(21.11.29) 金融恐慌の第2段階 ドバイショック
ついに恐れていた金融恐慌の第二段階が始まったようだ。
場所は中東のドバイ。震源地はドバイ首長国の政府系企業、ドバイワールドとその傘下のナキール社である。
覚えておられるだろうか? NHKがNHKスペシャル「沸騰都市ドバイ」で取り上げたあのナキール社である。
2008年5月の放送ではナキール社は、世界最大の人工島や数々の超高層ビルやショッピングセンターを建設し、社員に破格のボーナスを弾んでいたが、あれから1年半たって、そのナキール社は実質的に倒産してしまった。
借入金を「半年間、返済猶予してほしい」と主として欧州系金融機関に申し入れをし、その金額の総額は約5兆円規模になっている。
格付機関S$Pは「当社の基準ではナキール社は倒産だ」とにべもない。
このためヨーロッパの金融機関の危機が一挙に広がると市場が判断し、それまで堅調だったユーロが売られ、唯一安全と思われている日本円に殺到してきた。
ドバイに対する投資残高は、ヨーロッパの金融機関が断トツに多いらしい。
注)ロンドン、フランクフルト、パリの市場は軒並み3%程度株価が下がった。
円高は27日、ついに84円台に突入して、95年以来に14年ぶりの円高水準になり、又ユーロも126円に低下した。
つい最近まではドルの独歩安で、円もユーロも上昇していたのに、ドバイショック以降はユーロの信任が低下して今や円だけが上昇を始めた。
たまらず藤井財務相が「異常な動きにはそれなりの措置をとるとG20で合意している」と為替介入をにおわす発言をしたので、円は86円台、ユーロは129円台まで戻っているが、口先介入だけで円高を抑えるのは難しいだろう。
輸出主導でようやく経済危機から回復しつつある日本経済にも冷や水を浴びせ、パナソニックの社長は「企業努力の限界を越えた」と泣きを入れた。
しかし今回のドバイショックには驚いた。アメリカやヨーロッパの経済状況、分けても金融状況が悪いのは知っていたが、まさかドバイが金融恐慌の第二段階の引き金になるとは思っても見なかった。
ここには石油や天然ガスを売却して有り余った資金がドバイ市場を潤しているとすっかり信じていたからである。
NHKが沸騰都市の放送をしてから、その1年後の09年3月に、ドバイのナキール社を再取材をしたときは、責任者が「開発案件の見直しを実施している」と言っていたが、すでに資金繰りが悪化していたのだろう。
注)現在、ドバイ市場では資金繰りに窮した王族が金の大量売却をするといううわさが流れている。
ナキール社の返済猶予でヨーロッパに激震が走ったのには訳がある。
実はヨーロッパの金融機関は一般的に財務内容が良く分からない。それは、ヨーロッパの金融機関がアメリカ型の会計基準でなく、国際会計基準(実際はヨーロッパ型)を採用しているからだが、違いは不良債権の基準が甘いことだ。
一般的にアメリカでは市場価格があるものは市場価格での評価を要請されるが、ヨーロッパでは投資目的と販売目的に分けられ、市場価格が低下すると結局は塩漬けにされるため、当初販売目的だったものも投資目的に分類される。
この投資目的の債権は期日が来て実際に損失が確定するまでは、取得原価で評価されているのでそれまでは損失が決算書に現れない。
このような問題点があるため、ヨーロッパの銀行には実際かなりの含み損が隠されているはずだと言うのが市場の見方だった。
アメリカはヨーロッパの主要国にアメリカを習ってストレステストを実施し、それを公表するように迫ったが、各国は「アメリカとは実情が違う」として公表を断っている。
「なぜ公表しないのだ。ますますあやしい」市場は疑心暗鬼だ。
こうした状況下でドバイショックが発生したものだから、市場は大騒ぎになってしまった。
「残ったのは円とゴールド以外ないじゃないか」世界の資金が右往左往し始めた。
今回の円高は金融恐慌の第2段階になる可能性が高い。
震源地は中東だが、津波はヨーロッパに波及してヨーロッパの金融機関が軒並み苦境に立たせられるだろう。
西欧の金融機関は今までも証券化商品をたっぷりと購入し、東欧の経済危機により融資金の回収が危うくなっているところに、今度は中東への投資が焦げ付くのだから、アメリカ以上だ。
ヨーロッパの金融機関の動きを注意深く追う必要がありそうだ。
注)最近イングランド銀行が08年10月に秘密裏にRBS(ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド)と住宅金融大手のHBCSに計9兆円の融資を行っていたことが明るみにでた。
アメリカではこうした金融支援はすぐ公表されるが、イギリスでは約1年間に渡って秘密にしていた。
ヨーロッパの金融機関はスイスの金融機関が典型的にそうであるように秘密主義の傾向があり、市場はヨーロッパの金融危機のほうがアメリカのそれよりも深く厳しいのではないかと疑っている。
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