(21.11.10) 国内排出量取引制度が始まる 鳩山政権は本気だ
鳩山政権は「20年度までに温室効果ガスを90年対比25%削減する」と世界に公約したが、その一環として国内排出量取引制度を11年度までに導入すべく、法整備に乗り出すことになった。
今までも国内排出量取引制度は一応あったのだが、企業の自主参加で、かつ排出量の上限も自主申告だったから、実際は何もしていなかったのと同じだった。
自民党政権は単にやっているそぶりだけのために排出量取引の真似事をしていたが、鳩山政権は本気で取り組むらしい。
経済界は今までは反対一色だったが、ここに来て反対派と賛成派に分かれてきた。
鉄鋼や電力といった石油や石炭等の燃料をがぶ飲みしている業界は、相変わらず大反対だが、電気や自動車といった業界は賛成に回った。
太陽光発電や電気自動車を次世代産業に育てる絶好の機会だからだ。
今回の国内排出量取引制度は、国内の主要な企業や事業所に強制的に参加させ、かつ排出量の上限は政府が強制的に割り当てるというのだから、今までとは様変わりだ。
そして、排出量の削減が未達に終わった企業は、目標を達成した企業から排出権という権利を購入して穴埋めをするか、政府にペナルティーを払わなくてはならない。
すでにヨーロッパではこの制度が導入されており、排出権の市場規模は4兆円を超えているという。
この制度の最大のポイントは排出量の上限をどのようにして決めるかにかかっている。この上限がゆるければ企業はちょっとした努力で目標を達成できるので、未達成の企業がほとんど存在しないことになる。
一見万々歳だが、実際は温室効果ガスの削減は国全体としてはほとんど削減されないので、これでは20年度までに25%削減する国際的な公約が守れない。
一方排出量の上限を厳しく設定すると、ほとんどの企業が未達に終わってしまい、数少ない達成した企業から排出権を高価な金額で購入するか、政府にペナルティーを払うことになるから企業活動が阻害される。
「排出権を購入したために赤字企業に転落しました」なんてことになる。
この排出量の上限を設定する作業は、先行しているEUでも試行錯誤の連続で、07年には大甘な上限枠だったため、二酸化炭素のトン当たり排出権が1ユーロにまで下がってしまった。
ここまで下がると企業にとっては、二酸化炭素を垂れ流して排出権を購入するのがもっとも合理的な行動になってくる(通常排出権はトン当たり20ユーロ~30ユーロが適正な価格と思われている)。
通常上限枠を設定するには、① 前年度の二酸化炭素排出実績をまず把握し、それに対し ② 20年度までに国際公約である25%削減が可能なように、国全体の削減目標を決める。
それを ③ 業界別に割り振り、さらに ④ 企業別、事業所別に割り振っていくのが通常のパターンだ。
このように決めるのをキャップ&トレード方式という(政府が上限枠を決め、未達分は排出権のトレードで補う制度)。
鳩山政権が本気で国内排出量取引制度を導入しようとしていることが分かったので、企業としては今後は以下のような条件闘争に転換するはずだ。
① 企業から排出される二酸化炭素は国全体の約40%相当だから、その割合で削減枠を決めてほしい(家庭や運輸や事業所の削減を企業に上乗せするな)
② 昨年度の排出量実績だけでなく過去の取り組みも考慮してほしい(過去削減に努力してきた業界とそうでない業界を同じレベルで割り当てるのは不公平だ)
③ 業界の事情を考慮してほしい(不況業種だから設備投資ができない。好況業種に割り振ってくれ)。
④ わが社は倒産寸前で、温暖化対策の設備投資をする金がない(わが社が倒産したら国が面倒を見てくれるのか)。
こうした話があちこちから出て、最終的な調整結果は大甘になることがおおい。しかしそれでは国際公約はまったく守れなくなって、最終的には政府が代表してペナルティーを払うことになり、国際的な枠組みの中で排出権を購入することになる。
私の予想は、国内排出量取引制度を導入しても、国内だけの努力ではとても25%削減を達成することが不可能で、前回のCOP3と同様に金で解決するのではないかと思っている。
注1) COP3の京都議定書では12年度までに90年対比6%削減を約束したが、現状で16%程度増加してしまいとても削減できそうもないので、5000億円~1兆円の範囲で日本はペナルティーを払うことになる。
注2) 温暖化対策の経緯については、このブログのカテゴリー「評論 地球温暖化対策」を参照してください。
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