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(21.11.18) 文学入門 「君たちはどう生きるか」 吉野源三郎著

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 今回の河村義人さん主催の読書会のテーマ本は吉野源三郎著の「君たちはどう生きるか」だった。
この本を推奨したのは私のかみさんだが、かみさんは哲学教室に通っていて、哲学や倫理の本に詳しい。

 当然のこととして私は吉野源三郎氏を知らなかったが、Wikipediaによると以下のように説明されていた。

吉野 源三郎(よしの げんざぶろう 1899年- 1981年)は、編集者・児童文学者・評論家・翻訳家・反戦運動家。昭和を代表する進歩的知識人。『君たちはどう生きるか』の著者として、また「世界」初代編集長としても名高い。岩波少年文庫の創設にも尽力した。明治大学教授、岩波書店常務取締役、日本ジャーナリスト会議初代議長、沖縄資料センター世話人などの要職を歴任

 この「君たちはいかに生きるか」は戦前(昭和12年)、山本有三氏が編纂した「日本少国民文庫」全16巻の第12巻として発行されたのだという。
吉野氏によると、当初は山本有三氏が執筆する予定だったが、眼病を患いそれが不可能になったため、代わって執筆を引き受けたのだそうだ。

注)少国民文庫と言う意味は「少年少女国民文庫」という意味のようだ。

そうか、吉野源三郎と言う人は戦前、戦中、戦後を代表する知識人の一人なのか」ようやく納得した。

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 この本は主人公の中学2年生コペル君コペルニクスから類推したあだ名)とその若いおじさんとの対話がモチーフになっているが、それ以外にコペル君の友達が多く登場する。

 山の手に住むブルジョア出身の水谷君や、一方下町育ちの豆腐屋の浦川君、それと頑固一徹で正義感が強い北見君と言った登場人物である。
そして悪役として登場する山口君が陰湿に浦川君をいじめるのだが、その理由は裕福でなく、家の手伝いで朝早くから労働しているため、いつも授業で寝てしまうからである。

 浦川君をいじめる山口君達に対し、コペル君達は浦川君を守ろうと立ち上がるだが、そうした行為を通じて社会的にコペル君たちは目覚めていくというのが、この「君たちはいかに生きるか」の一つのテーマになっている。

 コペル君は一つ一つの事件が発生するたびに自分の行動を見つめ、自分のいき方の勉強をし、それをコペル君の若いおじさんが理論的にサポートしていくと言う構成になっている。

注)コペル君のお父さんが早世したため、この若いおじさんが父親代わりの役目を担っている。

 この本のもう一つの重大な事件は上級生を敬わない北見君を上級生が鉄槌を加えるというものがある。
コペル君、水谷君、浦川君はもし、北見君が鉄槌を加えられるようなことがあれば、団結して立ち向かう約束をするのだが、実際に事件が起こるとコペル君だけが足がすくみ、北見君を守るために立ち向かうことができなかった。

 このため、コペル君は自責の念に駆られ、病気になってほぼ半月間学校を休んでしまうのだが、おじさんに相談したことから、結果がどうなろうと正直な詫び状を書くべきだと言われる。
その結果は再び四人の友情は復活すると言う筋立てになっているが、「人間は誰しも心の弱さを持っており、そのために失敗した場合は、自己弁護をしてはいけない」と言う主張のようだ。

 この点について解説者の丸山真男氏は、「吉野氏に実際に起こった事件」ではないかと類推しているが、確かにこの部分の筆致は、経験したものしか書けないくらい生々しい。

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 さてこの本を読んだ私の正直な感想は、少年達の描写はとても生き生きしており、小説と言っても良いほどのできばえで、かつて井上靖氏の「しろばんば」を読んだときのような印象を持った。
一方おじさんがコペル君に教えようとする、社会学的、倫理的内容については「なんともいえない古さ」を感じてしまった。

 昭和12年という、いまから70年以上前の歴史的状況としては、おそらくもっとも進歩的な思想だったと思われるが、時代が大きく変遷してしまった今では古色蒼然としている感じだ。

 特にそれが顕著なのは「生産関係」の説明で、これは丸山真男氏が解説の中で述べているように「資本論入門」の少年少女向け説明である。
しかし現在では、「資本論」を読む人はほとんどおらず、そこで展開された思想は1990年前後のソビエトロシア東欧諸国の崩壊で実体を失ってしまった。

 社会理論はその当時の社会の実態から演繹されるのだが、理論が精緻化されたときには現実は先に進んでしまうので、社会理論は常に遅れるという性質を持つ。
はっきり言ってしまえば「昔の理論などほとんど役に立たず」、社会科学的分析は毎日現実と向き合っていないと、すぐに時代に置いていかれる。

 結論から言うと、私の読み方は少年たちの描写はとても興味深く読んだが、途中からおじさんの説明部分は興味を失い飛ばすという読み方だった。
しかしそうした読み方でも戦前の少年たちの生き様が良く分かる良書であることはかわりがなく、一読に値する本だと思う。

重要な注意
読書会の主催者、河村義人さんがこの本について書評を書いています。
内容を読まれると分かりますが、「おじさん」の態度に感銘を受けており、私の書評とはまったく異なります。

 是非、河村さんの書評も読んでいただき、比較してみてください
http://yamazakijirou1.cocolog-nifty.com/shiryou/2009/11/211118-4d5e.html

 

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