(21.11.30) アイルランドはヨーロッパの実験場
良くも悪しくもアイルランドはヨーロッパの実験場らしい。たった400万のこの小さな国がヨーロッパの繁栄とその没落の実験場になっている。
アイルランドがECに加盟した1973年ごろはヨーロッパ一貧しい国家だったが、その後法人税を12.5%という低率にして先端産業を誘致し、20世紀末には世界で最も裕福な国家に様変わりしてしまった。
特に1995年から2000年にかけては年率10%以上の成長(その後も4~6%程度の成長をしている)をしたが、この原動力は主としてアメリカ先端産業(IBM、インテル、マイクロソフト、アップル、ベル、ヒューレットパッカード、オラクル等)がアイルランドをヨーロッパ進出の拠点に選択したからである。
さらに1999年にユーロに加盟すると(イギリスが加盟しなかったこともあり)、英語圏で教育水準が高く、かつ法人税が12.5%と低利という利点をめあてに、今度はアメリカやヨーロッパの金融子会社が続々と進出してきた。
アイルランドはIT立国 かつ 金融立国に様変わりしてし、「裕福になりたければアイルランドを見習え」とヨーロッパ中の成功モデルとみなされた。
アイルランドはケルトの虎といわれて、ヨーロッパ各国の羨望の的になっていたが、ちょうど中国のシンセンが中国経済のモデルになったのと似ている。
注)アメリカ、ヨーロッパの金融機関はSIVと言う金融子会社を設立して、主として簿外でサブプライムローン関連の商品に投資をしていた。このSIVの設立先は法人税がないか、極度に低い地域であり、ケイマン、バミューダ諸島、そしてアイルランドが選択された。
各国から資金が怒涛のように流れ込むと、国内では不動産価格が急騰してアイルランド人はイギリス人やスペイン人と同様に不動産の高騰に沸いたが、その時がアイルランドの頂点だった。
不動産価格は06年ごろから上昇は止まり、最近時点で約25%の値下がりをしており、さらにどの程度値下がりするか分からない。
注)格付機関フィッチは最大45%低下すると予想している。
不動産融資中心の国内銀行は不良債権の増大によって市場から資金調達ができなくなった。
取り付け騒ぎが起こりそうになったので、他国に先駆けて預金の全額保護を宣言し、かろうじて取り付け騒ぎを回避したが、この抜け駆けはヨーロッパ中の顰蹙(ひんしゅく)を買ったものだ。
さらに国内主要行を国有化し、資金投入までしたのに、市場はまったく評価してくれない。
09年度のGDPは▲8%でユーロ圏で最悪になり、失業率は10%を越え、アイルランドの財政赤字はGDPの6.5%と増大し、来年はさらに15%になるという。
世界が羨む経済成長から一転して最悪の経済状況になってきた。
「アイルランドは倒産するのではないか」世界が注目している。
とうとう、アイルランドはかけにでたらしい。
同国の主要銀行5行から、約10兆円規模の不良債権の買取を実施し、受け皿銀行に移す抜本的処理策を実施すると言う。
受け皿銀行(NAMA)はこの不良資産を7割程度の価格で買取をするが、その金額はGDPの約4割にも達する(アイルランドのGDPは20兆円程度)。
計画ではアイルランドの不動産価格が10年間で10%上昇する前提で、最終的には50億ユーロ(6500億円)の利益が確保する青写真を描いている。
しかしこの計画には問題点が多い。
① 不動産価格が25%から45%程度まで低下しそうな状況で、不良債権(主として不動産担保関連)を70%で購入するのは高すぎる。
注)不良債権処理会社サービサーなどの債権の買い取り価格は額面の3%程度。したがってこの計画は不良資産を金融機関から政府に移転するだけの計画といえる。
② 買い取り価格がGDPの4割にものぼるが、この資金手当てをどのように行うなうのか。市場からの手当てができない場合はIMF等の国際機関に支援を仰ぐのか。
注)市場ではアイルランド国債の利回りは上昇を続けて6.5%程度にまでなり、財政赤字が増大するとさらに上昇する。現在「IMFからは借り入れをしない」と政府は言っているが、実際はアイルランドに融資する民間金融機関はほとんどない。
アイルランドの行おうとしている不良債権の買取は成功するだろうか。環境はかなり厳しいといわざるを得ず、失敗する可能性のほうが高いが、良くも悪しくもアイルランドはヨーロッパの実験国家だ。
「明日はわが身だ」
ヨーロッパ諸国は固唾を呑んでこの取り組みを見守っている。
今日のYou Tubeです。長柄ダムまでJOGをしてきました。
http://www.youtube.com/watch?v=uuJPsvW6qz8
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