀行がサブプライムローンを大量に仕込んでいると、中身がばれてしまうためヘッジファンドを隠れ蓑にして、情報開示をしなかった。
なお、ヘッジファンドはほとんどがバミューダ諸島のような場所に本社を置いていた。
この中身の分からないヘッジファンドのサブプライムローンを対象に投資銀行は、金融工学でリスクを閉じ込めたように見せ、AAAという最高級の格付の証券化商品に衣替えをした。
注)実際はサブプライムローンだけでなくプライムローンやクレジットカード、自動車ローン等のありとあらゆる債権をごちゃ混ぜにして、新しい証券化商品にでっち上げたので、外部からこれを評価することはまったく不可能になった。
当時、住宅バブルのひどさを恐れたSEC(証券取引委員会)がヘッジファンドを登録制にして規制に乗り出そうとした。
「あまりにヘッジファンドが巨大になり、その実中身がまったく分からないので危険だ」
しかしこの試みは裁判でSECが敗退した。
「SECにはヘッジファンドを規制する法的権限はない」との判決がでたからである。
当時の財務長官ポールソンはまったくヘッジファンドを規制するつもりはなかったので財務省は静観して法律を変えようとはしなかった。
「ヘッジファンドこそ、アメリカ経済の力の源泉だ」
ここでも規制当局は市場に負けている。
08年5月にベア・スターンズが傘下のヘッジファンドの倒産により、自らも実質的に倒産した。
投資銀行や普通銀行が倒産する端緒がほとんど傘下のヘッジファンドの倒産によるのは、そこにサブプライムローンのようなクズ債権を持たせているからである。
こうしてヘッジファンドというものの正体がばれてきた。
「そうだったのか。ヘッジファンドとはクズ債権のたまり場だったんだ」
さらにサブプライムローン以上の問題が発生していた。クズ債権を黄金に変えるさらに高度な商品の開発がおこなわれたからだ。
CDSである。
サブプライムローンが禁断の木の実のスタートとすればCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)はそのゴールというようなものだ。
CDSとは会社保障のようなもので、たとえばリーマンブラザーズはAAAだというようなものだ。
通常ヘッジファンドが組成した証券化商品を販売するとき、同時にそのヘッジファンドのCDSも同時に販売する。
「この証券は絶対に安全です。AIG(世界最大の保険会社)がヘッジファンドを保障していますので、たとえヘッジファンドが倒産してもAIGが保障してくれます」
注)たとえば10%の利回りの証券化商品があった場合、3%を保険料としてCDSの引き受けてに支払い、顧客には7%の商品として販売する。
当初はヘッジファンドが倒産するとはおもわれていなかったから誰もがCDSの引き受けてになろうとした。
こうしてCDSビジネスが証券化商品の花形になってしまった。
「背後にリーマン・ブラザーズがついているし、さらにAIGが保障しているなら買わない手はない。しかも信じられないくらい高利回りだ」
これがリーマン・ショックまでの世界だった。
それから1年、確かにサブプライムローンやCDSはまったく売れなくなったが、それに代わって物(金、石油、希少資源等)を担保とする金融化商品が花盛りになっている。
サブプライムローンがはじけて損失が発生したが、その穴埋めを金や石油を中心とするコモディティバブルで補おうという試みだ。
「なぜ人間は同じ過ちを繰り返すのか?」強欲だからである。
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