(21.11.15) ラトビア経済の崩壊とスウェーデンの憂鬱
バルト3国の一角、ラトビア経済の崩壊がスウェーデン経済を道連れにしようとしている。
東欧諸国の中でもっとも弱い輪が、たった340万人の人口を擁するラトビアであり、そのラトビアに対する債権額NO1国家がスウェーデンである。
サブプライムローン問題が発生するまではラトビア経済は07年、08年と名目GDPの成長率が15%前後で、バルトの虎といわれるほど好調だった。
この好調な経済を支えていたのが、もっぱらスウェーデンからの投資で、バルト3国に対する投資額はほぼ8兆円で、これはスウェーデンのGDPの約16%に相当していた。
なぜスウェーデンがこれほどラトビアを始めとするバルト3国に貸し込んだかというと、地理的近さもあるが、それ以上に3国がユーロペッグというユーロに対する固定相場制を採用していたからである。
ラトビア通貨ラトは固定相場ゆえにユーロと同じだと評価されており、貸し出し側からすると為替リスクがまったく存在しないと思われていた。
確かに経済が好調の間はそのとおりだったが、リーマン・ショック以降情勢が様変わりしてしまった。
投資ファンドを中心に東欧諸国から資金が引き上げられると、ラトビアは外貨準備が底をつき始め、IMFやEUの支援なくしてラトの為替相場を維持することができなくなった。
08年11月、ラトビアはIMF、EU、世界銀行から総額52億ユーロ(約7000億円)の資金援助を受けることになったが、当然のこととしてIMFはラトビアに厳しい緊縮財政を要請した。
注)IMFは倒産した国へ短期の資金手当てをする代わりに、先進諸国からの借入金の返済ができるように、倒産国の体質改善をさせる国際的な枠組。
アメリカを中心とする先進諸国借金取立組合だと思うとイメージがわく。
それまでは経済の好調から大盤振る舞いの財政支出が可能だったが、急に公務員給与や民間給与の30%の引き下げや、福祉予算の削減を実施しなければならなくなり、国民の不満は頂点に達して09年2月には政権が崩壊してしまった。
しかしラトビアはIMFの要請を受けざる得ない立場にある。
09年8月、格付機関S&Pがラトビア国債をジャンク債に指定してしまったため、民間からの資金調達は絶望的で、残りはIMF等の公的機関からの支援しかない。
こうした場合、他の東欧諸国は通貨の切り下げで対応しているが、バルト3国はユーロペッグだから、切り下げができず、ラトビアはラトを支える以外に方法はない。
もちろんユーロペッグからの離脱をすることはできるが、そうすると2012年のユーロ加盟はできなくなる。
注)ユーロペッグを採用していないポーランド・ズロチは約30%、ハンガリー・フォリントは約20%の切り下げを行った。
そして何よりも問題なのはラトビア人の借り入れの約90%がユーロ建てだということだ。
この理由はラトでの借り入れ金利よりユーロでの借り入れ金利が約半分程度であるためで、「ラトもユーロも同じなら金利の低いほうがいい」と国民が判断していたからだ。
注)経済学的に言えば、固定相場制をとっている2国間の金利が異なる場合は、高い金利をつけているほうが無理な相場維持をしていることになる。
しかしこれが完全に裏目に出る可能性が高い。もしラトビア政府がラトを支えきれずユーロペッグから離脱して、通貨切り下げを行うと、その段階でラトビア人の負債は急激に膨れ上がってしまう。
注)たとえば50%切り下げをすると、ユーロの支払いのためラトでの返済金額はいままでの2倍が必要になる。
不動産価格が約50%程度も低下してそれでなくても含み損があるのに、返済金額は2倍になってしまったら、ラトビア人はお手上げだ。
「もう煮ても焼いてもいいから好きにしろ」居直るしかない。
しかしそうなると貸し込んでいたスウェーデンが危くなる。実際スウェーデンからファンドマネーが引き上げられ始め、あわてたスウェーデン政府はECB(ヨーロッパ中央銀行)に泣きついた。
「このままではわが国の外貨準備が枯渇する。ユーロを貸してください」
09年6月、ECBとスウェーデン中央銀行との間で100億ユーロ(1.3兆円)の通貨スワップ協定が締結されたが、これだけでは収まりそうもないというのが市場の見方だ。
スウェーデンはそれまでバルト三国を始めとする東欧諸国に対する投融資でぼろもうけをし、国内では手厚い福祉行政を実施してきた。
しかしこのGDPの16%にものぼるバルト三国に対する債権が焦げ付いたら、羨望の的だった福祉国家は終焉してしまう。
そしてスウェーデンがこければ、スウェーデンを支えてきたEUに多大な影響が及ぶのだから、EUは今懸命にラトビアを支え、火の粉がEUに及ぶのを避けようとしている。
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